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学園二年生編

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 僕たち四人は生徒会室のソファーに座っている。

「バージル、君が僕たちに何も話さず僕たちを守ろうとしてくれていたことは、わかっているんだ。でも、そろそろ話をしてほしい」

 落ち着いた声のコンラッドが僕に命令ではなく、お願いをしてきた。

「そうだぞ、俺だって、自分が情けないよ。バージルを助けたいんだ」 

 セオドアが眉根を寄せて、僕ではなく自分に対して不満があるように肩を落としてそう言った。

「シンシア嬢に関することなんですよね?私は、バージルのお陰でティナを手放さずに済んだ。感謝しているよ」

 ウォルは、僕に頭を下げた。
 心配をかけているのは僕なのに、みんな、そんな僕に不満をぶつけることはしない。

「うん。だけど、僕にも説明がつかないことが多いんだ。それでも聞いてほしい。お願いします」

 僕は3人に頭を下げた。隣に座るコンラッドが、僕の肩に手を優しく置いた。


〰️ 

 僕は、クララの時の話から、シンシア嬢との昨夜の夢までの話をした。

「本当に不思議な夢だな。でも、シンシア嬢については、彼女が学園に戻って来なければ続きはなさそうだな。まさかあんなことまで口にして、無罪放免はありえないだろう」

 ウォルは、冷静に分析する。確かにブランドン第一王子に死んでいてほしかったような口ぶりだった。

「それにしても、僕は冤罪でマーシャを国外追放か……。酷い采配にもほどがあるだろう?たかだか学園内のイジメくらいで。それも冤罪の」

 コンラッドは、『もしもの話』に肩を落としていた。

「それは、私たちも同じですよ。公爵令嬢や伯爵令嬢を僕たちの権限で市井落ちなどありえないだろう?」

 ウォルが怒り口調でそう言った。

「俺なんて、マーシャやクララやティナを床に抑えつける役って、バカすぎないか?騎士として、抵抗する気のない淑女に手を出すとか、ありえないから。さっきだって、咄嗟だったけど、やっぱり嫌な気分が残るよ」

 セオドアは自分の手を見つめていた。シンシア嬢を投げたことを少し気にしているのだろう。だが、生徒会室の床はフカフカだし、シンシア嬢は見た目は怪我はしていなそうだったし、最善の対処だったと思う。セオドアの騎士精神にとって、1番大切なものは、コンラッドを守ることなのだから。

「とにかく、誰もシンシア嬢と恋に落ちなくてよかったな!」

 コンラッドが笑顔でまとめた。

「そのダリアナって子はどうなったんだ?」

 セオドアが自分の手を気にしながら聞いてきた。

「国王陛下の判断で国外追放になった。でも、クララには、隣国留学だと伝えてある」

「クララは優しいから気にしそうだもんな」

 クララの様子を想像したセオドアが眉尻を下げて困ったような顔をする。

「国家転覆罪だ。国外追放は当然だな」

 ウォルは当然だと頷いて、話を続けた。

「バージルの話を聞くと、『ダリアナが主人公の本』と『シンシアが主人公の本』というような気がするな。もし、そうなら、もしかしたら、これから『別の主人公の本』も現れるかもしれない。その時には、協力し合おう」

 僕はまだ続くかもしれないというウォルの予想に、肩が震えた。

「そうだぞ、バージル。一人で考えるなよ」

 コンラッドは、僕が震えたことをわかったのか、僕の肩を『ガシッ』と掴んでそう言った。

 コンラッドはあまり質問してこなかった。ダリアナ嬢のことは、少しは王城で噂になっていたのかもしれない。

 僕の目から思わず涙がこぼれた。隠すように俯く。みんなが僕の周りに集まり、からかうように僕を叩くから、結局笑ってしまった。

〰️ 〰️ 〰️


 帰りは、約束通り、クララの伯爵邸へ寄った。王城に騒動の連絡があったようで、伯爵様も帰ってきていた。
 応接室のソファー。僕は二人に僕の夢の話をする。

「そうか、それでエイダとダリアナからクララを助けてくれたのか。今まで一人で大変だったな」

 伯爵様は優しく労いの言葉をかけてくれた。

「そのシンシア嬢のことも、君が抵抗しなかったら、クララたちは冤罪で罰を受けることになったのだろう?怖い話だな。クララを守ってくれてありがとう、バージル」

 伯爵様は僕に頭を下げる。僕は、急いで伯爵様に頭をあげてもらった。

 僕は、伯爵様の隣に座るクララを見た。クララは、僕と目が合うと、僕の隣にきて、伯爵様がいるにも関わらず、僕を抱きしめた。

「一人で闘わせてごめんなさいね。これからはわたくしもお手伝いするわ。ジル、ずっと一緒よ」

 優しく温かな言葉が、僕の心の深くまで染みていく。僕の目から、止めどなく涙が溢れた。

「うん。うん」

 僕は涙が止まらないまま、僕はまるで子供のように頷き、クララを抱きしめ返した。


 それでも、クララには、ダリアナ嬢の処分だけは内緒にした。王城に仕える伯爵様がそれを知らないわけはないが、『ダリアナ嬢の留学』を否定しなかったので、伯爵様もクララに真実を言うつもりはないのだろう。

 クララには、シンシア嬢の話だけを簡単にマーシャにしてもらうことにした。

〰️ 〰️ 〰️

 家へ戻ると、すでに父上が母上とティナに説明してくれていたようで、馬車寄せに降り立ったところで、母上に抱きしめられた。僕より背が低くなった母上は、背伸びをして僕の首に腕をまわした。

「一人で悩むなんて、バカね。なんのための親だと思っているかしら?」

 耳元で母上の優しい声が、くすぐったい。
 母上に背を押されて邸内に入ると、ティナが泣き顔で膨れていた。

「ウォルにも関係していたことなんですわよね。わたくしにも協力させてくれればよかったではありませんかっ」

「協力してくれたじゃないか。あの日の昼休みに」

 僕は苦笑いで答えた。

「知っていたら、ウォルにもっと意地悪をできましたわっ!」

 プイッと横を向いた頬には、涙の跡があった。

「ハハハ、ウォルはすごく反省しているさ。許してやってよ」

 僕はこちらに向き直ったティナにウィンクをして、お願いした。

「さあ、もう、食事にしよう。バージル、着替えておいで」

 父上に促されて部屋へと向かう。

「はいっ」

 歩きだすと、兄上が近くにきて、僕の頭をクシャクシャにしていった。手付きは優しかった。


〰️ 〰️ 〰️

 夕食の後に、改めて、簡単に今までの話をした。父上も兄上もシンシア嬢のことは、今日王城でコンラッドから簡単に聞いただけなので、シンシア嬢の話は詳しく聞きたがった。

「ウォルは、『ダリアナが主人公の本』と『シンシアが主人公の本』という捉え方をしていました。もし、そうなら、もしかしたら、これから『別の主人公の本』があるのではないかと」

 僕は先程の話し合いの内容を話した。

「なるほどな。その時には、家族で協力していこう。バージルの夢が、学園を出てからも続いた場合、社交界を巻き込むことになる」

 父上がウォルの意見に同意したようで、家族での協力を示唆した。

「そうですね。そうなると、母上やティナの協力は不可欠だな。女性にしかわからない世界はあるからね。僕が結婚したら、キャサリンにも話すことにしよう」

 兄上も父上と同じ考えのようである。兄上は、僕が話していたときから、ずっとメモをとっていて、さらに、書きつづた。
 キャサリンさんは、兄上の婚約者で、来月の6月に結婚することになっている。

「そうね。キャサリンちゃんも家族だわ。
バージル、隠さずに相談するんですよ」

 母上は、ちょっと拗ねた顔を僕にむけた。僕は少し吹き出した。

「バージル兄様、わたくしを仲間外れにしたら、許しませんわよ」

 ティナは本当にむくれた顔をしていた。僕は耐えきれずに笑ってしまった。

「ハハ、ティナ、わかったよ。
早速で悪いんだけど、ベラにシンシア嬢の話を簡単にしておいてほしいんだ。何かあればセオドアも協力すると言ってくれているからね。全部を信じてもらう必要はないよ。信じられるわけないし」

「わかりましたわ」 

「ティナ、バージルは明日、私とアレクとともに登城することになっている。ウォルにも、それを伝えて、心配するなと言っておいてくれ。クラリッサ嬢にもな」

 父上がティナを見る目はいつも優しい。

「はい。お父様」

「バージル、どちらにせよ、相談が遅かったことは、家族としては寂しいぞ」 

 父上は、少しだけ厳しい顔をした。

「そうだぞ。まだ、今朝にはお前から話す気持ちがあったって知っているから、こんなもんだけど。もし、あれがなかったら、私も父上も、自分の頼りなさに泣くところだったんだぞ!」

 兄上の恨みのような目つきに、僕はびっくりした。お二人が泣くなんて信じられない。

「すみません。学園のことだけだと思っていたんだ」

 僕は項垂れた。母上が、僕の頭を幼い子供にするように、ヨシヨシと撫でる。

「バージル、まずは相談することだ。そして、一人でやってみるとお前が決めたら、我々はお前ができるところまでは見守る。いいな」

「はい」

「アレク、ティナ、お前たちもだぞ」

「「はい、父上(お父様)」」

 この後、夜遅くまで、どんな夢がどんな結果になったとか、男子生徒たちの浮かれ方がダメだとか、笑い話になっていった。

〰️ 〰️ 〰️

 その夜、僕は考えてみたのだけど、コンラッドの『シンシア嬢との記憶がなくなる』のは、ブランドン第一王子が生きていることに関連するのかもしれない。シンシア嬢にとって、コンラッドは落としても意味のない人物になったのではないだろうか?
 そう考えると、本命はウォルバックだったのかもしれない。

 まあ、どちらも推測の域を出ないし、本当のことを知りたいわけでもないが。
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