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二十二話 月下の戦い

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「待てっ!」

 背後から剣を振りかぶって襲い掛かると、敵も剣を抜いて応戦してきた。

「くッ!?」

 跳躍して振り下ろした剣には、体重と勢いが上乗せされている。正面から剣で攻撃を防いだ男は、額に汗を浮かべて顔を歪める。
 それでも攻撃にかかった力を、横に受け流して防ぎきった。弾き飛ばされた私は空中で回転し、着地する頃には体勢を立て直していた。

「はッ!」

 すぐさま次の攻撃に入る。敵はまたしても私の攻撃を受け流す。予想通り、相当の手練れのようだ。
 それでも何度か攻撃を繰り返していると、相手は私の怪力に圧されて後退する。

「……チッ」

 間合いを取った男は一瞬の隙をつき、裏口から飛び出した。

「あ、待て! 逃がさない!」

 私も追いかけて外に出る。
 外はすっかり暗くなっていた。月明かりすら雲に隠されて、辺りは闇に閉ざされている。
 それでも私は、相手の気配を敏感に察知していた。きっと相手も同じだろう。

「その動き、太刀筋、佇まい……騎士、いや、従士か……さてはあの村の住人にでも泣きつかれたか」
「ふんッ!」

 あいにくだけど、お喋りに付き合うつもりはない。シルエットを頼りに、すぐさま次の攻撃に移る。

「さっきからなんだ、この怪力は……まるで熊か猪だな……!」

 熊も猪も、子供の頃に仕留めている。今さら形容されるようなものじゃない。私は攻撃の手を休めない。

「だが力圧しの攻撃など、この俺の手にかかれば――」

 敵は受け流しの技が得意のようだ。これまでの打ち合いで理解している。相手が言うように、力任せ一辺倒では勝ちを狙うのは難しい。
 でも私の特技は、何も力業だけじゃない。

「じゃあ、これならどう? ――“剣の舞(ソードダンス)”!」
「何!?」

 一旦距離を取った私は、舞を踊るような軽やかなステップで敵に斬りかかる。
 一の太刀、二の太刀、三の太刀――と、矢継ぎ早に攻撃を繰り返す。
 力任せの技、つまり“一閃両断剣”が一撃必殺の技なら、“剣の舞”は巧みな動きで翻弄しながらダメージを与える。
 一撃一撃は軽い。その代わりに、慣性により勢いを得た連続攻撃が可能となる。
 こめかみ、肩口、上腕三頭筋、手首、鳩尾、腿、膝――といった、人体の急所を的確に狙って切り裂く。
 騎士団長である師匠に教わった“技”の一つだ。
 モンスターや獣、時には盗賊相手の実践で磨きをかけていった。騎士学校に入ってからは、日々の訓練により一層の磨きをかけている。

「っ――、この!!」

 だけど相手もさすがに手練れ。受けきれないと判断すると、受け流しではなく攻撃に転じてきた。
 剣と剣が作り出す、刹那的な嵐のような空間。私の刃が相手を、相手の刃が私の肉を裂く。
 闇の中で血が飛び散り、鉄錆の匂いが漂った。

「……こんな連中を相手にするのは想定していなかった。馬泥棒指南の報酬にしては割りが合わん……おい! 俺は手を引かせてもらうぞ!」
「そ、そんな! 先生!?」
「俺はあくまで馬を盗む手引きをする仕事を引き受けただけだ。後はお前たちで何とかするんだな」

 言い捨てると男は身を翻して、闇の中に駆けていこうとする。

「そうはさせない!」

 私は駆け出した男の背後に迫る。男が息を呑むのが分かった。
 ――その時、雲に隠れていた月が顔を出した。満月が辺りを照らし出す。
 私の瞳が、あるものを捉えた。進行方向にある木々の影。ちょうど私たちがやって来た方角。固い表情で私たちの戦いを見守るルゥの姿があった。
 私の動きが一瞬止まる。トドメを免れた男が、私の視線の先に目をやる。
 男の動きも止まった。ルゥも驚愕の表情を浮かべる。刹那、その空間は、さながら時が止まったようになった。

「お前、は……まさか……!」

 真っ先に動いたのは男だ。ルゥに向かって手を伸ばす。だけどルゥはバックステップで逃げ、男の手は空を切った。相変わらずの神回避だ。

「ルゥに触わるな!!」
「くっ……!」

 背後から攻撃しようと襲い掛かるけど、男に間一髪で躱された。
 咄嗟に判断する。追撃するべきか、それとも――今はルゥの身の安全が優先だ!

「アイリ!」
「ルゥ!」

 ルゥの腕を引いて胸に抱き留めた私は、男に剣を突き付ける。
 男は短く舌打ちをすると再び身を翻して、今度こそ本当に闇の中へと消えていった。

「逃がしたか……でも、しょうがない」

 深追いするよりも、ルゥの安全が何よりの優先事項だ。それのあのダメージなら、姿を潜めて挑みかかってくるようなこともないと思う。ひとまず安心していいだろう。

「ルゥ、怪我はしていない? 大丈夫!?」
「うん、平気だよ! それよりもアイリは――大変だ! アイリこそ怪我をしているじゃないか!」
「大したことないよ」
「こんなに血が出ているじゃないか! 早く治療しないと!」
「待って、まずはアジトに戻ろう。治療するにしても明かりがあるところの方がいいよ。それにみんなの方がどうなっているかも気になるからね」

 盗賊のアジトに戻ると、仲間たちはそれぞれ敵を片付け終えていた。
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