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第十五章 終焉

第二十五話 試行錯誤

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 エレクトラはスッと右拳を振り上げる。ギュッと力を入れて更に握り込むとそのまま地面に振り下ろした。

 ゴッドンッ

 地面に触れた瞬間、地面が一段下がったような気がした。殴った拳を中心に出来たクレーターは、弾くだけが能ではないというエレクトラによるデモンストレーション。攻撃と防御の両面を兼ね備えた彼女はまさに無敵と言って過言ではない。

『理解してくれた?これに挑もうとする愚かさを……』

 クレーターから這い出してくるようにゆっくりとした歩調で目線の高さに帰ってきた。一定の距離でニヤニヤとこちらを観察している。この余裕は誰も力の神に勝てないとする自信から来ている。ミーシャですら海の彼方に飛んで行ったことを思えば、この世界の誰も彼女を傷つけられない。

 そんな神を相手に一歩も引く姿勢を見せないラルフ。誰もが後ずさりしたくなる状況に置いて、意外にも冷静な面持ちでエレクトラの動向を窺っている。そんなラルフを横目で見ながらベルフィアはほとんど口を動かさないように小声で質問する。

「……んで、どうすルつもりじゃ?おちょくっても良いことは無さそうじゃが?」

「そうだな……もう少し冷静さを欠いてくれた方が色々嵌めやすいんだが……ミーシャをぶっ飛ばした成功体験のせいだ。さっきまで全力で隠していた能力を、勝てると確信した途端にひけらかしてやがる。分かりやすい性格してくれてるぜまったく……」

 戦いはほとんどの場合初弾で済む。魔法であれ、物理攻撃であれ、タイミングと間合いを完璧に合わせた方が勝つ。
 だがこの常識はエレクトラの前に脆くも崩れ去る。触れることが出来ないのだから。

「……仮にも神に喧嘩を売るからこんなことになるんですよ。特異能力というものを甘く見過ぎているというか何というか……」

 イミーナは冷ややかに見守っている。まるで自分は死なないとでも思っているような雰囲気だ。格好だけでも戦う姿勢を見せてくれていたら印象は違うのだが、彼女は必要でもないことにリソースは割かない。ある種のストイックさがもっともミーシャを追い詰めた要因ではないかと考えてしまう。

「あ、そうだ。朱い槍……」

 ラルフは思い出す。魔障壁を貫通させたイミーナの攻撃魔法。ミーシャの席を奪って魔王入りした時は、代名詞の攻撃魔法”朱い槍”から取ってきて「朱槍」と呼ばれていた。

「なぁ、お前の朱い槍で一回攻撃してみてくんね?攻撃が通れば朱い槍無双の始まりだし、攻撃が当たらなければ潔く尻尾巻いて逃げるから」

「はぁっ?何でわざわざそんなことを……?」

 駄々が始まった。今すぐにでも何とかしなければならないというに、協調性のかけらもない。

「ほんの試しって奴だろ?魔障壁を真正面から突き崩せるんなら、あいつにも通用しそうじゃんか」

「お断りですね。第一、魔力も力の内ではありませんか?エレノア辺りがそんなことを言ってましたよ?もし攻撃したとして、反射されたらどう責任を負うおつもりで?」

 面倒臭くなってきたラルフはイミーナから視線を外す。イミーナの言っていることも一理ある。攻撃が返された場合を想像したら、魔障壁で止められないのだから防げない上に、最悪致命傷は免れない。
 そんなリスクを背負ってまで戦うことはない。ラルフとミーシャが最大の狙いなのだ。この二人の命を流れで生贄に出来たら、命は助けてくれるかもしれない。つまり放置こそ一番の方策。

『……ラル……ラルフさ……』

 どこからか声が聞こえる。ラルフの胸ポケットからだ。取り出したのはネックレス型の通信機。この宝石のような魔鉱石の中にはアスロンと呼ばれる大魔導士の記憶がインプットされている。

『おお!ラルフさん!通じましたか!』

「どうしたんだよアスロンさん?」

『実はイミーナ殿との話を耳にしましてな。儂ならお役に立てるかと思うのじゃが……』

「気持ちは嬉しいが、その姿じゃ何も出来ないだろ?」

 ラルフは通信機を仕舞いかけたが、アスロンの言葉でピタリと止まる。

『儂をアルルの首元にかけてくれないかのぅ?儂の知識をそっくりアルルに移し、アルルの今後に役立てたいのじゃ』

「……今?」

『すぐ済む。それに今どうしても必要なものが儂の記憶にあるでな』

 自信たっぷりのアスロン。さっき思いついたイミーナの朱い槍が使えなかったら、異空間落とし穴作戦を敢行しようと思っていた。最悪それでいいが、確実性を出すために怯ませる必要がある。
 エレクトラは図に乗っている。現にこれだけ時間を使って攻撃をしてこない。ミーシャが帰ってきても勝てると踏んでいるのは明白。ならば度肝を抜く何かで驚かせて、すかさず異空間に落とすのがベスト。

「アルル!」

 ラルフは通信機をアルルに放る。彼女の手元に吸い込まれるように飛んできたネックレスを難なくキャッチする。ラルフは困惑する彼女の目を見ながら首から下げるようにジェスチャーを使って指示。アルルはそれに倣ってネックレスを首から下げた。

『儂の技術をお前に託す。膨大故心して受け取れぃ』

「え?……うん!」

 アルルは深く頷き、目を瞑る。アルルの脳みそにアスロンの技術が雪崩込む。10秒もしないうちに目を開いた。頭がパンクしそうなほど詰め込まれたせいか、瞳が爛々と輝いている。その様子を側から見ていたエレクトラはため息をついた。

『もう、そろそろ良いかな?このままジッとしていると体が鈍りそう。あと私を差し置いて目の前で作戦会議開かれたのがムカつくから、取り敢えず二、三人は死ぬのを覚悟しといて。ふふっ、我慢の限界って奴?』

 ずっとカウンター狙いだった彼女がようやく動き出す。狙いはラルフの命。
 神を怒らせた先の未来は死あるのみ。
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