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第十五章 終焉

プロローグ

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 俺の名はラルフ。しがないトレジャーハンターだ。

 行商人の息子で、小さな頃から国から国への移動を盛んに行い、俗に遊牧民なんて言われる暮らしに明け暮れた。
 優雅さや華やかさとは無縁の泥臭い移動ばかりの生活。唯一の楽しみは郷土祭り。運良く開催されていたら必ず参加した。祭りの一体感は得難い充足感と思い出をくれた。
 もちろん楽しかったり退屈するだけの毎日でもなく、死ぬかもしれない危機に何度も曝され、その度何度も死にかけた。戦争、病気、野盗、事故。悪運だけは強かった俺は母親の運まで吸っちまったらしい。

 傷心の俺を救ったのは一冊の本だった。
 タイトルは「ロングマン日誌」。数奇な運命を辿る男の物語。様々な人のドラマがそこにあり、一緒に冒険しているような錯覚は、少年には刺激があり過ぎた。
 トレジャーハンター。この世界で馴染みない職種。活字で知った夢と希望。ほんの少ししか書かれていなかったにも関わらず、感動するほど印象に残った。

 キャラバンを飛び出したのは16の春。
 別に喧嘩したとかじゃない。置き手紙を置いてこっそり抜け出した。親父の商売を懸命に手伝って集めた手間賃を握りしめ、広大な大地を駆け抜けた。すぐにからっけつになったが、それも一人旅の醍醐味って奴だ。
 路銀を稼ぎながらその日暮らしの日々は危険の連続だ。ある時は尻尾を巻いて逃げ、またある時は土下座や死んだ振りなんかで地べたに這いつくばってでも生き延びてきた。
 少しでも金が貯まったら次の街へ。美味しい話があれば飛び付いて、必要なら即席で冒険者パーティを作る。いきなり貼り付いて来た蛭の如き寄生虫ムーブは、嫌われること前提。
 人に頼るのではなく、他人を利用する。生きていく知恵だ。卑怯卑劣はお家芸。生き汚いって言われるのは最高の褒め言葉さ。

 何度でも立ち上がり、何度でも挑戦する。
 どれだけ苦しいことがあっても、どれだけ高い壁に阻まれても、一歩ずつ前に進めることが出来れば必ず乗り越えられる。
 一人でどうにも出来なければ周りを頼れば良い。頼るものがなければ死物狂いでどうにか出来る方法を見つけることだ。

 大丈夫。死ななければ易い。



 物が焼ける臭い。崩れ行く瓦礫。止め処無い叫び。戦いの炎は、あらゆる物質を飲み込み混沌へと導く。
 全てを犠牲にしても成し遂げねばならないことがある。特定の者たちの感情と行動が、今までの生活や平和を台無しにする。

 これはケルベロスが死んだ日から数ヶ月後の話──。

「……どうした?もう終わりか?」

 禍々しい鎧に身を包んだ男はラルフを見下ろし挑発する。ラルフは腹を押さえ、口から血を流しながら虚ろな目を向ける。

「……へへ……いいや、まだ終わらねぇよ……」

 足がガクガクと震え、力も思うように入らないが、全身の力で何とか立って見せる。草臥れたハットを被り直し、右手人差指と親指でハットの鍔をスルッと左から右に挟み撫でる。

「……あんたをぶっ飛ばすまでは終われねぇよ……マクマイン」

 ジラル=ヘンリー=マクマイン。
 イルレアン王国の公爵を賜る偉丈夫。赤黒いオーラを放ち、世界を混沌に沈めようとすら感じられる殺意。馬をも一刀のもとに断ち切れる幅の広い剣を片手で振り回す姿は、とてもではないが一線を退いたであろう男の腕力では無かった。
 顔まで包みこんだ全身鎧、その鋼の奥深くに宿る喜悦をマクマインは惜しげもなく発散させる。

「ふはははっ!やはりそうか!そうでなくてはなぁっ!!……もう少しだけ……もう少しだけこの時を愉しもうぞ!ラルフ!!」

「いやいや、全然楽しくねーから……出来ればすぐにも俺にぶっ飛ばされてくんねーかな?」

「ふふ……遠慮するな。最後まで付き合え」

 大剣を構えた姿に威圧される。悪魔とも取れる驚異的な存在と成ったマクマイン。戦いの終幕を飾るこの一戦は、ある日唐突に始まる。
 予測不能で回避不可能。この戦いの勝敗は生か死か。ラルフの生き残りを掛けた壮絶な戦いに刮目せよ。
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