14 / 26
14
しおりを挟む
後ろに控えていたアロンドがエトリアに一歩近づき手で口元を隠しながら耳元に寄る。
「私はそこまで狭量ではありませんよ」
アロンドはエトリアだけに聞こえるように呟いた。
「では、後程またお迎えに参ります」
今度は他の者たちにも聞こえるように声を出し、恭しく頭を下げてから退場していく。
エトリアは小さくため息をついてから自分で椅子を引きテーブルについた。
ヘレナたちはお茶を淹れ直し、四人で向き合うと目を合わせて苦笑いを溢した。
〰️ 〰️ 〰️
アロンドはその日にエトリアを学園に迎えに来ることは叶わなかった。五人の処分を決める会議から外れることが不可能だったからだ。
エトリアが夕食を終え部屋でお茶をしているとノックの音がした。メイドが扉に向かい相手を確認する。
「王女殿下。アロンド様でございますが、いかがいたしますか?」
「通してちょうだい。今日はとてもお世話になったの」
「かしこまりました」
メイドに促されて入室したアロンドはエトリアが座るソファの脇まで来ると恭しく頭を垂れる。
「王女殿下におかれましてはご機嫌麗しく」
「わざとらしい挨拶はいらないわ。座って」
アロンドが鬱陶しい前髪をかきあげると美しい黄緑色の瞳と整った顔立ちが現れる。
アロンドはしれっとエトリアの隣に座った。エトリアはペチンとアロンドの膝を叩く。
「あ・ち・ら」
「チェッ。頑張ったのだから今日ぐらいいいじゃないか」
アロンドは口を尖らせるがそれも美しい。アロンドの眉目秀麗さにエトリアは全く反応しない。
「なら、今日は許すけど、今日だけにするわね」
アロンドはバッと立ち上がり走るように向かいの席に座った。
「はいっ! これで今日限りっていうのはなしねっ!」
メイドは笑うのを堪えるようにしてアロンドにお茶を出した。
「会議の結果は?」
「まだ結論は出ていない。ご令嬢方のご両親がとてもお怒りでね。一度譲っているから二度目の裏切りは赦せないみたい」
「それはそうでしょうね」
二人は小さくため息をついてお茶を口にした。
そのタイミングでメイドが一歩近づき頭を下げる。
「殿下。茶菓子を切らしてしまいましたので、二十分ほど席を外します」
「……そう。いつもありがとう」
メイドはエトリアの視線が少しばかり恨めしそうに見えたが、笑顔で躱して部屋を出た。部屋の扉を開けたままにすることは忘れない。
アロンドはエトリアを熱く見つめた。
「君を迎えるチャンスが来たよ」
エトリアは呆れた顔を隠さない。
「貴方と婚約するかわからないじゃないの」
「絶対にするっ!」
エトリアは盛大にため息をついた。
「ねぇ? わたくしがセイバーナさんと婚姻していたらヨネタス公爵家に着いていくって本気だったの?」
「もちろんさっ! だからこうして執事兼秘書兼付き人の練習をしてきたんだろう」
「わたくしが他の男性とそうなることは平気なの?」
「…………それはわからない。確かに、その時になったら逃げ出すかもね。
でも、君を支えたい、君を守りたい、君のそばにいたいという今の気持ちは嘘じゃない」
「貴方が望めば何でも叶うでしょうに」
「僕は君を望んだんだ。これまでは叶わなかったじゃないか」
「王子のくせに変わった人ね」
「第五王子は権利は少ないけど義務も少ない。気楽なものなのさ」
アロンドは東側の隣国チェスタヤ王国の第五王子だ。
「私はそこまで狭量ではありませんよ」
アロンドはエトリアだけに聞こえるように呟いた。
「では、後程またお迎えに参ります」
今度は他の者たちにも聞こえるように声を出し、恭しく頭を下げてから退場していく。
エトリアは小さくため息をついてから自分で椅子を引きテーブルについた。
ヘレナたちはお茶を淹れ直し、四人で向き合うと目を合わせて苦笑いを溢した。
〰️ 〰️ 〰️
アロンドはその日にエトリアを学園に迎えに来ることは叶わなかった。五人の処分を決める会議から外れることが不可能だったからだ。
エトリアが夕食を終え部屋でお茶をしているとノックの音がした。メイドが扉に向かい相手を確認する。
「王女殿下。アロンド様でございますが、いかがいたしますか?」
「通してちょうだい。今日はとてもお世話になったの」
「かしこまりました」
メイドに促されて入室したアロンドはエトリアが座るソファの脇まで来ると恭しく頭を垂れる。
「王女殿下におかれましてはご機嫌麗しく」
「わざとらしい挨拶はいらないわ。座って」
アロンドが鬱陶しい前髪をかきあげると美しい黄緑色の瞳と整った顔立ちが現れる。
アロンドはしれっとエトリアの隣に座った。エトリアはペチンとアロンドの膝を叩く。
「あ・ち・ら」
「チェッ。頑張ったのだから今日ぐらいいいじゃないか」
アロンドは口を尖らせるがそれも美しい。アロンドの眉目秀麗さにエトリアは全く反応しない。
「なら、今日は許すけど、今日だけにするわね」
アロンドはバッと立ち上がり走るように向かいの席に座った。
「はいっ! これで今日限りっていうのはなしねっ!」
メイドは笑うのを堪えるようにしてアロンドにお茶を出した。
「会議の結果は?」
「まだ結論は出ていない。ご令嬢方のご両親がとてもお怒りでね。一度譲っているから二度目の裏切りは赦せないみたい」
「それはそうでしょうね」
二人は小さくため息をついてお茶を口にした。
そのタイミングでメイドが一歩近づき頭を下げる。
「殿下。茶菓子を切らしてしまいましたので、二十分ほど席を外します」
「……そう。いつもありがとう」
メイドはエトリアの視線が少しばかり恨めしそうに見えたが、笑顔で躱して部屋を出た。部屋の扉を開けたままにすることは忘れない。
アロンドはエトリアを熱く見つめた。
「君を迎えるチャンスが来たよ」
エトリアは呆れた顔を隠さない。
「貴方と婚約するかわからないじゃないの」
「絶対にするっ!」
エトリアは盛大にため息をついた。
「ねぇ? わたくしがセイバーナさんと婚姻していたらヨネタス公爵家に着いていくって本気だったの?」
「もちろんさっ! だからこうして執事兼秘書兼付き人の練習をしてきたんだろう」
「わたくしが他の男性とそうなることは平気なの?」
「…………それはわからない。確かに、その時になったら逃げ出すかもね。
でも、君を支えたい、君を守りたい、君のそばにいたいという今の気持ちは嘘じゃない」
「貴方が望めば何でも叶うでしょうに」
「僕は君を望んだんだ。これまでは叶わなかったじゃないか」
「王子のくせに変わった人ね」
「第五王子は権利は少ないけど義務も少ない。気楽なものなのさ」
アロンドは東側の隣国チェスタヤ王国の第五王子だ。
17
お気に入りに追加
313
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたおっとり令嬢は「実験成功」とほくそ笑む
柴野
恋愛
おっとりしている――つまり気の利かない頭の鈍い奴と有名な令嬢イダイア。
周囲からどれだけ罵られようとも笑顔でいる様を皆が怖がり、誰も寄り付かなくなっていたところ、彼女は婚約者であった王太子に「真実の愛を見つけたから気味の悪いお前のような女はもういらん!」と言われて婚約破棄されてしまう。
しかしそれを受けた彼女は悲しむでも困惑するでもなく、一人ほくそ笑んだ。
「実験成功、ですわねぇ」
イダイアは静かに呟き、そして哀れなる王太子に真実を教え始めるのだった。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
シナリオではヒロインと第一王子が引っ付くことになっているので、脇役の私はーー。
ちょこ
恋愛
婚約者はヒロインさんであるアリスを溺愛しているようです。
そもそもなぜゲームの悪役令嬢である私を婚約破棄したかというと、その原因はヒロインさんにあるようです。
詳しくは知りませんが、殿下たちの会話を盗み聞きした結果、そのように解釈できました。
では私がヒロインさんへ嫌がらせをしなければいいのではないでしょうか? ですが、彼女は事あるごとに私に噛みついてきています。
出会いがしらに「ちょっと顔がいいからって調子に乗るな」と怒鳴ったり、私への悪口を書いた紙をばら撒いていたりします。
当然ながらすべて回収、処分しております。
しかも彼女は自分が嫌がらせを受けていると吹聴して回っているようで、私への悪評はとどまるところを知りません。
まったく……困ったものですわ。
「アリス様っ」
私が登校していると、ヒロインさんが駆け寄ってきます。
「おはようございます」と私は挨拶をしましたが、彼女は私に恨みがましい視線を向けます。
「何の用ですか?」
「あんたって本当に性格悪いのね」
「意味が分かりませんわ」
何を根拠に私が性格が悪いと言っているのでしょうか。
「あんた、殿下たちに色目を使っているって本当なの?」
「色目も何も、私は王太子妃を目指しています。王太子殿下と親しくなるのは当然のことですわ」
「そんなものは愛じゃないわ! 男の愛っていうのはね、もっと情熱的なものなのよ!」
彼女の言葉に対して私は心の底から思います。
……何を言っているのでしょう?
「それはあなたの妄想でしょう?」
「違うわ! 本当はあんただって分かっているんでしょ!? 好きな人に振り向いて欲しくて意地悪をする。それが女の子なの! それを愛っていうのよ!」
「違いますわ」
「っ……!」
私は彼女を見つめます。
「あなたは人を愛するという言葉の意味をはき違えていますわ」
「……違うもん……あたしは間違ってないもん……」
ヒロインさんは涙を流し、走り去っていきました。
まったく……面倒な人だこと。
そんな面倒な人とは反対に、もう一人の攻略対象であるフレッド殿下は私にとても優しくしてくれます。
今日も学園への通学路を歩いていると、フレッド殿下が私を見つけて駆け寄ってきます。
「おはようアリス」
「おはようございます殿下」
フレッド殿下は私に手を伸ばします。
「学園までエスコートするよ」
「ありがとうございますわ」
私は彼の手を取り歩き出します。
こんな普通の女の子の日常を疑似体験できるなんて夢にも思いませんでしたわ。
このままずっと続けばいいのですが……どうやらそうはいかないみたいですわ。
私はある女子生徒を見ました。
彼女は私と目が合うと、逃げるように走り去ってしまいました。
婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない
nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?
屋敷のバルコニーから突き落とされて死んだはずの私、実は生きていました。犯人は伯爵。人生のドン底に突き落として社会的に抹殺します。
夜桜
恋愛
【正式タイトル】
屋敷のバルコニーから突き落とされて死んだはずの私、実は生きていました。犯人は伯爵。人生のドン底に突き落として社会的に抹殺します。
~婚約破棄ですか? 構いません!
田舎令嬢は後に憧れの公爵様に拾われ、幸せに生きるようです~
妹に人生を狂わされた代わりに、ハイスペックな夫が出来ました
コトミ
恋愛
子爵令嬢のソフィアは成人する直前に婚約者に浮気をされ婚約破棄を告げられた。そしてその婚約者を奪ったのはソフィアの妹であるミアだった。ミアや周りの人間に散々に罵倒され、元婚約者にビンタまでされ、何も考えられなくなったソフィアは屋敷から逃げ出した。すぐに追いつかれて屋敷に連れ戻されると覚悟していたソフィアは一人の青年に助けられ、屋敷で一晩を過ごす。その後にその青年と…
殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?
星ふくろう
恋愛
聖女認定の儀式をするから王宮に来いと招聘された、クルード女公爵ハーミア。
数人の聖女候補がいる中、次期皇帝のエミリオ皇太子と婚約している彼女。
周囲から最有力候補とみられていたらしい。
未亡人の自分でも役に立てるならば、とその命令を受けたのだった。
そして、聖女認定の日、登城した彼女を待っていたのは借金取りのザイール大公。
女癖の悪い、極悪なヤクザ貴族だ。
その一週間前、ポーカーで負けた殿下は婚約者を賭けの対象にしていて負けていた。
ハーミアは借金のカタにザイール大公に取り押さえられたのだ。
そして、放蕩息子のエミリオ皇太子はハーミアに宣言する。
「残念だよ、ハーミア。
そんな質草になった貴族令嬢なんて奴隷以下だ。
僕はこの可愛い女性、レベン公爵令嬢カーラと婚約するよ。
僕が選んだ女性だ、聖女になることは間違いないだろう。
君は‥‥‥お払い箱だ」
平然と婚約破棄をするエミリオ皇太子とその横でほくそ笑むカーラ。
聖女認定どころではなく、ハーミアは怒り大公とその場を後にする。
そして、聖女は選ばれなかった.
ハーミアはヤクザ大公から債権を回収し、魔王へとそれを売り飛ばす。
魔王とハーミアは共謀して帝国から債権回収をするのだった。
お姉様は嘘つきです! ~信じてくれない毒親に期待するのをやめて、私は新しい場所で生きていく! と思ったら、黒の王太子様がお呼びです?
朱音ゆうひ
恋愛
男爵家の令嬢アリシアは、姉ルーミアに「悪魔憑き」のレッテルをはられて家を追い出されようとしていた。
何を言っても信じてくれない毒親には、もう期待しない。私は家族のいない新しい場所で生きていく!
と思ったら、黒の王太子様からの招待状が届いたのだけど?
別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0606ip/)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる