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第10話

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川を渡ってから歩くこと数時間。
俺達は周囲を5m程の高い壁に囲まれた、漁港都市トーリスへと辿り着いた。

「安いよ、安いよ!さあ、買った!買った!!」

通りは活気に満ちており、道行く人々に声をかける商人達の声が響いている。軽く、潮の香りが漂ってくる。

俺達はぞろぞろと連れ立ってメインストリートを歩いてゆく。

「……なあ、確かここから北上してまた橋を渡るって言ってたよな?ここから船に乗ってその聖剣があるっていう、バヌーだっけか?まで行けないの?」

と、リルに尋ねると、リルは渋い顔をして、

「うーむ。それがじゃのう……。ここから北の海に行くと魔王軍四天王が一匹、鋼鉄のドルーグ率いる水生のモンスター共が幅を利かせておるのじゃよ。」と答える。

鋼鉄のドルーグ。魔王軍四天王の内の一匹で、水生モンスター達のボスであり、その硬い鱗(うろこ)は魔法も鋼鉄の剣も通さない。最近では海や川に近い大きな街を襲ったりしているらしい。

「……あーっ……。そういうことか……。」

「我ら魔導騎士団も何度か討伐隊を派遣しておるのじゃが、何しろ魔法も剣技も歯が立たぬ。いずれはなんとかできる方策が立つ、とは思うが……。
……今の所は正直お手上げじゃ……。」

心の底から悔しそうにリルが続ける。

「……まあ、いずれは魔術研究所の連中が何かしら対策を考え出すことでしょう。」

苦々しい顔でシンも横から口を挟む。

魔導騎士団ようする魔術研究所。
聖都ラングーンの魔導騎士団の本拠地とは別の場所にそれは存在している。

魔王軍のモンスター達に有効な魔法や魔法剣を日々研究しているらしいが、その実態は今一つ解りづらい。

その命令系統は魔導騎士団にありながら、魔導騎士団ではなく、ラングーンの王族・貴族達が握っており、魔導騎士団の中でも特に秘密主義で通っている。

それ故、魔導騎士団本隊とはあまり仲が良くないようだ。

「……さてと、ここから北上してクリガ、ヘネン、ヘルズ山脈、そしてバヌーへと向かうわけじゃが、クリガへと渡る橋の前には最近、何かと物騒なベネディの森がある。そこで、ここトーリスでしっかりと準備をして行くぞ!!良いな!!」

沈んだ空気を振り払うように元気良くリルが言った。

それから俺達は破損した甲冑を新しく取り替えたり(俺だけ)、
リルとマリスは何やら魔法を使う際に使ったりするマジックアイテム(何かの鉱石やら植物の葉やら)とか、保存食(おそらく魚の薫製やらドライフルーツやら)とかを買い込んではマックスに持たせたり(マックスは体の何倍もあるバカデカいリュックを担がされていた。可哀想な奴。)、

ウェンディとラウは果物を使ったお菓子を一目散に買いに行ったり(トーリスまでの道中すっかり仲良くなったらしい)、シンはマイペースに剣を研ぎに出しに行ったり、何だかんだですっかり日が暮れてしまったので、取り敢えずその日の宿を求めて市場から市街地へと俺達は移動した。




「ふぃーーっ!!すっかり遅くなってしもうたのう!」

ご満悦なリルの後ろで巨大なリュックを背負わされたマックスがグッタリしたまま続く。

「よし!今日はここに泊まるとするかのう!」

勢い良く、リルが傍らの宿の扉を開けた。

………ごっち~~~ん!!

宿から出てきた人影とリルとが激しく頭をぶつける。

「「……あいたたた~~~~!!」」

リルと頭をぶつけた人物と、リルとが全く同じ台詞を言ってうずくまった。

「……大丈夫ですか?リル様……。」
後ろにいたマリスが慌てて駆け寄ってくる。

「……あいたた。ま、まぁこの程度問題ないわい!!」

いつものように場面にそぐわないドヤ顔で立ち上がるリル。

一方、リルとぶつかった人物は未だにうずくまっている。

「……お、おい!お前、大丈夫かよ!?」

ラウを肩に乗せて俺の隣にいたウェンディが心配そうに声をかける。

「………だ、大丈夫です……。ちょっと私貧血気味でして。」

そう言って立ち上がったのはスラリとした長身の美人だった。黄色の縁取りがある白い軽甲冑を着込み、その腰にはサーベルが差さっている。

「……すまんかったのう。」
と、リルが少しバツが悪そうに謝る。

「いいえ、お互い様ですから。それでは。」
そう言って長身の騎士は立ち去っていった。

「全くお前もうちょっと気を付けろよな!」
ウェンディがプリプリとリルを叱る。

「しょうがないじゃろうが!あっちもお互い様だと言っておったろう?」
リルも同じくプリプリとしながら言い返す。

「……ふーっ。やれやれ。」
その後ろでマックスが余計な一言を漏らしている。

「こらーーっ!!マックス!何か言うたかっ!!」

「ひぃーっ!ご勘弁を~~~!!」

……案の定、リルに叱られるマックス。

「ふぅーーっ……。」俺の横でシンが首を振った。


    ◆  ◆  ◆  ◆


………翌日。

「それではベネディの森へと向かうとしよう。」

リルの言葉に俺達はトーリスからベネディの森へと出発した。

ベネディの森。鬱蒼とした原生林が何十kmとなく続き、最近では野盗やモンスターが出没して旅人達を襲っているらしい。

「…リル様。申し訳ありませんが、わしはこの辺りではぐれた、という形で姿を消します……。」

俺の前でシンが小声でリルに耳打ちしている。

「……わかった。」
リルの顔が瞬間固くなる。

「………………?」
どういう事だろう。シンはずっと同行してくれるんじゃないのか?

そう訝りながらも、俺達は原生林の中へと足を踏み入れた。

…………ピィーピィーピィー……。一面の緑に鳥の鳴き声が木霊する。

「………はあ、はあ、はあ……。」

森とは言ってもちょっとした丘を登り下りするような高低差のある道なき道である。

息を切らす俺に、

「なんじゃ。だらしないのう。」
と、前を行くリルが振り返って自分は息が切れていないことを胸を張ってドヤる。

………ウゼェェーーーッ!!
こいつ、いちいちドヤ顔すんの、まじウゼェェーーーッ!!

と、俺が心の中で悪態をついていると、いつの間にか横を歩いていたシンの姿がない。

「……あれ?シンは?」
俺がリルに尋ねると、

「……おや?本当じゃのう。まあ、シンは誰かさんと違って強いからのう。金槌でもないし。」

「お、お前っ!!言っていいことと悪いことがあるだろっっ!!」

「オーーホッホッホッホッ!!まあ、あやつの事じゃ。その内に追い付いてくるじゃろうて。金槌でもないしな?」

………ウゼェェーーーッ!!マジウゼェェーーーッ!!

と、再び俺が悪態を心の中でついていると、
ガサガサカサッッ!!と少し離れた茂みから音がした。

「……むっ!!さては野盗か、モンスターか。姿を見せいっっ!!」

リルが茂みに向かって勢い良く怒鳴った。

すると、「………げっ!!お前らは………。」

茂みから姿を現したのは、テヘで頭目がウェンディに吹っ飛ばされた灰色のバンダナの一団だった。

「な、何でお前らがここにいるんだよっっ!!」


あからさまに動揺する、リーダー格の小男。

「………ほーうっ。またわしらにのされに現れたか。い~~い度胸じゃ。かかってくるが良い!!」

威勢良くリルが啖呵を切る。

「……くっそっ!!者共やっちまえーー!!」

リーダー格の小男の号令に周りにいた30人程の灰色のバンダナ、黒ズボン姿の男達がナイフ片手に一斉に襲いかかってきた。





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