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26 隣にいるのは
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4日後、王都にあるティエポロ侯爵邸は、重い空気に包まれていた。
「まったく!娘二人を同時に嫁に出すことになるとは、聞いておらん!」
応接室には、ティエポロ侯爵家の面々とエリオとクレメンティとイルミネがいた。
ソファー席には、二人掛けにエリオとベルティナ、クレメンティとセリナージェが座り、一人掛けを並べて、ティエポロ侯爵とティエポロ侯爵夫人がそれぞれ座っている。少し離れたテーブル席には、ティエポロ家の兄姉たちとイルミネが見守っている。
「それも、二人とも隣国へだと!」
ティエポロ侯爵は、怒っている顔ではなく、泣いている顔だ。
「あなた………」
「わ、わかっている。だがな、何も一度に二人ともいなくなることはあるまい」
さらに目尻を下げて、本当に泣きそうな顔で、ティエポロ侯爵夫人に縋った。
「そんなの、ボニージェとメイージェで慣れているでしょう?」
お姉様たち二人は、合同結婚式だった。
「何度やっても慣れるものではないっ!」
ボニージェとメイージェがティエポロ侯爵の両隣に来て、慰め始めた。
「はぁ、情けない。この人を待っていても話は進まないわ。反対しているわけじゃなくて、寂しがっているだけだから気にしないでね」
エリオとクレメンティは、苦笑いで頷いた。
「それで、これからどうする予定なの?」
ティエポロ侯爵夫人は、お茶を手に取り、優雅に飲み始めた。
「卒業式の時期に、クレメンティの親と私の兄がこちらの国へ参ります。その時に婚約の手続きをお願いしたいのです。手続きや作法はこちらのやり方で構いません」
「二人はそれでいいのね?」
ベルティナとセリナージェは、目を合わせた。侯爵夫人へ向き直り、返事をする。
「はい、お母様。わたくしは、クレメンティ様に、ついていきたいです」
クレメンティがセリナージェに笑顔を見せる。
「お義母様、わたくしもエリージオ王子殿下のお隣にいたいと思っております」
エリオがベルティナの手を握った。
「私たちの結婚式よりも、兄の王太子即位式が先になりますので、ベルティナ嬢を王子妃ではなく、公爵夫人として迎えることになります」
「そう。それはベルティナさえ幸せなら、どちらでも構わないわ。お二人ともお仕事は公爵の他に高官をなさるということでよろしかったかしら?」
ティエポロ侯爵夫人は、微笑のまま、次々に確認していく。
「「はい」」
「セリナとベルティナは、言葉はどうなの?」
「夏休みからベルティナと一緒に勉強しているわ。大陸共通語なら大丈夫だし、ピッツ語も話すのは大丈夫よ」
セリナージェが、ベルティナに『ねっ!』というように小首を傾げて、ベルティナも笑顔で頷いた。
「セリナージェ嬢は謙遜なさっておりますが、ピッツ語の読み書きもほぼ問題ありません」
エリオに率直に褒められて、セリナージェは喜んで、クレメンティと目を合わせて微笑んだ。クレメンティとともに頑張ってきたのだ。クレメンティの言葉はほとんど愛の囁きであったが。
「そう、それはよかったわ。
あなた、二人はそれほど本気ですよ。いつまでも拗ねていたら、娘たちに嫌われますよ」
「なっ!!」
ボニージェとメイージェに寄り添われて俯いていたティエポロ侯爵が、目を見開いて立ち上がった。
「ふふふ、大丈夫よ、お父様。お父様を嫌いになるなんてありえないわ」
セリナージェが小さく首を振った。ベルティナも、愛されている喜びで笑顔であった。
「そうですよ、お義父様。心配なさらないで。クスクス」
ティエポロ侯爵は、崩れるように、ドカリとソファーへ落ちた。
「そ、そうか。そうだな。二人とも嫁いでも、私の娘たちであることは変わらないのだ。嫌な事があったら、いつでも帰って来なさい。娘の4人くらい、孫の10人くらい、私が養う!」
まさか、ボニージェとメイージェも帰ってくる話になっている。あまりの大きな話に、みな一瞬呆れたが、ジノベルトが笑い出したことで、みなも笑い出した。
「それって、僕も手伝うんだよね?なんか大変そうだから、二人を帰さないように、大切にしてやってくれ」
ジノベルトが、お茶目に親指を立てて、エリオとクレメンティに合図を送った。
「「はい!任せてください!」」
ジノベルトの冗談に、二人が真面目に返事をしたことが、また可笑しくて、みんなは笑い通しだった。
ティエポロ侯爵だけは、『本気なのに!』と訝しんだ目でみんなを見ていた。それもまた、みんなを笑いに誘っていた。
〰️
サロンに移った5人はテーブルでお茶をしていた。
「二人は愛されているんだな」
クレメンティが愛おしそうにセリナージェを見つめる。
「ああ、婚約の後、話を進めていただけるか、不安だな。ハハハ」
エリオの冗談にみんなも笑っている。
「ところで、イルには、いい人いないの?」
「っ!!!」
ベルティナの質問に、イルミネではなく、クレメンティが渋面になった。セリナージェがクレメンティを見てびっくりしていた。
「?レム?大丈夫?」
「ハッハッハ!イルには、婚約者がいてね、その方に伯爵位が譲渡されて、そこへ婿に行くことが決まっているんだ」
イルミネが、ベルティナとセリナージェにグッと親指を立てて合図した。
「爵位の譲渡?」
「ああ、そうだよ。ピッツォーネ王国は、州制度じゃないから、爵位と領地をいくつかもつ高位貴族はいるんだ。イルは、公爵家の婿になるんだよ。レムの義兄になるのさ。ハッハッハ」
エリオがクレメンティの渋面を見て、大笑いした。
「え!レムとイルが義兄弟?」
「俺は卒業したら夏前には結婚式だ。みんなよりお先にね。セリナとも義兄妹だ。よろしくね、義妹さん」
イルミネがセリナージェにウィンクした。
「レム、もしかして、イルにヤキモチ焼いているの?お姉様を手放したくないとか?」
セリナージェは、小姑問題があるのかと訝しむ。
「違う!違うよ!僕はただ、イルがすぐに兄貴ぶるから嫌なんだよ。イルが弟ならまだいいけどさ。兄貴になるんだよ」
そう言って項垂れるクレメンティの大きな背中をセリナージェが撫でる。他の3人は笑っていた。
〰️ 〰️ 〰️
春、卒業式は隣国の次期王太子が視察においでになることとなり、例年になく、豪華な卒業式となり、それに伴い、式の後に行われる卒業パーティーも豪華であった。
卒業パーティーのファーストダンスは、隣国の次期王太子と次期王太子妃が務めるとあって、高位貴族たちはこぞってやってきた。まさか高位貴族たちは、手ぶらでは来ないので、学園には多額の寄付が集まった。
「お義兄様たち、優雅ねぇ。とても堂々となさっていて、ステキだわ」
ベルティナは、前日に紹介され、『義兄、義姉』と呼ぶことを許されていた。
「僕とは最初から気持ちが違うからね」
「そうね。すべてを背負っての貫禄なのでしょうね」
「でも、僕だって、ベルティナのことは背負っていくから、ね」
エリオは力強くベルティナを見た。ベルティナの目が優しく細められた。
「クスクス、それはお断りするわ」
「え?」
「私はエリオを信用しているし、尊敬しているけど、私を背負ってほしいわけじゃないわ。隣で一緒に歩きたいのよ」
ちょうど、曲が終わり、次期王太子夫妻が優雅に礼をし、会場から大歓声が上がった。お二人が、用意された席へと移る。高位貴族たちが、そこへ群がる。
「よし、一緒に行こう!」
「はいっ!」
二人は並んでホールへと歩みを進めた。
〰️ 〰️ 〰️
卒業パーティーから一週間後、ストックの丘に2つの影があった。
「ここにもしばらくは来れなくなるよ」
「じゃあ、あちらに行ったら、ステキな場所に連れて行ってね」
「うん!任せておいてよっ!」
エリオは、握っていたベルティナの手をキュッと握った。
「僕が王子であることを隠していたこと、もっと責められると思っていたんだ」
「まあ!そうだったわ!父母たちのことであやふやなままだったわね。エリオったら、私を騙していたのっ?!」
「あ、あれ?言わない方がよかったのかな?」
エリオがいつものクセで、頭をかいた。
「ふふふ、冗談よ。前も言ったけど、3人の立場の違和感には気がついていたし。まあ、だからこそ、お断りするつもりだったのだけど」
「パーティーの時にも言っていたね。どうして?」
「男爵令嬢だったのだもの。伯爵以上の方と結婚は無理だわ。それに、エリオが私を好きになってくれることはないって思っていたんだけどね」
「え!そうなの?
あ~、だからレムの秘書になるなんて言い出したのかぁ。あの時はびっくりしたよ」
「私にとっては真面目な話だったのよ」
ベルティナが膨れた。
「わかっているよ。だからこそ、僕は慌ててしまったんじゃないか。僕のお嫁さんをレムの秘書にするわけにはいかないだろう」
「……。エリオは、その時にはもう、私をお嫁さんにしてくれるつもりだったの?」
「もちろんだよ」
「あの時はまだ、エリオたちには私が侯爵令嬢になったとは言ってなかったわ」
「ベルティナの爵位は関係ないよ。確かに平民だったら、時間がかかったかもね。でも、例え平民でも、僕のお嫁さんはベルティナだって、僕の中では決まっていたんだ」
「ありがとう」
「僕の母上は、側室なんだけど、子爵家なんだ。母上は、王妃殿下とも、とても仲がいいんだ。だから、僕のお嫁さんに爵位は、求めてない。それに、実は僕もランレーリオ殿と同じで、レムの言葉に勇気をもらったんだ。ベルティナと二人なら、爵位なんていらないなって思えた」
空が紅く染まってきた。
「うん、もし爵位がなくたって、エリオの隣にいたいと思っているわ」
ベルティナが熱い瞳でエリオを見つめた。
「僕は僕の地位、外交官という仕事を頑張るよ。ベルティナ、世界中、ついてきてくれるかい?」
エリオは、それを優しい瞳で返した。
「うん、世界中を一緒に歩きましょうね。ずっとあなたの隣にいたいわ」
夕日が沈む丘の上で、2つの影が重なった。
~虐げられた男爵令嬢はお隣さんと幸せになる fin~
「まったく!娘二人を同時に嫁に出すことになるとは、聞いておらん!」
応接室には、ティエポロ侯爵家の面々とエリオとクレメンティとイルミネがいた。
ソファー席には、二人掛けにエリオとベルティナ、クレメンティとセリナージェが座り、一人掛けを並べて、ティエポロ侯爵とティエポロ侯爵夫人がそれぞれ座っている。少し離れたテーブル席には、ティエポロ家の兄姉たちとイルミネが見守っている。
「それも、二人とも隣国へだと!」
ティエポロ侯爵は、怒っている顔ではなく、泣いている顔だ。
「あなた………」
「わ、わかっている。だがな、何も一度に二人ともいなくなることはあるまい」
さらに目尻を下げて、本当に泣きそうな顔で、ティエポロ侯爵夫人に縋った。
「そんなの、ボニージェとメイージェで慣れているでしょう?」
お姉様たち二人は、合同結婚式だった。
「何度やっても慣れるものではないっ!」
ボニージェとメイージェがティエポロ侯爵の両隣に来て、慰め始めた。
「はぁ、情けない。この人を待っていても話は進まないわ。反対しているわけじゃなくて、寂しがっているだけだから気にしないでね」
エリオとクレメンティは、苦笑いで頷いた。
「それで、これからどうする予定なの?」
ティエポロ侯爵夫人は、お茶を手に取り、優雅に飲み始めた。
「卒業式の時期に、クレメンティの親と私の兄がこちらの国へ参ります。その時に婚約の手続きをお願いしたいのです。手続きや作法はこちらのやり方で構いません」
「二人はそれでいいのね?」
ベルティナとセリナージェは、目を合わせた。侯爵夫人へ向き直り、返事をする。
「はい、お母様。わたくしは、クレメンティ様に、ついていきたいです」
クレメンティがセリナージェに笑顔を見せる。
「お義母様、わたくしもエリージオ王子殿下のお隣にいたいと思っております」
エリオがベルティナの手を握った。
「私たちの結婚式よりも、兄の王太子即位式が先になりますので、ベルティナ嬢を王子妃ではなく、公爵夫人として迎えることになります」
「そう。それはベルティナさえ幸せなら、どちらでも構わないわ。お二人ともお仕事は公爵の他に高官をなさるということでよろしかったかしら?」
ティエポロ侯爵夫人は、微笑のまま、次々に確認していく。
「「はい」」
「セリナとベルティナは、言葉はどうなの?」
「夏休みからベルティナと一緒に勉強しているわ。大陸共通語なら大丈夫だし、ピッツ語も話すのは大丈夫よ」
セリナージェが、ベルティナに『ねっ!』というように小首を傾げて、ベルティナも笑顔で頷いた。
「セリナージェ嬢は謙遜なさっておりますが、ピッツ語の読み書きもほぼ問題ありません」
エリオに率直に褒められて、セリナージェは喜んで、クレメンティと目を合わせて微笑んだ。クレメンティとともに頑張ってきたのだ。クレメンティの言葉はほとんど愛の囁きであったが。
「そう、それはよかったわ。
あなた、二人はそれほど本気ですよ。いつまでも拗ねていたら、娘たちに嫌われますよ」
「なっ!!」
ボニージェとメイージェに寄り添われて俯いていたティエポロ侯爵が、目を見開いて立ち上がった。
「ふふふ、大丈夫よ、お父様。お父様を嫌いになるなんてありえないわ」
セリナージェが小さく首を振った。ベルティナも、愛されている喜びで笑顔であった。
「そうですよ、お義父様。心配なさらないで。クスクス」
ティエポロ侯爵は、崩れるように、ドカリとソファーへ落ちた。
「そ、そうか。そうだな。二人とも嫁いでも、私の娘たちであることは変わらないのだ。嫌な事があったら、いつでも帰って来なさい。娘の4人くらい、孫の10人くらい、私が養う!」
まさか、ボニージェとメイージェも帰ってくる話になっている。あまりの大きな話に、みな一瞬呆れたが、ジノベルトが笑い出したことで、みなも笑い出した。
「それって、僕も手伝うんだよね?なんか大変そうだから、二人を帰さないように、大切にしてやってくれ」
ジノベルトが、お茶目に親指を立てて、エリオとクレメンティに合図を送った。
「「はい!任せてください!」」
ジノベルトの冗談に、二人が真面目に返事をしたことが、また可笑しくて、みんなは笑い通しだった。
ティエポロ侯爵だけは、『本気なのに!』と訝しんだ目でみんなを見ていた。それもまた、みんなを笑いに誘っていた。
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サロンに移った5人はテーブルでお茶をしていた。
「二人は愛されているんだな」
クレメンティが愛おしそうにセリナージェを見つめる。
「ああ、婚約の後、話を進めていただけるか、不安だな。ハハハ」
エリオの冗談にみんなも笑っている。
「ところで、イルには、いい人いないの?」
「っ!!!」
ベルティナの質問に、イルミネではなく、クレメンティが渋面になった。セリナージェがクレメンティを見てびっくりしていた。
「?レム?大丈夫?」
「ハッハッハ!イルには、婚約者がいてね、その方に伯爵位が譲渡されて、そこへ婿に行くことが決まっているんだ」
イルミネが、ベルティナとセリナージェにグッと親指を立てて合図した。
「爵位の譲渡?」
「ああ、そうだよ。ピッツォーネ王国は、州制度じゃないから、爵位と領地をいくつかもつ高位貴族はいるんだ。イルは、公爵家の婿になるんだよ。レムの義兄になるのさ。ハッハッハ」
エリオがクレメンティの渋面を見て、大笑いした。
「え!レムとイルが義兄弟?」
「俺は卒業したら夏前には結婚式だ。みんなよりお先にね。セリナとも義兄妹だ。よろしくね、義妹さん」
イルミネがセリナージェにウィンクした。
「レム、もしかして、イルにヤキモチ焼いているの?お姉様を手放したくないとか?」
セリナージェは、小姑問題があるのかと訝しむ。
「違う!違うよ!僕はただ、イルがすぐに兄貴ぶるから嫌なんだよ。イルが弟ならまだいいけどさ。兄貴になるんだよ」
そう言って項垂れるクレメンティの大きな背中をセリナージェが撫でる。他の3人は笑っていた。
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春、卒業式は隣国の次期王太子が視察においでになることとなり、例年になく、豪華な卒業式となり、それに伴い、式の後に行われる卒業パーティーも豪華であった。
卒業パーティーのファーストダンスは、隣国の次期王太子と次期王太子妃が務めるとあって、高位貴族たちはこぞってやってきた。まさか高位貴族たちは、手ぶらでは来ないので、学園には多額の寄付が集まった。
「お義兄様たち、優雅ねぇ。とても堂々となさっていて、ステキだわ」
ベルティナは、前日に紹介され、『義兄、義姉』と呼ぶことを許されていた。
「僕とは最初から気持ちが違うからね」
「そうね。すべてを背負っての貫禄なのでしょうね」
「でも、僕だって、ベルティナのことは背負っていくから、ね」
エリオは力強くベルティナを見た。ベルティナの目が優しく細められた。
「クスクス、それはお断りするわ」
「え?」
「私はエリオを信用しているし、尊敬しているけど、私を背負ってほしいわけじゃないわ。隣で一緒に歩きたいのよ」
ちょうど、曲が終わり、次期王太子夫妻が優雅に礼をし、会場から大歓声が上がった。お二人が、用意された席へと移る。高位貴族たちが、そこへ群がる。
「よし、一緒に行こう!」
「はいっ!」
二人は並んでホールへと歩みを進めた。
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卒業パーティーから一週間後、ストックの丘に2つの影があった。
「ここにもしばらくは来れなくなるよ」
「じゃあ、あちらに行ったら、ステキな場所に連れて行ってね」
「うん!任せておいてよっ!」
エリオは、握っていたベルティナの手をキュッと握った。
「僕が王子であることを隠していたこと、もっと責められると思っていたんだ」
「まあ!そうだったわ!父母たちのことであやふやなままだったわね。エリオったら、私を騙していたのっ?!」
「あ、あれ?言わない方がよかったのかな?」
エリオがいつものクセで、頭をかいた。
「ふふふ、冗談よ。前も言ったけど、3人の立場の違和感には気がついていたし。まあ、だからこそ、お断りするつもりだったのだけど」
「パーティーの時にも言っていたね。どうして?」
「男爵令嬢だったのだもの。伯爵以上の方と結婚は無理だわ。それに、エリオが私を好きになってくれることはないって思っていたんだけどね」
「え!そうなの?
あ~、だからレムの秘書になるなんて言い出したのかぁ。あの時はびっくりしたよ」
「私にとっては真面目な話だったのよ」
ベルティナが膨れた。
「わかっているよ。だからこそ、僕は慌ててしまったんじゃないか。僕のお嫁さんをレムの秘書にするわけにはいかないだろう」
「……。エリオは、その時にはもう、私をお嫁さんにしてくれるつもりだったの?」
「もちろんだよ」
「あの時はまだ、エリオたちには私が侯爵令嬢になったとは言ってなかったわ」
「ベルティナの爵位は関係ないよ。確かに平民だったら、時間がかかったかもね。でも、例え平民でも、僕のお嫁さんはベルティナだって、僕の中では決まっていたんだ」
「ありがとう」
「僕の母上は、側室なんだけど、子爵家なんだ。母上は、王妃殿下とも、とても仲がいいんだ。だから、僕のお嫁さんに爵位は、求めてない。それに、実は僕もランレーリオ殿と同じで、レムの言葉に勇気をもらったんだ。ベルティナと二人なら、爵位なんていらないなって思えた」
空が紅く染まってきた。
「うん、もし爵位がなくたって、エリオの隣にいたいと思っているわ」
ベルティナが熱い瞳でエリオを見つめた。
「僕は僕の地位、外交官という仕事を頑張るよ。ベルティナ、世界中、ついてきてくれるかい?」
エリオは、それを優しい瞳で返した。
「うん、世界中を一緒に歩きましょうね。ずっとあなたの隣にいたいわ」
夕日が沈む丘の上で、2つの影が重なった。
~虐げられた男爵令嬢はお隣さんと幸せになる fin~
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