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第三章 隣国王子の恋愛事情 恋の事情編

6 恋の結 2

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「何から話せばいいのだろう。」
 
 アリーシャ嬢に、誤解なく、私の気持ちをわかってもらわなければならない。思いを巡らし、口を開く。ある程度予想して、今日に望んだはずなのに、いざとなると、言葉を探してしまう。


「昨日のアナファルト王子とのことは聞いているよ。大変だったね。

ヨアンシェル殿から聞いているかもしれないが、この話自体はすでに数ヶ月前から出ていて、アナファルト王子と貴女がこうなるのではないかという予想はできていたんだ。

私は、君たちがこうなることを望んでいた。」



「え?」
 今まで、シャンパンをジッと見ていたアリーシャ嬢が、やっとこちらを見てくれた。
 目が合ったことに喜んだ私は、急ぎすぎてしまった。

「アリーシャ嬢、私と結婚してほしい。」

 アリーシャ嬢は目を見開いていた。あー!!なんたる不覚!ムードも何もないではないか。



「いや、こうじゃないな。」

 私は、やり直すことにした。アリーシャ嬢と反対側に自分のシャンパングラスを置き、立ち上がる。
 そして、アリーシャ嬢の前へ進み、跪いた。
 アリーシャ嬢の空いている方の手をそっととると、ゆっくりと伝えた。




「アリーシャ・レンバーグ嬢、私ゼファーライト・タニャードの妃になっていただきたい。貴女を愛している。」

 私は心を込めて、精一杯の告白をアリーシャ嬢にした。





「!!!!ゼファー様、だって、だって、わたくし、貴方様は平民の方だと思っていて。
それに、それに、タニャードって。」

 アリーシャ嬢がさらにパニックになっていく。


 私はアリーシャ嬢の手をとったまま、となりに座り直した。

「アリーシャ嬢、私が平民であると思っていたのかい?」
アリーシャがこくりと頷く。

 私が平民だって??それでは、ここにいることが不思議だったわけだ。


「そうか、それなら無理もないな。ゆっくり説明するよ。これを少し飲んで。」

 アリーシャ嬢にシャンパンをすすめる。 アリーシャ嬢がシャンパンを飲む口元が、やたらと艶かしく、思わずごくりと息を飲んでしまった。
 アリーシャ嬢から、シャンパングラスを受け取り、私のシャンパングラスと並べて置く。



 振り返って再びアリーシャ嬢の手をとった。

「私は、タニャード王国の第2王子だ。将来は兄上を支える臣下となる。
その勉強として、シャーワント宰相の補佐官をさせてもらっているんだ。

名前は、家名をつけてしまうと身分がわかってしまう。だからといって王族が他国の王城に務めるのに偽名を使うわけにはいかない。だから、ゼファーと名乗っていたんだ。

私は、先日、2ヶ月ほどガーリウム王国から離れていただろう。あの時はタニャード王国で、貴女を迎えたい旨を両親に相談に行っていたんだ。だから、アリーシャ嬢の婚約白紙は、ギリギリまで待ってもらった。」

 私のことを説明していく。アリーシャ嬢も落ち着きをとり戻してきたようだ。

「貴女は、王妃教育も大変一生懸命にのぞみ、さらには王子がするはずの政務でさえも、文句の1つも言わずに取り組んでいた。

そういう状況にも関わらず、回りには笑顔を絶やさず、時に優しく時に厳しく、未来の王妃として、本当によくやっていたと思うよ。」
 
 私はアリーシャ嬢の容姿だけを好んだわけではない。彼女の素晴らしさを言葉にすることは、至極幸せである。

「そんな、わたくしは公爵家の者の義務として…」

「だとしても、それをきちんと受け止める姿はとても美しかった。

アナファルト王子がメノール嬢に夢中になり、貴女との逢瀬のお茶会に 私が代理にと言われたときには喜びで叫びそうになったよ。
2ヶ月置きのお茶会が楽しみだった。」

 あの幸運は、私の生活の潤いだった。

「そ、それは、わたくしも…」

 アリーシャ嬢が視線を落とし、頬を染めている。本当か!彼女も同じ気持ちでいてくれたのかっ!私は興奮した。それを隠して、言葉を繋いでいく。


「本当は公爵家でのお茶会も代理でかまわないから伺いたかったのだが…。
そこまでは、できなかったけどね。」

 おどけたように言うと、アリーシャ嬢がクスッと笑う。だいぶリラックスしてきたと見られる。


「だが、お茶会断りの贈り物は、私が選ばせてもらっていたよ。」

「やはり、そうでしたのね。アナファルト殿下にしては、わたくしの好みや興味を考えてくれている気がしておりましたの。」

「本当に???伝わっていたなんて、嬉しいな。各店からのメッセージカードだったのに。」

 ああ、アリーシャ嬢に私の心の一部でも伝わっていたようだ。なんという幸福感であろう。
 アリーシャ嬢の頬が更に染まったように見える。

「お誕生日や行事などの贈り物を貴女のために選ぶことは本当に楽しかった。」

「贈ってていただいた南の島国の本は、とても大事にしてますの。
始めは辞書を使って読んでおりましたが、今はなくても読めますのよ。」

「やはり、その贈り物が一番喜んでいただいけましたか。」

 そう!その贈り物が一番喜ばれるという自信がある!アリーシャ嬢と心が繋がっているかのような、錯覚に陥る。


「丁度、その頃、あちらの語学を勉強なさっておいででしたから。
それにしても、辞書がなくても読めるようになっているとはさすがですね。」

「そんな、とても面白い本だったからですわ。」

 アリーシャ嬢は、謙遜しているが、彼女は、本当に賢明な女性なのだ。


 だが、今日は卒業パーティーだ。このままこうしているわけにもいくまい。

「ああ、貴女とこうしてずっと話をしていたいが、そうもいかないようだ。

アリーシャ嬢、私は本気だ。貴女を愛している。一生愛し続ける。だから、どうか私の妃となってほしい。」

 私はアリーシャ嬢の手を繋ぐ力を少し強めて、まっすぐな言葉を伝えた。
 感触は悪くないと思う。もし、保留にされても、もう堂々と口説けるのだ。明日からまた頑張ればいい。
 

 その覚悟でアリーシャ嬢の言葉を待てば、アリーシャ嬢から予想以上の言葉をもらうことができた。

「ゼファーライト・タニャード様、喜んでお受けいたしますわ。わたくしもゼファーライト様をお慕いしております。」

「アリーシャ嬢!!」
 私はアリーシャ嬢を思わず抱き締めてしまった。
「どうか、どうか、今まで通り、ゼファーと…。」
さらに、ワガママを言ってしまう。
「ゼファー様…。」
 しかし、アリーシャ嬢はそのワガママにも応えてくれた。私は少しだけ抱き締める力を強めた。

 しばらくそうしていたが、会場からヨアンシェル殿が心配そうに見ていたことに気がつき、私はアリーシャ嬢の手をとって、立ち上がった。アリーシャ嬢に左腕を差しだすと、先ほどここへ歩いて来たときより、しっかりと腕を組んでくれた。その手に自分の右手を重ねる。

 時々、アリーシャ嬢を見つめれば、目を合わせてくれて、微笑みを返してくれる。


 これから私は、生涯、アリーシャ嬢を愛し続け、アリーシャ嬢を幸せにすることを決意する。


 私たちは、ヨアンシェル殿たちの待つ会場へゆっくりと歩いた。

 こうして、私の恋は成就したんだ。

~隣国王子の恋愛事情 恋の事情   fin ~

明日、10月18日 ヨアン編です。
今後ともよろしくお願いします
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