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第十五章 終焉

第一話 始動

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 空に稲妻が走る。快晴に轟く雷鳴に誰もが空を見上げた。人里離れた高い山の火山口に凄まじい爆発と共に雷が落ちる。
 高い山の名はヒラルドニューマウント。かつて最強の竜が住まいしこの山は閑散としていた。
 そこにやって来たのは創造神が一柱ユピテル。轟雷に包まれていた体は吐き出す息にも電気が交じる。

『……何と心地良い』

 全身に血が巡るように光が走る。その様子に目を細め、天高く両手を突き出す。光の柱が火山口全体に拡がり、上へ上へと空を穿つ。その光は最強の魔王”みなごろし”の最大級の魔力砲に匹敵する。

『はっはぁっ!!これぞ我が力ぁ!!』

 光を放った彼の姿はモデル系イケメンから、肉体そのものが発光しているエネルギー体のようなモデル系イケメンへと変化した。
 守護獣ガーディアン、下界では古代種エンシェンツと呼ばれる獣に与えた神の一部。獣たちの消滅により戻りし力は想像を絶する。
 彼は光の神ユピテル。自らが戦いに馳せ参じる。

 ユピテルに呼応するように、海が唸りを上げていた。ゴゥゴゥッと荒波に反して穏やかな深海に覗く二つの目。

『静かな揺り籠……私の理想の場所……』

 光の届かぬ深淵に出でしリヴァイアサンの母。闇の神イリヤ。漆黒を纏いて深く深く……。

「モオォォォッ!!」

 大地を駆ける巨躯。最も荒々しく、最も強い草食動物”魔牛”と呼ばれる獣。縄張りに入った敵を殺すまで突撃する様は正に狂獣。
 そんな怪物の眼前に立つ筋肉質の女性。槍投げや砲丸投げ系列の陸上選手とも言うべき体躯は、強くてしなりのある長弓のような印象を称える。
 魔牛は烈風のような勢いでその女性に突撃する。アフリカ象並みに巨大な牛の突進など考えたくもない。女性は逃げることもせずに仁王立ちで迎える。逃げるだけの力がなかったのか、あるいは避ける自信があるのか。

 ゴギンッ

 掬い上げる様に振られた角は片腕で止められ、勢い余った自重と突進力に角の先端が折れた。更に投げられたかの如く浮き上がり、背中から地面へと着地した。
 女性はすかさず拳を振り上げ、無防備な魔牛の額に拳を叩き込む。ゴドンッと重い物で建物の床が抜けたような嫌な音を立てて額が陥没。魔牛は目から血を流して絶命した。

『この程度では力が戻ったのかよく分からないな……』

 血にまみれた手を見ながら首を傾げるこの女性は、力の神エレクトラ。強さとは腕力であるを地で行く彼女の瞼の裏には、倒すべき敵の姿が浮かんでいる。

『ミーシャ?たかだかいち魔族が図に乗るなどあるまじき事。……私の力で葬り去る!』

 エレクトラは怒りや殺意が湧き立ち、負の感情を発散させる。その意気込みとは裏腹に、力が戻っても息を潜める者もいた。
 回帰の神バルカン。
 自然を愛し、自然の在り方に絶対的なこだわりを持つ彼は、それを著しく破壊し捻じ曲げるミーシャを消したい程に憎んでいる。だが彼の中にある、ある種の不変的価値観が戦いを拒む。

『自然を破壊する者の誕生……サトリが手ずから作成したとはいえ、そんなものが生み出されることになった原因はきっと……』

 今世界は変革を求めている。繰り返す営みだけでは越えられない何かに圧されるように、または押し潰されないように。

『自然淘汰の果の変化ならば寛容にもなれたが……行き着く先はどこになるというのだ?』

 神すら困惑する事態。そんなバルカンの苦悩など知る由もない創造神アトム……いや、真に司るは操作。ありとあらゆるものを思いのままに操る能力。統御とうぎょの神アトム。
 彼もまた、久々の力に酔いしれた一柱。彼もまた、打倒すべき悪に闘志を燃やす。ただ彼が倒したい最大の敵は他とは違う。

『ラルフ……貴様だけは確実に殺す!』

 ミーシャに敗北し、煮え湯を飲まされて尚、ラルフに虚仮にされた屈辱の方が勝る。この手で討ち滅ぼすことを元とし、力を振るう。
 とはいえ、彼は肉体を持ち合わせていない。肉体を生成するのは簡単だが、確固たるモデルが彼の中には無い。それ故に現世に居る適当な肉体を乗っ取る。次なる犠牲者は誰となるのか、それは彼の気まぐれ次第。

『……ネレイド』

 神々が戻ってきた力を歓迎する中、ネレイドとミネルバも湧き上がる力を堪能していた。

『分かっているさミネルバ』

 天の神ネレイド。地の神ミネルバ。
 二柱はラルフたちから少し離れ、今後の計画を立て始める。世界滅亡か存続か、二つの極端な目標に向かうための……。

『来た来た来た来たぁーっ!!』

 ボワッと体から溢れ出る光は神秘の力。狂神アルテミス改め、五感の神アルテミス。

『もう誰にもウチは止められなーい!!』

 アルテミスの喜びが周りに伝播する。パァッと両手を上に開いた姿に黒曜騎士団が鬨の声を上げた。皆の顔に喜びが満ち溢れ、今から祭りでも始まるのかと思うほどに盛り上がっている。

「これは一体どういうことだ?アシュタロト」

 マクマインは訝しげに辺りを見渡す。自分以外の人間はアルテミスの雄叫びに感化されているように見えたからだ。マクマインの疑問にアシュタロトは涼しい顔で応える。

『ああ、元に戻ったんだね』

「何?元に戻る?何だそれは……」

『ほら、守護獣ガーディアンがみんな死んじゃったから、それに割いてた力が戻ったってことだよ。あれ作るの結構な手間だったからね~』

「神は皆、弱体化した状態で顕現していたと?なるほど、それでみなごろしに煮え湯を飲まされていた訳だ。本来の力ならもう誰も止められないということで相違ないな?」

『さぁ?それはどうかな~』

「……食えん奴だ」

 マクマインは呆れたようにアシュタロトから視線を外すが、その顔は期待に満ちていた。何かが変わる。その予感は今までの鬱屈した状況を吹き飛ばすのに一役買った。

「実に楽しみだ。アシュタロト」

『僕もさ、マクマイン』

 千年以上使用出来なかった本当の力。神々は久々の力に酔いしれ喜悦に満たされる中、たった一柱だけが顔を曇らせる。
 死神サトリ改め、心の神サトリ。

『どうして……』

 サトリはため息をついた。
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