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第十五章 終焉
第五十五話 決闘
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(ヤ、ヤベェ……)
ラルフはアルテミスの脅威から逃れることに成功した。だが今度はマクマインという殺意が待っていた。
──メキミキッ
体の中で骨が悲鳴を上げる。本来ならあの前蹴りの一撃で死んでいる。それでもこうして生きていられるのはサトリのお陰だ。身体能力を向上してくれていなければ、今頃……いや、そうだったならもっと前に死んでいる。この考えは不毛であることに気付いてラルフはカッと目を見開いた。
視線の先に見えるのは弾丸のように飛んでくる鋼。禍々しい鎧に身を包んだマクマインだ。人間とは思えない気迫と力にラルフは圧倒される。無意識に左手で保持していた草臥れたハットを深く被り、体の痛みを堪えながら空中で体を捻る。
「へっ!いきなりやってくれるじゃねぇかマクマイン!!あれで死んだらどうするつもりだった!?」
「手加減はした!!」
マクマインは剣を振り下ろす。ギィンッと鋭く硬質な音が鳴り響いた。ラルフのダガーナイフに接触した音だ。
「死んでたらそれまでだったが、やはり貴様はそう簡単ではないな……!」
マクマインの持つ斬馬刀の威力に劣らないダガーナイフ。瞬時に裁断できるかと思っていたが、ゴブリンダガーのなんと硬いことか。
「こいつはウィーの作った特注だぜ?驚くにはまだ早ぇよっ!!」
ラルフはナイフを振り回し、急所に向けて切りつける。圧倒的不利な状況から攻撃に転じたラルフの行動に若干驚いたが、マクマインは全ての攻撃に対処した。鎧を着込んでいることを思えば、これほど敏感に対応することもなかったが、武人としての誇りが体を動かした。
「甘いっ!」
ボッ
攻撃全てを弾いた直後に放ったマクマインの胴回し蹴りがラルフの腹に刺さった。
「おごっ?!」
ラルフはあまりの威力に流星のような勢いで地面に落ちる。しかしクレーターも出来なければ土煙も上がらない。どころかラルフの姿が消える。
「チッ……逃したか」
異次元に飛び込んだものと思われる。ワープホールを使えば、何処へだろうと飛んでいける。一度体勢を立て直すつもりか、それとも雲隠れするつもりか。いずれにしても逃したことに変わりない。
「っ!?」
その考えは改めさせられた。逃げたと思ったラルフは異次元から這い出てくるようにヌルッと姿を表した。「ゴホゴホッ」とひっきりなしに咳をしている。腹に食らった一撃は相当こたえたようだ。ゴロッと大の字に転がると、痛みがマシになるまで息を整えている。
「……どうした?もう終わりか?」
禍々しい鎧に身を包んだ男はラルフを見下ろし挑発する。ラルフは腹を押さえ、口から血を流しながら虚ろな目を向ける。
「……へへ……いいや、まだ終わらねぇよ……」
足がガクガクと震え、力も思うように入らないが、全身の力で何とか立って見せる。草臥れたハットを被り直し、右手人差指と親指でハットの鍔をスルッと左から右に挟み撫でる。
「……あんたをぶっ飛ばすまでは終われねぇよ……マクマイン」
顔まで包みこんだ全身鎧、その鋼の奥深くに宿る喜悦をマクマインは惜しげもなく発散させる。
「ふはははっ!やはりそうか!そうでなくてはなぁっ!!……もう少しだけ……もう少しだけこの時を愉しもうぞ!ラルフ!!」
「いやいや、全然楽しくねーから……出来ればすぐにも俺にぶっ飛ばされてくんねーかな?」
「ふふ……遠慮するな。最後まで付き合え」
斬馬刀を力の限り握りしめる。今度こそ真っ二つだ。その意志を感じ取ったラルフは痛い腹から手を離し、だらんと両手を下げた。もう抵抗する気はないと言いたげなラルフの格好にマクマインは騙されない。いつどんな時もラルフは諦めたりしない。
ただ意外だったのは、生き残るためだったら平気で約束を反故にしそうな男がこうして目の前に立っていることだ。
この戦い、アルテミスの攻撃から逃げるためのダシに使ったのは現場を見ただけで分かった。それでもそれに乗ったのは念願叶った戦いが出来ることへの期待と、自分の手で殺したい欲が出たためだ。
「……感謝するぞアルテミス。今こうしていられるのは貴様のお陰だ……」
ポツリと呟き、高揚する気持ちを剣に乗せる。武人と呼ばれた若い頃ですら振ったことのない大剣をまるで長年の相棒かの如く握りしめる。ラルフは口角を釣り上げた。
「ふっ……あんたには似合わない剣だ。いくら鍛えているからって持てる重量には限界ってもんがあんだろ?そういうのが関係ない武器ってのは魔剣だな?」
マクマインは構えたままじっとしていて答える気配がない。
「正解か。なぁ、不思議に思っていたんだが……あんたの特異能力はなんなんだ?」
「……この私が能力を晒すバカだと思うのか?」
「いや、そうは思わねぇよ?でもその反応で大体分かったぜ。今装備してる鎧も武器も全部魔道具だな。それ全部が真価を発揮してんのなら……推して知るべしってとこだな」
マクマインはラルフの言葉にイラっとした。それはラルフの言っていることが当たっているからだった。
マクマインの特異能力”マスターユーザー”。全ての道具を完璧に使いこなせるという能力で、選んだ主人にしか使えないとされる魔道具の類も御構い無しに使用可能。ゼアルの魔剣イビルスレイヤーもブレイドの怪魔剣デッドオアアライブもアルルの槍マギーアインスも、マクマインが握れば所有者関係なくマクマインの力となる。
「だったらどうする?それが分かったところで貴様に勝ち目はないぞ?」
怒りによる感情の起伏からか語気が荒くなる。その反応を見たラルフは肩を竦める。
「何とかするさ」
ラルフはアルテミスの脅威から逃れることに成功した。だが今度はマクマインという殺意が待っていた。
──メキミキッ
体の中で骨が悲鳴を上げる。本来ならあの前蹴りの一撃で死んでいる。それでもこうして生きていられるのはサトリのお陰だ。身体能力を向上してくれていなければ、今頃……いや、そうだったならもっと前に死んでいる。この考えは不毛であることに気付いてラルフはカッと目を見開いた。
視線の先に見えるのは弾丸のように飛んでくる鋼。禍々しい鎧に身を包んだマクマインだ。人間とは思えない気迫と力にラルフは圧倒される。無意識に左手で保持していた草臥れたハットを深く被り、体の痛みを堪えながら空中で体を捻る。
「へっ!いきなりやってくれるじゃねぇかマクマイン!!あれで死んだらどうするつもりだった!?」
「手加減はした!!」
マクマインは剣を振り下ろす。ギィンッと鋭く硬質な音が鳴り響いた。ラルフのダガーナイフに接触した音だ。
「死んでたらそれまでだったが、やはり貴様はそう簡単ではないな……!」
マクマインの持つ斬馬刀の威力に劣らないダガーナイフ。瞬時に裁断できるかと思っていたが、ゴブリンダガーのなんと硬いことか。
「こいつはウィーの作った特注だぜ?驚くにはまだ早ぇよっ!!」
ラルフはナイフを振り回し、急所に向けて切りつける。圧倒的不利な状況から攻撃に転じたラルフの行動に若干驚いたが、マクマインは全ての攻撃に対処した。鎧を着込んでいることを思えば、これほど敏感に対応することもなかったが、武人としての誇りが体を動かした。
「甘いっ!」
ボッ
攻撃全てを弾いた直後に放ったマクマインの胴回し蹴りがラルフの腹に刺さった。
「おごっ?!」
ラルフはあまりの威力に流星のような勢いで地面に落ちる。しかしクレーターも出来なければ土煙も上がらない。どころかラルフの姿が消える。
「チッ……逃したか」
異次元に飛び込んだものと思われる。ワープホールを使えば、何処へだろうと飛んでいける。一度体勢を立て直すつもりか、それとも雲隠れするつもりか。いずれにしても逃したことに変わりない。
「っ!?」
その考えは改めさせられた。逃げたと思ったラルフは異次元から這い出てくるようにヌルッと姿を表した。「ゴホゴホッ」とひっきりなしに咳をしている。腹に食らった一撃は相当こたえたようだ。ゴロッと大の字に転がると、痛みがマシになるまで息を整えている。
「……どうした?もう終わりか?」
禍々しい鎧に身を包んだ男はラルフを見下ろし挑発する。ラルフは腹を押さえ、口から血を流しながら虚ろな目を向ける。
「……へへ……いいや、まだ終わらねぇよ……」
足がガクガクと震え、力も思うように入らないが、全身の力で何とか立って見せる。草臥れたハットを被り直し、右手人差指と親指でハットの鍔をスルッと左から右に挟み撫でる。
「……あんたをぶっ飛ばすまでは終われねぇよ……マクマイン」
顔まで包みこんだ全身鎧、その鋼の奥深くに宿る喜悦をマクマインは惜しげもなく発散させる。
「ふはははっ!やはりそうか!そうでなくてはなぁっ!!……もう少しだけ……もう少しだけこの時を愉しもうぞ!ラルフ!!」
「いやいや、全然楽しくねーから……出来ればすぐにも俺にぶっ飛ばされてくんねーかな?」
「ふふ……遠慮するな。最後まで付き合え」
斬馬刀を力の限り握りしめる。今度こそ真っ二つだ。その意志を感じ取ったラルフは痛い腹から手を離し、だらんと両手を下げた。もう抵抗する気はないと言いたげなラルフの格好にマクマインは騙されない。いつどんな時もラルフは諦めたりしない。
ただ意外だったのは、生き残るためだったら平気で約束を反故にしそうな男がこうして目の前に立っていることだ。
この戦い、アルテミスの攻撃から逃げるためのダシに使ったのは現場を見ただけで分かった。それでもそれに乗ったのは念願叶った戦いが出来ることへの期待と、自分の手で殺したい欲が出たためだ。
「……感謝するぞアルテミス。今こうしていられるのは貴様のお陰だ……」
ポツリと呟き、高揚する気持ちを剣に乗せる。武人と呼ばれた若い頃ですら振ったことのない大剣をまるで長年の相棒かの如く握りしめる。ラルフは口角を釣り上げた。
「ふっ……あんたには似合わない剣だ。いくら鍛えているからって持てる重量には限界ってもんがあんだろ?そういうのが関係ない武器ってのは魔剣だな?」
マクマインは構えたままじっとしていて答える気配がない。
「正解か。なぁ、不思議に思っていたんだが……あんたの特異能力はなんなんだ?」
「……この私が能力を晒すバカだと思うのか?」
「いや、そうは思わねぇよ?でもその反応で大体分かったぜ。今装備してる鎧も武器も全部魔道具だな。それ全部が真価を発揮してんのなら……推して知るべしってとこだな」
マクマインはラルフの言葉にイラっとした。それはラルフの言っていることが当たっているからだった。
マクマインの特異能力”マスターユーザー”。全ての道具を完璧に使いこなせるという能力で、選んだ主人にしか使えないとされる魔道具の類も御構い無しに使用可能。ゼアルの魔剣イビルスレイヤーもブレイドの怪魔剣デッドオアアライブもアルルの槍マギーアインスも、マクマインが握れば所有者関係なくマクマインの力となる。
「だったらどうする?それが分かったところで貴様に勝ち目はないぞ?」
怒りによる感情の起伏からか語気が荒くなる。その反応を見たラルフは肩を竦める。
「何とかするさ」
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