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最終章

プロローグ

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 思えばバカな人生だ。

 家出して、放浪して、飢えて這いつくばって泥水を啜る。喧嘩を売っては逃げて、捕まっては殺されないように命乞いをして恥を曝す。
 家族同然に共に育ったキャラバンのみんなに心配を掛け、一緒に仕事した冒険者チームに迷惑を掛け、色々な国、様々な人種に不要なまでの怒りや不安を煽った。
 一番の不幸は親父の死に目に会えなかったことか……。

 こんな人生でも生きているだけマシだと思えた。

 母親が目の前で死んでから俺の心には常に死への恐怖がつきまとっていた。
 あの時どうやったら助けられたのか、どうやったら死ななかったのか。何年もの間考えていた子供時代。
 当時は年端も行かないガキだった。助けられないのは仕方がない。助け方も守り方も、死にゆく母への寄り添い方すら知らなかった。
 手を握ることもなく、ただ見ているだけしか出来ない不出来な息子を親父は何も言わずに抱きしめてくれた。

 それから年月が経ち、大人になってトレジャーハンターを名乗っても恥ずかしくなくなった頃、俺の目の前にミーシャが現れた。
 ドラキュラ城の天井から落ちたであろうボロボロの姿を見た途端、事切れる寸前の母親の姿が被った。
 だからだろう。助けたのは気まぐれでも打算的行動でもない。自然と体が動いていた。過去のトラウマの払拭。あの時は何としてでも助けねばならないと必死だった。

 ミーシャを救ったことに後悔はしていない。その後の周りの反応と危険極まりない数多くの展開で多少振り返ることはあったがそれとこれとは別だ。

 ミーシャ。
 生きていてくれてありがとう。
 お前が元気にしているのを見るたび俺は救われたような気になる。お前が元気にしているのを見るたびこれで良かったんだと安心する。

 俺はどうなろうと構わない。どうせ居ても居なくても変わらない弱い存在だからな。



 西の大陸。オークの王国があったこの場所は異世界から転移してきた八大地獄によって滅ぼされ、今はエルフによって占拠されている。元々あったヒューマンの居住区”ジュード”と合わせて完全に人族側の領地となった。
 エルフたちを連れて来たのはラルフ。エルフの国”エルフェニア”が統御とうぎょの神を名乗るアトムによって滅ぼされたために仕方なく連れてきたのだ。
 安全を考慮して連れてきたはずなのにここでも息をつかせぬ神々との攻防を繰り広げ、マクマインとの決着を最後にようやく戦いの収束を見る。
 戦いはラルフたちの勝利で決した。

 ──しかし。

「アルル!!」

 叫ぶブレイドと急いで駆け寄るアルル。周りは何が起こっているのか全く分かっていない。

「ラルフ!!」

 ラルフはブレイドに抱えられて口から血を流している。
 ミーシャは分からなかった。普通に話すラルフに違和感を感じられなかった。

 意識のないラルフをただ見ていることしか出来ない。
 何故ならミーシャには回復魔法を使うことが出来ないから。

 既に意識のないグッタリとしたラルフからハラリと落ちた草臥れたハットと共に、ミーシャの涙が一筋流れた。
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