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第8話
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11月11日午後2時過ぎ
昨日誰かが絶命した時のものであろう断末魔を聞いて気を失ってから今日の朝までひたすら生々しい悪夢の世界の中で私はもがき苦しんでいた。
恋人のマキと二人でどこかの街の大広間にあるギロチン台の前に座らされ、脇に立っている頭から黒い袋を被り上半身だけ筋骨隆々の裸身を晒した番人から、
「お前たち二人の内どちらかは生かしてやろう。さぁ、どちらが報いを受けるのか?」と尋ねられ、
私は、自分が犠牲になると答えようとするのだけど、何故か声が出せない。
どうにか声を出そうともがいている内に隣にいるマキの目が吊り上がりまるで般若のような顔に変貌する。
しかし、私の声帯はどう頑張ろうとも音を発せず、痺れを切らした番人が、
「えぇい、もう二人とも処刑してくれるわ!!!」と叫んで私たち二人をギロチン台にセットし今まさに首と胴が離れる、といった所で大量の汗を流しながら私は目を覚ました。
悪夢の余りの生々しさにしばし茫然と壁を見つめ続け、ようやく自分が監禁されているという事実を思い出した。
…それから例によりテーブルの上にいつの間にか置いてある食パンと水だけのさもしい食事を平らげ、数時間経ってから昨日隣室に私と同じく捕らえられている男と約束した交信の時間が迫っていることに気がついた。
……そろそろ時間だ。試しに右隣の壁をコツコツと叩いてみる。コツコツと返答があった。しかし、その後錯乱しているのか、良くわからないメッセージがモールス信号でこちらに届いた。
「お前も俺を殺したいんだろう?」だの、「俺もお前と殺し合いたいよ!!もう、おさえられねぇ!!」だの昨日とは打って変わって物騒な隣室の男の様子に思わず壁から体を離し壁をじっと見つめる。
……ひょっとしたら拘禁症状でも出て一時的に錯乱しているのかもしれない。そう考えてその後も隣からのモールス信号は続いたものの、私はすべて無視するようにした。
……私も監禁が長く続けばああなってしまうんだろうか。やるせない思いが込み上げる。
……そういえば拉致されてきた当初は思い当たらなかったけれどひょっとすると私が今まで受けてきた依頼の中で誰かの恨みでも買ってしまっていたのかもしれない。
そういう逆恨みから私達二人いや、隣の男を会わせると三人か。…三人は拉致監禁されてしまっているのかもしれない。
…ただ仮にそうだとしても現状ではスマホも電波が届かずに事務所のスタッフや所長に連絡を取る術はない。
……どうにかできないものか。私はテーブルの上のパソコン画面を睨みながら考える。
4月12日
…………………。………………。
…………うっ!!後頭部がズキズキと痛む。
…………ここはどこなんだ?
確か俺は……そうだ!!就活の為に上京してホテルに一泊した後、面接に行って………。
………そして……、……どうしたんだったっけ?
思い出そうとしたけれど、頭が痛くて集中できない。
……どうやらリクルートスーツのまま、という事は面接の帰りに何かあった?
俺が目覚めた場所は6畳程の小部屋でドアの類いはなく、部屋には粗末な木製の机と椅子。
机の上にはノートパソコンが置かれており、その画面には黒の背景に白い文字で「あなたの存在意義を教えてください。」とだけ表示されている。
そしてパソコンの横には、皿に乗った一切れの食パンとコップに入った水が置かれている。
………ゴォォォォォッッッッ。何処からか風の吹くような音が聞こえる。何となく天井を見ると、鉄の格子がはまっていて、そのずっと上から音が響いてきているようだ。
頭痛を堪えながらスーツのポケットを探る。
……!!どうやら携帯は取られていないみたいだ。電源ボタンを押して起動させる。…………!?
電波が全く入らない。部屋の隅から隅まで移動してみたけれどダメだった。
……もしかしなくても俺、拉致られた?
……誰が?……なんで?
…特に拉致監禁されるほどの恨みを買うようなことには思い当たらない。
刹那、目の前が真っ白になる。
ーー目の前には、白い装束の若い女の人がいて切羽詰まった様子で、「早く逃げるの!何も考えてはダメ!解った?ーー君!」「早く、早く!ここから外へ逃げるの!こっち!こっちよ!!ーー君!」と俺を急かす。
ーーーと。俺の目の前から女性が消えて、また元の小部屋が目の前に広がっている。
………一体今の映像は何だろう?あんな事あったっけ?……駄目だ。頭の痛みがぶり返してきた。考えが纏まらない。
「……ーー君!」不意に上の換気口から誰かの声が聞こえた気がした。
「………ん?」鉄格子の端じっこにノートの切れ端のような物が挟まっているのが見えた。
机の上に乗って破けないよう注意しながらそーっと紙を引き抜く。
「………なんじゃこりゃ??」
どうやらB5位の紙を半分くらいに引き裂いたものらしい。そこに「ひんと」と書かれており、その下に「わたしの好きなこと」とひどく乱暴に書き殴ってある。
「……えーっと、"ひんと"が"わたしの好きなこと"??」………ひょっとしてあのパソコンの問い掛けのヒントってことか?
俺はおもむろにパソコンの前へと移動した………。
昨日誰かが絶命した時のものであろう断末魔を聞いて気を失ってから今日の朝までひたすら生々しい悪夢の世界の中で私はもがき苦しんでいた。
恋人のマキと二人でどこかの街の大広間にあるギロチン台の前に座らされ、脇に立っている頭から黒い袋を被り上半身だけ筋骨隆々の裸身を晒した番人から、
「お前たち二人の内どちらかは生かしてやろう。さぁ、どちらが報いを受けるのか?」と尋ねられ、
私は、自分が犠牲になると答えようとするのだけど、何故か声が出せない。
どうにか声を出そうともがいている内に隣にいるマキの目が吊り上がりまるで般若のような顔に変貌する。
しかし、私の声帯はどう頑張ろうとも音を発せず、痺れを切らした番人が、
「えぇい、もう二人とも処刑してくれるわ!!!」と叫んで私たち二人をギロチン台にセットし今まさに首と胴が離れる、といった所で大量の汗を流しながら私は目を覚ました。
悪夢の余りの生々しさにしばし茫然と壁を見つめ続け、ようやく自分が監禁されているという事実を思い出した。
…それから例によりテーブルの上にいつの間にか置いてある食パンと水だけのさもしい食事を平らげ、数時間経ってから昨日隣室に私と同じく捕らえられている男と約束した交信の時間が迫っていることに気がついた。
……そろそろ時間だ。試しに右隣の壁をコツコツと叩いてみる。コツコツと返答があった。しかし、その後錯乱しているのか、良くわからないメッセージがモールス信号でこちらに届いた。
「お前も俺を殺したいんだろう?」だの、「俺もお前と殺し合いたいよ!!もう、おさえられねぇ!!」だの昨日とは打って変わって物騒な隣室の男の様子に思わず壁から体を離し壁をじっと見つめる。
……ひょっとしたら拘禁症状でも出て一時的に錯乱しているのかもしれない。そう考えてその後も隣からのモールス信号は続いたものの、私はすべて無視するようにした。
……私も監禁が長く続けばああなってしまうんだろうか。やるせない思いが込み上げる。
……そういえば拉致されてきた当初は思い当たらなかったけれどひょっとすると私が今まで受けてきた依頼の中で誰かの恨みでも買ってしまっていたのかもしれない。
そういう逆恨みから私達二人いや、隣の男を会わせると三人か。…三人は拉致監禁されてしまっているのかもしれない。
…ただ仮にそうだとしても現状ではスマホも電波が届かずに事務所のスタッフや所長に連絡を取る術はない。
……どうにかできないものか。私はテーブルの上のパソコン画面を睨みながら考える。
4月12日
…………………。………………。
…………うっ!!後頭部がズキズキと痛む。
…………ここはどこなんだ?
確か俺は……そうだ!!就活の為に上京してホテルに一泊した後、面接に行って………。
………そして……、……どうしたんだったっけ?
思い出そうとしたけれど、頭が痛くて集中できない。
……どうやらリクルートスーツのまま、という事は面接の帰りに何かあった?
俺が目覚めた場所は6畳程の小部屋でドアの類いはなく、部屋には粗末な木製の机と椅子。
机の上にはノートパソコンが置かれており、その画面には黒の背景に白い文字で「あなたの存在意義を教えてください。」とだけ表示されている。
そしてパソコンの横には、皿に乗った一切れの食パンとコップに入った水が置かれている。
………ゴォォォォォッッッッ。何処からか風の吹くような音が聞こえる。何となく天井を見ると、鉄の格子がはまっていて、そのずっと上から音が響いてきているようだ。
頭痛を堪えながらスーツのポケットを探る。
……!!どうやら携帯は取られていないみたいだ。電源ボタンを押して起動させる。…………!?
電波が全く入らない。部屋の隅から隅まで移動してみたけれどダメだった。
……もしかしなくても俺、拉致られた?
……誰が?……なんで?
…特に拉致監禁されるほどの恨みを買うようなことには思い当たらない。
刹那、目の前が真っ白になる。
ーー目の前には、白い装束の若い女の人がいて切羽詰まった様子で、「早く逃げるの!何も考えてはダメ!解った?ーー君!」「早く、早く!ここから外へ逃げるの!こっち!こっちよ!!ーー君!」と俺を急かす。
ーーーと。俺の目の前から女性が消えて、また元の小部屋が目の前に広がっている。
………一体今の映像は何だろう?あんな事あったっけ?……駄目だ。頭の痛みがぶり返してきた。考えが纏まらない。
「……ーー君!」不意に上の換気口から誰かの声が聞こえた気がした。
「………ん?」鉄格子の端じっこにノートの切れ端のような物が挟まっているのが見えた。
机の上に乗って破けないよう注意しながらそーっと紙を引き抜く。
「………なんじゃこりゃ??」
どうやらB5位の紙を半分くらいに引き裂いたものらしい。そこに「ひんと」と書かれており、その下に「わたしの好きなこと」とひどく乱暴に書き殴ってある。
「……えーっと、"ひんと"が"わたしの好きなこと"??」………ひょっとしてあのパソコンの問い掛けのヒントってことか?
俺はおもむろにパソコンの前へと移動した………。
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