暴虐の果て

第28話

11月8日

荒垣探偵事務所所員の三宅マキは、頬に感じる冷たさに目を覚ました。

「…………あれ？ここは……どこ？須藤さん？シンジ！！どこっ！？」

確かさっきまで私は、同じ荒垣探偵事務所所員で恋人の須藤シンジと車で山中をドライブしていたはずだった。

なのに、なぜこんな無機質なコンクリートが剥き出しの小部屋にいるのか。

「……いった～～い！！アイタタタ…………」

妙に頭がずきずきと痛む。

…………そういえば、彼がお婆さんをはねて、それから……？

そこからの記憶が全くない。
もしかして、私達誰かに拉致されちゃったの！？

マキは、こめかみを右手で押さえながらヨロヨロと立ち上がった。

部屋の中には、一組のデスクセット。
どういうわけか、この部屋には扉らしきものはどこにも見当たらない。

そして、机の端にはB5程の大きさの白い紙が二つ折りにして置いてあった。

マキは、そろそろと机に近づいてその紙を取り上げ開いてみた。

そこには、マジックの汚い殴り書きで、"ようこそ！ゆっくりしてってね。僕の気が変わるまで。"、とある。

「…………なんなのよ。これ……」

マキは、薄気味悪そうにブルッと肩を震わせた。

…………それにしても、私達を拉致した犯人は、一体どうやってこの部屋に私を入れたって言うのよ。どこにも、出入り口なんてないじゃない！

そうイラつきながら、マキが目を落としていた紙から顔をあげると、机に一台のノートパソコンが置いてあるのに今更ながら気づいた。

…………やっぱり、頭が痛いからかしら。私なんかボーッとしてる。

閉じて置かれていたノートパソコンを開くと、その画面には、

"あなたの存在意義を教えて下さい。"

と、黒い背景に白抜きで一文があり、その下には解答欄らしきものが表示されている。

「ハァ！？なんなのよ、これは！私達を拉致した犯人は、おふざけが好きって訳！？」

頭が痛いからだろうか。さっきから妙にイラついていた。

いつもは、そんなことないのにな。

そう思っていたマキの耳に物悲しいピアノの旋律が聞こえてくる。

「……どこから聞こえてるのかしら？」

辺りを見回すものの、どうにも、ピアノがどこから聞こえているのかハッキリしない。

すると、目の前に白いノイズのようなものが走ってマキは気を失ってしまった。