絶望の魔王

たじ

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その日、魔導騎士団参謀であるサーシャ・エル・グリドラを始めとする、魔導騎士団の中でも特に攻撃魔法に特化した100人からなる部隊が、要塞都市ガーマインから飛空挺ホワイトラグーンに乗り込み、滅びの森に陣を構えている魔王軍四天王の内の一体、"透明のノカ"を討伐するため、一路滅びの森へと向かっていた。

「サーシャ様!!もうじき滅びの森へと到着いたします!!」
サーシャが革椅子にふんぞり返ってグラスを傾けていると、騎士の一人が報告に来た。
「ご苦労…。……いよいよ、決戦か……。」
少し憂鬱な様子で自慢の口髭をしごきながら、
ゆっくりとサーシャは椅子から身を起こして
立ち上がった。

    ◆  ◆  ◆  ◆

滅びの森。そこには常時瘴気が立ち込めており生物の姿は何処にも見られない。
木々も瘴気のせいだろうか。どこか立ち枯れたようになって白く変色してしまっている。

……そのちょうど中心部に魔王軍四天王の一体、透明のノカを大将とする100体程の地を這うモンスター達の群れが、こちらへと近付いてくる人間達の気配に殺気をみなぎらせて、今や遅しと待ち構えていた。

「フッフッフ…。このノカ様に果たして貴様ら人間風情が攻撃を当てられるかな?」
背中には鋭い針の山、尾には背中のものと同じ鋭い針をビッシリ生やしたまるで蜥蜴とかげを3m程まで大きくしたようなモンスター達その奥で、一際大きな体を揺らせながら、
透明のノカは不敵に薄ら笑いを浮かべた…。

    ◆  ◆  ◆  ◆

「全員前へ進めっっっーーーー!!」
100人の魔導騎士達のその後ろでサーシャ・エル・グリドラが号令をかけた。
「ハッッッ!!」
騎士達は声を揃えて返事すると、目の前の滅びの森、その奥へと足を進める。

数時間後、急に周りがひらけてだだっ広い荒野へと部隊は出た。
すると、
「フッフッフッフっ……。待ち兼ねたぞ…。
愚かな者達よ…。」
何処からか不気味な声が響いてくる。
思わず周囲を見回す騎士達。…しかし周囲には何の姿も見られない。

「何処だ!!卑怯だぞ!!」
魔導騎士の一人が声を張り上げるがそれには応えず、部隊の周りをズザザザザッッ!!、と何かの走り回るような音が木霊する。

「気を付けろっっ!!何か周りにいるぞっ!!」
騎士の一人が他の騎士達に注意を促した。
………しかし。

「うわぁぁっっ!!」
「ぼげぇぇぇっっ!!」

目には見えない何かに次々と騎士達は薙ぎ倒されてゆく。
「くっ……!!」
サーシャが思わず呻きを漏らす。

「どうした?どうした?……お前達は人間達の中では強い方ではなかったのか?クックックッ……。」
不気味な声が再び辺りに木霊する。

「お前達!!姿が見えぬのなら手当たり次第に魔法を撃たんか!!」
サーシャの怒声にそれまで見えない相手に怯んでいた魔導騎士達は急ぎ呪文の詠唱を始める。
「……アァル・リ・ファルス!!」
騎士達が呪文を唱えると、騎士達の周りにユラユラと浮かぶ光の玉が幾つも出現する。

光の玉は騎士達を守るようにグルグルとその周囲をすごいスピードで外側に向かって回りだした。
「……グバァァッッーーーー!!」
不気味な悲鳴がして、突然それまで何もなかった空間に地を這うモンスター達の姿が現れた。

大きい蜥蜴のようなモンスターの群れの、一番奥にいる、一際大きなモンスター(全長20m、いや30mはあるだろうか)が、
「良く来たな!!下等な人間どもよ!!
…この透明のノカ様率いる、ニードルリザードの軍団が貴様らの息の根を今、ここで止めてくれる!!覚悟しろ!!」
と不気味な腹に響く声音で魔導騎士達に告げる。

……次の瞬間、ニードルリザードの群れが
一斉に騎士達へと襲いかかった。
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