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一章

九話 三つ子の皇子と城下町へ

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 朝食が終わると、アリーシャは三人に連れられて城下町にやってきた。
 アストラ帝国の帝都城下町は、活気に満ち溢れている。石畳の大通りには屋台が立ち並び、人々は笑顔で買い物をしている。店先からは威勢の良い声が飛び交っていた。
 
「うわぁ、すごいですね!」
 
 神殿とは別世界のような活気に満ち溢れている。人々は忙しそうに動き回り、中には異国の服を着て歩いている人もいる。
 
「あれは何を売っているんですか?」
 
 ある屋台が、白くてフワフワの雲のような物を売っている。購入者は食べているから、どうやら食べ物のようだ。
 気になったアリーシャが興味津々で尋ねると、隣にいたエクレールが答えてくれた。

「あれは綿菓子というお菓子だよ……」
「わたがし?」
 
 聞いたことのない名前だ。一体どんなものだろう? 気になって仕方がない。すると、見かねたエクレールが尋ねてくる。
 
「食べてみたい?」
「え、ええ、そうですね……」
「じゃあ、買ってきてあげる……」
「あっ、エクレール様!」
 
 呼び止めるアリーシャの声を聞かず、エクレールは店に向かうと店主に声をかけた。
 
「すみません……これ二個ちょうだい」
「はい! 大きさはどうなさいますか?」
「えっと、一番大きいのでお願いします……」
「了解しました!」
 
 しばらくして戻ってきたエクレールの手には、大きな綿菓子が二つ握られていた。
 
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます……!」
 
 アリーシャは手の中の綿菓子をまじまじと見つめる。
 白くて柔らかくて、まるで空に浮かぶ雲のようだ。本当に食べられるのだろうか。でもエクレールに買ってもらった手前、食べないわけにはいかない。
 思い切って口に入れてみると、ふわっとした触感と甘味が口の中に広がった。アリーシャは目を見開く。とても美味しい。
 
「なんですか、このお菓子……すごくおいしいです!」
「……ふふ、良かった」
 
 エクレールは目を細めて喜んだ。彼も自分の綿菓子を口に入れる。
 
「……うん、甘くておいしいね。アリーシャ」
「はい!」
 
 二人は仲良く綿菓子を食べながら通りを歩いていく。すると、ハイラルが話しかけてきた。
 
「アリーシャ、喉が渇かないか?」
「えっ?」
 
 確かに言われてみると、甘い綿菓子を食べたせいで少し喉が乾いてきた。
 
「何か飲みに行かないか?」
「あ、はい」
 
 四人は近くの広場にある噴水までやってきた。そこでロランは立ち止まると、広場の中央に出ている屋台を指差した。
 
「あそこの屋台では、南国の果物を使ったジュースや紅茶、ハーブティーを出しているんだ。せっかくだしあれにしないかい?」
「はい! 行ってみたいです」
 
 アリーシャの言葉を聞いて、ロランは嬉しそうに笑うと、アリーシャの手を引いて歩き出した。
 
「ハイラル兄さん、ボクたちも行こう……」
「ああ」
 
 残された二人は並んで後を追いかけた。
 
「わあっ、すごい……!パイナップルにココナッツにマンゴー……この辺りでは珍しい果物ばかりですね」
「気に入ったのがあれば好きなだけ飲むといい」
「それはさすがに……うーん、よしっ、決めました!」
 
 アリーシャはココナッツジュースを選んだ。爽やかな甘みが絶妙な味わいだ。
 
「美味しいです!」
「それはよかった」
 
 次にアリーシャは紅茶を選ぶことにした。店員からポットを受け取り、カップに注ぐ。
 湯気とともに茶葉の芳しい香りが広がる。アリーシャはゆっくりと口をつけた。
 
「……これも、美味しい」
「あはは、それはよかったよ」
 
 普段飲んでいるお茶とは全然違う。アリーシャは思わず頬を緩めた。その様子を見ていたロランは満足げに笑った。
 

***
 

 その後、三人は街中を見て回ったり露店で買い物をしたりして楽しんだ。そして夕方になると城に戻る事になる。
 
「名残惜しいかい、アリーシャ?」
「はい……もっと色んなところを見て回りたいですけど、ワガママは言えませんものね」
 
 アリーシャは初めて訪れた町に興味津々で、もっと遊びたかった。
 しかし皇子たちも忙しい中付き合ってくれたのだ。困らせるわけにはいかない。
 
「いいんだよ、また今度来ればいい」
「そうだな、これから時間はいくらでもあるからな」
「うん……いつでも気軽に誘って欲しい……」
「皆さん……ありがとうございます」
 
 三人はアリーシャに優しく微笑んでくれる。アリーシャはその優しさに感謝した。
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