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一章
十一話 結婚相手を決める事になりました
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「ふむ、どうやら皇子たちも乗り気のようだな。後はアリーシャの気持ち次第だ。……とはいえ、アリーシャは三人の皇子たちを長らく同一人物だと思っていたのだろう。今すぐ誰か一人に決めろというのは、酷というものだ。アリーシャのおかげで余はこうして持ち直した。次の皇帝を決めるまで猶予が出来たと言えるだろう。だから、ここに宣言しよう!」
皇帝は玉座に座ったまま、片腕を掲げると声高らかに宣言する。
「猶予は一年! アリーシャは一年後に三皇子の誰かを夫として選んでほしい! そして、アリーシャが選んだ相手を次のアストラ帝国の皇位を譲ろう!!」
「えええええええええっ!?」
その皇帝の言葉には、アリーシャだけでなく三人の皇子も驚愕を示した。
「父上、本気ですか!?」
「本気だとも。余はアリーシャのおかげで持ち直した。アリーシャは真の聖女で、アストラ帝国の恩人だ」
「それは確かにそうですが……」
「聖女とは女神の現身であるとも伝えられる。……ハイラル、ロラン、エクレール。お前たちはそれぞれ異なる才能と支持基盤を持っている。だからこそ、現時点ではどの皇子も決定打に欠ける。お前たちの誰が皇帝になったとしても、アストラ帝国は発展するだろう。しかし発展の形が変わる。故に余はお前たちの誰を後継者にするか決められなかった。だが聖女アリーシャを妃に迎えた皇子は、頭一つ分突き抜けるであろう。そして聖女が選んだ者こそが、最も良い形で帝国を繁栄させてくれるであろう」
「し、しかし……」
「もちろん、余も可能な限りサポートするつもりだ。だが、余は退位した後は隠居生活に入るつもりだ。つまり、これからは余の息子たちの時代となるわけだ」
「父さん……」
「アリーシャよ、ハイラルは軍事、ロランは政治、エクレールは技術分野を得意とする皇子だ。どの皇子が次の皇帝になるかによって、アストラ帝国の発展の形は変わるだろう。これから一年、三人の皇子と交流を通して、誰を選ぶか決めてほしい。頼んだぞ」
皇帝はアリーシャを見つめると、穏やかに微笑んだ。
一方、アリーシャの頭は真っ白になっていた。
それも当然である。いきなり結婚話を持ち掛けられた上に、アリーシャの選択がアストラ帝国の未来を左右する事になってしまったのだから……。
(た、ただでさえ初恋の男の子が誰だったか分からないのに……責任重大すぎるよ!?)
しかし皇帝と三人の皇子は、アリーシャが固まっている間に話を進めてしまった。困った事にアリーシャ以外の全員が乗り気のようである。
「さて、話は以上だ。息子たちよ、アリーシャの事はよろしく頼むぞ」
「はい!」
「もちろんです!」
「うん……頑張る」
こうしてアリーシャは、三人の皇子のうちの誰かと結婚する事になってしまった。
まさかこんな展開になると思っていなかったから、アリーシャは混乱する。
だが、三人の皇子の事が嫌かというと、そうではない。
むしろ三人の皇子が三人一役を演じていた『お屋敷の男の子』は、アリーシャにとって初恋の相手だ。
初恋相手と結婚する――それは夢のような話である。
そして『お屋敷の男の子』は、アストラ帝国の皇子に相応しい立派な青年に成長していた。
結婚を拒む理由はない。ただ、一人だと思っていた相手が実は三人だったのが大問題なのだ。
さらにアリーシャの選んだ相手が次期皇帝に決まるという。個人の好き嫌いでは片付けられない、大きな問題だ。
「ま、待ってください、いきなりそんな事を言われても……そうです! 十年前、お屋敷が燃え落ちる前の夜に、私に会いに来てくれたのはどなたなんですか!?」
「え?」
「あの火事の前夜、星の美しい夜に会いに来てくれた男の子は誰だったんでしょうか? あの夜に交わした約束と、渡して頂いた指輪が私にとって大きな心の支えとなったんです。それが分かれば、私は――」
しかしアリーシャの言葉に、三人とも気まずそうな顔をする。
一体どうしたというのだろう。タイミング的に入れ替わる時間はなかった筈だ。だからあの夜に会った少年は、三人のうちの誰か一人に間違いはないのだが――。
「そのような思い出があったのか、アリーシャよ。だが残念ながら、息子たちはその件について覚えておらんだろう」
「えっ、なぜですか!?」
「元老院派閥の残党は屋敷に火を放ち、息子たちを暗殺しようとした。屋敷にいた使用人がすぐに連れ出し逃げてくれたが、激しい追討戦が行われてな。三人とも怪我を負い、崖から落ちた」
「そ、そんな大事になっていたのですか!?」
「幸い救援の兵たちが残党を駆逐し、息子たちを救助してくれたが、しばらく怪我とショックによる高熱で三人とも寝込んでいたのだ。……そして意識を取り戻すと、屋敷が襲われる前後数日間の記憶が、綺麗さっぱり抜け落ちてしまっていたのだ」
「ああ……なんて事でしょう。ですが、皆様無事で良かった……」
あの男の子が誰なのか分からないショックはあるが、それ以上に三人とも無事で良かったと心から思う。まさかそれほどの大事に発展していたとは知らなかったから、彼らのうちの誰か一人があの夜の出来事を忘れてしまっても仕方がないと納得できた。
「ごめんねアリーシャ、そういう事だから、アリーシャの語る男の子が誰だったのか僕たちも分からないんだ」
「すまんな。俺であればいいと思うのだが、覚えていない事を俺だったと言うわけにはいかない」
「うん……しょうがないよ、しょうがない……ごめん、アリーシャ」
「い、いえ、お気になさらないでください。でも、そうなると、今の段階で誰か一人を選ぶのは難しいかと……」
あの夜の男の子が、たとえばハイラルだったらハイラルと付き合おうと思ったかもしれない。しかし誰だったのか分からない以上、誰と付き合えばいいのか本気で分からない。まさか三人同時に付き合うわけにもいかないだろう。
「うむ、だからこそ一年の猶予だ。一年の間、この宮殿で皇子たちと共に過ごしてほしい。さすれば一年後には違いの事がよく分かり、自然のうちに誰と結婚したか気持ちが固まってくるだろう。もしかすると皇子たちの記憶が蘇り、十年前の夜の記憶を取り戻すかもしれない」
「は、はあ……確かに、そうかもしれませんけど……」
「というわけだ。アリーシャよ、これから一年、宮殿で自由に過ごしてくれ。そして皇子たちよ、アリーシャに選ばれるよう励むのだぞ!」
「はい、父上!!」
「分かったよ、父さん」
「……頑張るよ、父さん」
いよいよ逃げられない状況が出来上がってしまった。
皇帝陛下はもちろん、ハイラル、ロラン、エクレールの三人も大いに乗り気の様子だ。
三者三葉に情熱的な眼差しをアリーシャに向けている。
とんでもない事態に巻き込まれたアリーシャは、心の中で叫ぶのだった……。
***
そして、その日から三人の皇子による猛烈なアプローチが始まった。
「アリーシャと最初に会ったのは僕さ。アリーシャ、君も覚えているね? 君が八歳で、僕が十歳の時。魔物に襲われ怪我した僕を見つけた君が、聖女の持つ癒しの力で治してくれたんだ」
「は、はい、覚えてますが……」
「あの時から僕はアリーシャのことが好きだった。そしていつか、君と結婚したいと思っていたんだ」
「は、はあ……」
アリーシャが『お屋敷の男の子』と出会ったのは、十年前の春。
村の近くの森で、魔物に襲われてケガをした男の子を助けたのがきっかけだった。
そして男の子の傷を治した事で、アリーシャは初めて自分に聖女適性があるのだと気付いた。
「あれから時が流れ、ようやく僕はアリーシャを迎えられるようになったんだ。だからアリーシャ、僕の妃になってほしい」
「い、いえ、ですから私は……」
「待て、ロラン。まるでアリーシャとの思い出はすべて自分のものだと言いたげだな。だが違うぞ。村の川で溺れかけていたアリーシャを助けたのは俺だ」
ロランの次には、ハイラルが間に割って入ってきた。アリーシャは当時の出来事を思い出す。確かに川に落ちて男の子に助けてもらった思い出がある。
「えぇっ!? あ、あの時の男の子はハイラル様だったのですか!?」
「ああそうだ。アリーシャは愛らしかったな。助けたときは真っ赤な顔をして恥ずかしがっていた」
「だ、だってあの時は人工呼きゅ――……っ!」
はっと口を噤む。そうだ、あの時は溺れかけて意識を失って、気がついたら『お屋敷の男の子』に人工呼吸されていた。
すごくドキドキしたのを、今でもよく覚えている。あれはハイラルだったのか。
「二人ともずるいな……ボクだってアリーシャとは思い出がある……アリーシャ、覚えているかな? 二人で一緒に村の近くの花畑へ遊びに行ったのを……」
今度はエクレールだ。音もなくぬうっとアリーシャの背後から現れると、上目遣いにアリーシャを見る。
「は、はい、もちろん覚えています。あの時、花冠を作ってくださいましたね。あの時の子はエクレール様だったのですか?」
「うん、そうだよ……アリーシャが可愛くて、ずっと一緒に居たいと思った……覚えていてくれて、嬉しいな……」
『お屋敷の男の子』は手先が器用で、花冠や首飾りなどを作るとアリーシャにプレゼントしてくれた。
当時は貧しい村の暮らしで、アクセサリーなど身に着けた事のないアリーシャにとって、とても大切な宝物だった。
「私、とっても嬉しくって……ずっと大事にしていたんですよ。大切な宝物です」
「ボクもだよ……アリーシャ……君の事を、ずっとずっと大切にするよ……」
「ありがとうございます。でも、あの、そういうのはまだちょっと早いというか……もっとお互いの事を知ってからの方が……」
「え……そう……?」
「はい――今の会話で確信しましたけど、私はやっぱり皆様と面識があるようです。ハイラル様にもロラン様にもエクレール様にも大切な思い出があります。だからこそ、今すぐ答えを出す事はできません」
「ふむ、確かにその通りだな。まずは互いに知る事が大事だ」
ハイラルが納得すると、ロランとエクレールも同意した。
「僕も賛成だ。今すぐ結論を出しても仕方がない」
「うん……ボクも同意見」
「――という訳で、これからも遠慮なくアタックさせてもらう。覚悟しておくんだぞ、アリーシャ」
「は、はあ……」
三人の皇子は自信満々だ。アリーシャは困惑しながらも、この先どうなるのだろうと不安でいっぱいだった。
皇帝は玉座に座ったまま、片腕を掲げると声高らかに宣言する。
「猶予は一年! アリーシャは一年後に三皇子の誰かを夫として選んでほしい! そして、アリーシャが選んだ相手を次のアストラ帝国の皇位を譲ろう!!」
「えええええええええっ!?」
その皇帝の言葉には、アリーシャだけでなく三人の皇子も驚愕を示した。
「父上、本気ですか!?」
「本気だとも。余はアリーシャのおかげで持ち直した。アリーシャは真の聖女で、アストラ帝国の恩人だ」
「それは確かにそうですが……」
「聖女とは女神の現身であるとも伝えられる。……ハイラル、ロラン、エクレール。お前たちはそれぞれ異なる才能と支持基盤を持っている。だからこそ、現時点ではどの皇子も決定打に欠ける。お前たちの誰が皇帝になったとしても、アストラ帝国は発展するだろう。しかし発展の形が変わる。故に余はお前たちの誰を後継者にするか決められなかった。だが聖女アリーシャを妃に迎えた皇子は、頭一つ分突き抜けるであろう。そして聖女が選んだ者こそが、最も良い形で帝国を繁栄させてくれるであろう」
「し、しかし……」
「もちろん、余も可能な限りサポートするつもりだ。だが、余は退位した後は隠居生活に入るつもりだ。つまり、これからは余の息子たちの時代となるわけだ」
「父さん……」
「アリーシャよ、ハイラルは軍事、ロランは政治、エクレールは技術分野を得意とする皇子だ。どの皇子が次の皇帝になるかによって、アストラ帝国の発展の形は変わるだろう。これから一年、三人の皇子と交流を通して、誰を選ぶか決めてほしい。頼んだぞ」
皇帝はアリーシャを見つめると、穏やかに微笑んだ。
一方、アリーシャの頭は真っ白になっていた。
それも当然である。いきなり結婚話を持ち掛けられた上に、アリーシャの選択がアストラ帝国の未来を左右する事になってしまったのだから……。
(た、ただでさえ初恋の男の子が誰だったか分からないのに……責任重大すぎるよ!?)
しかし皇帝と三人の皇子は、アリーシャが固まっている間に話を進めてしまった。困った事にアリーシャ以外の全員が乗り気のようである。
「さて、話は以上だ。息子たちよ、アリーシャの事はよろしく頼むぞ」
「はい!」
「もちろんです!」
「うん……頑張る」
こうしてアリーシャは、三人の皇子のうちの誰かと結婚する事になってしまった。
まさかこんな展開になると思っていなかったから、アリーシャは混乱する。
だが、三人の皇子の事が嫌かというと、そうではない。
むしろ三人の皇子が三人一役を演じていた『お屋敷の男の子』は、アリーシャにとって初恋の相手だ。
初恋相手と結婚する――それは夢のような話である。
そして『お屋敷の男の子』は、アストラ帝国の皇子に相応しい立派な青年に成長していた。
結婚を拒む理由はない。ただ、一人だと思っていた相手が実は三人だったのが大問題なのだ。
さらにアリーシャの選んだ相手が次期皇帝に決まるという。個人の好き嫌いでは片付けられない、大きな問題だ。
「ま、待ってください、いきなりそんな事を言われても……そうです! 十年前、お屋敷が燃え落ちる前の夜に、私に会いに来てくれたのはどなたなんですか!?」
「え?」
「あの火事の前夜、星の美しい夜に会いに来てくれた男の子は誰だったんでしょうか? あの夜に交わした約束と、渡して頂いた指輪が私にとって大きな心の支えとなったんです。それが分かれば、私は――」
しかしアリーシャの言葉に、三人とも気まずそうな顔をする。
一体どうしたというのだろう。タイミング的に入れ替わる時間はなかった筈だ。だからあの夜に会った少年は、三人のうちの誰か一人に間違いはないのだが――。
「そのような思い出があったのか、アリーシャよ。だが残念ながら、息子たちはその件について覚えておらんだろう」
「えっ、なぜですか!?」
「元老院派閥の残党は屋敷に火を放ち、息子たちを暗殺しようとした。屋敷にいた使用人がすぐに連れ出し逃げてくれたが、激しい追討戦が行われてな。三人とも怪我を負い、崖から落ちた」
「そ、そんな大事になっていたのですか!?」
「幸い救援の兵たちが残党を駆逐し、息子たちを救助してくれたが、しばらく怪我とショックによる高熱で三人とも寝込んでいたのだ。……そして意識を取り戻すと、屋敷が襲われる前後数日間の記憶が、綺麗さっぱり抜け落ちてしまっていたのだ」
「ああ……なんて事でしょう。ですが、皆様無事で良かった……」
あの男の子が誰なのか分からないショックはあるが、それ以上に三人とも無事で良かったと心から思う。まさかそれほどの大事に発展していたとは知らなかったから、彼らのうちの誰か一人があの夜の出来事を忘れてしまっても仕方がないと納得できた。
「ごめんねアリーシャ、そういう事だから、アリーシャの語る男の子が誰だったのか僕たちも分からないんだ」
「すまんな。俺であればいいと思うのだが、覚えていない事を俺だったと言うわけにはいかない」
「うん……しょうがないよ、しょうがない……ごめん、アリーシャ」
「い、いえ、お気になさらないでください。でも、そうなると、今の段階で誰か一人を選ぶのは難しいかと……」
あの夜の男の子が、たとえばハイラルだったらハイラルと付き合おうと思ったかもしれない。しかし誰だったのか分からない以上、誰と付き合えばいいのか本気で分からない。まさか三人同時に付き合うわけにもいかないだろう。
「うむ、だからこそ一年の猶予だ。一年の間、この宮殿で皇子たちと共に過ごしてほしい。さすれば一年後には違いの事がよく分かり、自然のうちに誰と結婚したか気持ちが固まってくるだろう。もしかすると皇子たちの記憶が蘇り、十年前の夜の記憶を取り戻すかもしれない」
「は、はあ……確かに、そうかもしれませんけど……」
「というわけだ。アリーシャよ、これから一年、宮殿で自由に過ごしてくれ。そして皇子たちよ、アリーシャに選ばれるよう励むのだぞ!」
「はい、父上!!」
「分かったよ、父さん」
「……頑張るよ、父さん」
いよいよ逃げられない状況が出来上がってしまった。
皇帝陛下はもちろん、ハイラル、ロラン、エクレールの三人も大いに乗り気の様子だ。
三者三葉に情熱的な眼差しをアリーシャに向けている。
とんでもない事態に巻き込まれたアリーシャは、心の中で叫ぶのだった……。
***
そして、その日から三人の皇子による猛烈なアプローチが始まった。
「アリーシャと最初に会ったのは僕さ。アリーシャ、君も覚えているね? 君が八歳で、僕が十歳の時。魔物に襲われ怪我した僕を見つけた君が、聖女の持つ癒しの力で治してくれたんだ」
「は、はい、覚えてますが……」
「あの時から僕はアリーシャのことが好きだった。そしていつか、君と結婚したいと思っていたんだ」
「は、はあ……」
アリーシャが『お屋敷の男の子』と出会ったのは、十年前の春。
村の近くの森で、魔物に襲われてケガをした男の子を助けたのがきっかけだった。
そして男の子の傷を治した事で、アリーシャは初めて自分に聖女適性があるのだと気付いた。
「あれから時が流れ、ようやく僕はアリーシャを迎えられるようになったんだ。だからアリーシャ、僕の妃になってほしい」
「い、いえ、ですから私は……」
「待て、ロラン。まるでアリーシャとの思い出はすべて自分のものだと言いたげだな。だが違うぞ。村の川で溺れかけていたアリーシャを助けたのは俺だ」
ロランの次には、ハイラルが間に割って入ってきた。アリーシャは当時の出来事を思い出す。確かに川に落ちて男の子に助けてもらった思い出がある。
「えぇっ!? あ、あの時の男の子はハイラル様だったのですか!?」
「ああそうだ。アリーシャは愛らしかったな。助けたときは真っ赤な顔をして恥ずかしがっていた」
「だ、だってあの時は人工呼きゅ――……っ!」
はっと口を噤む。そうだ、あの時は溺れかけて意識を失って、気がついたら『お屋敷の男の子』に人工呼吸されていた。
すごくドキドキしたのを、今でもよく覚えている。あれはハイラルだったのか。
「二人ともずるいな……ボクだってアリーシャとは思い出がある……アリーシャ、覚えているかな? 二人で一緒に村の近くの花畑へ遊びに行ったのを……」
今度はエクレールだ。音もなくぬうっとアリーシャの背後から現れると、上目遣いにアリーシャを見る。
「は、はい、もちろん覚えています。あの時、花冠を作ってくださいましたね。あの時の子はエクレール様だったのですか?」
「うん、そうだよ……アリーシャが可愛くて、ずっと一緒に居たいと思った……覚えていてくれて、嬉しいな……」
『お屋敷の男の子』は手先が器用で、花冠や首飾りなどを作るとアリーシャにプレゼントしてくれた。
当時は貧しい村の暮らしで、アクセサリーなど身に着けた事のないアリーシャにとって、とても大切な宝物だった。
「私、とっても嬉しくって……ずっと大事にしていたんですよ。大切な宝物です」
「ボクもだよ……アリーシャ……君の事を、ずっとずっと大切にするよ……」
「ありがとうございます。でも、あの、そういうのはまだちょっと早いというか……もっとお互いの事を知ってからの方が……」
「え……そう……?」
「はい――今の会話で確信しましたけど、私はやっぱり皆様と面識があるようです。ハイラル様にもロラン様にもエクレール様にも大切な思い出があります。だからこそ、今すぐ答えを出す事はできません」
「ふむ、確かにその通りだな。まずは互いに知る事が大事だ」
ハイラルが納得すると、ロランとエクレールも同意した。
「僕も賛成だ。今すぐ結論を出しても仕方がない」
「うん……ボクも同意見」
「――という訳で、これからも遠慮なくアタックさせてもらう。覚悟しておくんだぞ、アリーシャ」
「は、はあ……」
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