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最終章
第三十九話 完成
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カンッカンッカンッ……
大きい。とてつもなく巨大な船。
塗装によって黒光りする表面は陽の光を浴びてキラキラと輝いている。砕いて粉にした魔鉱石とソフィーの角を自作の塗料に混ぜて外壁に塗り込んだことで、光を反射しているのだ。
戦艦として建造されたこの船は、鋼鉄の如き頑強さと備え付けられた砲筒にによって攻守ともに完璧の船としてそこに聳え立っていた。
「完成したか……」
アンノウンの召喚獣が昼夜問わず作り続けた戦艦。その前に立って感慨に浸るラルフ一行。
空中浮遊要塞スカイ・ウォーカーを失ってから少し、西の大陸で色々あったことがフラッシュバックする。
(戦っては食って寝て、戦っては食って寝て……って、碌な思い出がねぇな……)
ラルフは頭を振って思い出を吹き飛ばすと全員を見渡した。
「……アンノウンとアユムの傑作。堪能しに行くか?」
待ってましたと笑顔になる面々。
全体を見るととにかく長い。そしてデカイ。水を掻き分けて進むことを想像させる美しい流線美に魅了される。
甲板に聳える艦橋はまるでビルのようにその存在を主張する。砲塔は前方に三連装砲を二つ後方に一つ備え、副砲も二つに対空砲を一つ備えている。砲弾ではなく魔力砲を放つので魔力がある限り無限に撃ち続けることが可能。
煙突とアンテナは飾りだと聞いているが、邪魔な感じはしない。むしろこれが無いと空虚な感じがして寂しいとさえ思える。
見た目の格好良さは申し分ない。こうなると問題は中身である。アンノウンは自信があるようだ。
「まるで高級ホテルさ。遠慮せずに見てって見てって!」
子供のようにはしゃぐアンノウン。扉を開けると赤い絨毯が敷き詰められ、ふかふかの歩き心地に美術品のように美麗な内装。冷暖房から空気清浄に関する各種設備が完備され、個室がズラッと並んでいた。
スカイ・ウォーカーと違うのはトイレもバスタブも完備されているところだ。食事さえ持ち込めばこの個室だけで過ごせる。
厨房は広く、調理器具も充実していて事欠かない。ブレイドが使ったことのない器具まであるので、アンノウンか歩が後で教える必要があるだろう。食材の保管場所は冷蔵冷凍保管を可能にし、とにかく広い。
大広間もあるのでここで食事をしたり、集まって会議をしたりも出来る。スカイ・ウォーカー同様、ここで外の様子を見えるように映像を出す機能もある。艦橋に上がれば外の様子はもちろんのこと、操舵室となっているので船を操ることも出来る。アスロンが核となって自動で操舵出来るので何らかの不具合が起こらない限りは手動に変えることはあり得ない。
灰燼の発明した倫理を無視の無限動力をそのまま移乗したので魔力が尽きることはない。
「これは……戦艦なのか?」
戦う船とは思えないほど居住性に長けている。乗組員は最悪何もしなくても脅威を退けられるのだ。
アスロンはホログラムとなって誇らしげに目の前に現れた。
『魔障壁とカモフラージュ機能、何かあった時のアンチ魔法もお任せ。それもこれも外壁表面に施した砕いた魔鉱石で魔法伝達を早くしたお陰じゃ。この戦艦なら、この世界の覇権を握ったも同然。まさに史上最高の船の称号がふさわしい』
魔法技術の粋を集約させたと言って過言でない船を手足のように扱える。今までの魔法人生の冥利に尽きる。死して尚、意識体として蘇った甲斐があるというものだ。
「ふむ。今出来ル技術ノ最高峰なら、乗っ取ル分には安心出来ルし諦めもつこう。これが破壊されルならどこに行っても同じじゃとな」
「縁起悪っ!さも堕とされるような言い方はやめろよ。今後の旅の要になる船だぞ?……ったく」
ベルフィアの達観した第三者視点にケチをつけながらラルフは草臥れたハットを被り直す。
「でもまぁ、こいつが出来たってことはこの世界に別れを告げなきゃな。何かやり残したことがあるか?」
神との約束を果たす時がやって来た。ラルフとミーシャは必ずこの世界から出ていく必要があるが、他の連中は違う。今生の別れになるかも知れないなら、知り合いや親族に別れの挨拶の一つも言うべき案件。
ブレイドとアルルはそれなりに済ませた。他はどうだろうか。
エレノアは上記二人が行くならついてくるだろう。黒影はエレノアの行くところにはついてくる。
ジュリアは唯一の肉親である兄が死に、出身国であるカサブリア王国も滅亡したので帰る場所などない。デュラハン姉妹も同様に空中浮遊要塞スカイ・ウォーカーを沈没させられているので、帰る場所がなくなっていた。
アンノウンや歩、八大地獄と藤堂は異世界にルーツを持った人間なので、帰りたがっている張本人たち。
こうして見ると全員未練などなさそうではある。ウィーを除いては。
「この船には鍛冶場がないからウィーには辛い旅になるかも知れないな……」
「あるよ。何のための煙突だと思ってるの?」
アンノウンの指摘に目を丸くさせる。
「えぇ?飾りじゃなかったの?」
「私たちが知っている元々の用途と違うから飾りみたいなもんだって言っちゃったけど、鍛冶場はあっても良いかも知れないと思ったのよ。だからウィーも退屈しないとは思うよ」
意識していなかったサプライズに小躍りしそうになるウィー。
「ドワーフとの貸し借りがないから憂いなく出発出来そうだ」
ラルフは満足げに頷く。しかしここに来て歩が心残りを口にする。
「ぼ、僕らだけ戻るのは不味いよね?せめて二人の意見も聞かないと……」
「ああ、正孝と美咲の二人ね」
アンノウンもそこに行き着いた。同じ転生者として帰る気があるのかないのかは結構重要になってくる。自由を謳歌したいと宣う八大地獄の面々も最初は否定的だったが、鞍替えしてすっかり帰りたがっている。反乱するための罠だったなら目も当てられないが、帰りたいという感情に嘘偽りがないと信じ、一緒に進んでいく他ない。
「んじゃサクッと聞きにいくか?」
ラルフの能力ならあっという間だ。
正孝はガノンのところにいるはずだし、美咲はエルフのところにいるだろう。ラルフはアンノウンと歩を連れ立ってまず真っ先にホルス島に足を踏み入れるのだった。
大きい。とてつもなく巨大な船。
塗装によって黒光りする表面は陽の光を浴びてキラキラと輝いている。砕いて粉にした魔鉱石とソフィーの角を自作の塗料に混ぜて外壁に塗り込んだことで、光を反射しているのだ。
戦艦として建造されたこの船は、鋼鉄の如き頑強さと備え付けられた砲筒にによって攻守ともに完璧の船としてそこに聳え立っていた。
「完成したか……」
アンノウンの召喚獣が昼夜問わず作り続けた戦艦。その前に立って感慨に浸るラルフ一行。
空中浮遊要塞スカイ・ウォーカーを失ってから少し、西の大陸で色々あったことがフラッシュバックする。
(戦っては食って寝て、戦っては食って寝て……って、碌な思い出がねぇな……)
ラルフは頭を振って思い出を吹き飛ばすと全員を見渡した。
「……アンノウンとアユムの傑作。堪能しに行くか?」
待ってましたと笑顔になる面々。
全体を見るととにかく長い。そしてデカイ。水を掻き分けて進むことを想像させる美しい流線美に魅了される。
甲板に聳える艦橋はまるでビルのようにその存在を主張する。砲塔は前方に三連装砲を二つ後方に一つ備え、副砲も二つに対空砲を一つ備えている。砲弾ではなく魔力砲を放つので魔力がある限り無限に撃ち続けることが可能。
煙突とアンテナは飾りだと聞いているが、邪魔な感じはしない。むしろこれが無いと空虚な感じがして寂しいとさえ思える。
見た目の格好良さは申し分ない。こうなると問題は中身である。アンノウンは自信があるようだ。
「まるで高級ホテルさ。遠慮せずに見てって見てって!」
子供のようにはしゃぐアンノウン。扉を開けると赤い絨毯が敷き詰められ、ふかふかの歩き心地に美術品のように美麗な内装。冷暖房から空気清浄に関する各種設備が完備され、個室がズラッと並んでいた。
スカイ・ウォーカーと違うのはトイレもバスタブも完備されているところだ。食事さえ持ち込めばこの個室だけで過ごせる。
厨房は広く、調理器具も充実していて事欠かない。ブレイドが使ったことのない器具まであるので、アンノウンか歩が後で教える必要があるだろう。食材の保管場所は冷蔵冷凍保管を可能にし、とにかく広い。
大広間もあるのでここで食事をしたり、集まって会議をしたりも出来る。スカイ・ウォーカー同様、ここで外の様子を見えるように映像を出す機能もある。艦橋に上がれば外の様子はもちろんのこと、操舵室となっているので船を操ることも出来る。アスロンが核となって自動で操舵出来るので何らかの不具合が起こらない限りは手動に変えることはあり得ない。
灰燼の発明した倫理を無視の無限動力をそのまま移乗したので魔力が尽きることはない。
「これは……戦艦なのか?」
戦う船とは思えないほど居住性に長けている。乗組員は最悪何もしなくても脅威を退けられるのだ。
アスロンはホログラムとなって誇らしげに目の前に現れた。
『魔障壁とカモフラージュ機能、何かあった時のアンチ魔法もお任せ。それもこれも外壁表面に施した砕いた魔鉱石で魔法伝達を早くしたお陰じゃ。この戦艦なら、この世界の覇権を握ったも同然。まさに史上最高の船の称号がふさわしい』
魔法技術の粋を集約させたと言って過言でない船を手足のように扱える。今までの魔法人生の冥利に尽きる。死して尚、意識体として蘇った甲斐があるというものだ。
「ふむ。今出来ル技術ノ最高峰なら、乗っ取ル分には安心出来ルし諦めもつこう。これが破壊されルならどこに行っても同じじゃとな」
「縁起悪っ!さも堕とされるような言い方はやめろよ。今後の旅の要になる船だぞ?……ったく」
ベルフィアの達観した第三者視点にケチをつけながらラルフは草臥れたハットを被り直す。
「でもまぁ、こいつが出来たってことはこの世界に別れを告げなきゃな。何かやり残したことがあるか?」
神との約束を果たす時がやって来た。ラルフとミーシャは必ずこの世界から出ていく必要があるが、他の連中は違う。今生の別れになるかも知れないなら、知り合いや親族に別れの挨拶の一つも言うべき案件。
ブレイドとアルルはそれなりに済ませた。他はどうだろうか。
エレノアは上記二人が行くならついてくるだろう。黒影はエレノアの行くところにはついてくる。
ジュリアは唯一の肉親である兄が死に、出身国であるカサブリア王国も滅亡したので帰る場所などない。デュラハン姉妹も同様に空中浮遊要塞スカイ・ウォーカーを沈没させられているので、帰る場所がなくなっていた。
アンノウンや歩、八大地獄と藤堂は異世界にルーツを持った人間なので、帰りたがっている張本人たち。
こうして見ると全員未練などなさそうではある。ウィーを除いては。
「この船には鍛冶場がないからウィーには辛い旅になるかも知れないな……」
「あるよ。何のための煙突だと思ってるの?」
アンノウンの指摘に目を丸くさせる。
「えぇ?飾りじゃなかったの?」
「私たちが知っている元々の用途と違うから飾りみたいなもんだって言っちゃったけど、鍛冶場はあっても良いかも知れないと思ったのよ。だからウィーも退屈しないとは思うよ」
意識していなかったサプライズに小躍りしそうになるウィー。
「ドワーフとの貸し借りがないから憂いなく出発出来そうだ」
ラルフは満足げに頷く。しかしここに来て歩が心残りを口にする。
「ぼ、僕らだけ戻るのは不味いよね?せめて二人の意見も聞かないと……」
「ああ、正孝と美咲の二人ね」
アンノウンもそこに行き着いた。同じ転生者として帰る気があるのかないのかは結構重要になってくる。自由を謳歌したいと宣う八大地獄の面々も最初は否定的だったが、鞍替えしてすっかり帰りたがっている。反乱するための罠だったなら目も当てられないが、帰りたいという感情に嘘偽りがないと信じ、一緒に進んでいく他ない。
「んじゃサクッと聞きにいくか?」
ラルフの能力ならあっという間だ。
正孝はガノンのところにいるはずだし、美咲はエルフのところにいるだろう。ラルフはアンノウンと歩を連れ立ってまず真っ先にホルス島に足を踏み入れるのだった。
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