暴虐の果て

たじ

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第13話

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2月12日

「はあ~~~~い!!それでわ~~、今から理科の実験をおこないま~~~す!!
いやあ、ピチピチのカエルちゃんですよぉ~~~!麻酔はしてないけどぉ~~……まあ、いっか!」

とある動画投稿サイト。
数えきれない程膨大な動画の中にそれはあった。

まるで本当に人を殺しているようにしか見えない、グロテスク極まりない動画。
最初こそフェイク物と考える者も存在したが、
今は本物と考える人間が圧倒的大多数だ。

……なにせ、その投稿された動画に出ているのと同じ、激しく損壊された死体が最近になって実際に発見されたからだ。

「……ッッ!!………~~ッッ!!!~~ッッ!!」

先程から画面では頭から黒い、両目の所だけに穴のある三角形の袋を被った、上半身は裸で下はジーンズ姿の男が、目の前の手術台のようなベッドに両手両足を革のバンドで拘束された若い女性の腹を、右手にもったメスのような刃物でジワリ、ジワリと苦痛を与えるようにゆっくりゆっくりと切り裂いている。

……女性は舌でも切り取られているのか、声にならない呻きを漏らすだけだ。

やがて、覆面の男は女性の腹部を肺の辺りからへその下まで縦に切り裂くと、ニヤリと目だけで笑って、おもむろにその両手を腹の中へと突っ込んだ。

「……ッッーー!!…ッッッ!!…~~~ッッ!!!…………………………………。」

……それまては何とか意識を保っていた女性も一度大きく痙攣した後、ピクリとも動かなくなった。

「はあ~~~い!!これが肝臓で~~す!!」

男はテラテラと光る内蔵を女性の腹部から取り出して、どこか誇らしげに両手に持ち、その場で唯一の光源である、頭上の裸電球に向かって恭しく掲げてみせる。

……目だけしか見えていないとはいえ、男が嬉々として残虐な行為を行っているのは誰の目にも明らかだった。

「じゃあ、つぎは~~~………そうだな~~
腎臓いっきま~~~す!!」

……そして、哀れな被害者の体から全ての臓器を抜き取るまで映像は続いていった。


2月12日午後7時

K県S警察署、捜査一課主任・宇都宮圭吾は主任デスクでタバコを吹かしながら苦々しい表情でパソコン画面に映っている映像を眺めていた。

……さっきからもう10回は同じ映像を見続けている。

最近になって海外の某動画投稿サイトに、いくつものサーバを経由して足跡を辿られないようにして、何者かがスナッフフィルムのような映像を繰り返し投稿していた。

彼が最前から繰り返し見ているのはその動画の一つで、始めはよく造られたスナッフムービーだなと思われていたものの、一週間前その投稿された映像のものと酷似した女性のバラバラ死体がS市の某公園内から散歩中の男性によって発見された。

それにより、急遽S警察署内で捜査本部が立ち上げられ、その捜査を宇都宮率いる捜査一課の面々が担当することとなった。

「……とんでもない事件が起こったもんだぜ……。」 

誰にともなく呟くと、宇都宮はまた始めからその映像を見始めた。


    ◆  ◆  ◆  ◆


2月19日

男が一人暗い部屋の中、椅子に座って目の前のパソコンモニターを見つめている。

「……グフフフフ……。ぼくちんの傑作みんな一杯見てくれてるお……。」

そう呟く男の口からはだらしなく涎が一筋垂れている。
そしてその瞳の焦点はどこかピントがずれていた。

「……さあて、お次の獲物は、っと!」

パソコンの脇に置かれたファイルを取り上げた男は嫌な笑みを浮かべながらパラパラとそのページを捲ってゆく。

ファイルには何人かの住所、名前、職業などの個人情報が詳細に記されていた。

「ド~~~~ン!!次のターゲットは君だッッ~~~~!!」

そのうちの一人の顔写真を指差して男は言った。

そこには"佐伯信治(22)、住所・S県S市××××町××ー××ー××、職業・現在就活中の大学3年生、備考・通称ミンチ事件唯一の生き残り"と書かれている。

「……やっぱり先輩がやり残したことはこの僕ちんがやらないとね~~~!!
……おおっと、そろそろお薬の時間だな~~!
お薬、お薬っと……。」

男は椅子から立ち上がると傍らの棚にズラッと並んだ薬品瓶の一つへその手を伸ばした。







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