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第十五章 終焉
第八話 エルフェニア崩壊
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オォォォン……
空気が揺れる。世界規模の天災が巻き起こる前兆。魔獣たちが不安に駆られ、何が起こっているのか分からない中、何処にも逃げられない恐怖に慄く。
『……ぬっ?』
ユピテルは弾かれたように振り向いた。その先にあるであろう脅威に対して歯噛みする。
『チィッ!!先越されたか!!』
光の集合体と化していたユピテルはさらに光量を上げて飛び立つ。光速の瞬間移動。エルフェニアまではあっという間だろう。
その頃のエルフェニアは白日の下に晒されていた。せっかく起動させていた結界を超大型殺戮兵器「神ノ木」に破壊されたせいである。桜の花びらのようにハラハラと落ちていく結界の破片を尻目に、ミーシャはラルフを抱えて飛び上がる。
「ちぇっ!無茶しやがるぜまったく!」
天樹のひび割れた木の肌から覗く目玉はその全てがミーシャとラルフを捉えている。あまりの大きさとその自重から攻撃は多少なり遅くなったが、その質量から発生する力は凄まじいものがある。そしてアトムが操ることにより神の力が追加されている。単純な力勝負なら亡き古代種、サイクロプスをも凌駕する。
ブォンッ
あまり振りかぶることなく振るわれた腕のような枝は、空気を切り裂き嵐を巻き起こす。乱気流の如き風の乱れに逆らうミーシャの動きにラルフは恐怖する。
「おわぁっ!!」
風除けに魔障壁を張って飛んでいるのだが、浮遊感と飛び回る速度に内臓も縦横無尽に暴れまわっている。ジェットコースターのような移動に段々と苦しくなってきた。
「うっぷ……ミ、ミーシャ……俺、もうダメかもしんない……」
「我慢してラルフ!今止まったら死んじゃうから!」
ミーシャは飛び回りながら神ノ木がどういった敵なのか見定めようとしている。すぐに攻撃に映らないのは森王が取り込まれているからだ。ラルフが森王を気にした時点でミーシャの中ではある種のVIP待遇となっていて、うっかり消しとばしてしまわないように観察していたのだ。
ただ、正直なところミーシャには何も分からない。如何あっても勘で何とかするしかないのが現状である。
「……要は心臓と一緒でしょ?中心部を攻撃しなきゃ森王は傷つかない。そうでしょ?」
「……まぁ、多分……大雑把に言えばそうだと思うけど……」
「じゃあ反撃しようか!」
ミーシャは言うが早いか天樹のうろに向かって突撃する。その行動にはほぼ気絶寸前のラルフを目覚めさせる。
「えぇ!?ちょっ……!今中心部は狙わないって……!!」
そんなツッコミなど御構い無しにまっすぐ突っ込む。
『バカが!!』
アトムはうろの周りから枝を無数に生やし、ミーシャが纏わせた魔障壁に這わせて突撃の勢いを殺す。空中で完全に停止させられた二人に喜び満ち溢れる声が聞こえてくる。
『見た目に騙されたな!今ある姿が全てではないわ!!その愚かさを抱いて果てろっ!!』
アトムはラルフとミーシャを挟み潰そうと左右両側から巨大な枝を急接近させる。その光景はまるで羽虫を手で潰そうとする木のモンスター。今まで叩き潰した虫たちが最期に見たであろう光景が今目の前に……。
ゴガァンッ
神秘の力で強化された枝は、最新の結界をも容易く破壊する。となればここから考えられる惨状は見るも無残であると、嫌でも想像してしまう。腕を模した枝の木肌に付着するおびただしい血は、神ノ木の視点では血を吸った蚊を叩き潰したような矮小さだろう。森王の顔は笑顔で醜く歪んでいた。アトムの喜悦がそのまま脳内麻薬として駆け巡っているのだ。とにかく気分が良い。
だがそんな気持ちは二人を挟んだ枝から漏れ出す光に掻き消される。
──パァッ
毛糸の糸が内側から解けていくような枝の崩壊。不思議としか言い様がない光景に度肝を抜かれる。
エルフェニア国を包む結界とミーシャ個人の魔障壁。優れていたのはミーシャの魔障壁だった。
『違う……これは魔障壁ではない!!貴様ぁ!一体何者なんだ!!』
アトムの焦りにミーシャの渾身のドヤ顔が炸裂する。
「私か?ふふっ、私は唯……」
バリィッ
いつもの名乗り上げを高らかに宣言しようとした次の瞬間、ミーシャの魔障壁は雷撃に包まれる。お約束を邪魔されたミーシャは怒りに震えた。
「誰だ!!私がまだ話してる最中だぞ!!」
声を張り上げたミーシャの前に収束する光の粒。それは徐々に大きくなっていき、人の形を形成した。
『私か?誰が呼んだか太陽の化身。光の神ユピテル!』
「なっ!?わ、私の名乗り上げの時間を奪われた……?!」
ミーシャは目を見開いてショックを受けている。
『ふっ、アトムよ!抜け駆けとは感心せんな!』
『……横入りか、まぁ良いだろう。せっかくだから手伝わせてやる』
『ほざけ!それはこちらのセリフだ!!』
ユピテルとアトム。二柱の神が集い、ミーシャとラルフに敵愾心を向ける。二柱と戦えるのはこの場ではミーシャのみ。
「二体一か。勝てないわけではない……けど」
チラッとラルフを見る。そう、ラルフは神から力を授かったが、身体能力的には少し強いただの人間である。神一柱を任せられるほどのレベルにはとてもじゃないが達していない。ミーシャの不安、それは当然ラルフ本人にも伝わる。足手まといになっていることくらい重々承知だ。それでもラルフはミーシャに笑顔を向ける。
「大丈夫だ。俺に任せろ」
「……どうする気?」
ラルフはミーシャに耳打ちする。ミーシャは驚き戸惑うが、ラルフの意思は固い。「これしかない」とまで言われてはミーシャも頷く他ない。
「じゃ、良い?」
「ああ……いや、ちょっと待って!少し息を整えてから……スゥー、ハァー……良いぞ。俺を彼方にぶん投げろ」
ブンッ
ラルフはミーシャの剛腕に投げられ、みるみる遠ざかる。
『何っ!?』
言い争いをしていた二柱は二人の奇行に驚愕する。
『待てっ!逃がさんぞっ!!』
即座に反応したのはユピテル。光の速度でラルフに迫る。あっという間に攻撃の間合いに入ったユピテルだったが、ラルフは驚きもなく当然のように不敵に笑う。
「逃げるわけねーだろ?お前は俺の獲物だからな!!」
空気が揺れる。世界規模の天災が巻き起こる前兆。魔獣たちが不安に駆られ、何が起こっているのか分からない中、何処にも逃げられない恐怖に慄く。
『……ぬっ?』
ユピテルは弾かれたように振り向いた。その先にあるであろう脅威に対して歯噛みする。
『チィッ!!先越されたか!!』
光の集合体と化していたユピテルはさらに光量を上げて飛び立つ。光速の瞬間移動。エルフェニアまではあっという間だろう。
その頃のエルフェニアは白日の下に晒されていた。せっかく起動させていた結界を超大型殺戮兵器「神ノ木」に破壊されたせいである。桜の花びらのようにハラハラと落ちていく結界の破片を尻目に、ミーシャはラルフを抱えて飛び上がる。
「ちぇっ!無茶しやがるぜまったく!」
天樹のひび割れた木の肌から覗く目玉はその全てがミーシャとラルフを捉えている。あまりの大きさとその自重から攻撃は多少なり遅くなったが、その質量から発生する力は凄まじいものがある。そしてアトムが操ることにより神の力が追加されている。単純な力勝負なら亡き古代種、サイクロプスをも凌駕する。
ブォンッ
あまり振りかぶることなく振るわれた腕のような枝は、空気を切り裂き嵐を巻き起こす。乱気流の如き風の乱れに逆らうミーシャの動きにラルフは恐怖する。
「おわぁっ!!」
風除けに魔障壁を張って飛んでいるのだが、浮遊感と飛び回る速度に内臓も縦横無尽に暴れまわっている。ジェットコースターのような移動に段々と苦しくなってきた。
「うっぷ……ミ、ミーシャ……俺、もうダメかもしんない……」
「我慢してラルフ!今止まったら死んじゃうから!」
ミーシャは飛び回りながら神ノ木がどういった敵なのか見定めようとしている。すぐに攻撃に映らないのは森王が取り込まれているからだ。ラルフが森王を気にした時点でミーシャの中ではある種のVIP待遇となっていて、うっかり消しとばしてしまわないように観察していたのだ。
ただ、正直なところミーシャには何も分からない。如何あっても勘で何とかするしかないのが現状である。
「……要は心臓と一緒でしょ?中心部を攻撃しなきゃ森王は傷つかない。そうでしょ?」
「……まぁ、多分……大雑把に言えばそうだと思うけど……」
「じゃあ反撃しようか!」
ミーシャは言うが早いか天樹のうろに向かって突撃する。その行動にはほぼ気絶寸前のラルフを目覚めさせる。
「えぇ!?ちょっ……!今中心部は狙わないって……!!」
そんなツッコミなど御構い無しにまっすぐ突っ込む。
『バカが!!』
アトムはうろの周りから枝を無数に生やし、ミーシャが纏わせた魔障壁に這わせて突撃の勢いを殺す。空中で完全に停止させられた二人に喜び満ち溢れる声が聞こえてくる。
『見た目に騙されたな!今ある姿が全てではないわ!!その愚かさを抱いて果てろっ!!』
アトムはラルフとミーシャを挟み潰そうと左右両側から巨大な枝を急接近させる。その光景はまるで羽虫を手で潰そうとする木のモンスター。今まで叩き潰した虫たちが最期に見たであろう光景が今目の前に……。
ゴガァンッ
神秘の力で強化された枝は、最新の結界をも容易く破壊する。となればここから考えられる惨状は見るも無残であると、嫌でも想像してしまう。腕を模した枝の木肌に付着するおびただしい血は、神ノ木の視点では血を吸った蚊を叩き潰したような矮小さだろう。森王の顔は笑顔で醜く歪んでいた。アトムの喜悦がそのまま脳内麻薬として駆け巡っているのだ。とにかく気分が良い。
だがそんな気持ちは二人を挟んだ枝から漏れ出す光に掻き消される。
──パァッ
毛糸の糸が内側から解けていくような枝の崩壊。不思議としか言い様がない光景に度肝を抜かれる。
エルフェニア国を包む結界とミーシャ個人の魔障壁。優れていたのはミーシャの魔障壁だった。
『違う……これは魔障壁ではない!!貴様ぁ!一体何者なんだ!!』
アトムの焦りにミーシャの渾身のドヤ顔が炸裂する。
「私か?ふふっ、私は唯……」
バリィッ
いつもの名乗り上げを高らかに宣言しようとした次の瞬間、ミーシャの魔障壁は雷撃に包まれる。お約束を邪魔されたミーシャは怒りに震えた。
「誰だ!!私がまだ話してる最中だぞ!!」
声を張り上げたミーシャの前に収束する光の粒。それは徐々に大きくなっていき、人の形を形成した。
『私か?誰が呼んだか太陽の化身。光の神ユピテル!』
「なっ!?わ、私の名乗り上げの時間を奪われた……?!」
ミーシャは目を見開いてショックを受けている。
『ふっ、アトムよ!抜け駆けとは感心せんな!』
『……横入りか、まぁ良いだろう。せっかくだから手伝わせてやる』
『ほざけ!それはこちらのセリフだ!!』
ユピテルとアトム。二柱の神が集い、ミーシャとラルフに敵愾心を向ける。二柱と戦えるのはこの場ではミーシャのみ。
「二体一か。勝てないわけではない……けど」
チラッとラルフを見る。そう、ラルフは神から力を授かったが、身体能力的には少し強いただの人間である。神一柱を任せられるほどのレベルにはとてもじゃないが達していない。ミーシャの不安、それは当然ラルフ本人にも伝わる。足手まといになっていることくらい重々承知だ。それでもラルフはミーシャに笑顔を向ける。
「大丈夫だ。俺に任せろ」
「……どうする気?」
ラルフはミーシャに耳打ちする。ミーシャは驚き戸惑うが、ラルフの意思は固い。「これしかない」とまで言われてはミーシャも頷く他ない。
「じゃ、良い?」
「ああ……いや、ちょっと待って!少し息を整えてから……スゥー、ハァー……良いぞ。俺を彼方にぶん投げろ」
ブンッ
ラルフはミーシャの剛腕に投げられ、みるみる遠ざかる。
『何っ!?』
言い争いをしていた二柱は二人の奇行に驚愕する。
『待てっ!逃がさんぞっ!!』
即座に反応したのはユピテル。光の速度でラルフに迫る。あっという間に攻撃の間合いに入ったユピテルだったが、ラルフは驚きもなく当然のように不敵に笑う。
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