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最終章
第五十話 多次元戦争─後─
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かつてベルゼバルの世界で一つの大陸を食い尽くされる最悪の事態を招いた最大級の怪物イビルワーム。時間をかけて手懐け、最大戦力の一つとして保持していた自慢のペットである。
訳が分からなかった。ずっとラルフの動向を見ていたが、ラルフがやったのはただ手を握って拳を作っただけである。その後急にイビルワームの首が落ちた。それもこの世界の地上に落ちることなくどこかに消え去るという珍事。
「……何をした?」
さっきまで開いていたはずの歪な穴が閉じていることに気づいた。この世界を蹂躙するために必要な穴。元の世界に帰るのために必要な出入り口。
「何を?そんなこと言わずともだいたい察してるんだろ?こいつが俺の能力だってな」
ラルフが握り拳を開くと、歪な穴から一転綺麗な正円を描いた穴が開いた。その向こう側は狼狽する虫魔人たちの姿があった。ベルゼバルの背筋に冷たいものが流れる。次元の穴を自由に開け閉め出来る力。そんな能力が仮に存在したとしたら、イビルワームの無理矢理入ろうとした首を切断することが出来るかもしれない。
本来のドアや窓は蝶番になっていたり、サッシで互い違いになっているもので、巨大金庫のような重量のあるものなら指や腕の切断はあるのかもしれないが、大抵は挟まれて骨折か内出血程度で済むものだ。
しかし空間はこうはいかない。消失はすなわち切断。物理の介在し得ない最強の力。これに敢えて名を付けるのだとしたら”空間断”となる。
「なるほど……そうかラルフ。貴様がまとめ役である理由が分かったぞ。全くなんて奴だ……こんなとんでもない能力を隠し持ち、油断したところをバッサリか?随分と抜け目のない男よ」
ベルゼバルはラルフへの警戒を一気に引き上げる。もし万が一にも空間の亀裂に肉体を突っ込んだが最後、綺麗に切り取られてしまう。イビルワームほど巨大な怪物を瞬時に切断したことからも防ぐことは不可能である。
「とはいえ、それを我に見せつけたのは失敗だったな。貴様の攻撃方法は分かった。どれほど強かろうが当たらなければ意味がない。そして……」
右手に体から溢れ出るオーラを纏わせる。薫る煙のようなオーラは次第に凝固し、いくつもの小さな玉を形成した。玉は倍々に増えていき、やがて夥しい数へと変貌する。手の先が見えなくなるほど玉が寄り集まり、忙しなく流動している。
「え?何だ?」
「玉の集合体?」
ラルフとミーシャは不思議な光景に目を奪われる。ランダムに動き回っているように見えて実は規則性があり、それが凄まじい速さで移動し続けている。
「ふははっ!面白いだろう?これは我が発明した究極の技。玉の一つ一つが超振動で動き回り、触れたものを分解し消滅させる。これを受けたものは皆消滅した。貴様もそうなる……」
ギラリと光る目。ベルゼバルはラルフを殺そうと必死だった。ミーシャに振り向いてもらうためにはまずはラルフが死ななければならないから。
「マジかよ怖っ……でも何で俺にその力の威力を教えたんだ?そんなことしたら自分を危険にさせるだけじゃないか」
「これは礼儀だ。貴様の最大の力をこの目にし、我が優位に立った。そこを突いて殺すのは簡単だが、情けをかけられているようで気に食わん。貴様も我が術を知っていれば同じ位置に立っているも同じこと」
「騎士道精神ってことか?以外に古風な奴だな」
「卑怯で勝っては男が廃る。正々堂々貴様を殺し、ミーシャを我がいただく」
ブォッ──
玉を纏わせた右腕を突き出して突っ込んでくる。速い。咄嗟にミーシャは魔障壁を展開するが、玉に触れた瞬間に分解され、障壁の意味を為さない。そのままラルフに突っ込んでいき、ラルフの腹の辺りに突き刺さった。
「終わった……」
ベルゼバルは心の底から勝利を悟り、今後のことを幻視する。ミーシャが自身に土下座し、ベルゼバルの思った通りにことが進む。逆らうものを全てこの能力で消滅させ、残ったものを慈しむ。元の世界での攻略法である。
「果たしてそれはどうかな?」
ラルフはニヤリと笑った。
ゾワァッ……
本来であれば原子分解が起こるはずの攻撃で姿形を保つなど、それは最早生き物という概念を超越している。
ならラルフはどうか。玉に触れたら終わりの攻撃が腹に刺さっている。消滅は免れないはず。
力こそ全て、逆らうものは皆敵であるという理論は、自身に都合の良いことだけを採用してしまう。それは詰まる所様々な可能性の否定。最強の力という成功体験に身を委ね、命を失うのはこの世界の魔王たちが経験してきた敗北条件である。
──ズッ
そこでようやく気づいた。ベルゼバルの攻撃はラルフに当たったように見えてタイミングよく開けられた異次元の穴に右手を突っ込んだだけなのだと。そしてその自慢の攻撃が背中から入って自身を消滅に導いているのも……。
「き、貴様……っ!?」
削れた内臓。口から大量の血を吐き出しながらラルフの名を呼ぶ。だがゴボゴボと自身の血に溺れながら紡いだために何を言っているのか自分でもよく分からなかった。
「これで終わりだ。ベルゼバル」
薄れゆく意識の中で首が飛んだのが分かった。空間断を使用されたのだろう。
初めての負けは死に直結していた。
訳が分からなかった。ずっとラルフの動向を見ていたが、ラルフがやったのはただ手を握って拳を作っただけである。その後急にイビルワームの首が落ちた。それもこの世界の地上に落ちることなくどこかに消え去るという珍事。
「……何をした?」
さっきまで開いていたはずの歪な穴が閉じていることに気づいた。この世界を蹂躙するために必要な穴。元の世界に帰るのために必要な出入り口。
「何を?そんなこと言わずともだいたい察してるんだろ?こいつが俺の能力だってな」
ラルフが握り拳を開くと、歪な穴から一転綺麗な正円を描いた穴が開いた。その向こう側は狼狽する虫魔人たちの姿があった。ベルゼバルの背筋に冷たいものが流れる。次元の穴を自由に開け閉め出来る力。そんな能力が仮に存在したとしたら、イビルワームの無理矢理入ろうとした首を切断することが出来るかもしれない。
本来のドアや窓は蝶番になっていたり、サッシで互い違いになっているもので、巨大金庫のような重量のあるものなら指や腕の切断はあるのかもしれないが、大抵は挟まれて骨折か内出血程度で済むものだ。
しかし空間はこうはいかない。消失はすなわち切断。物理の介在し得ない最強の力。これに敢えて名を付けるのだとしたら”空間断”となる。
「なるほど……そうかラルフ。貴様がまとめ役である理由が分かったぞ。全くなんて奴だ……こんなとんでもない能力を隠し持ち、油断したところをバッサリか?随分と抜け目のない男よ」
ベルゼバルはラルフへの警戒を一気に引き上げる。もし万が一にも空間の亀裂に肉体を突っ込んだが最後、綺麗に切り取られてしまう。イビルワームほど巨大な怪物を瞬時に切断したことからも防ぐことは不可能である。
「とはいえ、それを我に見せつけたのは失敗だったな。貴様の攻撃方法は分かった。どれほど強かろうが当たらなければ意味がない。そして……」
右手に体から溢れ出るオーラを纏わせる。薫る煙のようなオーラは次第に凝固し、いくつもの小さな玉を形成した。玉は倍々に増えていき、やがて夥しい数へと変貌する。手の先が見えなくなるほど玉が寄り集まり、忙しなく流動している。
「え?何だ?」
「玉の集合体?」
ラルフとミーシャは不思議な光景に目を奪われる。ランダムに動き回っているように見えて実は規則性があり、それが凄まじい速さで移動し続けている。
「ふははっ!面白いだろう?これは我が発明した究極の技。玉の一つ一つが超振動で動き回り、触れたものを分解し消滅させる。これを受けたものは皆消滅した。貴様もそうなる……」
ギラリと光る目。ベルゼバルはラルフを殺そうと必死だった。ミーシャに振り向いてもらうためにはまずはラルフが死ななければならないから。
「マジかよ怖っ……でも何で俺にその力の威力を教えたんだ?そんなことしたら自分を危険にさせるだけじゃないか」
「これは礼儀だ。貴様の最大の力をこの目にし、我が優位に立った。そこを突いて殺すのは簡単だが、情けをかけられているようで気に食わん。貴様も我が術を知っていれば同じ位置に立っているも同じこと」
「騎士道精神ってことか?以外に古風な奴だな」
「卑怯で勝っては男が廃る。正々堂々貴様を殺し、ミーシャを我がいただく」
ブォッ──
玉を纏わせた右腕を突き出して突っ込んでくる。速い。咄嗟にミーシャは魔障壁を展開するが、玉に触れた瞬間に分解され、障壁の意味を為さない。そのままラルフに突っ込んでいき、ラルフの腹の辺りに突き刺さった。
「終わった……」
ベルゼバルは心の底から勝利を悟り、今後のことを幻視する。ミーシャが自身に土下座し、ベルゼバルの思った通りにことが進む。逆らうものを全てこの能力で消滅させ、残ったものを慈しむ。元の世界での攻略法である。
「果たしてそれはどうかな?」
ラルフはニヤリと笑った。
ゾワァッ……
本来であれば原子分解が起こるはずの攻撃で姿形を保つなど、それは最早生き物という概念を超越している。
ならラルフはどうか。玉に触れたら終わりの攻撃が腹に刺さっている。消滅は免れないはず。
力こそ全て、逆らうものは皆敵であるという理論は、自身に都合の良いことだけを採用してしまう。それは詰まる所様々な可能性の否定。最強の力という成功体験に身を委ね、命を失うのはこの世界の魔王たちが経験してきた敗北条件である。
──ズッ
そこでようやく気づいた。ベルゼバルの攻撃はラルフに当たったように見えてタイミングよく開けられた異次元の穴に右手を突っ込んだだけなのだと。そしてその自慢の攻撃が背中から入って自身を消滅に導いているのも……。
「き、貴様……っ!?」
削れた内臓。口から大量の血を吐き出しながらラルフの名を呼ぶ。だがゴボゴボと自身の血に溺れながら紡いだために何を言っているのか自分でもよく分からなかった。
「これで終わりだ。ベルゼバル」
薄れゆく意識の中で首が飛んだのが分かった。空間断を使用されたのだろう。
初めての負けは死に直結していた。
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