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第38話
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11月14日
「……ええ。はい。はい。……そうなんですか。わざわざ連絡ありがとうございました。失礼します」
そう言って荒垣が電話を切ると、デスクに座っている仮戸川が、
「……ひょっとして、須藤さんたちの失踪になにか進展でもあったんですか?」
と、そわそわした顔で尋ねてきた。
「あ?ああ……。どうやら、宇都宮さんの話では、2人がデートに向かった三岳山の山道に、須藤の乗っていた車のものと思われる、ブレーキ痕が残っていたらしい。ただ、2人の乗っていた車はまだ見つかっていないそうだ」
そう言うと荒垣は憂鬱そうな顔で窓の外に目をやった。外では、しとしとと小雨が降っている。
「……そうなんですね。……まあ、何も見つからないよりかはまだマシってことですかね……」
頬を掻きつつ気まずそうに仮戸川が呟く。
「……どうか、無事でいてくれ……」
荒垣の呟きが2人きりのガランとした室内に虚しく響いた。
◆ ◆ ◆ ◆
11月13日午前1時
マキは、なんとか追っ手の追跡をかわしつつ、少しずつ麓に向かって険しい山道を下っていた。
「…………………………………………っっ!!」
ズキズキと痛みを訴える右足首を手で押さえながら、その場に思わずうずくまる。
捻った箇所を見てみると、先程よりも腫れが酷くなっているようだ。当初考えていたよりも怪我の具合は良くなかった。
「……ハア、ハア、ハア………………」
それでも、気力を振り絞って立ち上がると、マキは麓に続く山道を睨み付けた。
……どうやら、この山はそれなりに標高が高いようで、怪我などしていなくても、麓までには相当歩かなければいけないようだった。
「……クソッッ!!……なんで、私が、こんな目に遭うのよ………………ハア……ハア……ハア…………」
……こんなことなら、低めとはいえ、ヒールなんかデートに履いてくるんじゃなかった。
ジッ、と履いているハイヒールをしばらくの間見つめていたマキは、やがてどこか決心したような顔になって、靴を脱ぐと山道にポーンと放り出した。
「……これで、少しは歩きやすくなったでしょ……」
そう呟くと、また少し痛みだした右足を庇いながらマキはヒョコヒョコと歩き出した。
◆ ◆ ◆ ◆
「…………クソッタレッッ!!」
あれから引き返して、車を降りたーーは、茂みをわけいり、逃げた女の足跡でもどこかについてはいないか、と注意深く地面を観察しながら、道なき道を一人で捜索していた。グッタリとして動こうとしないサトミはそのまま車に置いてきていた。
しかし、探せども探せども、女の足跡は全く見つかることなく、既に一時間近くが経過していた。
不吉な予感にーーの背筋が冷たくなる。
……まさか、あの女、もう麓まで辿り着いてヒッチハイクでもして、警察に駆け込んだりしてないだろうな?
気持ちばかりが焦ってしまって取り戻したはずの冷静さが失われていく。
「…………フーーッ!……クソッ!…………ん?あれは…………」
慣れない山道に辟易として一息入れた瞬間、手に持ったライトに照らされた地面に、何者かの足跡が見えた気がした。
近づいてよく確認すると、それはハイヒールによる足跡だった。そんなものを履いてこの山を移動するような人間は一人しかいない。
……あの女に間違いない。それも、足跡を見る限りでは、ついさっきまでこの辺りをうろうろしていたようだ。
……ここに、足跡があるということは、あの女はわざわざ険しい山道を下っているということだ。
おそらく、こちらが追いかけてきているのに気づいて、慌てて山道に入り込んだのだろうが、そうであれば、まだ麓までは辿り着いていないだろう。思わずニヤリと笑みが浮かぶ。
「…………よっしゃあ!!やっぱり、俺の読みは正しかったようだな」
そう言うと、不気味な笑い顔を張りつけたまま、ーーは、地面に点々とついているマキの足跡を辿り始めた。
「……ええ。はい。はい。……そうなんですか。わざわざ連絡ありがとうございました。失礼します」
そう言って荒垣が電話を切ると、デスクに座っている仮戸川が、
「……ひょっとして、須藤さんたちの失踪になにか進展でもあったんですか?」
と、そわそわした顔で尋ねてきた。
「あ?ああ……。どうやら、宇都宮さんの話では、2人がデートに向かった三岳山の山道に、須藤の乗っていた車のものと思われる、ブレーキ痕が残っていたらしい。ただ、2人の乗っていた車はまだ見つかっていないそうだ」
そう言うと荒垣は憂鬱そうな顔で窓の外に目をやった。外では、しとしとと小雨が降っている。
「……そうなんですね。……まあ、何も見つからないよりかはまだマシってことですかね……」
頬を掻きつつ気まずそうに仮戸川が呟く。
「……どうか、無事でいてくれ……」
荒垣の呟きが2人きりのガランとした室内に虚しく響いた。
◆ ◆ ◆ ◆
11月13日午前1時
マキは、なんとか追っ手の追跡をかわしつつ、少しずつ麓に向かって険しい山道を下っていた。
「…………………………………………っっ!!」
ズキズキと痛みを訴える右足首を手で押さえながら、その場に思わずうずくまる。
捻った箇所を見てみると、先程よりも腫れが酷くなっているようだ。当初考えていたよりも怪我の具合は良くなかった。
「……ハア、ハア、ハア………………」
それでも、気力を振り絞って立ち上がると、マキは麓に続く山道を睨み付けた。
……どうやら、この山はそれなりに標高が高いようで、怪我などしていなくても、麓までには相当歩かなければいけないようだった。
「……クソッッ!!……なんで、私が、こんな目に遭うのよ………………ハア……ハア……ハア…………」
……こんなことなら、低めとはいえ、ヒールなんかデートに履いてくるんじゃなかった。
ジッ、と履いているハイヒールをしばらくの間見つめていたマキは、やがてどこか決心したような顔になって、靴を脱ぐと山道にポーンと放り出した。
「……これで、少しは歩きやすくなったでしょ……」
そう呟くと、また少し痛みだした右足を庇いながらマキはヒョコヒョコと歩き出した。
◆ ◆ ◆ ◆
「…………クソッタレッッ!!」
あれから引き返して、車を降りたーーは、茂みをわけいり、逃げた女の足跡でもどこかについてはいないか、と注意深く地面を観察しながら、道なき道を一人で捜索していた。グッタリとして動こうとしないサトミはそのまま車に置いてきていた。
しかし、探せども探せども、女の足跡は全く見つかることなく、既に一時間近くが経過していた。
不吉な予感にーーの背筋が冷たくなる。
……まさか、あの女、もう麓まで辿り着いてヒッチハイクでもして、警察に駆け込んだりしてないだろうな?
気持ちばかりが焦ってしまって取り戻したはずの冷静さが失われていく。
「…………フーーッ!……クソッ!…………ん?あれは…………」
慣れない山道に辟易として一息入れた瞬間、手に持ったライトに照らされた地面に、何者かの足跡が見えた気がした。
近づいてよく確認すると、それはハイヒールによる足跡だった。そんなものを履いてこの山を移動するような人間は一人しかいない。
……あの女に間違いない。それも、足跡を見る限りでは、ついさっきまでこの辺りをうろうろしていたようだ。
……ここに、足跡があるということは、あの女はわざわざ険しい山道を下っているということだ。
おそらく、こちらが追いかけてきているのに気づいて、慌てて山道に入り込んだのだろうが、そうであれば、まだ麓までは辿り着いていないだろう。思わずニヤリと笑みが浮かぶ。
「…………よっしゃあ!!やっぱり、俺の読みは正しかったようだな」
そう言うと、不気味な笑い顔を張りつけたまま、ーーは、地面に点々とついているマキの足跡を辿り始めた。
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