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最終章

第十五話 離れてしまった仲間たち

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 メキメキと音を立ててくっ付いて行くアンデッドの群れ。レギオンと呼ばれるアンデッドの集合体は陽の光を隠すほどに巨大化した。
 ラルフとミーシャは後退しつつ相手の動向を探る。

「本当にお前は単純だなアトム。キマイラ、レギオン、天樹、レギオン。巨大なものばかりで辟易するぜ」

『フンッ、貴様なんぞ相手を腐してばかりではないか。他者のことを言えた立場か?』

 アトムはラルフたちに対して手をかざす。それに呼応するようにレギオンは両手を振り上げた。

 ──ズズゥンッ

 ラルフたちを狙った攻撃は空を切り地面を叩いた。地鳴りが起こるほどの衝撃はイルレアン全土を震撼させる。遠くで人々のざわめきが聞こえてくる。それも当然のこと。何年もの間平和だったこの国に超特大級の異物が入り込んだことになるのだから。

「おいおい、今度はイルレアンを壊滅させるつもりか?お前のせいでエルフも迷惑してたぞ」

『それがどうした?街が破壊されるのが嫌なら攻撃を素直に受けて死ぬがいい』

「ふんっ、その前にお前を消滅させてやろう」

 ミーシャは手に魔力を溜め始める。すぐさまラルフが止めに入った。

「待てよ。ここで撃ったら俺たちが悪者になっちゃうぜ?こうなったらイルレアンから出るしかなさそうだ」

「え?でもブレイドとアルルはどうするの?」

「あの二人なら大丈夫だ。アイナさんがいる。俺たちは二人を不安にさせないようにさっさとこいつを処理すれば良いんだ」

『処理?バカが!これは今までのレギオンとは違う特別製だ!簡単に倒せると思ったら大間違いだぞ!!』

 アトムの咆哮と共にヌゥッとレギオンは立ち上がった。集まったアンデッドたちが足を形成し、二足歩行が可能となった。

「マジ?でかくなるのは分かるけど、二足歩行は足元が心許ないんじゃ……」

『余計なお世話だ!!』

 アトムの掛け声を背にレギオンはワッと飛び出した。ミッチミチに固めたアンデッドの重量で押し潰そうとしている。ラルフはおもむろに草臥れたハットに手を伸ばした。

「おっ!良いねその攻撃。ミーシャ」

 ラルフはミーシャの手を握った。ミーシャの頭には一瞬疑問符が浮かび上がったが、次の瞬間に理解する。
 二人の立っていた地面が突如消失したのだ。
 ラルフが次元の穴をこれでもかと大きく開き、飛びついたレギオンと共に穴へと落ちる。その穴をワームホールとし、イルレアンの外へとラルフたちごとレギオンを排出した。

 雲が浮かんでいる付近に出現させたことでミーシャはラルフと一緒に浮遊し、レギオンは為す術なく落ちていき地面に激突。腐った肉片が飛び散った。

「これで死なねぇんだからアンデッドってのは厄介だよな……」

「でも弱いけどね」

 ラルフとミーシャは互いに肩を竦めた。
 アトムはラルフたちが穴に入っていったのを苛立つことなく眺めていた。

『これで良い。ここは任せたぞ!』

 誰に語りかけたか、ニヤリと笑ってラルフの開けた次元の穴へと入っていった。
 一瞬世間を騒がせたレギオンがラルフたちと共に消え、次元の穴が塞がった時、ブレイドたちが到着した。

「くっ……一足遅かったか」

 レギオンの姿を目印に共同墓地に辿り着いたブレイドは、荒らされた墓石や地面から戦いを幻視していた。あの巨体がここにいないのはラルフが気を使って別の場所に移動させたのだろう。共に戦いたかったが、今回は諦めるしかない。

 ──ドンッ

 その時、空気を震わせる怪音が鳴り響いた。気付いたアルルは即座に魔障壁を張る。

 バギンッ

 無詠唱で発動させた魔障壁は飛んできた魔力砲とぶつかって相殺。怪我こそしなかったが、魔障壁が破壊されたことの方が衝撃だった。警戒心を強め、すぐさま辺りを見渡す。

「あれを防ぎますか。流石は大魔導士アスロンの孫……といったところでしょうか?」

「あんたは……ソフィー=ウィルムか?」

「覚えていただけて何よりですねブレイド」

 一角人ホーン最強の魔女は煌めく杖を連れ立ってブレイドたちに立ち塞がる。

「この出会いは偶然か?それとも必然か?」

「偶然ダガ、同時ニ必然デモアル」

 背後から聞こえた声に振り返ると、獣人族アニマンの男が立っている。剛撃のグランツ。魔女、煌杖、剛撃。知る人ぞ知る白の騎士団の三人と相対する。その上、建物の屋根や木陰から剣の切っ先を突きつけてくる人影があった。
 ホーンの特殊部隊、その名も”聖なる剣銃”。俗にガンブレイド部隊とも呼ばれている。

(俺たちの完全な死角から撃ってきた……アルルが無詠唱でも障壁を張ってくれなかったらどうなっていたか……)

 戦場を駆け抜けた経験値はしっかりと体に染み付いていた。しかしこの状況は……。

「追い詰めましたよブレイド。彼女と一緒に永遠の奈落に落として差し上げましょう。寂しくならないように、ね?」

「……そんなことさせない。俺たちを襲うというなら……絶対に後悔させてやるぞ!!」

 グワッと広がるブレイドの気迫にグランツは思わず拳を握りしめた。

「ナラ早イトコロ戦闘態勢ニ入ッテ掛カッテ来イヨ。……返リ討チニシテヤルゼ?」
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