上 下
29 / 48
三章

二十九話 エクレールの出店ブースへ

しおりを挟む
 するとそこには行列ができていて、大勢の人が列を作っている。辺りにはいい匂いが漂っている。並んでいる人は皆嬉しそうだ。
 
「エクレール様!」
「あ……アリーシャ。来てくれたんだ……嬉しい」
「すごい人気ですね。今日は何を売っているんですか?」
「今日はピザとサンドイッチと串焼きを売っているんだ……ありがたいことに大盛況だよ」
「わあ、どれも美味しそうですね! 私も何か買っていきますね!」
「うん、ありがとう……」
 
 アリーシャは出店のメニューを見る。どれもこれも魅力的な品ばかりで迷ってしまう。
 
「うーん……どれにしようか……」
「アリーシャ様、私が選んでもよろしいでしょうか?」
「リリアナが? うん、お願いします」
 
 リリアナが選んだのは、トマトとチーズたっぷりのピザだった。アリーシャもそれを注文する。待っている間も、次々と客が入ってくる。しばらくして、ようやくアリーシャたちの番がやってきた。
 
「どうぞ……焼き立ての窯出しピザだよ。お代はいらないから、冷めないうちに食べてね……」
「ありがとうございます! ……うーん、美味しいですっ!」
「そう……良かった……」
「とってもジューシーで、生地もモチモチで最高です!」
「ありがとう……アリーシャは美味しそうに食べてくれるから、作り甲斐がある……」
「だって本当に美味しいですから」
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいよ……」
 
 それからアリーシャは、リリアナと一緒に料理を平らげた。
 
「ご馳走様でした!とっても美味しかったです! こんな素敵なお店を出せるなんて、さすがですね!」
「ふふ、ありがとう……ボクが作った料理を褒めてもらえるのは……とても嬉しいよ……」
「お客さんの沢山来ていますね。凄い人気です」
 
 客層は一般人から騎士、兵士まで様々だ。身なりのいい貴族も珍しそうに足を止めて覗きに来ている。すると、胸に金の勲章をつけた軍人と思しき男と、数人の付き人がエクレールに歩み寄ってきた。
 
「エクレール殿下。これが噂の『フィールドキッチン』ですか。ハイラル殿下からお話は伺っております」
「ああ……こんにちは……あなたは確か、帝国陸軍のレンフィールド将軍……でしたね」
「はい。帝国軍の糧食問題について、かねてからご相談させて頂いております。以前発明して頂いた『缶詰』も素晴らしい技術でした。そして今回の『フィールドキッチン』、お話には聞いていましたが素晴らしい……! ぜひ詳しいお話を聞かせて頂けないでしょうか?」
「いいけど……今すぐ? ええと、まだお店のお客さんがいるんだけど……」
「すみません。我々は近々別の土地での任務がありまして、今日でないと次にお話を聞けるのは一ヶ月以上先になってしまいます。突然の訪問で誠に恐縮ですが、一時間程度で良いのでお時間を捻出して頂けないでしょうか?」
「むぅ……今日じゃないと、『フィールドキッチン』の実用化や配備が先延ばしになるってことか……」

 エクレールは長蛇の列を作っている客を見て悩む。そこでアリーシャが提案した。

「料理は出来上がっていますし、私とリリアナがお客さんの対応をしておきますよ」
「え……? でもそんなこと、アリーシャにさせるわけには……」
「いいんですよ。エクレール様が認められたら私だって嬉しいです。それに軍にとって有益な事なんですよね?」
「……そうだけど……分かった。それじゃあ、少しだけお願いするよ……」
「任せてください!!」
 
 アリーシャは元気よく返事をする。リリアナも微笑んでエクレールを見送った。
 

 それからアリーシャとリリアナは、エクレールに変わって出店の切り盛りを始めた。
 
「いらっしゃいませ!『フィールドキッチン』のご利用は初めてですか?」
「はい、そうです。この店で評判のピザを持ち帰りで六枚ください」
「ありがとうございます! そちらのベンチでお待ちください!」
「ありがとう! 美味しくて安いとは聞いていたけど、ここまでのクオリティだとは思っていませんでした!」
「ふふっ、ありがとうございます!」
 
 アリーシャとリリアナは手際良く接客を行う。リリアナは慣れた様子で、アリーシャもそれなりに上手く対応していた。
 
「ふぅ……これで今ある料理は全部完売したかな?」
「……お疲れ様、アリーシャ」
「エクレール様! もうお戻りになられたんですか!?」
「もうって……あれから二時間も経ってるよ。一時間のつもりだったのに、二時間もお店を任せることになって申し訳ないと思ったんだけど……ふふ、その様子だと気付いていなかったんだね……」
「えっ!? もうそんなに経っていたんですか!?」
 
 アリーシャは懐中時計を取り出して時間を確認する。エクレールの言う通り、もう二時間以上が経過していた。接客に夢中で気付かなかった。空を見上げれば、茜色に染まり始めている。
 
「アリーシャのおかげで助かったよ……ありがとう。リリアナも……これ、お土産……」
そう言ってエクレールが差し出したのは、広場で売られている人気のフルーツティーだった。アリーシャは目を輝かせる。
「わあっ、いいんですか!?」
「もちろん。二人とも頑張ってくれて、おかげで大盛況だったからね……それに、アリーシャはボクの大切な人だから……」
「エクレール様……。はい、ありがとうございます!」
 
 アリーシャはフルーツティーをぐいっと飲み干す。しばらく接客に熱中していた体に、冷たくて甘いフルーツティーが染み渡った。エクレールは満足そうに笑う。リリアナも笑みを浮かべた。
 
「さっきのレンフィールド将軍との話も、うまく行ったよ……大佐は来週から別の土地での任務に入るんだけど、その前に『フィールドキッチン』を陸軍に導入する準備をまとめると約束してくれた……」
「良かったですね! きっとみんな喜びます!」
「うん……アリーシャのおかげだよ……本当にありがとう」
「いえ、私は大したことは何もしていません。それより、軍の方々に喜んでもらえて何よりです」
「アリーシャはいつもそうやって、自分の功績を誇らないよね……どうして?」
「そう言われても……うーん、別に特別な理由はないですよ。だって認められたのは『エクレール様が発明した技術』ですから。私がしたのはほんのお手伝いです。私が凄いんじゃなくて、エクレール様の技術が凄いんですよ!」
「そっか……アリーシャらしいね……そういうところ、好きだよ」
 
 エクレールとアリーシャは笑い合う。リリアナは二人から少し離れて、二人のやり取りを見守っていた。
 
「ところでもう夕方ですけど、エクレール様はどうするんですか?」
「ボクは明日も出店があるから……後片付けと準備、かな……アリーシャは?」
「今日は早めに帰って休もうと思います。お祭りは一週間も続くので、初日で疲れすぎたら良くないので」
「うん……それがいいと思うよ。それじゃあアリーシャ、今日は本当にありがとう……今夜はゆっくり休んでね」
「はい!」
 
 アリーシャはリリアナと共に、宮殿へと戻っていった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。  ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。  その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。  十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。  そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。 「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」  テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。  21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。  ※「小説家になろう」さまにも掲載しております。  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

妹よ。そんなにも、おろかとは思いませんでした

絹乃
恋愛
意地の悪い妹モニカは、おとなしく優しい姉のクリスタからすべてを奪った。婚約者も、その家すらも。屋敷を追いだされて路頭に迷うクリスタを救ってくれたのは、幼いころにクリスタが憧れていた騎士のジークだった。傲慢なモニカは、姉から奪った婚約者のデニスに裏切られるとも知らずに落ちぶれていく。※11話あたりから、主人公が救われます。

七光りのわがまま聖女を支えるのは疲れました。私はやめさせていただきます。

木山楽斗
恋愛
幼少期から魔法使いとしての才覚を見せていたラムーナは、王国における魔法使い最高峰の役職である聖女に就任するはずだった。 しかし、王国が聖女に選んだのは第一王女であるロメリアであった。彼女は父親である国王から溺愛されており、親の七光りで聖女に就任したのである。 ラムーナは、そんなロメリアを支える聖女補佐を任せられた。それは実質的に聖女としての役割を彼女が担うということだった。ロメリアには魔法使いの才能などまったくなかったのである。 色々と腑に落ちないラムーナだったが、それでも好待遇ではあったためその話を受け入れた。補佐として聖女を支えていこう。彼女はそのように考えていたのだ。 だが、彼女はその考えをすぐに改めることになった。なぜなら、聖女となったロメリアはとてもわがままな女性だったからである。 彼女は、才覚がまったくないにも関わらず上から目線でラムーナに命令してきた。ラムーナに支えられなければ何もできないはずなのに、ロメリアはとても偉そうだったのだ。 そんな彼女の態度に辟易としたラムーナは、聖女補佐の役目を下りることにした。王国側は特に彼女を止めることもなかった。ラムーナの代わりはいくらでもいると考えていたからである。 しかし彼女が去ったことによって、王国は未曽有の危機に晒されることになった。聖女補佐としてのラムーナは、とても有能な人間だったのだ。

「僕より強い奴は気に入らない」と殿下に言われて力を抑えていたら婚約破棄されました。そろそろ本気出してもよろしいですよね?

今川幸乃
恋愛
ライツ王国の聖女イレーネは「もっといい聖女を見つけた」と言われ、王太子のボルグに聖女を解任されて婚約も破棄されてしまう。 しかしイレーネの力が弱かったのは依然王子が「僕より強い奴は気に入らない」と言ったせいで力を抑えていたせいであった。 その後賊に襲われたイレーネは辺境伯の嫡子オーウェンに助けられ、辺境伯の館に迎えられて伯爵一族並みの厚遇を受ける。 一方ボルグは当初は新しく迎えた聖女レイシャとしばらくは楽しく過ごすが、イレーネの加護を失った王国には綻びが出始め、隣国オーランド帝国の影が忍び寄るのであった。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

聖女を騙った罪で追放されそうなので、聖女の真の力を教えて差し上げます

香木あかり
恋愛
公爵令嬢フローラ・クレマンは、首筋に聖女の証である薔薇の痣がある。それを知っているのは、家族と親友のミシェルだけ。 どうして自分なのか、やりたい人がやれば良いのにと、何度思ったことか。だからミシェルに相談したの。 「私は聖女になりたくてたまらないのに!」 ミシェルに言われたあの日から、私とミシェルの二人で一人の聖女として生きてきた。 けれど、私と第一王子の婚約が決まってからミシェルとは連絡が取れなくなってしまった。 ミシェル、大丈夫かしら?私が力を使わないと、彼女は聖女として振る舞えないのに…… なんて心配していたのに。 「フローラ・クレマン!聖女の名を騙った罪で、貴様を国外追放に処す。いくら貴様が僕の婚約者だったからと言って、許すわけにはいかない。我が国の聖女は、ミシェルただ一人だ」 第一王子とミシェルに、偽の聖女を騙った罪で断罪させそうになってしまった。 本気で私を追放したいのね……でしたら私も本気を出しましょう。聖女の真の力を教えて差し上げます。

処理中です...