女の子なのに能力【怪力】を与えられて異世界に転生しました~開き直って騎士を目指していたらイケメンハーレムができていた件~

沙寺絃

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二十七話 宿場町にて

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 イース王国の都市と都市の間には街道が敷かれ、一定の間隔で宿場町や村が点在している。例の男がいるという宿場町は、アルスターから数えて二つ目の町だった。

「わあ、結構栄えているんですね」

 こじんまりしているけど街道沿いの宿場町だから、人の行き来が多くて活気がある。いろんな店も並んでいる。なかなか感じいい街だ。
 酒場と宿を兼ねた店で部屋を取って荷物を下ろすと、さっそく情報提供者に会いに行く。
 情報提供者はネズミを思わせる中年の男だった。目をキョロキョロと動かして、落ち着きがなさそうに早口で捲し立てる。

「それが、昨日の夜からぱったり姿を見せねえんでヤンス」
「何だと? まさか行き違いになったというのか?」
「それが奴の宿には荷物が残されているみたいでヤンス。どっかに出かけているんじゃねえッスかねえ?」
「そうか……まさかとは思うが、偽の情報を掴ませたわけじゃないだろうな」

 レスターさんは笑顔で凄んでみせた。
 怒っている時の彼の笑顔には妙な迫力がある。私が怒られているわけじゃないのに、こっちまで怖くなる。案の定、ネズミみたいな男は青い顔をして震え出した。

「そっ、そんなことはありやせん! この首に誓って!!」
「首に? ほう……」
「ぜ、絶対に、そこらを出歩いているだけですって! ハイ! 今日か明日には帰ってきやすよ!!」

 最後は涙目になっていた。さすがに嘘をついているようには見えない。レスターさんも同感だったらしく、しょうがないといった感じに男を解放した。

「やれやれ……骨が折れるが張り込みと行くか。俺は酒場の方を見張るから、アイリたちは奴が止まっている部屋を監視してくれ」
「了解しました!」

 建物は一階が酒場、二階が宿屋になっている。両方を押さえておけば、戻ってきた時にはすぐに分かる。二階の部屋に戻ってルゥに事情を話すと、私たちの張り込みが始まった。

***

「……来ないね」
「そうだねー」

 私とルゥは交代で休憩をとりながら、例の男の部屋を監視し続けていた。一日経っても二日経っても、例の男は姿を現さなかった。レスターさんの方はどうだろうと思って、私は階下に降りる。

「お前、誓ったよな? この首に賭けると誓ったよな? その心意気は認めよう。だが例の男は二日経った今でも姿を現す気配がない。これは貴様が嘘をついたと見なして問題ないな?」
「決して、決して、決して嘘ではございませんんん!! どうかお許しを、この首だけはああああ!! あっしには田舎に病気の母と女房と五人の腹を空かせた子供があああ!!」
「ちょ、こんなところで流血沙汰は止めてくださいよ! 町から追い出されちゃいますよ!?」

 酒場に入るとレスターさんが情報提供者を締め上げていた。
 実りのない張り込みが三日目にもなれば、イラつく気持ちはよく分かる。本音を言うなら私も締め上げてやりたい。でも実行に移すのはまずい!

「そうでヤンス、そうでヤンス! それにあっしには病気の父と三人の女房と腹を空かせた母が五人いるんでヤンスううう!!」
「さっきと家族構成変わってないですか?」
「やはり詐欺師だな。天に召されるがいい」
「ひいいいいいい!!」
「だーかーらー! あんまり騒がないでくださいよ! ほら、店主も睨んでるじゃないですか!」

 多くの旅人を迎える酒場の店主は、この程度の騒ぎじゃ物怖じしない。騒ぐ私たちを冷静に睨んでいる。これ以上騒ぎが続くと、本当に追い出されそうだ。
 レスターさんも視線に気付いたらしく、情報提供者の首根っこを掴んだまま声のトーンを落とした。

「本当に嘘はついていないんだろうな?」
「はい! 三日前まではこの辺りにうろついていたんですよ! 嘘じゃありません!」
「ということは、私たちの接近に気付いて身を隠しているのかもしれませんね」
「目端の利きそうな男だからな。その可能性もあるかもしれない」
「そうなると、私たちが張り込みを続けているのは逆効果かもしれませんよ。一旦引いたと見せかけて、密かに様子を探りましょうか」
「ぜひ、そうしてくださいでヤンス! では、あっしはこれで!」

 ネズミみたいな男は解放されると、脱兎のごとく逃げ去って行った。

「アイリ。お前は二階に戻り、あの方に事情を話してきてくれ」
「はーい」

 二階に戻ってルゥに酒場での話をする。ルゥは頷いて賛同を示すけど、一つ思いがけない提案をした。

「一旦引いたと見せかけておびき出す作戦なら、僕が囮になるよ」
「えぇ!? そんなのダメだよ、危ないよっ!」
「確かに危ないかもしれない。だけど、僕なりに考えがあるんだ。アイリ、レスターを呼んできてくれないか?」

 階下に戻ってレスターさんにルゥの提案を打ち明ける。
 彼は顔色を変えて二階に駆け登っていった。私も後に続く。レスターさんは部屋に入ると、開口一番ルゥを叱りつけた。

「一体何を言い出すのですか! それがどれほど危険なことのか、分かっているのですか!?」
「落ちついて、レスター」
「これが落ち着いていられますか!」
「君が僕の安全を最優先に考えてくれているのは分かる。だけど僕なりに考えたことでもあるんだ。盗賊退治の夜、あの男は僕を見て驚いていた。アイリも覚えているよね?」
「うん、まあ」
「あの男が王子誘拐と暗殺事件にかかわっていた張本人なら、きっと向こうも僕のことを気にしているんじゃないかと思うんだ。アルスター近くのこの町を拠点にしていたのも、僕のことを探っていたのかもしれないよ」
「だからって、ルゥが囮にならなくてもいいんじゃないの?」
「ううん、アイリ。もし僕の読みが当たっているなら、僕が一人になるタイミングは彼にとって大きなチャンスだ。アイリ、レスター。もし君たちがあの男の立場だったら、どうする? 誰かといる時よりも、僕が一人になった時に接触しようとするんじゃないかい?」

 確かにそうかもしれない。

「たとえば僕たちが捜索を諦めて、引き上げたと見せかける。そして人気のないところで僕が一人になれば、向こうから接触してくる可能性もあるんじゃないかな」
「そうかもしれませんが……ダメです。やはり危険すぎます。許可できません!」
「レスター。これは大事なことなんだ。君だって分かっている筈だ。休暇はいつまでも続かないし、いたずらに日数が経過すれば相手だって本格的に行方をくらましてしまうかもしれない」
「ですが……!」
「大丈夫。僕の身なら、君とアイリが守ってくれる。そうだろう?」

 ルゥは信頼を込めた瞳で私とレスターさんを交互に見比べた。その瞳には心からの信頼が込められている。

「決まりですね、レスターさん! ここまで言われて応えない手はありませんよ。私たちは少し離れた場所で、ルゥの安全を守りましょう。例の男が接触してきたら挟み撃ちにして、逃がさないようにすればいいんです!」
「僕の案に賛成してくれるんだね。ありがとう、アイリ」
「実際有効な作戦だと私も思うもん。ルゥの作戦にはいつも助けられているからね。今回もきっとうまく行く。私が保証するよ」
「アイリ……っ!」

 レスターさんは私たちの様子を見て、諦めたように肩を竦めた。

「……こうなった以上、俺も乗るしかなさそうですね。分かりました。しかし王子、くれぐれもご無理はなさらないようにしてください」
「もちろんさ! レスターも分かってくれてありがとう!」

 そして私たちはすぐさま宿屋を引き払い、宿場町を旅立ったふりをした。
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