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第十四章 驚天動地
第四十一話 事の起こり
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『話にならないな……』
ネレイドはジニオンの態度に呆れてため息をついた。何も考えずに口を滑らせたケルベロスの殺害予告、敵の気配を察知してなりふり構わず飛び出していく脳筋っぷり。ジニオンの存在意義に疑問すら感じる。
元々、八大地獄の面々を生かしていた理由は特異能力の保護にある。当時多くの転移者の中で、それぞれが珍しい能力に目覚め、能力を順調に伸ばしていた。
転移者同士の仲間割れの末に最後まで生き残った精鋭たちということもあり、特例として保存することに決めたのだ。本人たちの意思や選択など度外視で……。
『いずれも強者揃い……魔王にすら引けを取らないと確信していたのだが、現実はそう甘くはない』
全てを捩じ伏せられるなら尊大な態度も許せる。馬鹿にされたとて、結果が伴うのであれば譲歩も出来た。
だが現実は違った。人族に対してはまず間違いなく勝てる、魔族も軽く捻れる、だが魔王とくれば話は違う。魔族の中でも一際秀でた存在には厳しい戦いを強いられる。
『いくら生き返しても埒が明かないとくるならば……切るか』
ネレイドは損切りを考え始める。もっと長い目で見ても良いのだが、ヒューマン最強の騎士ゼアルを手に入れたことを思えば、命令に背いて好き勝手動く八大地獄に割くリソースが勿体無いと思えたのだ。これは一人で決めるべき事柄ではない。話し合いが必要な案件ではあるのだが、ネレイドの中では既に「廃棄」で固まりつつあった。
「勝手すぎるぞ、ネレイド」
その時背後から声をかけられた。振り向いた先に居たのはロングマン他2名、そしてミネルバだった。
『何処に居たのだ?ロングマン。探していたのだぞ?』
「そうか?そうは見えなかったが……いったい何の用だ?」
『単刀直入に言おう。其ら、ケルベロスを殺すつもりか?』
あまりに真っ直ぐに聞かれたためにロングマンも一瞬黙ったが、すぐに口を開く。
「……殺す」
『何故だ?ケルベロスを殺せば多次元との境界が崩れ、魔族よりも下劣な存在がこの世界を蹂躙するかもしれないのだぞ?藤堂源之助の罪を……歴史を繰り返すつもりか?』
「うむ」
『身勝手な……この世界に住む生き物全てを蔑ろにしても良いのか?そうまでして自由を欲するか?』
「例えこの世界が消滅しようとも、我々の自由には代えられぬ」
ロングマンとネレイドの対立。ミネルバはどこ吹く風といった感じで欠伸をしている。
『……相入れぬな』
「元より……」
双方睨み合う。時にして3秒の沈黙。動いたのはロングマンだ。
左手で鯉口を抜き、右手で刀の柄を握って、腰を切り刃を晒す。一連の動作に一切の無駄がなく、いつ鞘から抜いたのか分からないレベルだ。周りから見ていたら、急にニョキッと剣が生えたように見えたことだろう。
「火喰い鳥」
ロングマンの体がブレる。刀を瞬時に四回振り、斬撃を飛ばした。寸分違わずネレイドに迫る。しかし、飛ぶ斬撃はネレイドを傷つけることなくその体を通り過ぎていった。ロングマンの片眉が釣り上がる。
『吾はここに居てここに居ない。其程度で傷つけられはせん』
チラリとミネルバを見る。
「なるほど。猫が反応せんと思ったら、彼奴がやられる心配は無いと……そういうことか?」
面倒な手合いだ。相手にするだけ時間の無駄だと感じたロングマンだったが、次の瞬間にはここで立ち止まれたことに感謝することになる。
「ぬっ!ロングマン!あれを見よ!」
静観していたトドットは途端に声を荒げる。ネレイドのすぐ背後に犬の姿を発見した。激しい音が気になって首を出したようだ。
「駄犬だな。その間抜けに感謝する」
ロングマンは倒れ込むように腰を屈めると、強靭な脚力で床を抉った。ネレイドに突進する形で真っ直ぐ突き抜ける。ネレイドの半透明の体をくぐり抜け、1匹のケルベロスに向かってひた走る。
コンマ1、2秒の世界。そんな世界の中でネレイドはロングマンに狙われていなかった事実や、背後にいたケルベロスの存在にようやく気づく。ロングマンの剣は、今小さくなって逃げ回るケルベロスの首をいとも簡単に切り飛ばせる。大きくなれば別だが、今のままでは死ぬのみ。
ネレイドは手を伸ばす。ケルベロスはサトリの創造物なので、他神の干渉は本来避けなければならないのだが、今は非常事態には答えねばならない。ケルベロスを戦闘モードに変更させ、ロングマンの魔の手から逃がそうと考えたのだ。
けどそこは守護獣と呼ばれる存在。カビの生えた最強ではあるが、頭は回る。ロングマンの攻撃から逃げるために既に戦闘モードに移行していた。それにさらに上乗せする形でネレイドが力を送ったようだ。
結果──。
ゴバァッ
天井を突き破り、3体に散っていた体は瞬時に元に戻り、3匹のしば犬から1匹のケルベロスとなる。
ロングマンはこうなる前に斬撃を放っていた。しば犬形態の小さな体にはかなりの痛手だが、巨大化と共にその傷は矮小化され、あっという間に擦り傷へと縮小してしまった。
火に包まれた巨大な体を見せびらかすように燃え盛る魔獣。それはまるで火柱のように天空に昇っていった。
ネレイドはジニオンの態度に呆れてため息をついた。何も考えずに口を滑らせたケルベロスの殺害予告、敵の気配を察知してなりふり構わず飛び出していく脳筋っぷり。ジニオンの存在意義に疑問すら感じる。
元々、八大地獄の面々を生かしていた理由は特異能力の保護にある。当時多くの転移者の中で、それぞれが珍しい能力に目覚め、能力を順調に伸ばしていた。
転移者同士の仲間割れの末に最後まで生き残った精鋭たちということもあり、特例として保存することに決めたのだ。本人たちの意思や選択など度外視で……。
『いずれも強者揃い……魔王にすら引けを取らないと確信していたのだが、現実はそう甘くはない』
全てを捩じ伏せられるなら尊大な態度も許せる。馬鹿にされたとて、結果が伴うのであれば譲歩も出来た。
だが現実は違った。人族に対してはまず間違いなく勝てる、魔族も軽く捻れる、だが魔王とくれば話は違う。魔族の中でも一際秀でた存在には厳しい戦いを強いられる。
『いくら生き返しても埒が明かないとくるならば……切るか』
ネレイドは損切りを考え始める。もっと長い目で見ても良いのだが、ヒューマン最強の騎士ゼアルを手に入れたことを思えば、命令に背いて好き勝手動く八大地獄に割くリソースが勿体無いと思えたのだ。これは一人で決めるべき事柄ではない。話し合いが必要な案件ではあるのだが、ネレイドの中では既に「廃棄」で固まりつつあった。
「勝手すぎるぞ、ネレイド」
その時背後から声をかけられた。振り向いた先に居たのはロングマン他2名、そしてミネルバだった。
『何処に居たのだ?ロングマン。探していたのだぞ?』
「そうか?そうは見えなかったが……いったい何の用だ?」
『単刀直入に言おう。其ら、ケルベロスを殺すつもりか?』
あまりに真っ直ぐに聞かれたためにロングマンも一瞬黙ったが、すぐに口を開く。
「……殺す」
『何故だ?ケルベロスを殺せば多次元との境界が崩れ、魔族よりも下劣な存在がこの世界を蹂躙するかもしれないのだぞ?藤堂源之助の罪を……歴史を繰り返すつもりか?』
「うむ」
『身勝手な……この世界に住む生き物全てを蔑ろにしても良いのか?そうまでして自由を欲するか?』
「例えこの世界が消滅しようとも、我々の自由には代えられぬ」
ロングマンとネレイドの対立。ミネルバはどこ吹く風といった感じで欠伸をしている。
『……相入れぬな』
「元より……」
双方睨み合う。時にして3秒の沈黙。動いたのはロングマンだ。
左手で鯉口を抜き、右手で刀の柄を握って、腰を切り刃を晒す。一連の動作に一切の無駄がなく、いつ鞘から抜いたのか分からないレベルだ。周りから見ていたら、急にニョキッと剣が生えたように見えたことだろう。
「火喰い鳥」
ロングマンの体がブレる。刀を瞬時に四回振り、斬撃を飛ばした。寸分違わずネレイドに迫る。しかし、飛ぶ斬撃はネレイドを傷つけることなくその体を通り過ぎていった。ロングマンの片眉が釣り上がる。
『吾はここに居てここに居ない。其程度で傷つけられはせん』
チラリとミネルバを見る。
「なるほど。猫が反応せんと思ったら、彼奴がやられる心配は無いと……そういうことか?」
面倒な手合いだ。相手にするだけ時間の無駄だと感じたロングマンだったが、次の瞬間にはここで立ち止まれたことに感謝することになる。
「ぬっ!ロングマン!あれを見よ!」
静観していたトドットは途端に声を荒げる。ネレイドのすぐ背後に犬の姿を発見した。激しい音が気になって首を出したようだ。
「駄犬だな。その間抜けに感謝する」
ロングマンは倒れ込むように腰を屈めると、強靭な脚力で床を抉った。ネレイドに突進する形で真っ直ぐ突き抜ける。ネレイドの半透明の体をくぐり抜け、1匹のケルベロスに向かってひた走る。
コンマ1、2秒の世界。そんな世界の中でネレイドはロングマンに狙われていなかった事実や、背後にいたケルベロスの存在にようやく気づく。ロングマンの剣は、今小さくなって逃げ回るケルベロスの首をいとも簡単に切り飛ばせる。大きくなれば別だが、今のままでは死ぬのみ。
ネレイドは手を伸ばす。ケルベロスはサトリの創造物なので、他神の干渉は本来避けなければならないのだが、今は非常事態には答えねばならない。ケルベロスを戦闘モードに変更させ、ロングマンの魔の手から逃がそうと考えたのだ。
けどそこは守護獣と呼ばれる存在。カビの生えた最強ではあるが、頭は回る。ロングマンの攻撃から逃げるために既に戦闘モードに移行していた。それにさらに上乗せする形でネレイドが力を送ったようだ。
結果──。
ゴバァッ
天井を突き破り、3体に散っていた体は瞬時に元に戻り、3匹のしば犬から1匹のケルベロスとなる。
ロングマンはこうなる前に斬撃を放っていた。しば犬形態の小さな体にはかなりの痛手だが、巨大化と共にその傷は矮小化され、あっという間に擦り傷へと縮小してしまった。
火に包まれた巨大な体を見せびらかすように燃え盛る魔獣。それはまるで火柱のように天空に昇っていった。
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