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第十五章 終焉

第十三話 エメラルドの玉体

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 エルフェニア。エルフが暮らすために最も秘匿された国。神の御使いであると信じて止まないエルフたちは、美を内包した完璧な容姿保つために他種族との関係を極力断つことで遺伝子の保存を考えた。故にエルフは傲慢な思想を持ち、エルフ以外の種族を天から見下している。

 一千年の時が経った今では、森王の魔族に対する憎悪や他種族への尊敬も相まってかなり改められたが、未だに国民の大半は天狗になっている。エルフ以外を差別し、侮蔑し、拒絶してきた歴史は、その実平和に彩られていた。他種族を入れないということは犯罪の抑止に繋がっていたのだ。

 そう、あの日を境に平穏の日々は突如崩れ去る。遡っては神が巫女に乗り移ったあの日、さらに天樹召喚をしてしまったあの日から滑り落ちるように……。



 天樹のうろから出てきたエメラルドの結晶。それを人型に加工し、肉体とした統御とうぎょの神アトム。
 古代種エンシェンツである”ダークビースト”や死体の集合体である俗称”レギオン”、鎧や武器の寄せ集め”ゴーレム”、果ては天樹を操り、ラルフたちに猛威を振るってきた。
 大きいものこそが最強だと言わんばかりの行動だが、今回のエメラルドの傀儡は身長にして3m前後と少々小柄だ。ミーシャもアトムには超大柄で超大雑把なイメージしかないのでほんのちょっぴり驚いた。

「何の心境の変化なのか知らないけど、大きさを少し変えた程度じゃ私には勝てないよ?」

『好きにほざけ!……だが、これだけは言っとくぞ?私の能力は先にも言ったが統御。操る数に限界なぞ無いが、操る数を制限すればそれだけ強くなるのが私だ。そう……つまり!』

 ゴォッ

 アトムはミーシャに急接近する。拳を振りかぶっているのを見れば、まっすぐ殴りに来たのは必然。
 しかし、魔障壁を張る彼女の目の前で防がれるのがオチである。突っ込んできたアトムは何の捻りもなくミーシャの魔障壁に向かって拳を叩き込んだ。

 ゴォンッ……ビキッビキビキ……

 今まで聞いたこともないような音を立てて魔障壁に大きな傷を作った。まさかの一撃。粉砕寸前というところまで追い詰められた。

『フハハハッ!!どうだ?!この力はぁ!!』

 アトムはこれ見よがしに叩き込んだ右拳をかざして悦に浸る。

「へぇ~?何か雑に殴りに来てたからいつも通り弾くと思ったんだけどなぁ……」

 確かに強い。複合増幅魔法攻撃”落雷”や古代種エンシェンツの雷撃でようやくヒビが入ったのに、魔法的要素の無い打撃でこのザマ。これは認めざるを得ない、アトムが本物の神であることを。

「ちょっと思ったんだけど、それって硬いの?」

 ミーシャは唐突にエメラルドの硬度を聴き始める。

『ああ、硬いとも。だが貴様の力ならば紙のように引き千切ることだろう。……本来であればな』

 大きく強調するように体を開いてエメラルドの輝きをこれでもかと見せつける。

『この体に付与した私の力。腕力だけでなく、硬度も上昇している。もはやこの世界の物質では破壊不可能なほどに!』

 ──ボッ

 ミーシャの顔面目掛けて拳を放つ。緑の軌跡が彼女の顔の横を通り過ぎる。紙一重で避けたようだ。

『ふっ、避けたか。だがそれは単に寿命を数秒伸ばしたに過ぎぬ!!』

 今度の攻撃は前蹴り。鋭利な刃物が空気を切り裂いたような凄まじい速度の蹴りだ。これもまたミーシャは避ける。打撃が当たるのかさえ疑問だが、一連の動きはテストを兼ねていた。ちゃんと動くのかどうか、どこまで強化出来るのかとか硬度の変更に至る全て。

『フハハッどうした!?この程度で終わるつもりか?!本気を出せ!出さぬまま死んでは悔いを残すぞ!!』

 絶好調と言える高笑い。ミーシャはおもむろに首を縦に振った。

「うん、そうだね。簡単に壊れないように戦ってきてたけど、もうその心配は無用のようね」

 ミーシャは新しいおもちゃを見つけた子供のような純粋な笑顔でアトムを見つめる。

『萎縮させるために必死だな。そんな風にイキって何になる?とっとと打ち込んでみてはどうなんだ?』

 ため息をつきながら呆れ気味に提案してみた。

 ──ゴッ

 やれやれと肩を竦めるアトムに目の覚めるような一撃をお見舞いするミーシャ。アトムの体は一直線に飛び、まるでミサイルを撃ったような軌道を描いて天樹に突き刺さった。

「……忠告に感謝。ならばアトム、本気で戦おう」

 呟く程度の声音だったがアトムに届いていた。刺さった体を引き抜きながらミーシャを睨みつける。

『上等だっ!あとで吠え面かいても知らんぞ!!』

 二人の攻防は大地を揺るがし、天空を引き裂く。
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