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第19話

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キィール達が広間へとたどり着くと床に何人かの騎士達が倒れている。

その顔は苦悶に歪み目を血走らせてカッと見開いたままだった。
脈を確かめるまでもなく絶命していることは誰の目にも明らかだった。

「……くっっ!!もうこれだけ被害が出ておるとは……。」

立ち尽くしたキィール達の後ろからシンと数名の騎士が慌ててやってくる。

「……これは酷い……。」

シンもキィールの隣に並び、声を漏らした。

場が沈黙に包まれる。

少しして一人の騎士が報告にやって来た。

「報告いたします!どうやら奴は外へ出て魔術研究所の方へ向かった、とのことです!」

「なんじゃと?……もしや魔導騎士団とやりあう際有利に闘いを進めようと何か探るつもりか……。しかしあそこは我々も手出しが出来んからな……。……今回はここまでじゃな。どうせ魔術研究所には腕の立つ護衛共もおることじゃろうしな……。」

キィールは悔しそうにそう言った。

    ◆  ◆  ◆  ◆

「……ここは?」

「おお!マリス目を覚ましたか!!お主のお陰で助かったぞ!」

「……ああそうか。……私は空間転移した後気を失って……。」

頭を押さえつつふらつきながらマリスが立ち上がる。

「お前まだふらついてるじゃねぇか!!大丈夫かよ?」

「……まだどこか悪いのか?」

ウェンディとリルが心配げに言うと

「……いいえ。この位なら大丈夫です……。」

そう答えるがその顔は気のせいか少し青ざめている。

やはりこれだけの人数を一気に転移させたからなのだろうか。

「まあ、何はともあれ良かったですな!」

ミルドもほうっ、と安心したように一息つく。

「助かったぜ、マリスサンキューな!」

俺が言うと

「……フン……!……パチもんが……。」

と相変わらず勇者に対する敬意は無いようだがそれだけ口が聞けるならもう大丈夫だろう。

「はいはい。俺はどうせパチもんですよ。」

「……えっ?カイトさんはパチもんの勇者なんですか?」

とリーンが驚いて言うので俺はこう返す。

「……いやいや。その話は長くなるからまた後でね。……さてっとそれじゃあ再び橋を渡ってクリガを目指すとしますか!」

「……本当に大丈夫なんじゃな?」

まだ心配そうなリルの言葉にマリスは

「……はい……!」

と少しだけ微笑んで言った。



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