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「うちは! うちは何もないよなっ!?」
イエット公爵は公爵夫人の肩を揺らす。公爵夫人は目を合わそうともしない。
「我が娘が生意気だっただけですよ」
これまでの話の流れを読んだイエット公爵はその言葉を言葉通りには受け取らず顔を青くしてネヘイヤ家当主を見た。
「妻の実家は美術に詳しい家系でしてね」
「ああ。存じている」
「娘は勝手にそちらのお宅の美術品を鑑定してしまったようなのです」
ルワン家の令嬢が俯く。
「申し訳ございませんでした。気がついても指摘するべきではありませんでした……」
「何を指摘したのですか?」
イエット公爵は聞きたくはないが聞かなければいけないと覚悟する。
「何点かは模造品であると見受けられました」
「まったく。模造品とわかって飾られる方もいらっしゃるというのに、わざわざ指摘するなど。頬を張られても当然だ」
ネヘイヤ家当主は困り顔で娘を見る。
「は?」
イエット公爵とティスナーは目を見開き、公爵夫人は震えた。
「今何と?」
「ですから、模造品でも美しいものはあると」
「それではないっ! 頬を張られた……?」
「まあ、それは数回だけですよ。頬を赤くして帰って来たとメイドから報告がありまして、本人に確認したところ、模造品を指摘して以来マナーで叱られたとか褒め言葉が上手く出ず叱られたとか。
仕方がありませんよ。うちの娘が未熟で無知だからでしょう」
「ごめんなさい……」
ネヘイヤ家の令嬢は悲しげに俯く。
「そんなわけはないっ! 俺も何度かご令嬢にお会いしているが、幼いながらに立派だった」
「ですがっ! 公爵夫人になるのですからっ!」
イエット公爵夫人がつのる。
「ご令嬢はいくつだと思っておるのだっ! それならそれでネヘイヤ公爵家に家庭教師を打診すればいいだけだ。
それに彼女は公爵令嬢として評判も良かったではないかっ! ティスナーより余程公爵家の子女としての教養も矜持もお持ちではないかっ! 自分の息子を顧みてみろっ!」
イエット公爵は舞台の上の息子ティスナーを指さした。
「ですが……ですが……」
まだ言い訳を言おうとイエット公爵の袖を掴んでいた公爵夫人の手を払い、ネヘイヤ家の二人に向き合う。
「ネヘイヤ殿。お嬢さんがうちのようなところに嫁がなくて本当によかった。バカ息子とクソ嫁のことは任せてもらっていいだろうか?」
公爵閣下とは思えぬ発言だが、誰もが納得したため誰も動揺は見られない。本人たちはビクビクと震えた。
「我々は婚約も解消となりますし、ご家族の問題ですから」
「謝罪についてはまた日を改めて」
「…………。お気になさらず」
「いや……」
ネヘイヤ家当主はここで土下座するわけもいかないイエット公爵の立場を慮った。
「わかりました。改めて」
ネヘイヤ家当主が仕方なしと頷くとイエット公爵が首肯した。
「しかし、爵位を失うほどのことがあったのですか?」
キオタス侯爵夫人が心配そうに聞いた。
「まあ、国を出ると申しますか、変えると申しますか……」
領主たちは目を見開く。更に聞き募ろうという時に舞台の奥から声がした。
「国王陛下がお越しです!!」
学園長が転がり出てきた。一斉に最礼して迎える。一部を除いて。
イエット公爵はルワン家当主が最礼ではなく軽く頭を下げているだけなのを見てギョッとした。よく見れば、シュケーナ公爵も公爵令嬢も、ルワン家二人も、ネヘイヤ家二人も、ミュリム家二人も最礼ではない。
「シュケーナ公爵!!」
両陛下が学園長の後ろから声を張り上げながらやってきた。本人は走っているつもりかもしれないが、大きな体は動きが鈍い。
イエット公爵は公爵夫人の肩を揺らす。公爵夫人は目を合わそうともしない。
「我が娘が生意気だっただけですよ」
これまでの話の流れを読んだイエット公爵はその言葉を言葉通りには受け取らず顔を青くしてネヘイヤ家当主を見た。
「妻の実家は美術に詳しい家系でしてね」
「ああ。存じている」
「娘は勝手にそちらのお宅の美術品を鑑定してしまったようなのです」
ルワン家の令嬢が俯く。
「申し訳ございませんでした。気がついても指摘するべきではありませんでした……」
「何を指摘したのですか?」
イエット公爵は聞きたくはないが聞かなければいけないと覚悟する。
「何点かは模造品であると見受けられました」
「まったく。模造品とわかって飾られる方もいらっしゃるというのに、わざわざ指摘するなど。頬を張られても当然だ」
ネヘイヤ家当主は困り顔で娘を見る。
「は?」
イエット公爵とティスナーは目を見開き、公爵夫人は震えた。
「今何と?」
「ですから、模造品でも美しいものはあると」
「それではないっ! 頬を張られた……?」
「まあ、それは数回だけですよ。頬を赤くして帰って来たとメイドから報告がありまして、本人に確認したところ、模造品を指摘して以来マナーで叱られたとか褒め言葉が上手く出ず叱られたとか。
仕方がありませんよ。うちの娘が未熟で無知だからでしょう」
「ごめんなさい……」
ネヘイヤ家の令嬢は悲しげに俯く。
「そんなわけはないっ! 俺も何度かご令嬢にお会いしているが、幼いながらに立派だった」
「ですがっ! 公爵夫人になるのですからっ!」
イエット公爵夫人がつのる。
「ご令嬢はいくつだと思っておるのだっ! それならそれでネヘイヤ公爵家に家庭教師を打診すればいいだけだ。
それに彼女は公爵令嬢として評判も良かったではないかっ! ティスナーより余程公爵家の子女としての教養も矜持もお持ちではないかっ! 自分の息子を顧みてみろっ!」
イエット公爵は舞台の上の息子ティスナーを指さした。
「ですが……ですが……」
まだ言い訳を言おうとイエット公爵の袖を掴んでいた公爵夫人の手を払い、ネヘイヤ家の二人に向き合う。
「ネヘイヤ殿。お嬢さんがうちのようなところに嫁がなくて本当によかった。バカ息子とクソ嫁のことは任せてもらっていいだろうか?」
公爵閣下とは思えぬ発言だが、誰もが納得したため誰も動揺は見られない。本人たちはビクビクと震えた。
「我々は婚約も解消となりますし、ご家族の問題ですから」
「謝罪についてはまた日を改めて」
「…………。お気になさらず」
「いや……」
ネヘイヤ家当主はここで土下座するわけもいかないイエット公爵の立場を慮った。
「わかりました。改めて」
ネヘイヤ家当主が仕方なしと頷くとイエット公爵が首肯した。
「しかし、爵位を失うほどのことがあったのですか?」
キオタス侯爵夫人が心配そうに聞いた。
「まあ、国を出ると申しますか、変えると申しますか……」
領主たちは目を見開く。更に聞き募ろうという時に舞台の奥から声がした。
「国王陛下がお越しです!!」
学園長が転がり出てきた。一斉に最礼して迎える。一部を除いて。
イエット公爵はルワン家当主が最礼ではなく軽く頭を下げているだけなのを見てギョッとした。よく見れば、シュケーナ公爵も公爵令嬢も、ルワン家二人も、ネヘイヤ家二人も、ミュリム家二人も最礼ではない。
「シュケーナ公爵!!」
両陛下が学園長の後ろから声を張り上げながらやってきた。本人は走っているつもりかもしれないが、大きな体は動きが鈍い。
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