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56 孫「おばあちゃまぁ」
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ラオルドとラフィネが屋敷へ入るとヴィエナが頭を垂れて迎える。
「王太后陛下におかれましては……」
「家族としてお世話になるのよ。それはいらないわ。母と呼んでちょうだいな」
痺れるほどの優しい口調にヴィエナは改めてへそに力を入れた。
「かしこまりました。お義母様」
頭を上げたヴィエナを見て王太后ラフィネは眉を二ミリほど動かした。元工作員のヴィエナだからわかったくらいの小さな小さな動き。だが、その動きでヴィエナにはわかってしまった。
『これはバレたわぁ………………』
だが、ヴィエナもここでそれを顔に出すわけにはいかないしそのくらいの訓練は受けている。動揺を隠して笑顔を貼り付けた。
「母上」
ラオルドがヴィエナの隣に立つ。
「この子がリベルト、そしてティモ。お休み中なのはタールだよ」
リベルトとティモはヴィエナのスカートを握りしめてラフィネの様子を伺っている。タールはメイドの腕の中でお昼寝中だ。
「リベルト。お祖母様にご挨拶よ」
ヴィエナに促されてリベルトは前に出た。
「リベルト。はじめまして。貴方のおばあちゃまよ。フィーネおばあちゃまって呼んでくれる?」
子供の目線に膝を落としたラフィネが優しさ溢れる笑顔で尋ねた。
リベルトはラオルドとヴィエナとラフィネとその後ろにいるムーガをぐるぐると見回す。
「僕のおばあちゃまなの?」
「そうよ。わたくしは貴方のお父様の母親なの」
「フィーネおばあちゃま。リベルトです。はじめまして。
あのぉ、僕、ぎゅ~していいですか?」
「まあ! ぎゅ~してくれるの?」
「はい!」
リベルトは五歩走りラフィネに抱きついた。
「僕のお友達は皆おばあちゃまに抱っこしてもらっているんだよ。だから僕、おばあちゃまに会いたかったの。僕のおうちにはお祖父様しかいないでしょう。ムーガお祖父様も大好きだけど、フィーネおばあちゃまは柔らかいね」
ここで言うリベルトのお友達とは領民のことだ。農民にせよ商人にせよ共働きは当然で、子供の世話は祖母が行うことが大半だ。まだ八歳のリベルトの友達が自分たちの祖母に甘えているのをリベルトは何度も見ていた。
「ティモもぉ!!」
ラフィネは左腕を広げてティモを受け入れた。
「おばあちゃまぁ」
ティモはリベルトに負けじとぎゅ~ぎゅ~する。ラフィネは笑いながら泣いていた。
そうしてしばらく初対面を堪能した。
「二人とも。今日はお祖母様は長旅でお疲れだ。お屋敷までお見送りしてあげておくれ。
母上。夕飯までおくつろぎください」
「わかったわ。そうさせてもらうわね。
ヴィエナさん。孫たちに会わせてくれてありがとう」
「とととととととんでもございません」
慌てて頭を下げるヴィエナにラフィネは笑った。
「うふふふ。いつか貴女の緊張も解いてね」
「はひぃ」
ラフィネはリベルトとティモと両手を繋ぎ、後ろにはムーガとメイドを連れて別館へ向かった。
本館の玄関がパタリと閉まる。
「なんとかなりそうだな」
ラオルドは肩の荷を降ろし、サロンへ向かおうと奥へ向いた。
ヴィエナは玄関を見つめたまま動かない。
「ん? どうした?」
ラオルドは心配気にヴィエナの顔を覗き込む。ヴィエナにとって夫の母親というより王太后であろうことはわかっているので気にしている。どちらにせよ緊張する間柄ではあろうが。
「気が付かれちゃった」
「何を?」
「私がピンクさんだってこと」
「ッッッ!!」
ヴィエナは鼻で息を吐くと踵を返してサロンへ向かった。我に返ったラオルドがそれを追った。
サロンにはワゴンに乗せてお茶が用意されていてヴィエナがそれを押してテーブルまで行き茶葉をポットに入れる。男爵家ではメイドも少ないので男爵夫人であろうとお茶を淹れることは当然である。
ラオルドは不安と心配と疑問とで複雑な顔でテーブルにつく。
ヴィエナがお茶を二人分置いてラオルドの向かい側に座った。
「おそらくだけどお義母様は私がウェルシェだってお気づきになったわ」
「本当かい? だってヴィーは一度しか母上に会っていないのだろう?」
「ええ。それも修道院へ出立前に遠目で一度だけよ。王妃陛下に接近する任務は受けたことないし」
「だよな。それで、なんで?」
ラオルドが前のめりに聞いた。
「王太后陛下におかれましては……」
「家族としてお世話になるのよ。それはいらないわ。母と呼んでちょうだいな」
痺れるほどの優しい口調にヴィエナは改めてへそに力を入れた。
「かしこまりました。お義母様」
頭を上げたヴィエナを見て王太后ラフィネは眉を二ミリほど動かした。元工作員のヴィエナだからわかったくらいの小さな小さな動き。だが、その動きでヴィエナにはわかってしまった。
『これはバレたわぁ………………』
だが、ヴィエナもここでそれを顔に出すわけにはいかないしそのくらいの訓練は受けている。動揺を隠して笑顔を貼り付けた。
「母上」
ラオルドがヴィエナの隣に立つ。
「この子がリベルト、そしてティモ。お休み中なのはタールだよ」
リベルトとティモはヴィエナのスカートを握りしめてラフィネの様子を伺っている。タールはメイドの腕の中でお昼寝中だ。
「リベルト。お祖母様にご挨拶よ」
ヴィエナに促されてリベルトは前に出た。
「リベルト。はじめまして。貴方のおばあちゃまよ。フィーネおばあちゃまって呼んでくれる?」
子供の目線に膝を落としたラフィネが優しさ溢れる笑顔で尋ねた。
リベルトはラオルドとヴィエナとラフィネとその後ろにいるムーガをぐるぐると見回す。
「僕のおばあちゃまなの?」
「そうよ。わたくしは貴方のお父様の母親なの」
「フィーネおばあちゃま。リベルトです。はじめまして。
あのぉ、僕、ぎゅ~していいですか?」
「まあ! ぎゅ~してくれるの?」
「はい!」
リベルトは五歩走りラフィネに抱きついた。
「僕のお友達は皆おばあちゃまに抱っこしてもらっているんだよ。だから僕、おばあちゃまに会いたかったの。僕のおうちにはお祖父様しかいないでしょう。ムーガお祖父様も大好きだけど、フィーネおばあちゃまは柔らかいね」
ここで言うリベルトのお友達とは領民のことだ。農民にせよ商人にせよ共働きは当然で、子供の世話は祖母が行うことが大半だ。まだ八歳のリベルトの友達が自分たちの祖母に甘えているのをリベルトは何度も見ていた。
「ティモもぉ!!」
ラフィネは左腕を広げてティモを受け入れた。
「おばあちゃまぁ」
ティモはリベルトに負けじとぎゅ~ぎゅ~する。ラフィネは笑いながら泣いていた。
そうしてしばらく初対面を堪能した。
「二人とも。今日はお祖母様は長旅でお疲れだ。お屋敷までお見送りしてあげておくれ。
母上。夕飯までおくつろぎください」
「わかったわ。そうさせてもらうわね。
ヴィエナさん。孫たちに会わせてくれてありがとう」
「とととととととんでもございません」
慌てて頭を下げるヴィエナにラフィネは笑った。
「うふふふ。いつか貴女の緊張も解いてね」
「はひぃ」
ラフィネはリベルトとティモと両手を繋ぎ、後ろにはムーガとメイドを連れて別館へ向かった。
本館の玄関がパタリと閉まる。
「なんとかなりそうだな」
ラオルドは肩の荷を降ろし、サロンへ向かおうと奥へ向いた。
ヴィエナは玄関を見つめたまま動かない。
「ん? どうした?」
ラオルドは心配気にヴィエナの顔を覗き込む。ヴィエナにとって夫の母親というより王太后であろうことはわかっているので気にしている。どちらにせよ緊張する間柄ではあろうが。
「気が付かれちゃった」
「何を?」
「私がピンクさんだってこと」
「ッッッ!!」
ヴィエナは鼻で息を吐くと踵を返してサロンへ向かった。我に返ったラオルドがそれを追った。
サロンにはワゴンに乗せてお茶が用意されていてヴィエナがそれを押してテーブルまで行き茶葉をポットに入れる。男爵家ではメイドも少ないので男爵夫人であろうとお茶を淹れることは当然である。
ラオルドは不安と心配と疑問とで複雑な顔でテーブルにつく。
ヴィエナがお茶を二人分置いてラオルドの向かい側に座った。
「おそらくだけどお義母様は私がウェルシェだってお気づきになったわ」
「本当かい? だってヴィーは一度しか母上に会っていないのだろう?」
「ええ。それも修道院へ出立前に遠目で一度だけよ。王妃陛下に接近する任務は受けたことないし」
「だよな。それで、なんで?」
ラオルドが前のめりに聞いた。
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