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二章
二十四話 エクレールとの思い出
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その夜、アリーシャはエクレールに誘われてバルコニーで落ち合い、二人きりで会話を交わす。
「アリーシャ、ありがとう……」
「え?」
「ボクのために色々考えてくれて……」
「そんな、私はただお世話になっているお礼をしたかっただけです」
「それでもだよ。アリーシャのおかげで、こうして毎日が充実している……だからありがとう……」
エクレールはアリーシャの手を取る。アリーシャは、初恋の相手である幼馴染みの少年に抱いていた淡い想いを思い出していた。彼と手を繋ぐのが大好きだった。
「ふふ……こうしていると思い出すね……十年前、あの村の外れにあった花畑でも、ボクたちはこうして手を繋いでいたっけ……」
「そうですね」
彼も同じ事を考えていたようだ。アリーシャは目を閉じる。すると、十年前の出来事が鮮明に瞼の裏に浮かんできた。
***
十年前、『お屋敷の男の子』と一緒に花畑に向かった。冷蔵箱や卓上調理器具の元となるような、他愛のない話をしながら、二人はいつの間にか手を繋いでいた。
やがて花畑に着くと、男の子はアリーシャの為に花冠を作ってくれた。それを頭に載せてもらった時、アリーシャはまるで妖精になった気分だった。
『はい、アリーシャ……プレゼント……』
『ありがとう……』
『ふふっ、可愛い……』
『そ、そう?』
『うん……とても似合ってる……このままお嫁さんにしたいくらいだ……』
『えぇっ!?』
『ふふっ、冗談だよ』
アリーシャが頬を膨らませると、エクレールは優しく微笑む。そして二人は見つめ合ったまま、また手を繋ぐのだった。
***
(あの時の男の子の手の感触は、間違いなくエクレール様と同じだった……)
アリーシャは瞼を開く。花畑で会った『お屋敷の男の子』と、目の前のエクレールの姿が一致する。
「ボクはあの頃から、アリーシャのことが大好きだよ……もちろん今も……アリーシャ以外の女の子を好きになった事がないんだ……」
「え……?」
エクレールの言葉に、アリーシャは思わず目を丸くする。
「ボクは昔から不器用で、あまり感情表現が得意じゃなかった……友達と呼べる人もいなかったし……だけどアリーシャはいつもボクに話しかけてくれた……ボクの話を聞いて笑ってくれるキミが、すごく可愛くて大好きだと思ったんだ……それからずっと、ボクはアリーシャのことばかり考えていたよ……」
「エクレール様……」
「……でもボクたち兄弟が、アリーシャを騙していたのは事実だから……キミにはまだ、気持ちを整理する時間が必要だよね……?」
アリーシャは息を呑んだ。エクレールはアリーシャのことを気遣ってくれているのだ。
「いつか、キミの気持ちに整理がついた時……その時はボクを選んでもらえるように、頑張るね……」
そういうとエクレールは、繋いだままのアリーシャの手を持ち上げて、手の甲にキスをした。
「エ、エクレール様……」
アリーシャの顔に朱が差す。心臓が激しく脈打った。
「それじゃあ、おやすみ……」
エクレールはそのまま部屋に戻っていく。
残されたのは、呆然と立ち尽くすアリーシャただ一人だけだった。
***
それから数日後、ハイラルが遠征から帰ってきた。
「兄上、おかえりなさい」
「ああ、ただいま。ロラン」
「……おかえりなさい……」
「ああ、エクレール」
三人の皇子が揃う場面は久しぶりだ。こうして並んでいると、三つ子なだけあってやはりソックリだ。
「おかえりなさい、ハイラル様」
「アリーシャ……!ああ、ただいま。お前が改良してくれたポーションのおかげで今回の遠征は大助かりだった。改めて感謝する。ありがとう」
「いえ、そんな……お役に立てたのなら光栄です」
「それで、どうだったんだ? 今回の遠征の成果は……」
ロランが尋ねると、ハイラルは不敵に笑う。そして口を開いた。
「もちろん成功だ。辺境を荒らしていた魔獣は駆逐した。あの方面はこれで安心だろう」
「さすがは兄上!」
「これで帝国領内の治安は保たれましたね!」
ロランとエクレールは声を弾ませた。
「これは土産だ。ロランには辺境の菓子、エクレールには工芸品、アリーシャには珍しい装飾品だ」
「わぁ……ありがとうございます」
「嬉しいです……!」
「私にまで……ハイラル様、ありがとうございます!」
「いや、気にしないでくれ」
三人の皇子は笑顔になる。アリーシャはその様子を見てホッとした。
「ところで兄さん、今度僕たち四人で手作り料理を持ち寄った食事会を開こうと思うんだ」
「何?」
「あの……ハイラル兄さんに頼まれていたフィールドキッチンが完成したから、そのお祝いも兼ねて……どうかな?」
「何、それは本当か、エクレール!?素晴らしい!ああ、ぜひ開催しよう!」
「……うん。それで、フィールドキッチンが完成したのは、アリーシャのおかげでもあるんだ……」
「そうなのか?」
「アリーシャが支えてくれなかったら、今頃まだ完成してなかったと思う……」
「そうか……アリーシャ、本当によく頑張ったな。さすがは俺の未来の妻だ」
ハイラルがアリーシャの頭を撫でる。するとロランとエクレールが血相を変えて割って入ってきた。
「違うよ、兄さん! アリーシャと結婚するのは僕だ!」
「……ボクだって、諦めてない……ボクがアリーシャをお嫁さんにするんだ……」
「ほう……お前たちも俺がいない間に随分アリーシャと仲良くなったようだな。だがアリーシャを妻にするのはこの俺だ。なんといっても長男で第一皇子だからな」
「そんなの関係ないさ。兄上は確かに強いけど、女性を幸福にするのは力とは限らないからね。女性の口説き方すら知らない兄上に負ける気はしないよ」
「そうだよ、ハイラル兄さん……アリーシャはボクが幸せにしたい……ボクの方が兄さんたちの十倍はアリーシャを愛してる……!」
「ふっ、面白いな。いいだろう、そこまで言うのなら勝負するか? 誰がアリーシャにふさわしい男か……」
「望むところだよ。受けて立つ」
「……ボクも……!」
「今度の食事会で誰が一番アリーシャを満足させられるか、競い合おうじゃないか!」
「望むところだよ」
「……ボクだって……!」
「ははっ……いいね……!」
ロランとエクレール、それにハイラルは笑い合う。
「えっ、えぇぇぇぇっ!?」
こうしてなぜか、食事会は三人の皇子によるアリーシャを巡った勝負になってしまったのだった。
「アリーシャ、ありがとう……」
「え?」
「ボクのために色々考えてくれて……」
「そんな、私はただお世話になっているお礼をしたかっただけです」
「それでもだよ。アリーシャのおかげで、こうして毎日が充実している……だからありがとう……」
エクレールはアリーシャの手を取る。アリーシャは、初恋の相手である幼馴染みの少年に抱いていた淡い想いを思い出していた。彼と手を繋ぐのが大好きだった。
「ふふ……こうしていると思い出すね……十年前、あの村の外れにあった花畑でも、ボクたちはこうして手を繋いでいたっけ……」
「そうですね」
彼も同じ事を考えていたようだ。アリーシャは目を閉じる。すると、十年前の出来事が鮮明に瞼の裏に浮かんできた。
***
十年前、『お屋敷の男の子』と一緒に花畑に向かった。冷蔵箱や卓上調理器具の元となるような、他愛のない話をしながら、二人はいつの間にか手を繋いでいた。
やがて花畑に着くと、男の子はアリーシャの為に花冠を作ってくれた。それを頭に載せてもらった時、アリーシャはまるで妖精になった気分だった。
『はい、アリーシャ……プレゼント……』
『ありがとう……』
『ふふっ、可愛い……』
『そ、そう?』
『うん……とても似合ってる……このままお嫁さんにしたいくらいだ……』
『えぇっ!?』
『ふふっ、冗談だよ』
アリーシャが頬を膨らませると、エクレールは優しく微笑む。そして二人は見つめ合ったまま、また手を繋ぐのだった。
***
(あの時の男の子の手の感触は、間違いなくエクレール様と同じだった……)
アリーシャは瞼を開く。花畑で会った『お屋敷の男の子』と、目の前のエクレールの姿が一致する。
「ボクはあの頃から、アリーシャのことが大好きだよ……もちろん今も……アリーシャ以外の女の子を好きになった事がないんだ……」
「え……?」
エクレールの言葉に、アリーシャは思わず目を丸くする。
「ボクは昔から不器用で、あまり感情表現が得意じゃなかった……友達と呼べる人もいなかったし……だけどアリーシャはいつもボクに話しかけてくれた……ボクの話を聞いて笑ってくれるキミが、すごく可愛くて大好きだと思ったんだ……それからずっと、ボクはアリーシャのことばかり考えていたよ……」
「エクレール様……」
「……でもボクたち兄弟が、アリーシャを騙していたのは事実だから……キミにはまだ、気持ちを整理する時間が必要だよね……?」
アリーシャは息を呑んだ。エクレールはアリーシャのことを気遣ってくれているのだ。
「いつか、キミの気持ちに整理がついた時……その時はボクを選んでもらえるように、頑張るね……」
そういうとエクレールは、繋いだままのアリーシャの手を持ち上げて、手の甲にキスをした。
「エ、エクレール様……」
アリーシャの顔に朱が差す。心臓が激しく脈打った。
「それじゃあ、おやすみ……」
エクレールはそのまま部屋に戻っていく。
残されたのは、呆然と立ち尽くすアリーシャただ一人だけだった。
***
それから数日後、ハイラルが遠征から帰ってきた。
「兄上、おかえりなさい」
「ああ、ただいま。ロラン」
「……おかえりなさい……」
「ああ、エクレール」
三人の皇子が揃う場面は久しぶりだ。こうして並んでいると、三つ子なだけあってやはりソックリだ。
「おかえりなさい、ハイラル様」
「アリーシャ……!ああ、ただいま。お前が改良してくれたポーションのおかげで今回の遠征は大助かりだった。改めて感謝する。ありがとう」
「いえ、そんな……お役に立てたのなら光栄です」
「それで、どうだったんだ? 今回の遠征の成果は……」
ロランが尋ねると、ハイラルは不敵に笑う。そして口を開いた。
「もちろん成功だ。辺境を荒らしていた魔獣は駆逐した。あの方面はこれで安心だろう」
「さすがは兄上!」
「これで帝国領内の治安は保たれましたね!」
ロランとエクレールは声を弾ませた。
「これは土産だ。ロランには辺境の菓子、エクレールには工芸品、アリーシャには珍しい装飾品だ」
「わぁ……ありがとうございます」
「嬉しいです……!」
「私にまで……ハイラル様、ありがとうございます!」
「いや、気にしないでくれ」
三人の皇子は笑顔になる。アリーシャはその様子を見てホッとした。
「ところで兄さん、今度僕たち四人で手作り料理を持ち寄った食事会を開こうと思うんだ」
「何?」
「あの……ハイラル兄さんに頼まれていたフィールドキッチンが完成したから、そのお祝いも兼ねて……どうかな?」
「何、それは本当か、エクレール!?素晴らしい!ああ、ぜひ開催しよう!」
「……うん。それで、フィールドキッチンが完成したのは、アリーシャのおかげでもあるんだ……」
「そうなのか?」
「アリーシャが支えてくれなかったら、今頃まだ完成してなかったと思う……」
「そうか……アリーシャ、本当によく頑張ったな。さすがは俺の未来の妻だ」
ハイラルがアリーシャの頭を撫でる。するとロランとエクレールが血相を変えて割って入ってきた。
「違うよ、兄さん! アリーシャと結婚するのは僕だ!」
「……ボクだって、諦めてない……ボクがアリーシャをお嫁さんにするんだ……」
「ほう……お前たちも俺がいない間に随分アリーシャと仲良くなったようだな。だがアリーシャを妻にするのはこの俺だ。なんといっても長男で第一皇子だからな」
「そんなの関係ないさ。兄上は確かに強いけど、女性を幸福にするのは力とは限らないからね。女性の口説き方すら知らない兄上に負ける気はしないよ」
「そうだよ、ハイラル兄さん……アリーシャはボクが幸せにしたい……ボクの方が兄さんたちの十倍はアリーシャを愛してる……!」
「ふっ、面白いな。いいだろう、そこまで言うのなら勝負するか? 誰がアリーシャにふさわしい男か……」
「望むところだよ。受けて立つ」
「……ボクも……!」
「今度の食事会で誰が一番アリーシャを満足させられるか、競い合おうじゃないか!」
「望むところだよ」
「……ボクだって……!」
「ははっ……いいね……!」
ロランとエクレール、それにハイラルは笑い合う。
「えっ、えぇぇぇぇっ!?」
こうしてなぜか、食事会は三人の皇子によるアリーシャを巡った勝負になってしまったのだった。
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