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 ヘレナたちがうっとりとエトリアを見つめている中、エトリアは扇を顎に当てて首を傾げた。上質な演技で。

「つまり、『男爵家の令嬢が虚言を吐き、それを鵜呑みにした高位貴族令息たちが何の証拠集めも証人探しもせずに王族に罪があるように糾弾にいらした』ということかしら?」

「概ね、そのようでございます」

「これはどうなるの?」

「陛下にはこのような場合は速やかに王城に連行するよう言付かっております」

 五人は『陛下』まで絡んでいることに肩をビクつかせた。書類のサインを見た時点で関与を察してほしいものだ。

「そうなのね」

 エトリアは扇を広げて口元を隠す。

「連れていかれるのなら、少しくらいわたくしの自由にしてもいいわね」

 小さな声のエトリアはアロンドに極上の笑顔の目元を見せた。

「王女殿下のお心のままに」

『パチンっ!』

 エトリアが扇を閉じる。

「そこな者たちっ! 膝を付きなさい」

 エトリアがセイバーナたちを扇で指すとどこからか兵士が現れ、セイバーナたち五人の後ろ手をとり膝を付かせた。

 どこからか、と言ってもエトリアが通学しているため警備が強化されているのでどこからでも現れる。

「始めに言っておきますが、わたくしたちはそちらの女性のお名前を聞くこともお会いすることもこれが初めてです。
ですが、どうやらその方が貴方たちの不貞のお相手のようですわね。噂は聞いておりましたが、そのお相手を見つけ出し糾弾するほど貴方たちに魅力も感じておりませんし、婚約続行を望んでおりません」

 ヘレナたちが大きく首肯する。

「証拠固めをわたくしたち自身でするわけはございませんので、そちらの女性を存じ上げておりませんでしたのよ。周りの者たちもわたくしたちに気を使ってくださって、不貞のお相手のお名前などは口にしませんでしたし、わたくしたちからも聞いたりはいたしませんでした」

 浮気相手がリリアーヌ・テンソー男爵令嬢であるという情報は得ているが、目の前で醜態をさらしている少女がそれだと知っていたわけではない。という建前で動いている。
 情報は使い方次第なのだ。

 エトリアの建前を信じ切ったセイバーナは青い顔でリリアーヌを見た。リリアーヌと他の三人は俯いている。こちらも信じているので自分たちの進退危険度を察知しつつある。

「それから、貴方たちの状況は以前と比べ大きく変化しました」

 三人の男たちがバッと頭を上げて不穏な話を始めたエトリアを見た。

 グルっと彼らと目を合わせたエトリアはゴミを見ているかのようであった。

「ヘレナさんとホヤタル卿の婚約、メリアンナさんとオキソン卿の婚約は婚約解消ではなく、婚約破棄となりました。また、ケイトリアさんとツワトナ卿の婚約は本日の朝婚約破棄が承認されました。
わたくしとヨネタス卿の婚約も解消ではなく破棄です。
すべて貴方達の有責において、ね」

 ケイトリアが喜色めく。他の二組の婚約解消より随分と遅れていたので、少し不安に思っていたのだ。

「「「「なっ!!」」」」

 自分たちの婚約解消話が蒸し返され、悪い方向へ進んでしまったことなど予想していなかった三人は呆然とした。

 そんな三人をエトリアは呆れたと嘆息する。

「そもそも、貴方達の不貞による有責であることは周知の事実ではありませんか。婚約解消という形は令嬢たちの温情だったのですよ。
それなのに令嬢たちの嘘八百の悪評を広め、まるで自分たちの責任ではないように吹聴して周るなど貴族どころか、人間としてクズですわね」

 エトリアが目を細める。さらに後ろ手を掴んでいた騎士たちの力が強まる。正義感溢れる騎士たちにとって目の前の小悪党だ。彼らに憎悪と嫌悪を感じる。
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