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第七章 魔法家の悩み事

5 待っててくれないのかな?

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 馬車や船の中では、たくさん勉強をした。ナタロフ語は、聞いたこともなかったがとても面白く学べたし、途中で寄る国の言葉も、挨拶と軽い日常会話ができるくらいにはできるようになった。イロフスキー侯爵や執事殿が、語学や歴史やその国の経済などいろんなことを教えてくれるので、飽きることはない。オーリオダムは、刺激的な毎日が楽しくてしかたなかった。
 イロフスキー侯爵は、違う国へ着くと仕事をした。その間、オーリオダムは、グレボウナと町へ出掛けたり、釣りや乗馬をしたり、勉強じゃないこともたくさんやった。町で、可愛らしいものを見つけると、イロフスキー侯爵からもらったお小遣いで買い、短い手紙とともに、エマローズへ送った。きっとこの手紙を読めば、エマローズは、オーリオダムが遠くにいることを理解するだろう。
 一行がナタロフ帝国の帝都に着いたのは、ガーリウム王国を出てから、半年も経ってからだった。

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 ナタロフ帝国の学校制度はガーリウム王国とは異なる。7歳から4年制の初等学校は、国中に大きいものから小さいものまで、何校もあり、平民はほとんどが通うが貴族は通うものは少ない。11歳から4年制の中等学校は、平民の半分、貴族の半分ほどが通う。15歳から4年制の高等学校は、平民はほぼ通わないが、貴族はほぼ通う。
 旅の途中で10歳になったオーリオダムは、初等学校の飛び級試験を受け、卒業証書を、もらった。グレボウナは、10歳のときに、高等学校の卒業証書をもらったそうだ。グレボウナ曰く『もう、全部忘れたけど』だそうだ。

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 オーリオダムは、エマローズへ手紙を書いた。書きたいことがいっぱいだったけど、会えたときに、話そうと、手紙は3枚くらいにした。3月ほどかかってエマローズからの手紙が届いた。オーリオダムが驚いたのは、ナタロフ語で書かれていたからだ。
『私は勉強のためにナタロフ語でお手紙を書くわ。だけど、ダムはガーリウム語を忘れないために、ガーリウム語で書いてね。』とあった。『ガーリウム語を忘れないために』という言葉が『エマローズを忘れないために』と書かれているようで、オーリオダムは、恥ずかしさと嬉しさで、ベッドの上にのたうちまわった。

 それからは、オーリオダムは定期的にエマローズと文通をし、エマローズへの3回に1回くらい、父親へ手紙を書いた。

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 11歳になったオーリオダムは、グレボウナがイロフスキー侯爵と異国に行っている間は、学校へ行ったり、屋敷の執事に剣をならったりした。グレボウナが屋敷にいる間は、学校も休み、グレボウナの開発に協力した。それでも、進級テストはいつも一番だった。
 
 グレボウナとの共同開発は、数年後実を結び、オーリオダムが14歳のとき、『メールボックス』ができた。

 『メールボックス』は、ファックスのようなシステムで、現代のボックスティッシュほどの大きさの箱が2つで1セットになっていて、箱に手紙を入れて蓋をとじ、蓋についている魔石に魔力を注ぐと対になっている箱に送られる。送られるというより、中にある紙に写し出す、つまり、ファックスに近い。なので、一度に手紙一枚しか送れない。それでもこの世界では充分だ。

 携帯電話トランシーバーと違い、上部と下部で送受信を分けたので魔石にかかる負担減ったのか、または、魔石をたくさん使っているからなのか、ともかく、遠くまで届くものになった。

 これに、一番喜んだのは、開発者のオーリオダムで、高価にも関わらずイロフスキー侯爵に購入の意思を伝え、魔石の金額だけで売ってくれることになった。


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 魔石がイロフスキー侯爵邸に届いた頃、エマローズと父親ジャンバディから、オーリオダム宛に、手紙が届いた。

 それは、エマローズの婚約者が決まったという知らせだった。
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