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ボイド公爵が手を一つ打った。
「そうだっ! 冤罪なのですからシュケーナ公爵家からロンダル男爵家へは謝罪金を支払う必要はないですよね?」
シュケーナ公爵当主への傷害賠償金より、娘マリリアンヌ嬢に冤罪をかけた謝罪金の方がずっと安いに決まっている。当主と娘の差は大きい。
「だぁれも、冤罪とは言っていませんよ」
シュケーナ公爵は飄々と答える。
「ロンダル男爵は昨日シュケーナ公爵家からの謝罪を受けると仰り、謝罪金を受け取り示談にする書類にサインをなさいました。
本日はその金額をご用意し持ってまいったまででございます」
キャビが恭しく詳しい状況を述べる。
「まさかっ! ロンダル男爵は証拠調べもせずに娘さんの言い分を真に受けたのですか?
お相手は公爵家なのに?」
キオタス侯爵夫人は驚きで手で口を抑える。
「そんなバカなっ! まかり間違って冤罪でなかったとしても、公爵令嬢であるマリリアンヌ嬢が男爵令嬢を咎めたからと言って何の問題になるのだっ!」
イエット公爵が興奮している。
「男爵夫妻が卒業パーティーにいるのはおかしいと思ったのだっ! ロンダル男爵よっ! とっとと顔を出せ!」
イエット公爵が叫ぶと私兵に押されるようにしてロンダル男爵が前に出された。
「ご苦労さん」
シュケーナ公爵の労いに頭を下げる私兵。シュケーナ公爵家の私兵で、ロンダル男爵夫妻が逃げないように騒ぎが始まってすぐに押えていた。
ロンダル男爵はシュケーナ公爵家から謝罪金をもらえることになったことで、ヒリナーシェが本当に王子妃になると思ったようだ。会場の警備員に『王子殿下の婚約者の親だから通せ』と曰った。寄付などしたことはないのだから本来通れるわけがないにも関わらず入ることができてしまったのは、シュケーナ公爵の差配で通されていたとはわかっていない。
シュケーナ公爵はその程度の無理は通せるほど寄付をしている。
「貴方たちの娘の狂言でこうなったのですよ。貴方方が受け取ろうとしていたお金は回収しますよ。それをシュケーナ公爵へお返しするのです」
ボイド公爵は静かに睨む。
「ヒリナーシェ。本当に狂言なのか?」
ヒリナーシェは両親から顔を背けた。
「ロイダル男爵。狂言であるかどうか以前なのです。爵位をお考えください。貴方方が受け取っていいお金ではありませんでしょう」
「で、ですが、もし、本当に娘が苦しんでいたのでしたら……」
「されてないわよっ!」
「「「「「えっ!!」」」」」
ロイダル男爵と舞台上の男子生徒四人が驚きの声をあげた。男子生徒四人はシュケーナ公爵の言うように『証拠はない』ということは認めたが、それでもマリリアンヌがヒリナーシェに何かをしたと信じていたのだ。
「だからっ! あの女は何もしてないっ! 婚約者を取られたっていうのに何もしてこないし、何も言ってこないのよっ!」
「はあ~~。冤罪って認めてしまいますかぁ」
シュケーナ公爵は本当に残念そうに肩を落とした。
「仕方ありませんね。私も君たちが私にしたことへの罪は冤罪であったと認めましょう」
キャビが男子生徒三人に渡した請求書を回収する。
壇下にいた執事二号が当主たちに新たな封書を渡す。
「娘への侮辱による慰謝料です」
シュケーナ公爵の説明で当主たちは封書を開く。三家はあからさまにホッとした。ロイダル男爵夫妻だけは顔を真っ青にする。公爵家侯爵家にとっては無理をすれば払える金額であっても男爵家には逆立ちしても払えない金額である。
「ヒリナーシェ嬢の婚約者殿が助けてくださいますよ」
シュケーナ公爵がニヤリと笑うとヒリナーシェがノイタールに問いただし、それをソワソワとしたロイダル男爵夫妻が見つめていた。
一応解決したとシュケーナ公爵とキャビは壇上から降りた。
「そろそろ我々もよろしいですかな?」
声を聞いて振り向けば、そこには壮年の紳士三人がそれぞれ少女と腕を組み立っていた。
「そうだっ! 冤罪なのですからシュケーナ公爵家からロンダル男爵家へは謝罪金を支払う必要はないですよね?」
シュケーナ公爵当主への傷害賠償金より、娘マリリアンヌ嬢に冤罪をかけた謝罪金の方がずっと安いに決まっている。当主と娘の差は大きい。
「だぁれも、冤罪とは言っていませんよ」
シュケーナ公爵は飄々と答える。
「ロンダル男爵は昨日シュケーナ公爵家からの謝罪を受けると仰り、謝罪金を受け取り示談にする書類にサインをなさいました。
本日はその金額をご用意し持ってまいったまででございます」
キャビが恭しく詳しい状況を述べる。
「まさかっ! ロンダル男爵は証拠調べもせずに娘さんの言い分を真に受けたのですか?
お相手は公爵家なのに?」
キオタス侯爵夫人は驚きで手で口を抑える。
「そんなバカなっ! まかり間違って冤罪でなかったとしても、公爵令嬢であるマリリアンヌ嬢が男爵令嬢を咎めたからと言って何の問題になるのだっ!」
イエット公爵が興奮している。
「男爵夫妻が卒業パーティーにいるのはおかしいと思ったのだっ! ロンダル男爵よっ! とっとと顔を出せ!」
イエット公爵が叫ぶと私兵に押されるようにしてロンダル男爵が前に出された。
「ご苦労さん」
シュケーナ公爵の労いに頭を下げる私兵。シュケーナ公爵家の私兵で、ロンダル男爵夫妻が逃げないように騒ぎが始まってすぐに押えていた。
ロンダル男爵はシュケーナ公爵家から謝罪金をもらえることになったことで、ヒリナーシェが本当に王子妃になると思ったようだ。会場の警備員に『王子殿下の婚約者の親だから通せ』と曰った。寄付などしたことはないのだから本来通れるわけがないにも関わらず入ることができてしまったのは、シュケーナ公爵の差配で通されていたとはわかっていない。
シュケーナ公爵はその程度の無理は通せるほど寄付をしている。
「貴方たちの娘の狂言でこうなったのですよ。貴方方が受け取ろうとしていたお金は回収しますよ。それをシュケーナ公爵へお返しするのです」
ボイド公爵は静かに睨む。
「ヒリナーシェ。本当に狂言なのか?」
ヒリナーシェは両親から顔を背けた。
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「されてないわよっ!」
「「「「「えっ!!」」」」」
ロイダル男爵と舞台上の男子生徒四人が驚きの声をあげた。男子生徒四人はシュケーナ公爵の言うように『証拠はない』ということは認めたが、それでもマリリアンヌがヒリナーシェに何かをしたと信じていたのだ。
「だからっ! あの女は何もしてないっ! 婚約者を取られたっていうのに何もしてこないし、何も言ってこないのよっ!」
「はあ~~。冤罪って認めてしまいますかぁ」
シュケーナ公爵は本当に残念そうに肩を落とした。
「仕方ありませんね。私も君たちが私にしたことへの罪は冤罪であったと認めましょう」
キャビが男子生徒三人に渡した請求書を回収する。
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「ヒリナーシェ嬢の婚約者殿が助けてくださいますよ」
シュケーナ公爵がニヤリと笑うとヒリナーシェがノイタールに問いただし、それをソワソワとしたロイダル男爵夫妻が見つめていた。
一応解決したとシュケーナ公爵とキャビは壇上から降りた。
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