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最終章
第十九話 面倒な組み合わせ
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「あー……なるほどね。ブレイドとアルルを狙ったのか……」
ラルフは先ほどの共同墓地にて行われているブレイドの戦闘を拳大ほどの次元の穴から覗いて確認した。アトムが目を逸らさせたかったのはラルフとミーシャの周りにいる仲間たちを各個撃破することで悦に浸りたかったからでは無いかと推測した。
「しかし妙だな。アトムだけならまだしも、魔女や煌杖まで居るのは俺たちが予めイルレアンに来ることを察していないと出来ないはずだ。まぁ俺と同じような能力があるなら話は別だが?」
ラルフは次元の穴を閉じつつニヤニヤしながらアトムを見た。キッと目つきを鋭く見返してきた。
『……そんな能力なんぞ必要ない。ある程度の場所が分かれば転移魔法を用いてひとっ飛びだ。貴様の能力よりも先に存在した優れた魔法よ』
「だからどうやって俺たちの場所を知ったかだろ?全く、話を……って、転移魔法ってそんなに遠距離を飛べるの?一応ベルフィアで知ってたつもりだけど、便利すぎない?」
魔法技術は一角人の得意分野。転移魔法を個人で操ることも自由自在なのだろう。それも魔女ならやりかねない。だが、それより気になるのはやはり居場所の特定だろう。ラルフの困惑に返事をしたのは透き通るような綺麗な声だった。
『転移魔法は極めればそれなりに便利な能力ですから可能でしょう。そして居場所の特定に関しては、私たちにしか分からない神の気配を探れば良いのです。特に私に限ってはどこにいるのかは明白。隠れ家にしている西の大陸も既にバレていることでしょう』
心の中で響いた声はサトリのもので間違いない。ミーシャも同じ言葉を聞いている。ラルフの記憶を所持しているためか、ミーシャ自身はあまり知らないはずなのに何だか愛着のある声に感じてしまう。
「えっと……じゃあ、ラルフが動けばサトリもついてくるのだから、隠れても意味はないってそういうこと?」
『ええ、そういうことです。正確には私はミーシャの中とラルフの中に体を別けて生息していますので、ミーシャが動いても見つかります』
「え?何それ?私に寄生してんの!?」
『ええ。……え?いけませんか?』
そんな事は決してない。ラルフにとってはこっちがお世話になっていると心底感じている。ミーシャは気味悪がっているが、アトムの能力を封殺してくれているサトリには感謝しなければならない。
「ちょっ……ミーシャ、寄生ってのは言い方が悪いな。共生にしとこうぜ。……話が逸れたな。神がちょいちょい俺たちの下に現れていたのはサトリの気配を辿って来てたわけだ。そして魔女がいればどんな場所からでも転移でひとっ飛びだと?面倒な組み合わせだな」
『貴様らに言えたタチか?私は何度だって貴様らの邪魔をしてやる。この世に居てはいけない存在なのだからな』
アトムは翼を広げて空中に停止する。翼人族の英雄イーリス=ベリタージュを模倣した肉体は神々しい光を放ちながら両手を広げた。光が収束されて出来上がった二本の槍は両の手に一本ずつ収まった。先に地面で待っていたレギオンも戦いに参加する。
そんな二体の敵を前に、ラルフとミーシャは地面に降り立ち堂々と胸を張った。
「事あるごとに存在を否定しやがって。俺たちはこの世界で生まれたれっきとした人間と魔族だ。魔族がこの世界に侵略して来た存在だったとしても、それは千年以上昔の話だろ?ここ数百年の間に生まれたミーシャには関係がないことだ。古い価値観の押し付けは時代の……いや、世界の変化という流れに乗れていない。お前は異端者なんだよ!アトム!」
『何だと貴様?!そもそも魔族と人族は千年の時を人魔大戦と呼ばれる戦いで費やして来た!それほどに拗れた関係であるというのに今更……!』
「分からないのね?それも当然よ。死体を扱っている奴に新しい標準を理解するなんて出来るはずがないもん」
ミーシャの返答にアトムは黙る。完全なる図星。この体もレギオンも過去生きていた人物の模倣。まさにラルフの言い放った古い価値観の押し付けとはよく言ったものだ。
『……黙れ黙れ!!この私を敵にしたことを心底後悔させてやる!!』
「既に後悔してんだよ。少しは自分の世界の住人を信じてやろうとは思わないのか?俺はサトリが一緒に居てくれるくらいには善良な人間だぜ?」
『ほざけっ!!』
──ボッ
アトムは自慢の翼を羽ばたかせ、槍を構えて突進してくる。だがそんな攻撃はミーシャを前に簡単に止められる。
「やるなら私が相手だ」
アトムの顔が歪む。純粋な力ではミーシャには敵わない。されとて支配はサトリが阻むために操ることも不可能。
ならば少しでもミーシャを削るのがアトムのやるべきことだ。
光で生成され、今も輝く二本の槍が強い光を放った。槍を掴んでいるミーシャの頭に疑問符が浮かんだが、疑問はすぐに氷解する。
「爆発っ……?!」
ボンッ
アトムの手ごと爆発し、ミーシャに捨て身の攻撃を仕掛けると共に、腕を失いつつ後退する。距離をとったアトムは即座に腕を再生させ、槍も生成した。
『ふふっ油断したな。私にはこういう攻撃方法もあるのだ!』
イキったアトムだったが、煙が晴れて出て来たミーシャの体には特に傷の類はない。ミーシャは魔力で体を保護することが出来る。単なる爆発程度ではやはり傷一つ付けられない。
『ぐっ……レギオォン!!』
ゴゴゴ……とおもむろに動き出したレギオン。思いっきり振りかぶって特大級の拳を解き放つ。
「おおっとっ!俺の出番だぜ!!」
ラルフは次元の穴を開く。でかい入り口とでかい出口の二つを用意すれば、まっすぐ入った拳はレギオンの横からぬぅっと姿を現してレギオン自身を攻撃した。さらにラルフはそのまま空間の穴を閉じることでレギオンの腕を切断する。
「ちょっと気になってたんだよな。めっちゃ怖い発想だけど、一気に閉じたりしたらどうなるのかってさ。こういうの何ていうんだ?次元断!……っていうのはちょっと狙いすぎか?」
「すっごく格好良いと思うよラルフ!」
ミーシャは体も心も弾ませて喜んだ。ラルフ恥ずかしがりながら草臥れたハットを被り直す。
「それじゃブレイドもアルルも待ってることだし、とっとと終わらせるぜ。アトム!!……覚悟しろよ?」
ラルフは先ほどの共同墓地にて行われているブレイドの戦闘を拳大ほどの次元の穴から覗いて確認した。アトムが目を逸らさせたかったのはラルフとミーシャの周りにいる仲間たちを各個撃破することで悦に浸りたかったからでは無いかと推測した。
「しかし妙だな。アトムだけならまだしも、魔女や煌杖まで居るのは俺たちが予めイルレアンに来ることを察していないと出来ないはずだ。まぁ俺と同じような能力があるなら話は別だが?」
ラルフは次元の穴を閉じつつニヤニヤしながらアトムを見た。キッと目つきを鋭く見返してきた。
『……そんな能力なんぞ必要ない。ある程度の場所が分かれば転移魔法を用いてひとっ飛びだ。貴様の能力よりも先に存在した優れた魔法よ』
「だからどうやって俺たちの場所を知ったかだろ?全く、話を……って、転移魔法ってそんなに遠距離を飛べるの?一応ベルフィアで知ってたつもりだけど、便利すぎない?」
魔法技術は一角人の得意分野。転移魔法を個人で操ることも自由自在なのだろう。それも魔女ならやりかねない。だが、それより気になるのはやはり居場所の特定だろう。ラルフの困惑に返事をしたのは透き通るような綺麗な声だった。
『転移魔法は極めればそれなりに便利な能力ですから可能でしょう。そして居場所の特定に関しては、私たちにしか分からない神の気配を探れば良いのです。特に私に限ってはどこにいるのかは明白。隠れ家にしている西の大陸も既にバレていることでしょう』
心の中で響いた声はサトリのもので間違いない。ミーシャも同じ言葉を聞いている。ラルフの記憶を所持しているためか、ミーシャ自身はあまり知らないはずなのに何だか愛着のある声に感じてしまう。
「えっと……じゃあ、ラルフが動けばサトリもついてくるのだから、隠れても意味はないってそういうこと?」
『ええ、そういうことです。正確には私はミーシャの中とラルフの中に体を別けて生息していますので、ミーシャが動いても見つかります』
「え?何それ?私に寄生してんの!?」
『ええ。……え?いけませんか?』
そんな事は決してない。ラルフにとってはこっちがお世話になっていると心底感じている。ミーシャは気味悪がっているが、アトムの能力を封殺してくれているサトリには感謝しなければならない。
「ちょっ……ミーシャ、寄生ってのは言い方が悪いな。共生にしとこうぜ。……話が逸れたな。神がちょいちょい俺たちの下に現れていたのはサトリの気配を辿って来てたわけだ。そして魔女がいればどんな場所からでも転移でひとっ飛びだと?面倒な組み合わせだな」
『貴様らに言えたタチか?私は何度だって貴様らの邪魔をしてやる。この世に居てはいけない存在なのだからな』
アトムは翼を広げて空中に停止する。翼人族の英雄イーリス=ベリタージュを模倣した肉体は神々しい光を放ちながら両手を広げた。光が収束されて出来上がった二本の槍は両の手に一本ずつ収まった。先に地面で待っていたレギオンも戦いに参加する。
そんな二体の敵を前に、ラルフとミーシャは地面に降り立ち堂々と胸を張った。
「事あるごとに存在を否定しやがって。俺たちはこの世界で生まれたれっきとした人間と魔族だ。魔族がこの世界に侵略して来た存在だったとしても、それは千年以上昔の話だろ?ここ数百年の間に生まれたミーシャには関係がないことだ。古い価値観の押し付けは時代の……いや、世界の変化という流れに乗れていない。お前は異端者なんだよ!アトム!」
『何だと貴様?!そもそも魔族と人族は千年の時を人魔大戦と呼ばれる戦いで費やして来た!それほどに拗れた関係であるというのに今更……!』
「分からないのね?それも当然よ。死体を扱っている奴に新しい標準を理解するなんて出来るはずがないもん」
ミーシャの返答にアトムは黙る。完全なる図星。この体もレギオンも過去生きていた人物の模倣。まさにラルフの言い放った古い価値観の押し付けとはよく言ったものだ。
『……黙れ黙れ!!この私を敵にしたことを心底後悔させてやる!!』
「既に後悔してんだよ。少しは自分の世界の住人を信じてやろうとは思わないのか?俺はサトリが一緒に居てくれるくらいには善良な人間だぜ?」
『ほざけっ!!』
──ボッ
アトムは自慢の翼を羽ばたかせ、槍を構えて突進してくる。だがそんな攻撃はミーシャを前に簡単に止められる。
「やるなら私が相手だ」
アトムの顔が歪む。純粋な力ではミーシャには敵わない。されとて支配はサトリが阻むために操ることも不可能。
ならば少しでもミーシャを削るのがアトムのやるべきことだ。
光で生成され、今も輝く二本の槍が強い光を放った。槍を掴んでいるミーシャの頭に疑問符が浮かんだが、疑問はすぐに氷解する。
「爆発っ……?!」
ボンッ
アトムの手ごと爆発し、ミーシャに捨て身の攻撃を仕掛けると共に、腕を失いつつ後退する。距離をとったアトムは即座に腕を再生させ、槍も生成した。
『ふふっ油断したな。私にはこういう攻撃方法もあるのだ!』
イキったアトムだったが、煙が晴れて出て来たミーシャの体には特に傷の類はない。ミーシャは魔力で体を保護することが出来る。単なる爆発程度ではやはり傷一つ付けられない。
『ぐっ……レギオォン!!』
ゴゴゴ……とおもむろに動き出したレギオン。思いっきり振りかぶって特大級の拳を解き放つ。
「おおっとっ!俺の出番だぜ!!」
ラルフは次元の穴を開く。でかい入り口とでかい出口の二つを用意すれば、まっすぐ入った拳はレギオンの横からぬぅっと姿を現してレギオン自身を攻撃した。さらにラルフはそのまま空間の穴を閉じることでレギオンの腕を切断する。
「ちょっと気になってたんだよな。めっちゃ怖い発想だけど、一気に閉じたりしたらどうなるのかってさ。こういうの何ていうんだ?次元断!……っていうのはちょっと狙いすぎか?」
「すっごく格好良いと思うよラルフ!」
ミーシャは体も心も弾ませて喜んだ。ラルフ恥ずかしがりながら草臥れたハットを被り直す。
「それじゃブレイドもアルルも待ってることだし、とっとと終わらせるぜ。アトム!!……覚悟しろよ?」
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