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7 双子のお姉様

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 ベルティナとセリナージェは、久しぶりに1つのベッドで寝た。ベッドに入っても、すぐに寝れるわけじゃない。
 ベルティナの隣で横になっているセリナージェが今日の出来事を興奮したように話している。ベルティナは、ほとんど知っている話にも関わらず、セリナージェの様子があまりにも可愛らしくて、ずっと聞いていられた。セリナージェが急におとなしくなったと思ったら、お話の内容が少しだけ変わった。

「ねぇ、ベルティナ。レムは私のことどう思っているのかしら?」

「どうって?」

「あの…私、からかわれているのかな?」

 セリナージェは、毛布を目元まで持ってきて、顔を隠した。赤くなっているかもしれない。

「セリナは、レムがどういう男の子だと思っているの?」

「そうねぇ。真面目で、思っているより融通がきかなくて、でも一生懸命で、まわりのことを気にすることができる人、かな。それに優しいわ」

 セリナージェは、ゆっくりと、クレメンティを思い浮かべながら、クレメンティのいいところをあげていった。

「そう。じゃあ、そういう人が、女の子をからかったりできると思う?」

「………。そうよね………」

 ベルティナは、セリナージェを待つ。

「私、どうしたらいいのかしら?」

「んー、セリナはどうしたいの?」

「よくわからないわ」

「じゃあ、レムに優しくされて、どう思ったの?」

「それはうれしかったわよ。だって、誰にだって優しくされたら、嬉しいものでしょう?」

「そうね。じゃあ、今はまだそれでいいんじゃないかしら?きっと、自分で自分の気持ちがわかるときがくるわ」

「そうね。ねえ、ベルティナは、エリオのこと、どうなの?」

 セリナージェが少しだけ起き上がってベルティナの顔を見た。

「エリオ?なぜエリオが出てくるの?」

「………。ベルティナにもわからないことってあるのね。なんだか嬉しいわ。ふふふ」

 セリナージェは、再び布団の中にもぐった。
 ベルティナは、不思議そうな顔をしてセリナージェを見ていた。

 セリナージェがまた話始める。

「あ、あのね、5人でストックの木の太さを測ったでしょう?」

「うん。子供になったみたいで、面白かったわね。ふふふ」

「うん。面白かったわ。それで、ね、その時、エリオとレムの手が繋がらないって言って、イルが私の手をどんどん離していって、イルの手が私の指先を掴んだ状態でやっと5人がつながったの」

「ええ、私もそうだったわよ。イルは震えながら、私の指先を離さないように頑張っていたわね」

 また、セリナージェが黙ってしまった。ベルティナは、セリナージェを見ないで、上を見たまま待っていた。

「それなのに、ね………。レムったら、私の手をギュと握って、全然離そうとしないのよ。レムが私の手をイルみたいしたら、きっとすぐに届いたわ。まるで、届きたくないみたいに……」

 ベルティナは、慌てて布団を目元まで被った。ベルティナの手を繋いでいたエリオもそうしていたことを瞬時に思い出したのだ。ベルティナはその時、イルミネの頑張りにばかり目を向けていた。

 エリオとクレメンティの手が届かなければ、エリオとベルティナはずっと手をつないだ状態が続く……。ずっと………。
 

「も、もう、寝ましょう」

 ベルティナは、誤魔化すように、セリナージェを促した。

「うん。おやすみ」

「おやすみ」

〰️ 〰️ 〰️

 次の日、日曜日、ティエポロ侯爵邸に、セリナージェのお姉様方が、お昼過ぎに遊びに来た。セリナージェのお姉様たち、ボニージェとメイージェは、双子だ。
 2年前にそれぞれ伯爵家に嫁ぎ、二人とも現在、妊娠中。どちらも旦那様が、王城に仕えているので、王都で暮らしている。

 サロンの窓を開け放てば、涼しい風が通る。4人はサロンでお茶をした。

「お姉様方、お体の具合はどう?」

「とても良くなったの。やっと落ち着いたってところかしら」

「わたくしもそうね。先月などは、ずっとベッドの中でしたもの」

 ボニージェの言葉にメイージェが賛同した。

「安定期になりましたのね。お二人の赤ちゃんに会えるのが楽しみです」

「ベルティナ、ありがとう」

「ベルティナ、セリナのことも、いつもありがとう」

 二人はそっくりな笑顔をベルティナにむけた。

「二人はもう学園の3年生でしょう。ステキな殿方は見つかりましたの?」

「そんな、簡単なお話じゃないんです」

 セリナージェが少し唇を尖らせた。

「あら?昨日、ステキな殿方が3人もいらしたと、お母様から聞きましたよ」

 ベルティナは、『お二人は、叔母様から偵察を頼まれたのだわ』と、察した。それならば、ベルティナはあまり口出ししない方がいいだろう。二人の相手はセリナージェに任せる。

「3人ともクラスメートですよ。席も近いので、お話することも多いのです」

「まあ、そうやって、親睦を深めてますのね。いいことだわ。どんな方たちなの?」

「隣国のピッツォーネ王国からの留学生です」

 セリナージェは、すまし顔でどんどんと質問に答えていく。

「まあ、あちらは気候が穏やかで過ごしやすいと聞いているわ。それで、どういう感じのお方なの?」

「真面目で、思っているより融通がきかなくて、でも一生懸命で、まわりのことを気にすることができて、優しい人だわ」

 セリナージェは、昨日ベルティナにされた質問なので、スラスラと答えることができた。

「そう、良い方のようね。お名前は?」

「え?」

 セリナージェは、一人の人だけを思い描いていたことに気がついて、顔を赤くした。

「ベルティナ、教えてくださる?」

「今の説明ですと、ガットゥーゾ公爵家ご長男のクレメンティ様だと思います」

 ベルティナは、笑いをこらえて答えた。

「なっ、ベルティナったら」

 セリナージェは、ベルティナを睨む。

「まあ、セリナ、ベルティナを責めてはいけませんわ。わたくしたちは、3人の殿方のことを質問したのに、セリナがお一人の方のお話しかしなかったのでしょう」

「お姉様、意地悪です」

 セリナージェは、ボニージェを恨めしい目で見た。

「まあ、そうおっしゃらないで。わたくしたちは、心配なの。この家には、お兄様とわたくしたちがいて、家についてはどうにかなるだろうってことで、お父様はあなたを自由にしてきたでしょう」

「そうよ。でも、もうすぐ18歳なのよ。そろそろ大人にならないと、お嫁に行くところがなくなってしまうわ」

 二人はまるで示し合わせたかのようにピッタリであった。

「お嫁って!まだ恋もしていないのにっ!」

 セリナージェが必死になる。

「ふふふふ、もうその方に恋をなさっているではないの?『殿方』と言われて、頭の中に、たった一人しか出て来なかったら、それは恋が始まっているのよ」

 ベルティナの頭にたった一人が浮かんでしまった。ベルティナは心の中で慌てた。でも、顔には出さなかった。

「もう、お姉様方、やめてくださいな。私、明日からどうしたらいいの?」

 セリナージェが顔を両手で隠して下を向いてしまった。

「気がついてからが大切ですわね。あなたが、お相手にしてあげたいと思うことを してさしあげればいいのよ」

 ボニージェがゆっくりとお茶を口に運んだ。

「無理にするのではなく、ですわよ。自分の気持ちをゆっくり温めなさい」

 メイージェがゆっくりとお茶を口に運んだ。
 
「お姉様方のお言葉は難しいわ」

「ふふ、セリナ、考えることは大切よ。あなたの将来にも関わるのだから」

 ボニージェがカップをテーブルに置く。

「ベルティナもよ。あなたの頭に浮かんだその方を、まずは大事になさいね」

 メイージェがカップをテーブルに置く。メイージェの言葉に、ベルティナは、肩を揺らしてびっくりした。

「エリオだったでしょう?」

 さらにびっくりして、目を見開いたままセリナージェの顔を見た。

「昨日の殿方のお一人ね。ふふ、恋は楽しんだ方がいいわ、ね、メイー」

「ボニー、わたしたちの学園時代を思い出すわね」

 それから、二人は自分たちの学園時代の話をベルティナとセリナージェに聞かせた。二人は、確かに今の旦那様とは、小さい頃からの婚約者であったが、その旦那様方に、学園時代に恋をしたそうだ。
 二人の恋物語は、とてもロマンチックだった。


〰️ 〰️ 〰️

 月曜日、ベルティナとセリナージェが教室へ入ると、まずはイルミネが見つけてくれた。こういうとき、彼の明るさはとても素晴らしい。

「おっはよぉ!この前ごにょにょ…」

 クレメンティに口を押さえられる。エリオがイルミネの頭を『コツン』と叩く。3人の絶妙なチームプレーに、ベルティナもセリナージェも笑ってしまった。
 でも、ベルティナは、ちょっとだけ、またひっかかりを感じた。

 とにかく、イルミネのおかげで、自然に話ができたことは間違いない。

 エリオとクレメンティが小さな声でクッキーのお礼を言った。

 その日から、クレメンティの態度は一変していた。休み時間に後ろを向いて話をすることはもちろん、教室移動にもセリナージェと並んで歩く。朝には、玄関前でセリナージェを待ち、教室まで一緒に歩くほどだ。
 ベルティナたち3人もさり気なく少しだけ距離を置くようになった。そうすることで見えるセリナージェの笑顔がとても幸せそうに見えて、ベルティナは自分のことのように嬉しかった。

「セリナ、放課後、よかったら、図書室で勉強をみてくれないか?」

 クレメンティが前のめりでセリナージェを誘う。セリナージェは嬉しそうにしながらも、控えめに下がる。
 
「それなら、ベルティナの方がいいわ」

「セリナ、ごめんね。私、先生に呼ばれているの」

 もちろん、嘘だ。こうして、セリナージェとクレメンティは、放課後、図書館デートをするようになった。
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