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 国王陛下が息を一つ吐いた。

「全部冤罪だ」

「「「は?!」」」

「なぜワシが冤罪であることを知っておるのかは後ほど説明いたす。
とにかく、令嬢たちが何もしていないことはワシが保証する。それゆえ、男たちの責任だ」

「冤罪とは聞き捨てなりませんっ! どういうことでしょうか?」

 青くなっている夫妻とは別の夫妻四組が集団の中から前に出てきた。

「ロンゼ公爵。昨日、婚約破棄という話が出ても令嬢たちには責任はないと説明したであろう?」

 新たに前に出てきた四組の夫妻は、青年たちに婚約解消を言い渡されたご令嬢の両親である。青年たちと向き合っていた令嬢たちがそれぞれの両親の元へと合流した。

「確かに陛下からそう説明していただきました。しかしながら、昨日のお話では、冤罪までは説明されておりませんっ!」

「そうだな。昨日の時点ではあの者共が冤罪を発言するかどうかまでは定かでなかったから説明しなかったのだ」

「なるほど。あの時点で、まだしていないことにとやかく言うことは我々としましても本意ではありません」

 四組の夫妻は首肯した。国王陛下の言葉に首肯して納得したような顔をしていたご令嬢たちの両親であるが、何度か頷き前を向いて止まる。

「しかし、実際に冤罪をかけられた後では話は変わります。もし、陛下に冤罪だと宣言していただいていなかったら、我が家の恥。そして、娘の汚点となります。そのようなことは看過できません。
冤罪とはどういう意味でしょうか?」

 今度はそう口にしたロンゼ公爵に賛成して首肯する。

「そこな者共の自作自演だ」

 国王陛下は見たくもないとばかりに顔を青くして項垂れている騒ぎを起こした連中を顎で指した。

「「「自作自演!?」」」

 これには『そこな者共』の両親たちが飛び跳ねてビックリしていた。

 騒ぎを起こした青年たちはへたり込んだ。一人は頭を抱えて床に臥せった。一人は失神した。一人は失禁した。
 少女と青年一人は呆然と立ち尽くしている。逃げる素振りはない。いつの間にやら兵に囲まれているので逃げることは不可能だが。

 ご令嬢たちの両親たちは男たちとその家族を交互に睨みつける。

「もしやあの少女の……?」

 青年たちの親の代表メルド公爵が藁をも掴む思いで質問する。少女一人の演出だと思いたいのだ。

「そこの四人による自作自演だ。座り込んでいる三人とその小娘のな」

「なぜ!? なぜそのようなことを?」

 震えながらもメルド公爵は質問を続ける。どうにか解決の糸口を見つけたいのだ。

「そやつに同情されたいと小娘に頼まれたようだな」

 国王陛下は立ち尽くす青年を目を細めて睨み、『そやつ』が彼であることを表す。
 そやつと呼ばれた青年は自分が騙されていたことに愕然としていた。
 少女は青い顔をして自分自身を抱きしめている。

「そやつを籠絡することが目的だったようだ」

「第三王子殿下のことは我が娘には関係のないことっ! なにゆえに我が娘にまで冤罪を!?」

 ロンゼ公爵に同意していた三組が首を傾げる。

「ワシにも全く理解できん」

 それぞれが眉を寄せて青年たちを睨む。

「そやつが婚約解消宣言まですることを計算していたのかどうか……。それも不明だ。
まさか自分たちまで婚約解消宣言をするとは、なぁ」

「はぁ……??? 本当に何が目的で?」

 ロンゼ公爵も唸る。

「小娘の愛人にでもなるつもりであったのかのぉ? ワシもそこまでは預かり知らぬ。
後で本人にゆっくりと聞くといい。
ロンゼ公爵たちも今は気持ちを抑えてくれ。後程きっちりと時間をとるゆえ」

 青年たちの両親は呆然と自分たちの息子を見ている。青年たちはカタカタと震えて声も出さない。

「かしこまりました」

 ロンゼ公爵たちは唇を噛みながら承諾した。
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