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第十五章 終焉
第十八話 選ばれし五人
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「あ~あ。どうすんだぁこれ?」
藤堂は額に手を当てて遠くを眺めるように見渡した。戦っていた八大地獄の面々やラルフ一行はもちろんのこと、ガノンやブレイド、エレノアもユピテルの攻撃に気絶した。魔障壁を張ったはずのアイナやアルル、アリーチェもあまりに強烈な雷に地に伏している。
規格外だったり、不死身だったり、耐性があったり、元々戦場から離れていたりした連中だけが当たり前に難を逃れ、ユピテルとの戦いを強いられる。
「……もう小競り合いをしてる場合じゃない……」
パルスは虚空を見つめ、大剣を握った。その様子にノーンは心底理解不能と言った顔で呆れ気味に答えた。
「はぁ?ってこいつらと共闘するっての?まったくもって気が乗らないんですけど!」
「なら下がってルことじゃな。そちノ助けなんぞ必要ない」
ベルフィアは鼻で笑いながら前に出る。ラルフは慌てた様子でベルフィアの横に並ぶ。
「おい、どうしようってんだ?相手は速すぎて見えねぇんだぞ?ブレイドとエレノアも伸びちまってるし……」
「速い相手に使えル手もあル」
「本当か?期待しちまっても良いのか?」
「期待じゃと?……仕様が無い。ミーシャ様がご不在ノ今、そちで我慢してやろう」
舌打ちでもしそうな渋い顔でズンズン前に進んでいった。取り残されたラルフの横をノーンが尻尾をフリフリ通り過ぎる。ササっとベルフィアの横に付くとノーンはドヤ顔をしてみせる。
「おやぁ?怖じ気づいタノではないかえ?」
「おばさん一人で何が出来んの?私も手伝ってあげる」
「おば……妾にそノヨうな概念はない。もう少し物を知り、口を慎むんじゃな」
「メッチャ効いててウケる」
ベルフィアの眉間にシワが寄る。怒っているのか、右目の下の辺りがピクピクと痙攣している。
吸血鬼の寿命がどのくらいになるのか定かではないが、エルフや一部の魔族同様に歳を取るのが極端に遅い。おばさんなどと揶揄される歳でもないが、面と向かって言われると腹が立つものだ。
「さっきまで戦ってた奴らがすっかり仲良しだな……」
ラルフは感心の眼差しで二人にエールを送る。そんな中、真隣から小さくか細い声が聞こえた。
「……ん」
その一言が耳を掠めたラルフは不思議な顔で確認する。そこにはグータッチを求めるパルスの姿があった。
「え?ああ、これ?おうっ!行って来い」
軽く拳を合わせるとパルスも前に出た。すごく頼もしいが、これは逆にラルフには任せられないと言われているも同義。
女性が強すぎるが故に必然的に戦いをお願いすることは多い。いち男性として実に情けない。
「人には得手不得手ってのがありますぜ?ラルフさん」
「おわっ!ってトウドウさんか。いつの間に……」
「いや、肩を落としてたんで、きっとお悩みなんだと思いましてねぇ」
「俺は態度に出易いみたいだな。悩みっつーか……いやまぁ、悩みなんだけど。俺の周りが強くてさ、俺はお荷物じゃねぇかなって思うのよ……いっつも戦いを任せてばっかりじゃ肩身が狭いっつーか。だからって何か出来るわけじゃねーんだけどさ……」
「ふむ、適材適所だな。あんたは後方で鎮座している方が似合ってるよ?それに……」
藤堂も後頭部をボリボリ掻きながら戦いに行く。
「俺ぁあんたを殺させるわけにはいかねーからなぁ……こっちだって必死だぜ?」
藤堂の意味深な呟きにラルフの脳裏に「異世界転移」という文言が浮かんだ。藤堂は元の世界に帰りたがっている。
昔、独自に開けた異次元へ通ずる扉は魔族を呼び寄せ、この世界に災いを運んだ。帰るためなら何度でも異次元の扉を開けるつもりだが、出来れば二度と同じ過ちは犯したくない。
ラルフの特異能力である小さな異次元は異世界へ自由に行き来できる優れた力。藤堂はこの能力が打開策になると信じているのだ。
「元の世界か……」
野盗に狙われ、魔獣に狙われ、公爵に狙われ、魔王に狙われ、神に狙われ……幾多の命の危機を経験し続けてきたラルフ。藤堂の夢と希望に、ミーシャと共に生きることにした今後の展望に新たな可能性を見出した。
「……いいぜ。そんなにも帰りたいってんなら、俺が何とかしてやるよ」
ラルフはニヤリと笑って藤堂を送り出す。
ユピテルとの決着に漕ぎ出した作戦に乗るのはゼアル、ベルフィア、ノーン、パルス、そして藤堂。五人の決死の神討伐が始まる。
『……ラルフさ~ん!』
格好良く決めていたラルフの元に妖精がふよふよやってきた。パルスに飼われているオリビアだ。
「そうだよな、危ねーもんな。一緒に離れてようか」
ラルフはそそくさと戦場を離れた。
藤堂は額に手を当てて遠くを眺めるように見渡した。戦っていた八大地獄の面々やラルフ一行はもちろんのこと、ガノンやブレイド、エレノアもユピテルの攻撃に気絶した。魔障壁を張ったはずのアイナやアルル、アリーチェもあまりに強烈な雷に地に伏している。
規格外だったり、不死身だったり、耐性があったり、元々戦場から離れていたりした連中だけが当たり前に難を逃れ、ユピテルとの戦いを強いられる。
「……もう小競り合いをしてる場合じゃない……」
パルスは虚空を見つめ、大剣を握った。その様子にノーンは心底理解不能と言った顔で呆れ気味に答えた。
「はぁ?ってこいつらと共闘するっての?まったくもって気が乗らないんですけど!」
「なら下がってルことじゃな。そちノ助けなんぞ必要ない」
ベルフィアは鼻で笑いながら前に出る。ラルフは慌てた様子でベルフィアの横に並ぶ。
「おい、どうしようってんだ?相手は速すぎて見えねぇんだぞ?ブレイドとエレノアも伸びちまってるし……」
「速い相手に使えル手もあル」
「本当か?期待しちまっても良いのか?」
「期待じゃと?……仕様が無い。ミーシャ様がご不在ノ今、そちで我慢してやろう」
舌打ちでもしそうな渋い顔でズンズン前に進んでいった。取り残されたラルフの横をノーンが尻尾をフリフリ通り過ぎる。ササっとベルフィアの横に付くとノーンはドヤ顔をしてみせる。
「おやぁ?怖じ気づいタノではないかえ?」
「おばさん一人で何が出来んの?私も手伝ってあげる」
「おば……妾にそノヨうな概念はない。もう少し物を知り、口を慎むんじゃな」
「メッチャ効いててウケる」
ベルフィアの眉間にシワが寄る。怒っているのか、右目の下の辺りがピクピクと痙攣している。
吸血鬼の寿命がどのくらいになるのか定かではないが、エルフや一部の魔族同様に歳を取るのが極端に遅い。おばさんなどと揶揄される歳でもないが、面と向かって言われると腹が立つものだ。
「さっきまで戦ってた奴らがすっかり仲良しだな……」
ラルフは感心の眼差しで二人にエールを送る。そんな中、真隣から小さくか細い声が聞こえた。
「……ん」
その一言が耳を掠めたラルフは不思議な顔で確認する。そこにはグータッチを求めるパルスの姿があった。
「え?ああ、これ?おうっ!行って来い」
軽く拳を合わせるとパルスも前に出た。すごく頼もしいが、これは逆にラルフには任せられないと言われているも同義。
女性が強すぎるが故に必然的に戦いをお願いすることは多い。いち男性として実に情けない。
「人には得手不得手ってのがありますぜ?ラルフさん」
「おわっ!ってトウドウさんか。いつの間に……」
「いや、肩を落としてたんで、きっとお悩みなんだと思いましてねぇ」
「俺は態度に出易いみたいだな。悩みっつーか……いやまぁ、悩みなんだけど。俺の周りが強くてさ、俺はお荷物じゃねぇかなって思うのよ……いっつも戦いを任せてばっかりじゃ肩身が狭いっつーか。だからって何か出来るわけじゃねーんだけどさ……」
「ふむ、適材適所だな。あんたは後方で鎮座している方が似合ってるよ?それに……」
藤堂も後頭部をボリボリ掻きながら戦いに行く。
「俺ぁあんたを殺させるわけにはいかねーからなぁ……こっちだって必死だぜ?」
藤堂の意味深な呟きにラルフの脳裏に「異世界転移」という文言が浮かんだ。藤堂は元の世界に帰りたがっている。
昔、独自に開けた異次元へ通ずる扉は魔族を呼び寄せ、この世界に災いを運んだ。帰るためなら何度でも異次元の扉を開けるつもりだが、出来れば二度と同じ過ちは犯したくない。
ラルフの特異能力である小さな異次元は異世界へ自由に行き来できる優れた力。藤堂はこの能力が打開策になると信じているのだ。
「元の世界か……」
野盗に狙われ、魔獣に狙われ、公爵に狙われ、魔王に狙われ、神に狙われ……幾多の命の危機を経験し続けてきたラルフ。藤堂の夢と希望に、ミーシャと共に生きることにした今後の展望に新たな可能性を見出した。
「……いいぜ。そんなにも帰りたいってんなら、俺が何とかしてやるよ」
ラルフはニヤリと笑って藤堂を送り出す。
ユピテルとの決着に漕ぎ出した作戦に乗るのはゼアル、ベルフィア、ノーン、パルス、そして藤堂。五人の決死の神討伐が始まる。
『……ラルフさ~ん!』
格好良く決めていたラルフの元に妖精がふよふよやってきた。パルスに飼われているオリビアだ。
「そうだよな、危ねーもんな。一緒に離れてようか」
ラルフはそそくさと戦場を離れた。
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