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第十五章 終焉

第十七話 神は息切れを起こすのか

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『朽ち果てろっ!!』

 ユピテルは三人を相手に立ち回る。
 ブレイドの技術と精神の若さが隙を生み、ユピテルの反撃を誘うが、エレノアが身体能力と息子への愛で支え、さらにゼアルの経験と神の力が二人を補う。それぞれの役割がユピテルを追い詰めていく。
 ユピテルが三人を一遍に相手に出来るのは、ひとえにその速度と腕力による優位性に他ならない。
 強敵との戦いは多勢に無勢で疲労を待つのがベスト。今の戦況こそが勝ちパターンの一つと言えよう。だが、ここで疑問が浮かぶ。

(……神は息切れを起こすのか?)

 ゼアルの心に氷が落ちる。もし一日以上動き続けても疲れないような体力であるなら……いや、30分動いても疲れないと言うならジリ貧で負けるのはこちら側。コンマ数秒の世界を削り合う戦いに悠長に構えている場合ではない。どこかで逆転の手を打たねば現状は覆らない。

(私がやるしかないな……!)

 ブレイドやエレノアが弱いというわけではない。決定打に欠けるという点で任せるわけには行かない。攻めに転じていたブレイドたちのお陰でユピテルの動きを大体掴んだゼアルは、満を辞して防御から攻撃に転じる。
 ユピテルを翻弄し、最高のタイミングで最強の一撃を放つ。

『チッ!ちょこまかと動くなぁっ!!』

 だがその瞬間に感情に任せた攻撃を放つ。身体中から雷を発生させ、衝撃波のように周りに撒き散らした。ブレイドとエレノアはその勢いに押されて吹き飛ぶ。ゼアルにも例外なく押し寄せたが、全て剣で防ぎ切り、足を滑らせるようにユピテルに接敵する。

『なっ!?』

 今まで防御に専念していたゼアルに接近されたユピテルは驚きで声が漏れる。体を開くように放った一撃のせいで防御が間に合わず、隙だらけとなってしまった。

 ──ボッ

 ゼアルの剣は計四振りの軌道を描いた。あまりの速度に音は一つに聞こえ、この世の生き物には必殺必中の攻撃となっていた。ユピテルには必殺とまでは行かなかったが、片腕と片足を瞬時に切り落とした。

「避けたっ!?この距離でかっ?!」

『ええいっ!やってくれたなゼアル!!』

 ユピテルは切り落とされた腕と足の状態など放っておいて上空に舞い上がる。今の攻防が最大にして最後のチャンス。地上からでは空にいるユピテルに攻撃を加えられない。
 殺し合いは如何に初見殺しを活かすかにかかっている。モノに出来なければ最後、二度とそのチャンスは訪れない。

『こうなったらこの浜辺ごと消し去ってくれるわ!!』

 ユピテルの体はさらなる発光を見せ、太陽の如く光り輝く。

「え?待てよ。あいつ何て言った?」

 みんなの戦いを観戦していたラルフは耳聡みみざとく反応する。当然だ。戦いと破壊の規模がまるで違う。隣でポケーッと観戦していたパルスも思わず大剣を構えた。暗雲が急速に育ち、浜辺を隅々まで覆う。これには自分の戦いに集中していた敵も味方も垣根無く驚く。

『これがっ!神からの天罰だっ!!くらえっ千却万雷せんきゃくばんらいっ!!』

 ──カッ

 完璧なタイミングでの複数の雷落とし。無慈悲としか言いようがないこの攻撃は敵味方の区別無く破壊を敢行する。直撃は避けられても、雷が落ちる速度と威力を考慮すればかなりのダメージとなるだろう。実際、戦いを中止して逃げ惑う仲間の姿が見えた。

「ユピテルっ!何て自己中なんだ……!」

 攻撃が当たらないと見るや無差別攻撃を敢行する。これを自己中心的と捉えずしてどうなる。
 一通りの雷落としが落ち着いた時、立っていたのはベルフィアとノーンの二人だけ。他は雷で気絶し、砂浜に寝転がっている

「こうなっタら八大地獄も形無しだノぅ。……まぁ元ヨりこノ程度ノ実力だろうが……」

 ベルフィアは唇を尖らせながら呟いた。ノーンは睨みつけながら口を開く。

「あんたの仲間も大概でしょう?調子に乗らないでくれる?」

 一時中断させられたとはいえ、争いは未だ終わっておらず、次の瞬間には拳と拳でバチバチに戦ってそうな雰囲気。ラルフはそんな二人をも無視して心からの悪態をつく。

「ったくユピテルの野郎……強すぎんだろ?どんだけだよクソ!」

 決着の見えない戦いの中、ゼアルは冷静に物事を見極める。

「次は首だぞ。……ユピテル」
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