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災難7 水風呂
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アーニャは肩を揺らしてクスクスと笑いながら説明する。
「私は、ギバルタがこちらから帰ると鍛錬場に籠もり人形に八つ当たりしてから水風呂に飛び込んでいるのを知っておりましたよ。ユリティナ嬢への恋慕とウデルタへの嫉妬を抑えていたのでしょう」
「人形?」
「剣の打ち込み練習用のカカシです。それに甲冑を着せているのです」
ソチアンダ侯爵の疑問にアーニャが答える。
「そうですか。水風呂ですか」
ソチアンダ侯爵はカラカラと笑った。
「そんなに熱くなるほどユリティナのことを想ってくださるのなんて嬉しいわね」
ソチアンダ侯爵夫人もニコニコだ。
「とはいえ、そちら様―メヘンレンド侯爵家―にも、婿入り話を三男のウデルタ殿にする理由がお有りだったのでしょうから、婚約者交代のお話をするべきかどうか悩んでおったのです」
ソチアンダ侯爵は微苦笑いだ。
「逢瀬の突然キャンセルが数度あった時点でお怒りいただいてもよかったのですよ」
メヘンレンド侯爵夫人も困り笑顔だ。
「最初は訝しみました。しかし、アーニャ殿とユリティナはすぐに仲良くなりましたし、未来のメヘンレンド侯爵夫人が直々に謝罪と交流にいらっしゃってくださるのですから、メヘンレンド侯爵家に疎まれていないことはすぐにわかりました」
アーニャが満面の笑みになる。
「うちの嫁は私よりそういう機微に富んでいるので助かっております」
メヘンレンド侯爵夫人の忌憚のない褒め言葉にアーニャが赤くなる。
「まあ! 素敵な嫁姑関係ですわね」
「私もギバルタ殿とそうなりたいものだ」
「私たちは女性騎士団として、家族の中でも二人でいることが多いですから」
「なるほど。私もギバルタ殿との時間を持つようにしよう」
「もう! 貴方ったら。新婚一年間は我慢した方がよろしいわよ。ギバルタ殿に好かれる前にユリティナに嫌われますわ」
「なんだとっ! それは困るっ!」
ソチアンダ侯爵の慌てぶりに三人の淑女は笑った。そこにメイドが入ってきて、四人に四阿での様子を報告してきた。
「そうか。では二人をこちらに呼んでくれ」
「かしこまりました」
メイドが頭を下げて退室していった。また取り留めもない話をしていると、ノックがされギバルタとユリティナが入室してきた。
二人はパーティーのエスコートでもないのに腕を組んでいるのは初めてだ。
「メヘンレンド侯爵夫人様。おいでいただきありがとうございます。
アーニャお義姉様。またお会いできて嬉しいですわ」
「アーニャ! もう義姉と呼ばれているのかっ?」
「羨ましいですか? お義母様。 うふふ」
「ユリティナ嬢。私のこともお義母様と呼んでいいのだよ」
「母上!」
ユリティナがギバルタの腕を抑えてギバルタの瞳を見つめ首を左右に振る。
「お義母様。嬉しいです。わたくしのこともユリティナとお呼びください」
ユリティナの笑顔に場が和む。
二人はそれぞれの家族と並んで座った。
『パッシーン!』
『ガコン!』
メヘンレンド侯爵夫人がギバルタの後頭部を叩き、ギバルタの額がテーブルにぶち当たった。
「きゃあ! ギバルタ様! 大丈夫ですか?!」
ユリティナが目をパチパチさせてテーブルの反対側から手を差し伸べようとしたが、笑顔のメヘンレンド侯爵夫人が手で制した。
「この程度は我が家では普通だから」
アーニャが説明を加える。ギバルタは何もなかったようにムクリと起き上がった。
「母上! いきなりなんですかっ!?」
「ロマンチックの欠片もないような独白を大声でしたそうじゃないかっ! お前たちにとって最初で最後のプロポーズなのだぞ! ユリティナの思い出になるようなことはできなかったのかっ!」
まさか自分の失態を報告されているとは思っていなかったギバルタは真っ赤になった顔を手で覆う。
「お義母様!」
メヘンレンド侯爵夫人の言葉を切ったのはユリティナだった。
「わたくしは、ギバルタ様の飾らないお言葉を聞くことができて嬉しかったですわ。とても情熱的な心に残るプロポーズでしたもの」
ユリティナが可愛らしく頬を染める。指の間からその様子を見たギバルタはデレっとした。
「はぁ……。かわいい……」
ため息をついたのはアーニャだ。もちろん目線はユリティナに向いている。まさかギバルタのことは可愛らしいとは思っていない。
「アーニャ殿も、お二人目を頑張って女の子を授かってはいかがかな? おっほっほ」
「貴方っ! 下世話すぎですっ!」
ソチアンダ侯爵夫人はソチアンダ侯爵の膝を『パチン』と叩く。
「でもね、アーニャさん。二人目を考えるならお若いうちがよろしいわよ。わたくしはユリティナに愛情を注ぎたくて、ユリティナが十歳になったら二人目をと考えていたの。でも、なかなか授かることができなくて、授かる前に体を壊してしまったのよ」
「そうでしたか。主人にも私にも兄弟はいますので、息子にも兄弟を持たせてやりたいとは思っております。今夜にでも、主人を襲ってみます」
みんなは大笑いしたが、ユリティナだけは恥ずかしがっていた。ギバルタはそのユリティナの可愛らしさに悶たくなったが、それを見越したメヘンレンド侯爵夫人に足を思いっきり踏まれて冷静になった。
「私は、ギバルタがこちらから帰ると鍛錬場に籠もり人形に八つ当たりしてから水風呂に飛び込んでいるのを知っておりましたよ。ユリティナ嬢への恋慕とウデルタへの嫉妬を抑えていたのでしょう」
「人形?」
「剣の打ち込み練習用のカカシです。それに甲冑を着せているのです」
ソチアンダ侯爵の疑問にアーニャが答える。
「そうですか。水風呂ですか」
ソチアンダ侯爵はカラカラと笑った。
「そんなに熱くなるほどユリティナのことを想ってくださるのなんて嬉しいわね」
ソチアンダ侯爵夫人もニコニコだ。
「とはいえ、そちら様―メヘンレンド侯爵家―にも、婿入り話を三男のウデルタ殿にする理由がお有りだったのでしょうから、婚約者交代のお話をするべきかどうか悩んでおったのです」
ソチアンダ侯爵は微苦笑いだ。
「逢瀬の突然キャンセルが数度あった時点でお怒りいただいてもよかったのですよ」
メヘンレンド侯爵夫人も困り笑顔だ。
「最初は訝しみました。しかし、アーニャ殿とユリティナはすぐに仲良くなりましたし、未来のメヘンレンド侯爵夫人が直々に謝罪と交流にいらっしゃってくださるのですから、メヘンレンド侯爵家に疎まれていないことはすぐにわかりました」
アーニャが満面の笑みになる。
「うちの嫁は私よりそういう機微に富んでいるので助かっております」
メヘンレンド侯爵夫人の忌憚のない褒め言葉にアーニャが赤くなる。
「まあ! 素敵な嫁姑関係ですわね」
「私もギバルタ殿とそうなりたいものだ」
「私たちは女性騎士団として、家族の中でも二人でいることが多いですから」
「なるほど。私もギバルタ殿との時間を持つようにしよう」
「もう! 貴方ったら。新婚一年間は我慢した方がよろしいわよ。ギバルタ殿に好かれる前にユリティナに嫌われますわ」
「なんだとっ! それは困るっ!」
ソチアンダ侯爵の慌てぶりに三人の淑女は笑った。そこにメイドが入ってきて、四人に四阿での様子を報告してきた。
「そうか。では二人をこちらに呼んでくれ」
「かしこまりました」
メイドが頭を下げて退室していった。また取り留めもない話をしていると、ノックがされギバルタとユリティナが入室してきた。
二人はパーティーのエスコートでもないのに腕を組んでいるのは初めてだ。
「メヘンレンド侯爵夫人様。おいでいただきありがとうございます。
アーニャお義姉様。またお会いできて嬉しいですわ」
「アーニャ! もう義姉と呼ばれているのかっ?」
「羨ましいですか? お義母様。 うふふ」
「ユリティナ嬢。私のこともお義母様と呼んでいいのだよ」
「母上!」
ユリティナがギバルタの腕を抑えてギバルタの瞳を見つめ首を左右に振る。
「お義母様。嬉しいです。わたくしのこともユリティナとお呼びください」
ユリティナの笑顔に場が和む。
二人はそれぞれの家族と並んで座った。
『パッシーン!』
『ガコン!』
メヘンレンド侯爵夫人がギバルタの後頭部を叩き、ギバルタの額がテーブルにぶち当たった。
「きゃあ! ギバルタ様! 大丈夫ですか?!」
ユリティナが目をパチパチさせてテーブルの反対側から手を差し伸べようとしたが、笑顔のメヘンレンド侯爵夫人が手で制した。
「この程度は我が家では普通だから」
アーニャが説明を加える。ギバルタは何もなかったようにムクリと起き上がった。
「母上! いきなりなんですかっ!?」
「ロマンチックの欠片もないような独白を大声でしたそうじゃないかっ! お前たちにとって最初で最後のプロポーズなのだぞ! ユリティナの思い出になるようなことはできなかったのかっ!」
まさか自分の失態を報告されているとは思っていなかったギバルタは真っ赤になった顔を手で覆う。
「お義母様!」
メヘンレンド侯爵夫人の言葉を切ったのはユリティナだった。
「わたくしは、ギバルタ様の飾らないお言葉を聞くことができて嬉しかったですわ。とても情熱的な心に残るプロポーズでしたもの」
ユリティナが可愛らしく頬を染める。指の間からその様子を見たギバルタはデレっとした。
「はぁ……。かわいい……」
ため息をついたのはアーニャだ。もちろん目線はユリティナに向いている。まさかギバルタのことは可愛らしいとは思っていない。
「アーニャ殿も、お二人目を頑張って女の子を授かってはいかがかな? おっほっほ」
「貴方っ! 下世話すぎですっ!」
ソチアンダ侯爵夫人はソチアンダ侯爵の膝を『パチン』と叩く。
「でもね、アーニャさん。二人目を考えるならお若いうちがよろしいわよ。わたくしはユリティナに愛情を注ぎたくて、ユリティナが十歳になったら二人目をと考えていたの。でも、なかなか授かることができなくて、授かる前に体を壊してしまったのよ」
「そうでしたか。主人にも私にも兄弟はいますので、息子にも兄弟を持たせてやりたいとは思っております。今夜にでも、主人を襲ってみます」
みんなは大笑いしたが、ユリティナだけは恥ずかしがっていた。ギバルタはそのユリティナの可愛らしさに悶たくなったが、それを見越したメヘンレンド侯爵夫人に足を思いっきり踏まれて冷静になった。
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