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27 ゾフキロの計画

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 ゾフキロは何も答えずレンエールをジッと見た。レンエールはゾフキロを安心させようと笑顔を見せるが、ゾフキロの警戒は解かせなかった。
 レンエールはそれを諦め、事務的に話を進めることにした。

「ゾフキロ。なぜあのようなところにいたのだ?」

 ゾフキロは愛称を呼ばれなかったことでレンエールの意図に気が付き、姿勢を正した。

「サビマナ嬢を探しておりました。私はこの二ヶ月学園を休み、サビマナ嬢の行方を探していたのです。殿下も時を同じくして学園にいらっしゃらなくなったので、ご一緒かもしれぬと思いました。
ですので、西方の王家離宮へ赴く途中でした」

「ゾフィ……」

 サビマナが目を潤ませてゾフキロの手を握った。探してくれていたことが嬉しいということだろう。だが、婚約者であり王子であるレンエールの目の前でしていいことではない。
 サビマナはわかっていない。しかし、ゾフキロは婚約者であることは知らなくとも、王族の前での所作は心得ている。サビマナに軽く頭を下げながらサビマナの手を押して自分の手から離させた。サビマナは目尻を悲しそうに下げる。サビマナの想い人は誰なのだと聞きたくなる行動だが、レンエールは学園内でのサビマナを見慣れているので思うところはない。

「なるほどな。では、サビマナたちを見かけたのは偶然か」

 サビマナの様子を気にすることなくゾフキロへの質問は続く。

「はい。ですから、神のお導きと思っております」

「だが、なぜ攫おうとした?」

「レンっ! それは違うっ! 私が連れてってって言ったのよ」

 サビマナはレンエールに顔を向けて頭をぶんぶんと横に振り、再びゾフキロの手を握りしめる。ゾフキロも再び手を解く。

 レンエールは随伴していたメイドからその旨は聞いていたので驚きはしなかった。声を荒げることなくサビマナと向かい合う。

「サビマナ。君は自分の立場をわかっているのか?」

 ゾフキロは『サビィ』と呼ばなくなっているレンエールに心の中で驚いた。
 サビマナはそんなことには気が付かないようだ。

「レンっ! 私にお勉強は無理よ。あのお勉強がなくっちゃいけないなら、レンと結婚は無理っ!」

 レンエールとサビマナが結婚という話になっていたことにゾフキロは流石に顔を作ることは叶わず、驚愕して目を見開いた。

「サビマナ。陛下との約定を忘れたのか? それ以上は言ってはならない」

 レンエールの冷たい態度にサビマナとゾフキロは狼狽えた。学園で長い時間を共に過ごしたが、このような態度のレンエールは見たことがなかった。
 二人が黙ったことを受けてレンエールが続ける。

「ゾフキロ。計画的ではないのだな?」

 ゾフキロは首を縦に強く振って肯定する。

 実際は西方の離宮への道の途中にある町で王家の馬車を見かけたゾフキロが、レンエールとサビマナかもしれないと思い、馬を降りてその馬車に近づいた。
 その時タイミング良く休憩場所にしていた食堂から出てきたサビマナがゾフキロに気がつく。そして、サビマナからゾフキロへ駆け寄り『私を連れて逃げて』と言った。驚愕して動けなくなっていたゾフキロは、簡単に護衛に捕縛されたのだ。

 それからいくつか確認の質問をするとレンエールは二人を下がらせた。
 サビマナはゾフキロの背に触れながら扉へと向かう。それを離れさせようとしたゾフキロは少し振り向いてレンエールを見た。レンエールは小さく首肯する。レンエールの諦めを感じたゾフキロは軽く会釈してサビマナに触れられながら出ていった。

 二人が廊下へ出ていくと、隣室に続く扉が開きネイベット侯爵が入室してきた。

「殿下。どうなさるおつもりですか?」

「父上に相談せねばならないな。俺の処分も含めて……」

 覚悟を決めたレンエールの顔はいつにも増して凛々しかった。ネイベット侯爵はその横顔を見てにっこりと笑う。

『コンコンコンコンコン』

 レンエールが冷めたお茶を持ち上げたタイミングで激しくノックの音がした。
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