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第十五章 終焉

第十六話 子供の喧嘩

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 ──神の介入。
 神がこうなって欲しい、こうなることがベストだと物事を意思決定する時に、必要な者の前に現れることを指す。
 イイルクオンの神々は、促したり抽象的なことを言って煙に巻くような指示程度には留まらない。自らが行動し、自らで決着をつけようとする。鎮座していることの出来ない、力を持った子供のような集団。

 アトムは今、歓喜していた。史上最強の魔王を意のままに操ることが出来るのだ。当然心も踊る。
 ミーシャの頭を掴んだ森王の手から意識をスルリと侵入させ、精神を汚染する。こんなことをするなど本来あり得ない。アトムは神であり、この世界の生き物はアトムより下位の存在。つまりどんな生物も神であるアトムにその体を明け渡すことが当然なのだから。

『おやおや?彼女を下位の存在だと思っていたのですか?』

 その嘲る声にアトムはいきなり壁が現れ、思い切り頭をぶつけたような感覚に陥る。

『ぬぉっ!?サ、サトリ!貴様かっ?!』

『はい、サトリです』

『貴様ぁ……今更介入しようと言うのかっ!?良かろう!相手をしてくれるわっ!!』

 アトムは力を強める。全力でミーシャを物にしようと壁の突破を図った。

『そうやって何も作らずに他者から奪うことだけに終始しているからバカにされるのですよ?神であり創造主であることを強調されるなら、ご自身の御力でミーシャより優れた存在を作られるのが宜しいのではないでしょうか?』

『ふざけたことをっ!元はと言えば貴様がこんなものを作らなければ良かったのだっ!!貴様の自己中心的な行動が生み出した結果だと言うことを忘れさせんぞっ!!』

『自己中心的?神とは存在そのものが自己中心的だと言えるのではないでしょうか?あなたも例外なくエゴイズムの結晶だと思いますが?』

『黙れっ!ゴチャゴチャと偉そうにっ!!貴様のその独善主義が一番の害悪だっ!!』

 感情で押し切ろうとするアトムと冷静に煽るサトリ。一歩たりとも譲らない言い争い。

「うるさぁいっ!!」

 ──ゴバァッ

 ミーシャは頭の中で繰り広げられる言い争いにキレた。ミーシャを中心に発された衝撃波に森王は吹き飛ぶ。

『しまったっ!!』

 アトムはサトリに邪魔され、ミーシャを手にすることは出来なかった。アトムは天樹に叩きつけられる瞬間、受け身をとって何とかダメージを和らげた。最後のチャンスと言える瞬間を逃した。これにより、ミーシャは力の上で優位、アトムは森王という人質という優位。つまりほとんど仕切り直し状態となった。決着の見えぬ攻防。

『いいえ、決着はもうついています』

『は?』

 アトムはサトリの言葉に間抜けな声を出す。誰がどう見ても仕切り直しなのは明らか。勝敗が決しているはずがない。

『ミーシャの攻略法がない時点であなたの負けです。行きましょうアトム。あなたは邪魔です』

 辛辣と取れる言葉に憤慨しかけたが、ミーシャの中から粒のように出た無数の光が人を形成し、森王の体に迫る。線の細い女性の手が森王の胸にスルリと入っていく。ホログラムが物に重なったような、幽霊が肉体に手を突き入れているような、とにかく半透明のサトリが森王を貫通する。
 突き抜けた反対側に人影がヌルリと出てくる。真っ黒な何かはサトリに抱かれて天樹の壁をも貫通していった。

 それを不思議そうに見ていたミーシャだったが、森王の唸り声でハッと我に返った。

「こ、ここはどこだ?私は……結婚式を……」

 森王から出た言葉でミーシャは訝しむ。アトムが出て行ったふりをしている可能性を考慮し、森王の回復を待つ。しばらくの後、アトムに感じなかった知性を森王との会話の中に見出し、ミーシャはようやく胸を撫で下ろした。

『離せサトリっ!!貴様が邪魔しなければ私は奴に勝利していたっ!!攻略法など私には必要ない!!』

『それは違います。あなたがそうして物事から目を背けていては勝利はありませんよ?固執するのではなく、もう少し視野を広くして見ることです。答えは目の前にあるのですから』

『……な、何?それは一体どういうことだっ?!』

『まぁしばらくは寝ててください。彼らの邪魔をしないようにね……』



「……あっちはどうしてっかな……?」

 ラルフはミーシャを考える。アトムとの戦いに身を投じる世界最強の魔族、今までの戦いを考えればミーシャの圧勝であることは見ないでも分かる。
 問題は森王の身だろう。アトムは人類の要であるエルフの王を人質に取った。万が一手を滑らせて殺せば、今度こそ人類の敵となる。

「こりゃっラルフ!!真面目に働かんかっ!!」

 ベルフィアは苛立ち気味に叱責する。ユピテルとの戦いは八大地獄も交えた総力戦の様相を呈していた。結局ブレイドとエレノア、後から参戦してくれたゼアルの三人が光の神ユピテルを抑え、八大地獄は他の面々で受け持つことになる。
 すぐにまた異空間に放り込むように仕向けても良かったのだが、白の騎士団の一人である”狂戦士”ガノンたっての希望と、正直ラルフもそろそろ八大地獄の沙汰に踏み切る時だろうということで、この戦いを了承した。

「してるって!ちゃんとパルスを抑えてるだろ?」

 ラルフはパルスと肩を並べて座り、戦いを観戦していた。血の気の多い八大地獄にも戦わない奴はいる。ペルタルク丘陵で気に入られたようで、こうしてちょこんと隣に座ってくる。パルスの胸ポケットに収納されている妖精ピクシーのオリビアもこれには困惑気味だ。

「ぐっ!こノ……減らず口男っ!」
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