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一章

七話 宮殿の大浴場

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 食事が終わるとロランたちは退室していった。
 ようやく緊張から解放されたアリーシャは大きく息をつく。
 
(本当に楽しかったな……)
 
 普段は質素倹約をモットーとしているので、宮廷の豪華な食事は刺激的だった。
 お酒もおいしかった。こんなに素晴らしいひと時を過ごしたのは、本当に久しぶりだ。
 アリーシャはすっかり満足して、気が緩んでいた。
 すると、背後から突然声をかけられる。
 
「アリーシャ様」
「ひゃいっ!? ……あ、リリアナさんっ」
「湯浴みの用意ができましたので、ご案内致します」
「湯浴み? お風呂って事ですか?」
「はい。名付けて『アリーシャ様大歓迎! お肌ピチピチ玉の湯』でございます」
「あ、あははは……リリアナさんってば、相変わらず面白いなあ……」
「では参りましょう」
「は、はい」
 
 アリーシャはリリアナに連れられ、浴場に向かった。やたらと広い脱衣所で服を脱がされる。

(脱衣所だけで私が暮らしていた部屋よりずっと広い……)

 だが浴室に入ると、ますます驚かされる事になった。
 脱衣所よりも遥かに広いスペース。目の前には広々とした大理石の空間が広がっていた。
 奥にある浴槽には、温かな湯気を放つお湯が並々と張られている。
 そしてお湯にはハーブや花が浮かべられ、良い香りを漂わせている。
 
「うわぁ……すごい……」
「こちらにお座りください」
 
 服を脱いだアリーシャは、リリアナに洗い場の椅子に座るよう促された。
 大人しく従う。するとリリアナは石鹸を手に取り泡立てると、アリーシャの背中を洗い始めた。
 
「えっと、リリアナさん?」
「失礼いたします。アリーシャ様の身体をお流しさせていただきます」
「えっ? いえ、そんな……自分でできますから……!」
「遠慮なさらずに」
「うぅ……じゃあ、お願いします」
「はい」
 
 リリアナに洗われているうちに、だんだんと緊張が解けてきた。
 さすが宮廷侍女だけあって、手つきが丁寧で気持ちがいい。
 背中だけではなく髪も洗ってもらう。
 宮殿で使われている高級石鹸で洗われた後は、髪質を良くするオイルを塗りこんでもらう。
 
「アリーシャ様の髪は絹糸のように繊細で美しいです」
「そうでしょうか? リリアナさんの黒髪の方が綺麗だと思うけど……」
「恐れ入ります。それでは、お背中以外も洗いましょう」
「ええっ!? いやあのっ……他はいいですからっ……」
「そう仰らないでください。さあ、タオルを取って……」
「うう……」
 
 結局アリーシャは、全身くまなくピカピカになるまで磨かれてしまった。
 それだけに留まらない。全身をマッサージオイルで解してもらう。おかげで連日の激務でひどかった肩こりや腰痛が一気に解消する。
 さらに化粧水や乳液、美容液でスキンケアされる。これまでカサカサだった肌に潤いが浸透していった。
 
「お疲れ様でございました」
「もうへとへとです……」
 
 すっかり疲労困憊のアリーシャは、すぐに着替えさせられベッドに押し込まれた。
 天蓋付きのベッドは想像していた以上にフカフカだった。
 シルクのネグリジェはサラサラした肌触りで、とても気持ちいい。

(うう……眠くなってきた……)

 瞼が重い。さっきまで興奮して眠れなかったのに、今は睡魔が襲ってきている。
 意識が遠のく。
 今日一日でとんでもない事が色々あった。
 もう起き上がる気力はなく、アリーシャは結局そのまま眠ってしまった。
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