590 / 718
第十四章 驚天動地
第39.5話 亡者共の進行-2
しおりを挟む
「ワン公捜索ったってよー。どこ探しゃ良いんだって感じだぜ。なぁ?」
ジニオンは頭をボリボリ掻きながら隣で歩くジョーカーに話し掛けた。ジョーカーは視線を一瞬向けただけで応えない。
「……クールだねぇ。もう少し喋らないと女にモテねぇぞ?」
呆れ気味に肩を竦めてため息をつく。そんなジニオンにジョーカーは顔を向ける。
「……い」
蚊が鳴いたような小さな声が耳を掠める。
「あ?」
「……必要ない」
蚊の鳴く声は脱したものの、ボソボソと喋るコミュニケーション能力が著しく欠けた声にジニオンはイラついた。舌打ちを一つして「あっそ」と素っ気なく返す。
空気が悪い。ジョーカーの対人能力が皆無なのは当然として、ジニオンにも当然のように対人能力が無い。どちらも我が強いのためか、互いに譲らなかったが故に暗い雰囲気になる。いや、ジョーカーが何とか絞り出した対話しようとする試みに対して、一方的に遮断したのはジニオンではあるのだが……。
ともあれ、黙々と歩く巨女と仮面男のヘンテコなコンビは犬を探して彷徨い歩く。しばらくして、この暗い雰囲気に耐え切れなくなったジニオンが口を開いた。
「……犬をよ、誘い出そうと思ったら何が必要なんだろうな?」
「……」
「やっぱ餌じゃねぇかな?」
「……」
「オメー何か食いもん持ってる?」
押し黙ってリアクションすら取らなかったジョーカーは、この質問には首を横に振った。
「じゃああれだ、木の棒。それならその辺の部屋に入って家具をぶっ壊しゃ手に入るぜ」
ジニオンは近くの部屋に入ろうとドアノブに手を伸ばすが、ジョーカーに止められる。
「……普通の犬ではない」
「あ?……まぁ確かにそうか。見た目だけっちゃぁそうなんだけどよ。けどじゃあどうすんだって話だろ?」
ジョーカーは熟考に入った。ジニオンの言うようにただの犬として見るなら、この案は採用すべきだ。食べ物を探しに行くなら台所があるだろうし、肉類があれば生でもソーセージのような加工品でも容易に釣れるだろう。最悪木の棒をおもちゃ代わりに釣るのも良い。
しかし相手はケルベロス。犬のように見えて犬ではない。賢さで人間を凌ぐ場合だってある。こちらが下手を打てば寝ているであろう敵を起こすことに繋がる。万が一の場合、武器のない状態では特異能力を使用するしか道はないが、ブレイドのような遠距離攻撃で仕掛けてくる相手には勝ち目が薄い。
『こんなところで立ち止まって、何をしているんだい?』
突然声をかけられた二人。ジョーカーはザッと戦闘態勢に入ったが、ジニオンはのんびり肩越しに声のする方を見た。そこには場違いな少年の姿があった。
場違い。そう思うのも無理はない。容姿端麗だが、可愛さも兼ね備えた完璧な美少年。確かな血統に裏打ちされた気品を感じられたからだ。帝王の息子と言われても違和感はない。
「その言葉をそっくりそのまま返すぜ、神様よぉ……」
『吾は其らを助けに来た。と言ったら信じてくれるかい?』
「はんっ!信じられるわきゃねぇよな。けど丁度良いぜ、助けてくれよ。オメーも俺たちとワン公を探しちゃくれねぇか?」
『ワン公?……ケルベロスか?』
「おうよ。とりあえずは敵を起こさねぇように慎重にだな……」
ズギャッ……ガランガランッ……バァンッ
遠くで何やら騒がしい音が聞こえてくる。ジニオンは頭を抱えた。
「どこの馬鹿だ?接敵しねぇように静かに行動しろっつーのが分からねぇのか?」
『ふふ……もうとっくに始まっている。其が口だけで気をつけている今この時にな……』
ジニオンは正直この言葉にイラッとしたが、つまり遊んでいられないことも示唆している。
「……よぉ、バレてんならもう我慢することはねえよな?」
メキメキと筋肉を隆起させ、拳を部屋の扉に放つ。バゴンッという音が鳴り響き、扉はいとも容易く粉砕された。
「へへ、もういくら音を出しても関係ねぇぜ。こっからはしらみ潰しだ。ワン公を探して片っ端から破壊していく。んで、見つけたら殺すってのはどうだ?」
この野蛮な考えにジョーカーは即頷いた。ネレイドは顔を顰める。
『ケルベロスを殺す?そんなことをしたらどうなるか分かって言っているのか?』
「不服か?止められるもんなら止めてみろよ……ネレイド」
ジニオンの目に燃える殺意の炎は光の軌跡を描く。体から放出される闘気は陽炎のように景色を歪ませ、舞い上がる。そんなジニオンの姿はさながら阿修羅の如き畏怖の対象として目に映った。
ジニオンは頭をボリボリ掻きながら隣で歩くジョーカーに話し掛けた。ジョーカーは視線を一瞬向けただけで応えない。
「……クールだねぇ。もう少し喋らないと女にモテねぇぞ?」
呆れ気味に肩を竦めてため息をつく。そんなジニオンにジョーカーは顔を向ける。
「……い」
蚊が鳴いたような小さな声が耳を掠める。
「あ?」
「……必要ない」
蚊の鳴く声は脱したものの、ボソボソと喋るコミュニケーション能力が著しく欠けた声にジニオンはイラついた。舌打ちを一つして「あっそ」と素っ気なく返す。
空気が悪い。ジョーカーの対人能力が皆無なのは当然として、ジニオンにも当然のように対人能力が無い。どちらも我が強いのためか、互いに譲らなかったが故に暗い雰囲気になる。いや、ジョーカーが何とか絞り出した対話しようとする試みに対して、一方的に遮断したのはジニオンではあるのだが……。
ともあれ、黙々と歩く巨女と仮面男のヘンテコなコンビは犬を探して彷徨い歩く。しばらくして、この暗い雰囲気に耐え切れなくなったジニオンが口を開いた。
「……犬をよ、誘い出そうと思ったら何が必要なんだろうな?」
「……」
「やっぱ餌じゃねぇかな?」
「……」
「オメー何か食いもん持ってる?」
押し黙ってリアクションすら取らなかったジョーカーは、この質問には首を横に振った。
「じゃああれだ、木の棒。それならその辺の部屋に入って家具をぶっ壊しゃ手に入るぜ」
ジニオンは近くの部屋に入ろうとドアノブに手を伸ばすが、ジョーカーに止められる。
「……普通の犬ではない」
「あ?……まぁ確かにそうか。見た目だけっちゃぁそうなんだけどよ。けどじゃあどうすんだって話だろ?」
ジョーカーは熟考に入った。ジニオンの言うようにただの犬として見るなら、この案は採用すべきだ。食べ物を探しに行くなら台所があるだろうし、肉類があれば生でもソーセージのような加工品でも容易に釣れるだろう。最悪木の棒をおもちゃ代わりに釣るのも良い。
しかし相手はケルベロス。犬のように見えて犬ではない。賢さで人間を凌ぐ場合だってある。こちらが下手を打てば寝ているであろう敵を起こすことに繋がる。万が一の場合、武器のない状態では特異能力を使用するしか道はないが、ブレイドのような遠距離攻撃で仕掛けてくる相手には勝ち目が薄い。
『こんなところで立ち止まって、何をしているんだい?』
突然声をかけられた二人。ジョーカーはザッと戦闘態勢に入ったが、ジニオンはのんびり肩越しに声のする方を見た。そこには場違いな少年の姿があった。
場違い。そう思うのも無理はない。容姿端麗だが、可愛さも兼ね備えた完璧な美少年。確かな血統に裏打ちされた気品を感じられたからだ。帝王の息子と言われても違和感はない。
「その言葉をそっくりそのまま返すぜ、神様よぉ……」
『吾は其らを助けに来た。と言ったら信じてくれるかい?』
「はんっ!信じられるわきゃねぇよな。けど丁度良いぜ、助けてくれよ。オメーも俺たちとワン公を探しちゃくれねぇか?」
『ワン公?……ケルベロスか?』
「おうよ。とりあえずは敵を起こさねぇように慎重にだな……」
ズギャッ……ガランガランッ……バァンッ
遠くで何やら騒がしい音が聞こえてくる。ジニオンは頭を抱えた。
「どこの馬鹿だ?接敵しねぇように静かに行動しろっつーのが分からねぇのか?」
『ふふ……もうとっくに始まっている。其が口だけで気をつけている今この時にな……』
ジニオンは正直この言葉にイラッとしたが、つまり遊んでいられないことも示唆している。
「……よぉ、バレてんならもう我慢することはねえよな?」
メキメキと筋肉を隆起させ、拳を部屋の扉に放つ。バゴンッという音が鳴り響き、扉はいとも容易く粉砕された。
「へへ、もういくら音を出しても関係ねぇぜ。こっからはしらみ潰しだ。ワン公を探して片っ端から破壊していく。んで、見つけたら殺すってのはどうだ?」
この野蛮な考えにジョーカーは即頷いた。ネレイドは顔を顰める。
『ケルベロスを殺す?そんなことをしたらどうなるか分かって言っているのか?』
「不服か?止められるもんなら止めてみろよ……ネレイド」
ジニオンの目に燃える殺意の炎は光の軌跡を描く。体から放出される闘気は陽炎のように景色を歪ませ、舞い上がる。そんなジニオンの姿はさながら阿修羅の如き畏怖の対象として目に映った。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる