上 下
9 / 41

八話 王子との同盟締結

しおりを挟む
 レスターさんが持ってきた箱の中には、平べったい水晶が鎮座していた。
 透明で陽の光をキラキラと反射する水晶。一目見ただけで高価なんだろうと分かった。
 それ以外に珍しい要素はなかったけど、ルゥが手に取ると様子が変わる。

「えっ!? さっきまで透明だった水晶が、銀色に輝いている!? しかも水晶の中に変な模様が現れたんだけど、これって一体何なの!?」
「変な模様とは何だ。お前だって王家の紋章ぐらい見たことあるだろう」
「王家の紋章? そう言えば――」
「あの水晶(クリスタル)は王家の血を引く人間が触れると、王家の紋章が浮かび上がるように魔法で造られた特殊なものだ。俺やお前が触れても何の反応も示さない」
「あ、本当だ」

 ルゥから水晶を渡してもらうと、ぴたりと輝きは失せた。
 そういえば王家の人間は生まれた時に、王家の紋章が刻まれた魔法クリスタルが記念に造られるんだっけ。
 さっき見た模様の中には王家の紋章だけじゃなく、『ルーファス=クリストファー=イリアステル』の名前も浮かび上がっていた。
 ということは、ルゥは本物の王子様で、さっき聞いた話は真実ということだ。

「す、すごい! 出世する為に騎士学校に入学したのに、さっそく王子様とコネができるなんて!」
「アイリは出世したいんだ?」
「うん。うちの村はほんっと貧しいんだから! 騎士になって出世して、故郷に錦を飾って、豊かな生活を送ってやるの! それが私の人生の目標!」
「ずいぶん地に足がついた目標だね。まだ若いのに」
「コネと言っても、今の王子は何の力も持っていない。王子が何を要求したところで、摂政に撥ねつけられれば通らないだろう。つまりお前が王子とのコネを使って出世しようと思うのなら、ゲイリーを倒さなければならないということだ」
「アイリ。是非とも僕たちに協力してほしい。騎士学校に潜入するにしても、事情を知った上で協力してくれる人間が必要だ。職員の方はレスターが何とか誤魔化してくれるけど、同じ従士の目を欺くには君の協力が必要なんだ。共に力を合わせて摂政を倒そう!」

 ルゥは力強い瞳で私を見つめる。
 すぐにでも頷きたくなるけど、その前にもう一つ疑問があった。

「ところで……成功の見返りは? 何か確約が欲しいかなー、なんて」
「僕が玉座についたら、君に近衛騎士の地位を用意しよう。それでどうかな?」
「近衛騎士って、あの王家直属の騎士!? エリート中のエリートの!? 引退後も天下りし放題の役職の!? よし、乗った!」
「ありがとう、アイリ!」

 通常、庶民が近衛騎士に抜擢されることは滅多にない。でも王子様の推薦があれば、きっと大丈夫だ。
 私はルゥと握手を交わす。この話、乗らないという選択肢はない!

「で、具体的には何をすればいいの?」
「僕は女の子として入学する。本当は男だとバレないように協力してほしいんだ。まず寮の部屋は、君と僕が同室になるようにレスターが手配する。僕はお風呂とか、肌の露出があるところには行かない。理由は昔ひどい怪我をした傷跡が残っていることにしよう。君はその傷跡を見たということにしてほしい」
「ふんふん……って、私とルゥが同室なの? そ、それはまずくない?」
「全然まずくない。王子は自分より可愛いものにしか興味がないからな。安心しろ」
「なんかトゲのある言い方ですね……」

 これでも村では結構可愛い部類だったんですけど。昨日だって初対面の男に求婚されたぐらいだから、容姿は悪い方じゃないと思っているんだけど。
 短いやり取りの中で感じたけど、この人かなりの毒舌家だな。せっかくのイケメンが台無しだ。
 ……まあいいや。これも出世の為だ。嫌味の一つや二つ、軽く聞き流せるようにならないとね!

「それと僕は、戦闘の腕はさっぱりなんだ。回避訓練だけは熱心に行わせてくれたから自信があるけど。戦って相手に勝つ技術に関しては全然だ」
「そういえば、そうだったね」
「落第するわけにはいかないから、できれば各局面で僕の至らないところをカバーしてほしい」
「それならお安い御用だよ! それに私の場合、頭はあんまり良くないから。頭脳面はルゥがカバーしてくれると助かるな。それで貸し借りはナシってことにしようよ!」
「ありがとう! 本当にアイリは優しい人だね!」
「いやあ、それほどでも。ところでルゥがルーファス王子なら、敬語とか使った方がいいのかな?」
「周囲に怪しまれるとまずいから、今まで通りの口調で頼むよ」
「うん、分かった!」

 そんなこんなで、私はルーファス王子の計画に加担することになったのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

処理中です...