15 / 26
15
しおりを挟む
アロンドはエトリアとセイバーナの婚約が決まる一月前にここコニャール王国へ特使として訪れエトリアに一目惚れをした。自国に戻り両親と兄達を説得している間にエトリアが婚約者を決めてしまったのだ。
「王女である君を迎えるためにはそれなりの身分が必要だろう。第五王子ともなるとおいそれと領地はもらえないからね。その均衡に悪戦苦闘している間に君が婚約してしまうのだもの」
「権利と義務のバランスは難しいものね。領地は無尽蔵に増えていくわけではないし」
そう言うエトリアが難しそうな顔をした。
アロンドのことを真面目に考えて労ってくれるエトリアにアロンドはついつい口元が緩む。王族同士ならではの言わずもがなの悩みはあるものだ。
「えへへ。でもこの三年、父上や兄上たちと相談して、王家領地から辺境の伯爵領と伯爵位を賜ることになったんだよ。辺境って言っても王都から離れているというだけさ。この国との境界にある領地で、こちらと交易しているから街も結構大きいんだよ。交易量からすぐに侯爵になれるらしい。僕が結婚しなければ、僕の死後は王家に戻すことにしてある」
アロンドは満面の笑みでエトリアに報告した。
「あら? 初耳ね」
「だって、君の婚約破棄が決まったからその爵位をもらうことを決めたんだもの。今日までは保留にしておいたのさ」
「本当に自由ねぇ」
嬉しそうなアロンドにエトリアも笑顔になる。
「第五王子だもん」
アロンドは胸を張った。エトリアは思わず吹き出す。
「本当に変な人」
エトリアは呆れながらも優しげに目を細めた。
「あのね。わたくしも貴方に報告するのを忘れていたことがあるわ」
「えっ!? 何?!」
アロンドは不安そうに眉を下げる。
「わたくし、女辺境伯爵になることにしたの。チェスタヤ王国――アロンドの母国――との境界にある領地で、チェスタヤ王国とは友好的だから戦争もない領地なのよ。境界の街は交易が盛んで結構大きいの」
「それは知らなかったよ!」
アロンドが喜色めいた声をあげた。
「だって、先日、お父様に婚約解消の書類にサインをいただいた後に打診されたのですもの。
それに気持ちを決めたのはつい先程だわ」
意地悪を言っているようでもエトリアの声音には優しさが込められている。国王はアロンドのエトリアに対する献身を見てきてそのような案を打診してきたのだ。
「それなら、子供は二人以上作らなければならないね。上の子にはどちらの領地を継がせようかっ!」
「婚約もしていないのに、何を仰っているのかしら? うふふ」
「エトリア。隣に行ってもいい?」
「ダメです」
「なぜ?」
「わたくしの婚約が解消されてまだ数時間ですもの」
「いつならいいのさ?」
「……セイバーナさんの処遇が決まったら……ですわね」
「妬ける……」
「え?」
「ヨネタス卿って呼ばないの?」
「あら? ついクセで。これでも三年ほど婚約していたのですもの」
「ふーん」
「それに……」
『きっとすぐにヨネタス卿ではなくなると思うわ』
セイバーナがヨネタス公爵家から廃嫡廃籍されることは間違いないだろうと思われた。
「ん?」
言い淀むエトリアの顔をアロンドが覗き込む。
「それに、貴方のことは『アロンド』と呼んでいるではありませんか」
エトリアは切り替えて言い返した。
「そうなんだけどさ」
アロンドは頬を膨らませた。
「王女である君を迎えるためにはそれなりの身分が必要だろう。第五王子ともなるとおいそれと領地はもらえないからね。その均衡に悪戦苦闘している間に君が婚約してしまうのだもの」
「権利と義務のバランスは難しいものね。領地は無尽蔵に増えていくわけではないし」
そう言うエトリアが難しそうな顔をした。
アロンドのことを真面目に考えて労ってくれるエトリアにアロンドはついつい口元が緩む。王族同士ならではの言わずもがなの悩みはあるものだ。
「えへへ。でもこの三年、父上や兄上たちと相談して、王家領地から辺境の伯爵領と伯爵位を賜ることになったんだよ。辺境って言っても王都から離れているというだけさ。この国との境界にある領地で、こちらと交易しているから街も結構大きいんだよ。交易量からすぐに侯爵になれるらしい。僕が結婚しなければ、僕の死後は王家に戻すことにしてある」
アロンドは満面の笑みでエトリアに報告した。
「あら? 初耳ね」
「だって、君の婚約破棄が決まったからその爵位をもらうことを決めたんだもの。今日までは保留にしておいたのさ」
「本当に自由ねぇ」
嬉しそうなアロンドにエトリアも笑顔になる。
「第五王子だもん」
アロンドは胸を張った。エトリアは思わず吹き出す。
「本当に変な人」
エトリアは呆れながらも優しげに目を細めた。
「あのね。わたくしも貴方に報告するのを忘れていたことがあるわ」
「えっ!? 何?!」
アロンドは不安そうに眉を下げる。
「わたくし、女辺境伯爵になることにしたの。チェスタヤ王国――アロンドの母国――との境界にある領地で、チェスタヤ王国とは友好的だから戦争もない領地なのよ。境界の街は交易が盛んで結構大きいの」
「それは知らなかったよ!」
アロンドが喜色めいた声をあげた。
「だって、先日、お父様に婚約解消の書類にサインをいただいた後に打診されたのですもの。
それに気持ちを決めたのはつい先程だわ」
意地悪を言っているようでもエトリアの声音には優しさが込められている。国王はアロンドのエトリアに対する献身を見てきてそのような案を打診してきたのだ。
「それなら、子供は二人以上作らなければならないね。上の子にはどちらの領地を継がせようかっ!」
「婚約もしていないのに、何を仰っているのかしら? うふふ」
「エトリア。隣に行ってもいい?」
「ダメです」
「なぜ?」
「わたくしの婚約が解消されてまだ数時間ですもの」
「いつならいいのさ?」
「……セイバーナさんの処遇が決まったら……ですわね」
「妬ける……」
「え?」
「ヨネタス卿って呼ばないの?」
「あら? ついクセで。これでも三年ほど婚約していたのですもの」
「ふーん」
「それに……」
『きっとすぐにヨネタス卿ではなくなると思うわ』
セイバーナがヨネタス公爵家から廃嫡廃籍されることは間違いないだろうと思われた。
「ん?」
言い淀むエトリアの顔をアロンドが覗き込む。
「それに、貴方のことは『アロンド』と呼んでいるではありませんか」
エトリアは切り替えて言い返した。
「そうなんだけどさ」
アロンドは頬を膨らませた。
15
お気に入りに追加
313
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたおっとり令嬢は「実験成功」とほくそ笑む
柴野
恋愛
おっとりしている――つまり気の利かない頭の鈍い奴と有名な令嬢イダイア。
周囲からどれだけ罵られようとも笑顔でいる様を皆が怖がり、誰も寄り付かなくなっていたところ、彼女は婚約者であった王太子に「真実の愛を見つけたから気味の悪いお前のような女はもういらん!」と言われて婚約破棄されてしまう。
しかしそれを受けた彼女は悲しむでも困惑するでもなく、一人ほくそ笑んだ。
「実験成功、ですわねぇ」
イダイアは静かに呟き、そして哀れなる王太子に真実を教え始めるのだった。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜
秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。
宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。
だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!?
※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。
シナリオではヒロインと第一王子が引っ付くことになっているので、脇役の私はーー。
ちょこ
恋愛
婚約者はヒロインさんであるアリスを溺愛しているようです。
そもそもなぜゲームの悪役令嬢である私を婚約破棄したかというと、その原因はヒロインさんにあるようです。
詳しくは知りませんが、殿下たちの会話を盗み聞きした結果、そのように解釈できました。
では私がヒロインさんへ嫌がらせをしなければいいのではないでしょうか? ですが、彼女は事あるごとに私に噛みついてきています。
出会いがしらに「ちょっと顔がいいからって調子に乗るな」と怒鳴ったり、私への悪口を書いた紙をばら撒いていたりします。
当然ながらすべて回収、処分しております。
しかも彼女は自分が嫌がらせを受けていると吹聴して回っているようで、私への悪評はとどまるところを知りません。
まったく……困ったものですわ。
「アリス様っ」
私が登校していると、ヒロインさんが駆け寄ってきます。
「おはようございます」と私は挨拶をしましたが、彼女は私に恨みがましい視線を向けます。
「何の用ですか?」
「あんたって本当に性格悪いのね」
「意味が分かりませんわ」
何を根拠に私が性格が悪いと言っているのでしょうか。
「あんた、殿下たちに色目を使っているって本当なの?」
「色目も何も、私は王太子妃を目指しています。王太子殿下と親しくなるのは当然のことですわ」
「そんなものは愛じゃないわ! 男の愛っていうのはね、もっと情熱的なものなのよ!」
彼女の言葉に対して私は心の底から思います。
……何を言っているのでしょう?
「それはあなたの妄想でしょう?」
「違うわ! 本当はあんただって分かっているんでしょ!? 好きな人に振り向いて欲しくて意地悪をする。それが女の子なの! それを愛っていうのよ!」
「違いますわ」
「っ……!」
私は彼女を見つめます。
「あなたは人を愛するという言葉の意味をはき違えていますわ」
「……違うもん……あたしは間違ってないもん……」
ヒロインさんは涙を流し、走り去っていきました。
まったく……面倒な人だこと。
そんな面倒な人とは反対に、もう一人の攻略対象であるフレッド殿下は私にとても優しくしてくれます。
今日も学園への通学路を歩いていると、フレッド殿下が私を見つけて駆け寄ってきます。
「おはようアリス」
「おはようございます殿下」
フレッド殿下は私に手を伸ばします。
「学園までエスコートするよ」
「ありがとうございますわ」
私は彼の手を取り歩き出します。
こんな普通の女の子の日常を疑似体験できるなんて夢にも思いませんでしたわ。
このままずっと続けばいいのですが……どうやらそうはいかないみたいですわ。
私はある女子生徒を見ました。
彼女は私と目が合うと、逃げるように走り去ってしまいました。
婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない
nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?
屋敷のバルコニーから突き落とされて死んだはずの私、実は生きていました。犯人は伯爵。人生のドン底に突き落として社会的に抹殺します。
夜桜
恋愛
【正式タイトル】
屋敷のバルコニーから突き落とされて死んだはずの私、実は生きていました。犯人は伯爵。人生のドン底に突き落として社会的に抹殺します。
~婚約破棄ですか? 構いません!
田舎令嬢は後に憧れの公爵様に拾われ、幸せに生きるようです~
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
妹に人生を狂わされた代わりに、ハイスペックな夫が出来ました
コトミ
恋愛
子爵令嬢のソフィアは成人する直前に婚約者に浮気をされ婚約破棄を告げられた。そしてその婚約者を奪ったのはソフィアの妹であるミアだった。ミアや周りの人間に散々に罵倒され、元婚約者にビンタまでされ、何も考えられなくなったソフィアは屋敷から逃げ出した。すぐに追いつかれて屋敷に連れ戻されると覚悟していたソフィアは一人の青年に助けられ、屋敷で一晩を過ごす。その後にその青年と…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる