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汗も拭わず走ってきた両陛下にシュケーナ公爵が挨拶の口上を述べる。
「ボンディッド王国国王陛下。並びに王妃陛下。ご機嫌大変に至極で誠に麗しく」
「麗しくないっ!」
「私はすでに公爵ではありませんことをご理解いただきたく」
シュケーナ公爵は国王陛下の言葉を無視して話を進める。あまりの衝撃的な発言で、許されていないのに皆が頭をあげていた。
まるで役者を見るようにシュケーナ公爵へ視線が集まっていた。
「娘とノイタール殿下が婚約するときにお約束しましたよね? 王子殿下の粗相で婚約破棄となった場合、我が領は独立します、と。
王子殿下はそれは見事に浮気をなさりそれは見事に婚約破棄を曰ってくださいましたよ。
その娘の自白で冤罪も判明しました。それを『マリリアンヌの悪行』とも曰っておりましたな。
これを粗相と言わずに何が粗相となるのですか? ワーハッハッハ!!!」
両陛下がギリギリと歯を食いしばっている姿も見られている。
シュケーナ公爵はすでにこの国の公爵ではない。なのでシュケーナ家当主としておく。
シュケーナ家当主は陛下の言葉を笑い飛ばしたが、笑い声ほど顔は笑っていない。美オヤジの乾き笑いは迫力満点である。
と、そこにまた一人転がり込んできた。王城文官の腕章をしている。
「たたたたたたいへんでしゅ!」
あまりの必死な状態に彼が噛んだことを誰も笑わない。
「何事だ!」
国王陛下の喝で気を引き締めた文官はシュケーナ家当主の顔を見て青くなった。
「シュケーナ公爵閣下……」
「いや、私はもうこの国の公爵ではない。気にせず進めたまえ」
「あれ? え? でも? あ?」
文官は右に左にと首を傾げる。
「よいから要件を言えっ!」
国王陛下が苛ただしげに怒鳴る。
「はい。その、今日付けでこの国の領地の四割ほどがシュケーナ公爵領となりました。東部地域のほとんどです」
「「「「「はぁ???」」」」」
国王陛下だけでなく、イエット公爵はじめ多くの面々がびっくり眼だ。
「何故ゆえにそのようなことになったのだ」
「わかりません。しかし、すでにきちんとした書面で契約が交わされており、落ち度は何もありませんので、了承せざるを得ませんでした」
「シュケーナ公爵! 買収したのかっ!」
「人聞きの悪い言い方をなさらないでいただきたい。各領地を統べる当主家の方々が借金返済の目処が立たないため買い取ってほしいと希望なされたため、このようなことになってしまっただけですよ」
「借金だと!? 領地を売らねばならぬほどの借金を多くの貴族がしていたというのかっ!」
「仕方がないではないですか? 東部は二年に渡る天災でかなりの被害となりました。領民を飢えさせないためには他領地や他国から食料を買わねばなりません。加えて、復興のため灌漑設備を整えたり、市場の治安を整えたりせねばなりません。金がものすごくかかるのです。
ですから、補助金を出すようにとお願いしたはずです」
「わかっておるっ! だからシュケーナ公爵に補助金の許可を出したではないかっ!」
シュケーナ家当主はボンディッド王国の宰相だったので、宰相としての助言だと判断し国王は許可を出している。
「ええ。許可はいただきました。ですが、すでに国庫は空でした」
「「「なんですとっ!?」」」
イエット公爵たちはさらに目を見開く。
「ボンディッド王国国王陛下。贅沢は止めてくださいとお願いしましたよね?
貴方方はこの半年どこにおられたのですか?」
「王家の南領の視察だっ!」
「馬車で一日で着くところを? 半年もかけて? メイドを三十人もつれて? 近衛兵を五十人もつれて?」
「ワシらが滞在するのだぞっ! そのくらいは必要だっ!」
「そんなわけないでしょう? ボンディッド王国は今のところそこまで危険ではありませんよ」
シュケーナ家当主は幼子に語りかけるように言った。
「ボンディッド王国国王陛下。並びに王妃陛下。ご機嫌大変に至極で誠に麗しく」
「麗しくないっ!」
「私はすでに公爵ではありませんことをご理解いただきたく」
シュケーナ公爵は国王陛下の言葉を無視して話を進める。あまりの衝撃的な発言で、許されていないのに皆が頭をあげていた。
まるで役者を見るようにシュケーナ公爵へ視線が集まっていた。
「娘とノイタール殿下が婚約するときにお約束しましたよね? 王子殿下の粗相で婚約破棄となった場合、我が領は独立します、と。
王子殿下はそれは見事に浮気をなさりそれは見事に婚約破棄を曰ってくださいましたよ。
その娘の自白で冤罪も判明しました。それを『マリリアンヌの悪行』とも曰っておりましたな。
これを粗相と言わずに何が粗相となるのですか? ワーハッハッハ!!!」
両陛下がギリギリと歯を食いしばっている姿も見られている。
シュケーナ公爵はすでにこの国の公爵ではない。なのでシュケーナ家当主としておく。
シュケーナ家当主は陛下の言葉を笑い飛ばしたが、笑い声ほど顔は笑っていない。美オヤジの乾き笑いは迫力満点である。
と、そこにまた一人転がり込んできた。王城文官の腕章をしている。
「たたたたたたいへんでしゅ!」
あまりの必死な状態に彼が噛んだことを誰も笑わない。
「何事だ!」
国王陛下の喝で気を引き締めた文官はシュケーナ家当主の顔を見て青くなった。
「シュケーナ公爵閣下……」
「いや、私はもうこの国の公爵ではない。気にせず進めたまえ」
「あれ? え? でも? あ?」
文官は右に左にと首を傾げる。
「よいから要件を言えっ!」
国王陛下が苛ただしげに怒鳴る。
「はい。その、今日付けでこの国の領地の四割ほどがシュケーナ公爵領となりました。東部地域のほとんどです」
「「「「「はぁ???」」」」」
国王陛下だけでなく、イエット公爵はじめ多くの面々がびっくり眼だ。
「何故ゆえにそのようなことになったのだ」
「わかりません。しかし、すでにきちんとした書面で契約が交わされており、落ち度は何もありませんので、了承せざるを得ませんでした」
「シュケーナ公爵! 買収したのかっ!」
「人聞きの悪い言い方をなさらないでいただきたい。各領地を統べる当主家の方々が借金返済の目処が立たないため買い取ってほしいと希望なされたため、このようなことになってしまっただけですよ」
「借金だと!? 領地を売らねばならぬほどの借金を多くの貴族がしていたというのかっ!」
「仕方がないではないですか? 東部は二年に渡る天災でかなりの被害となりました。領民を飢えさせないためには他領地や他国から食料を買わねばなりません。加えて、復興のため灌漑設備を整えたり、市場の治安を整えたりせねばなりません。金がものすごくかかるのです。
ですから、補助金を出すようにとお願いしたはずです」
「わかっておるっ! だからシュケーナ公爵に補助金の許可を出したではないかっ!」
シュケーナ家当主はボンディッド王国の宰相だったので、宰相としての助言だと判断し国王は許可を出している。
「ええ。許可はいただきました。ですが、すでに国庫は空でした」
「「「なんですとっ!?」」」
イエット公爵たちはさらに目を見開く。
「ボンディッド王国国王陛下。贅沢は止めてくださいとお願いしましたよね?
貴方方はこの半年どこにおられたのですか?」
「王家の南領の視察だっ!」
「馬車で一日で着くところを? 半年もかけて? メイドを三十人もつれて? 近衛兵を五十人もつれて?」
「ワシらが滞在するのだぞっ! そのくらいは必要だっ!」
「そんなわけないでしょう? ボンディッド王国は今のところそこまで危険ではありませんよ」
シュケーナ家当主は幼子に語りかけるように言った。
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