10 / 71
第二章 本編 ご令嬢たちの幸せ編
1 夕刻のお茶会
しおりを挟む
今は、夕方より少し前の時間である。
パーティーの予行練習を終えた後、すっかり生徒会室となった部屋のソファーでお茶会をしていた。
真ん中の一人掛けにアリーシャ、その左手の二人掛けにはヴィオリアとエマローズ、アリーシャの右手の二人掛けにはイメルダリアが座っている。
ヨアンシェルは、この部屋の主として、お茶の用意をしている。できる紳士は、お茶もスマートにいれ、淑女をもてなすことが、最近のスタイルだ。
『紳士は堂々と座って待つ』などという父親世代にはわからないスマートさだろう。だが、こと父親世代の淑女のみなさんには喜んで受け入れられているのだから、もてなされることは気持ちのいいものなのだ。
とはいえ、ヨアンシェルはまだまだ紳士見習いだ。合格はもらえるのだろうか。
ヨアンシェルが4人の淑女に紅茶をもてなし、イメルダリアの隣に座った。
まず、アリーシャが口をつける。
「ヨアン、随分上手になりましたわね。これならどなたにでもお出しできるわ。」
「淑女のみなさんにご指導いただきましたからね。」
ヨアンシェルがにっこりと答えた。
3人の淑女がクスクスと笑い、和やかなお茶会となった。
「それで、みなさまは今日のことは、どこまで知っていらしたの?」
落ち着いたところで、アリーシャが静かな声で問いかけた。
「すべてですわ、アリーシャ様。」
代表してイメルダリアが答える。
「今日のことは、わたくしたちで進めてまいりましたの。ヨアン君のお友達も手伝ってくれましたわ。それに………国王陛下も。」
他の3人も頷く。
「国王陛下もすべてご存知だったのですか!!?………そうですか。始めからアナファルト殿下は……。」
アリーシャが考えたように、断罪劇が始まった時点でアナファルト王子たちの運命は決まっていた。………いや、その前から決まっていたのかもしれない。
「1年以上前からですが、この4人で、代理とはいえ生徒会役員をやっておりました。その頃には、あの方々は、あの状態だったのです。
9ヶ月程前でしょうか、ある日、ヨアン君が『このままでよいのですか?』とわたくしどもにお聞きになりました。その時、わたくしたち3人堰を切ったように話ましたわ。3人がそれぞれの状況を話してみると、本当に同じように被害を受け、同じように傷ついておりましたの。
内容は、それぞれがあの会場で話した通りですわ。」
「僕は姉上も同じ気持ちなのではないかと思ったんだ。だから、イメルダリアさんたちに現状を聞きたかった。」
「わたくしたちは、それぞれの両親にきちんと相談しようと決めたのです。」
「もちろん僕も父上に相談したよ。」
レンバーグ公爵は、現在財務大臣である。
「わたくしの両親は早速動いてくれ、両家の親の話し合いがもたれましたわ。
しかし、イリサス様はご長男で家からの期待も大きく、宰相様の奥様から3カ月は様子を見てほしいと。その間は、イリサス様を立ち直らせようとあちらのご両親は頑張っておられたようですわ。
でも、結果はこの通りですもの。
ですので、本当は半年前に婚約は白紙になっておりますの。
ですが、イリサス様のご両親がこれ以上イリサス様に壊れてほしくないと、婚約白紙のことはイリサス様には内緒にしておりましたの。
婚約白紙後であっても、イリサス様が立ち直れば宰相補佐官として王城に仕えさせ、新しい婚約者を探すつもりだったようですわ。
それが、彼らが出した報告書で、宰相様のお気持ちは決定的になったのではないかと思いますわ。」
イメルダリアは、一気に話すと、ひとつ息を吐き、ゆっくりとお茶に手を伸ばした。
「うちは、かなりすぐ、婚姻白紙になったんですよ。」
ヴィオリアの口調にアリーシャは少しだけ目を開いた。
「あ、私、辺境暮らしだし、兵士は男が多いので、あまり敬語は得意じゃなくて。」
と照れたヴィオリアに、アリーシャは思わずクスリと笑った。
「ここでは、それでよろしいのではなくて?みなさんは、もうご存知なのでしょ?」
とアリーシャが他の3人に促すと3人とも頷いた。
「ありがとうございます。
で、うちですけど、ウズライザー様にも伝えたように、練習場でのメノール嬢との逢瀬は、私の父も騎士団長様も見ていたので、すぐに納得してくれました。
でも、私たちが婚約白紙にしたって言うとまだみんなに迷惑かけるかもしれないってことで、発表するタイミングはみんなに合わせることにしたんです。
団長様はすぐにでも殴りに行きたそうでしたけど、どうにか待ってもらいました。」
みんな、団長であるバルトルガー侯爵の様子が想像できて、少しだけクスリと笑う。
「わたくしどもは逆に婚約白紙にできたのは、つい1カ月前ですの。
婚約白紙にすることは、当家にとっては決定事項だったのてすが、時期は未定のままでしたの。
あの方の研究がうまくいくかもしれない、もしうまくいったらその後ですればいいと。研究は、国の宝ですから。それに、それがお金になるとわかれば、エンゾラール様の借金が少なくなりますでしょ。
メノール様に随分とお使いになっていたらしくて、研究所に請求書が届いておりますの。それは、エンゾラール様の借金になってますのよ。
婚約白紙になった場合、研究がうまくいかなかったら、サンドエク家で払うしない。サンドエク家にはとても払える額ではないので、サンドエク伯爵様がお金を用立ててくれる方をさがしていたのですわ。その方が見つかったのが1ヶ月前でしたの。」
エマローズは少し俯く。
パーティーの予行練習を終えた後、すっかり生徒会室となった部屋のソファーでお茶会をしていた。
真ん中の一人掛けにアリーシャ、その左手の二人掛けにはヴィオリアとエマローズ、アリーシャの右手の二人掛けにはイメルダリアが座っている。
ヨアンシェルは、この部屋の主として、お茶の用意をしている。できる紳士は、お茶もスマートにいれ、淑女をもてなすことが、最近のスタイルだ。
『紳士は堂々と座って待つ』などという父親世代にはわからないスマートさだろう。だが、こと父親世代の淑女のみなさんには喜んで受け入れられているのだから、もてなされることは気持ちのいいものなのだ。
とはいえ、ヨアンシェルはまだまだ紳士見習いだ。合格はもらえるのだろうか。
ヨアンシェルが4人の淑女に紅茶をもてなし、イメルダリアの隣に座った。
まず、アリーシャが口をつける。
「ヨアン、随分上手になりましたわね。これならどなたにでもお出しできるわ。」
「淑女のみなさんにご指導いただきましたからね。」
ヨアンシェルがにっこりと答えた。
3人の淑女がクスクスと笑い、和やかなお茶会となった。
「それで、みなさまは今日のことは、どこまで知っていらしたの?」
落ち着いたところで、アリーシャが静かな声で問いかけた。
「すべてですわ、アリーシャ様。」
代表してイメルダリアが答える。
「今日のことは、わたくしたちで進めてまいりましたの。ヨアン君のお友達も手伝ってくれましたわ。それに………国王陛下も。」
他の3人も頷く。
「国王陛下もすべてご存知だったのですか!!?………そうですか。始めからアナファルト殿下は……。」
アリーシャが考えたように、断罪劇が始まった時点でアナファルト王子たちの運命は決まっていた。………いや、その前から決まっていたのかもしれない。
「1年以上前からですが、この4人で、代理とはいえ生徒会役員をやっておりました。その頃には、あの方々は、あの状態だったのです。
9ヶ月程前でしょうか、ある日、ヨアン君が『このままでよいのですか?』とわたくしどもにお聞きになりました。その時、わたくしたち3人堰を切ったように話ましたわ。3人がそれぞれの状況を話してみると、本当に同じように被害を受け、同じように傷ついておりましたの。
内容は、それぞれがあの会場で話した通りですわ。」
「僕は姉上も同じ気持ちなのではないかと思ったんだ。だから、イメルダリアさんたちに現状を聞きたかった。」
「わたくしたちは、それぞれの両親にきちんと相談しようと決めたのです。」
「もちろん僕も父上に相談したよ。」
レンバーグ公爵は、現在財務大臣である。
「わたくしの両親は早速動いてくれ、両家の親の話し合いがもたれましたわ。
しかし、イリサス様はご長男で家からの期待も大きく、宰相様の奥様から3カ月は様子を見てほしいと。その間は、イリサス様を立ち直らせようとあちらのご両親は頑張っておられたようですわ。
でも、結果はこの通りですもの。
ですので、本当は半年前に婚約は白紙になっておりますの。
ですが、イリサス様のご両親がこれ以上イリサス様に壊れてほしくないと、婚約白紙のことはイリサス様には内緒にしておりましたの。
婚約白紙後であっても、イリサス様が立ち直れば宰相補佐官として王城に仕えさせ、新しい婚約者を探すつもりだったようですわ。
それが、彼らが出した報告書で、宰相様のお気持ちは決定的になったのではないかと思いますわ。」
イメルダリアは、一気に話すと、ひとつ息を吐き、ゆっくりとお茶に手を伸ばした。
「うちは、かなりすぐ、婚姻白紙になったんですよ。」
ヴィオリアの口調にアリーシャは少しだけ目を開いた。
「あ、私、辺境暮らしだし、兵士は男が多いので、あまり敬語は得意じゃなくて。」
と照れたヴィオリアに、アリーシャは思わずクスリと笑った。
「ここでは、それでよろしいのではなくて?みなさんは、もうご存知なのでしょ?」
とアリーシャが他の3人に促すと3人とも頷いた。
「ありがとうございます。
で、うちですけど、ウズライザー様にも伝えたように、練習場でのメノール嬢との逢瀬は、私の父も騎士団長様も見ていたので、すぐに納得してくれました。
でも、私たちが婚約白紙にしたって言うとまだみんなに迷惑かけるかもしれないってことで、発表するタイミングはみんなに合わせることにしたんです。
団長様はすぐにでも殴りに行きたそうでしたけど、どうにか待ってもらいました。」
みんな、団長であるバルトルガー侯爵の様子が想像できて、少しだけクスリと笑う。
「わたくしどもは逆に婚約白紙にできたのは、つい1カ月前ですの。
婚約白紙にすることは、当家にとっては決定事項だったのてすが、時期は未定のままでしたの。
あの方の研究がうまくいくかもしれない、もしうまくいったらその後ですればいいと。研究は、国の宝ですから。それに、それがお金になるとわかれば、エンゾラール様の借金が少なくなりますでしょ。
メノール様に随分とお使いになっていたらしくて、研究所に請求書が届いておりますの。それは、エンゾラール様の借金になってますのよ。
婚約白紙になった場合、研究がうまくいかなかったら、サンドエク家で払うしない。サンドエク家にはとても払える額ではないので、サンドエク伯爵様がお金を用立ててくれる方をさがしていたのですわ。その方が見つかったのが1ヶ月前でしたの。」
エマローズは少し俯く。
2
お気に入りに追加
329
あなたにおすすめの小説
婚約破棄宣言は別の場所で改めてお願いします
結城芙由奈
恋愛
【どうやら私は婚約者に相当嫌われているらしい】
「おい!もうお前のような女はうんざりだ!今日こそ婚約破棄させて貰うぞ!」
私は今日も婚約者の王子様から婚約破棄宣言をされる。受け入れてもいいですが…どうせなら、然るべき場所で宣言して頂けますか?
※ 他サイトでも掲載しています
公爵令嬢ですが冤罪をかけられ虐げられてしまいました。お覚悟よろしいですね?
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のシルフィーナ・アストライアは公爵令息のエドガー・サウディス達によって冤罪をかけられてしまった。
『男爵令嬢のリリア・アルビュッセを虐め倒し、心にまで傷を負わせた』として。
存在しない事実だったが、シルフィーナは酷い虐めや糾弾を受けることになってしまう。
持ち物を燃やされ、氷水をかけられ、しまいには数々の暴力まで。
そんな仕打ちにシルフィーナが耐えられるはずがなく……。
虐めて申し訳ない?
数々の仕打ちの報いは、しっかり受けていただきます
※設定はゆるめです。
※暴力描写があります。
※感想欄でネタバレ含むのチェックを忘れたりする残念な作者ですのでご了承ください。
追放されましたが、私は幸せなのでご心配なく。
cyaru
恋愛
マルスグレット王国には3人の側妃がいる。
ただし、妃と言っても世継ぎを望まれてではなく国政が滞ることがないように執務や政務をするために召し上げられた職業妃。
その側妃の1人だったウェルシェスは追放の刑に処された。
理由は隣国レブレス王国の怒りを買ってしまった事。
しかし、レブレス王国の使者を怒らせたのはカーティスの愛人ライラ。
ライラは平民でただ寵愛を受けるだけ。王妃は追い出すことが出来たけれど側妃にカーティスを取られるのでは?と疑心暗鬼になり3人の側妃を敵視していた。
ライラの失態の責任は、その場にいたウェルシェスが責任を取らされてしまった。
「あの人にも幸せになる権利はあるわ」
ライラの一言でライラに傾倒しているカーティスから王都追放を命じられてしまった。
レブレス王国とは逆にある隣国ハネース王国の伯爵家に嫁いだ叔母の元に身を寄せようと馬車に揺られていたウェルシェスだったが、辺鄙な田舎の村で馬車の車軸が折れてしまった。
直すにも技師もおらず途方に暮れていると声を掛けてくれた男性がいた。
タビュレン子爵家の当主で、丁度唯一の農産物が収穫時期で出向いて来ていたベールジアン・タビュレンだった。
馬車を修理してもらう間、領地の屋敷に招かれたウェルシェスはベールジアンから相談を受ける。
「収穫量が思ったように伸びなくて」
もしかしたら力になれるかも知れないと恩返しのつもりで領地の収穫量倍増計画を立てるのだが、気が付けばベールジアンからの熱い視線が…。
★↑例の如く恐ろしく、それはもう省略しまくってます。
★11月9日投稿開始、完結は11月11日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
王妃を蔑ろにし、愛妾を寵愛していた王が冷遇していた王妃と入れ替わるお話。
ましゅぺちーの
恋愛
王妃を蔑ろにして、愛妾を寵愛していた王がある日突然その王妃と入れ替わってしまう。
王と王妃は体が元に戻るまで周囲に気づかれないようにそのまま過ごすことを決める。
しかし王は王妃の体に入ったことで今まで見えてこなかった愛妾の醜い部分が見え始めて・・・!?
全18話。
今更あなたから嫉妬したなんて言われたくありません。
梅雨の人
恋愛
幼き頃に婚約したエルザと王太子ルーカス。
将来を語り合い寄り添い続けた二人は、いつしか互いに気持ちを通わせあい、夫婦になれる日を心から楽しみにしていた。
すべてが順調に行き、二人の婚姻式があと少しという所で、突然現れた聖女とルーカスが急接近していく。
そしてついに聖女と一線を越えてしまったルーカスは責任をとる為、浮気相手の聖女を王太子妃として娶ることになってしまった。
一方エルザは婚約破棄が王に認められず、王太子妃の代わりに執務に公務をこなすために第二王太子妃にされてしまう。
エルザを妻として娶ることを心待ちにしていたルーカスだったが、王太子妃である聖女の束嫉妬が激しくエルザを蔑ろにしてしまう。
心無い周囲の声にただ一人耐え続けるエルザのもとに、側近として現れたダグラス。
ダグラスのおかげで次第に笑顔を取り戻すエルザと、二人を見て嫉妬にかられるルーカス。
そんなルーカスに対してエルザは言い放った。
不貞の末に妻二人も娶ったあなたに------今更嫉妬したなんて言われたくはありません。
自己肯定感の低い令嬢が策士な騎士の溺愛に絡め取られるまで
嘉月
恋愛
平凡より少し劣る頭の出来と、ぱっとしない容姿。
誰にも望まれず、夜会ではいつも壁の花になる。
でもそんな事、気にしたこともなかった。だって、人と話すのも目立つのも好きではないのだもの。
このまま実家でのんびりと一生を生きていくのだと信じていた。
そんな拗らせ内気令嬢が策士な騎士の罠に掛かるまでの恋物語
執筆済みで完結確約です。
浮気くらいで騒ぐなとおっしゃるなら、そのとおり従ってあげましょう。
Hibah
恋愛
私の夫エルキュールは、王位継承権がある王子ではないものの、その勇敢さと知性で知られた高貴な男性でした。貴族社会では珍しいことに、私たちは婚約の段階で互いに恋に落ち、幸せな結婚生活へと進みました。しかし、ある日を境に、夫は私以外の女性を部屋に連れ込むようになります。そして「男なら誰でもやっている」と、浮気を肯定し、開き直ってしまいます。私は夫のその態度に心から苦しみました。夫を愛していないわけではなく、愛し続けているからこそ、辛いのです。しかし、夫は変わってしまいました。もうどうしようもないので、私も変わることにします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる