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第十四章 驚天動地
第三十一話 ジャッジメント
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空間を遮る薄く青く淡い障壁。それは唐突にミーシャとゼアルを覆った。
「魔障壁!?」
誰もがそう思う。しかしゼアルは剣士であって魔法使いではない。ある程度の魔力が無ければ障壁を張ることは出来ないし、障壁を張るのにも練度がいる。剣一筋に生きてきたであろうゼアルには、どうあがいても精々薄い被膜のように己の肉体を覆うくらいしか使用出来ないだろう。
ならばこれは何だというのか。ふと、イルレアンで開発された魔障壁を発生させる装置があったことを思い出す。それを使用したということは考えられないだろうか。となると罠である可能性が極めて高い。
(……ここまで誘導されたってのか?でも何のために自分の逃げ場を無くす?)
不自然極まる行為だ。先ほどの攻防でミーシャに傷一つ付けていないのに、勝てる見込みでもあるというのか。
「”ジャッジメント”……?一体どういう意味なんだ?」
ゼアルの呟きと共に発動した魔障壁と思われるもの。そんなラルフの疑問を余所に、隔たれた壁の中で、ミーシャは己の変化に眉を顰めた。
「……ん?あれ?」
体が重い。魔力操作も覚束ず、浮力を失って落ちる。あまり高く浮いていなかったのが功を奏したか、難なく着地出来した。思わず膝をつき、何が起こったのか目視で確認しようとする。だが全く分からない。息をするように当たり前にやっていた魔力を練ることが出来ず、驚愕に目を見開く。
「な、なんだこれは?」
まるで眩暈がしたように体の自由が利かない。頭はハッキリしているというのにこの感覚。初めての出来事に理解が追いつかない。
ゼアルは構えを解いて、ミーシャを不遜に見下ろす。
「ふっ、苦しいか?貴様が如何にこの世界を舐めて生きて来たのかがハッキリしたな。……これは公平・公正の空間。貴様の力はこの空間では使えない」
「何?」
「厳密には神に強化される前の私の能力と同一化した。貴様と私の身体能力、魔力量の全てが同じとなっているのだ」
ミーシャの疑問の表情に、ゼアルはフッと笑う。
「……と言っても分かるまい?顔に書いてある「そんなことをして何になるのか?」とな……私は常々思っていた。もしも全く同じ能力同士で戦ったのならどちらが勝つのかと。その答えは一つ、技量が高い者が勝利する」
ゼアルはヒューマンの中でも上から数えた方が早いくらいの強者。強さこそ折り紙つきではあるが、所詮は人間の枠組み。神を凌駕するミーシャの足下にも及ばない。
だがここに例外が浮上する。ゼアルの中に眠っていた特異能力が首をもたげてミーシャに襲いかかったのだ。ミーシャが吹けば飛ぶ程度の人間と同一の強さに引き摺り下ろされた。イミーナに裏切られた時と同様の命の危機がここにある。
「ミーシャ様ぁ!!!」
ラルフの背後からベルフィアが飛び出した。彼女は隔たれた壁を破壊しようと魔力を飛ばす。全ては壁に阻まれ、攻撃は完全に無効化された。
ベルフィアが攻めあぐねいていると、さらに背後から朱い槍が飛び出した。イミーナの槍。魔障壁を無効化する画期的な攻撃。しかし、特異能力で形成されたこの壁に易々と阻まれた。
「ほう?この私の槍も止められるとは……いよいよですね」
「おどれイミーナ!!真面目にやらんかぁ!!」
「私は至極真面目ですよ?」
主人の危機を察してか、一も二もなくやって来た二人。でも如何しようも無い。この力はこの世の理から離脱している。破壊することなど不可能だ。
「滑稽だな。貴様らがどれほど足掻こうと私の邪魔は出来ない。散々踏みにじって来た弱者に良いようにされてどんな気分だ?」
「お……おどれ……!!」
ビキビキッと音を立てて奥歯を噛み締める。歯がゆい。たった一枚隔てた壁の向こうの主人を助けられない。情けない己に苛立ちが募る。
「……何を焦っているのベルフィア?私は負けないよ。こんな壁、すぐぶっ壊しちゃうから」
ミーシャは気丈に振る舞う。いつでもどんな時でも頼もしい存在だが、ことここに至っては強がりだと透けて見える。無理もない。力を奪われ、同じ土俵に立たされた攻略法のない死のリング。ギブアップも乱入も許されない能力に、不安を覚えない者など存在しない。
「まだ部下を慮る配慮があるか……。ふっ、そうでなくては斬りがいがない。さらにやる気を出させてやろう。私が貴様を亡き者にした後、真っ先にラルフを殺す。止めるには私を殺す以外にないぞ?」
その言葉にミーシャの拳がギリッと握られる。ゼアルを殺すことに躊躇はない。むしろ煽って来たゼアルを分からせてやらねば気が済まない。例え勝ち目が薄いとしても。
「おいおい、ゼアルさんよぉ。こいつは一体どういうことだ?」
「ん?」
突然のラルフの問いにゼアルは疑問符を浮かべる。
「あんたの能力、”ジャッジメント”って言ったっけ?公平・公正を謳う割には何だか不公平な部分が見受けられるんだが、こいつは俺の気のせいかい?あんたは剣を持っているのに、ミーシャは武器の一つも持っちゃいない。こんなのおかしいだろ?せめて武器くらいは持たせられねぇかな?」
ラルフは自身の腰に下げたダガーナイフを取り外す。
「ふっ……ふふふっ……ふはっはっはっ!!間抜けが!武器など誰が渡すものか!!唯一王を相手取り、正々堂々など考えるバカがどこにいる!!ここで確実に仕留め、この世界を人間の世界へと取り戻す!魔族を駆逐し、未来永劫のものとするのだ!!それこそが私の役目だ!!」
ゼアルの信念が山の噴火の如く大爆発する。ラルフの詭弁にうんざりしているのもあるだろうが、それ以上にミーシャを仕留められるという確かな状況を噛み締めた結果だと言える。この迫力に、この場の皆が気圧される。ぐっと口を噤み、固唾を飲んで見守るしか出来ない。
「……悔しいだろうな、ラルフ。ここでこの女は死ぬ。今度は誰の陰に隠れる?吸血鬼か?それともそこの魔族か?……誰かを盾にし、守ってもらうことしか出来ぬ哀れなラルフ。精々そこで祈っているが良い。また助けられることを期待して……」
「待ちなっ!」
ラルフは気持ちよく喋っていたゼアルの言葉を遮る。ゼアルはムッとした顔で睨めつけた。
「俺は確かに助けられてばっかだ。考えられねぇほどの危険地帯で何とか生き延びて来た。それもこれもみんなのお陰だ。けどそんな俺でも一つだけ誇れることがある」
ラルフはゼアルから視線を外してミーシャを見た。
「ミーシャの命を救ったことだ」
「……ラルフ」
「俺たちは助けるし、助けられる関係だ。いつものミーシャは俺を守ってくれる。でも、いつもの力が発揮出来ずに苦しんでいるなら、俺が助ける。俺はいつも以外の専門だからな」
「ほう?それで?この状況を打開出来る術があるのか?」
ゼアルの質問にすぐには答えず、ラルフは五歩後ろに下がる。
「さぁな……やってみなきゃ分からねぇ!」
勢いのままに走り出した。そのままバッと壁に飛び込んでいくのは、無謀を通り越してバカの極みだ。弾かれ、無様に転がるだろうと思われたラルフの体は、意外にもスルッと中に入り込んだ。
「……え、あ?」
訳が分からなかった。本来遮断されるべきラルフが、いとも簡単に侵入して来た。混乱していたゼアルだったが、何のことはない、ラルフは穴を開けて入って来たのだ。”小さな異次元”。歩たちに教わったワープ理論。空間を超越した。
ラルフもシュタッとスタイリッシュに降り立つ。体が軽い。この空間の同一化の能力により、ラルフもゼアルの能力を体験出来た。
「……言ったろ?俺が助けるってな」
「魔障壁!?」
誰もがそう思う。しかしゼアルは剣士であって魔法使いではない。ある程度の魔力が無ければ障壁を張ることは出来ないし、障壁を張るのにも練度がいる。剣一筋に生きてきたであろうゼアルには、どうあがいても精々薄い被膜のように己の肉体を覆うくらいしか使用出来ないだろう。
ならばこれは何だというのか。ふと、イルレアンで開発された魔障壁を発生させる装置があったことを思い出す。それを使用したということは考えられないだろうか。となると罠である可能性が極めて高い。
(……ここまで誘導されたってのか?でも何のために自分の逃げ場を無くす?)
不自然極まる行為だ。先ほどの攻防でミーシャに傷一つ付けていないのに、勝てる見込みでもあるというのか。
「”ジャッジメント”……?一体どういう意味なんだ?」
ゼアルの呟きと共に発動した魔障壁と思われるもの。そんなラルフの疑問を余所に、隔たれた壁の中で、ミーシャは己の変化に眉を顰めた。
「……ん?あれ?」
体が重い。魔力操作も覚束ず、浮力を失って落ちる。あまり高く浮いていなかったのが功を奏したか、難なく着地出来した。思わず膝をつき、何が起こったのか目視で確認しようとする。だが全く分からない。息をするように当たり前にやっていた魔力を練ることが出来ず、驚愕に目を見開く。
「な、なんだこれは?」
まるで眩暈がしたように体の自由が利かない。頭はハッキリしているというのにこの感覚。初めての出来事に理解が追いつかない。
ゼアルは構えを解いて、ミーシャを不遜に見下ろす。
「ふっ、苦しいか?貴様が如何にこの世界を舐めて生きて来たのかがハッキリしたな。……これは公平・公正の空間。貴様の力はこの空間では使えない」
「何?」
「厳密には神に強化される前の私の能力と同一化した。貴様と私の身体能力、魔力量の全てが同じとなっているのだ」
ミーシャの疑問の表情に、ゼアルはフッと笑う。
「……と言っても分かるまい?顔に書いてある「そんなことをして何になるのか?」とな……私は常々思っていた。もしも全く同じ能力同士で戦ったのならどちらが勝つのかと。その答えは一つ、技量が高い者が勝利する」
ゼアルはヒューマンの中でも上から数えた方が早いくらいの強者。強さこそ折り紙つきではあるが、所詮は人間の枠組み。神を凌駕するミーシャの足下にも及ばない。
だがここに例外が浮上する。ゼアルの中に眠っていた特異能力が首をもたげてミーシャに襲いかかったのだ。ミーシャが吹けば飛ぶ程度の人間と同一の強さに引き摺り下ろされた。イミーナに裏切られた時と同様の命の危機がここにある。
「ミーシャ様ぁ!!!」
ラルフの背後からベルフィアが飛び出した。彼女は隔たれた壁を破壊しようと魔力を飛ばす。全ては壁に阻まれ、攻撃は完全に無効化された。
ベルフィアが攻めあぐねいていると、さらに背後から朱い槍が飛び出した。イミーナの槍。魔障壁を無効化する画期的な攻撃。しかし、特異能力で形成されたこの壁に易々と阻まれた。
「ほう?この私の槍も止められるとは……いよいよですね」
「おどれイミーナ!!真面目にやらんかぁ!!」
「私は至極真面目ですよ?」
主人の危機を察してか、一も二もなくやって来た二人。でも如何しようも無い。この力はこの世の理から離脱している。破壊することなど不可能だ。
「滑稽だな。貴様らがどれほど足掻こうと私の邪魔は出来ない。散々踏みにじって来た弱者に良いようにされてどんな気分だ?」
「お……おどれ……!!」
ビキビキッと音を立てて奥歯を噛み締める。歯がゆい。たった一枚隔てた壁の向こうの主人を助けられない。情けない己に苛立ちが募る。
「……何を焦っているのベルフィア?私は負けないよ。こんな壁、すぐぶっ壊しちゃうから」
ミーシャは気丈に振る舞う。いつでもどんな時でも頼もしい存在だが、ことここに至っては強がりだと透けて見える。無理もない。力を奪われ、同じ土俵に立たされた攻略法のない死のリング。ギブアップも乱入も許されない能力に、不安を覚えない者など存在しない。
「まだ部下を慮る配慮があるか……。ふっ、そうでなくては斬りがいがない。さらにやる気を出させてやろう。私が貴様を亡き者にした後、真っ先にラルフを殺す。止めるには私を殺す以外にないぞ?」
その言葉にミーシャの拳がギリッと握られる。ゼアルを殺すことに躊躇はない。むしろ煽って来たゼアルを分からせてやらねば気が済まない。例え勝ち目が薄いとしても。
「おいおい、ゼアルさんよぉ。こいつは一体どういうことだ?」
「ん?」
突然のラルフの問いにゼアルは疑問符を浮かべる。
「あんたの能力、”ジャッジメント”って言ったっけ?公平・公正を謳う割には何だか不公平な部分が見受けられるんだが、こいつは俺の気のせいかい?あんたは剣を持っているのに、ミーシャは武器の一つも持っちゃいない。こんなのおかしいだろ?せめて武器くらいは持たせられねぇかな?」
ラルフは自身の腰に下げたダガーナイフを取り外す。
「ふっ……ふふふっ……ふはっはっはっ!!間抜けが!武器など誰が渡すものか!!唯一王を相手取り、正々堂々など考えるバカがどこにいる!!ここで確実に仕留め、この世界を人間の世界へと取り戻す!魔族を駆逐し、未来永劫のものとするのだ!!それこそが私の役目だ!!」
ゼアルの信念が山の噴火の如く大爆発する。ラルフの詭弁にうんざりしているのもあるだろうが、それ以上にミーシャを仕留められるという確かな状況を噛み締めた結果だと言える。この迫力に、この場の皆が気圧される。ぐっと口を噤み、固唾を飲んで見守るしか出来ない。
「……悔しいだろうな、ラルフ。ここでこの女は死ぬ。今度は誰の陰に隠れる?吸血鬼か?それともそこの魔族か?……誰かを盾にし、守ってもらうことしか出来ぬ哀れなラルフ。精々そこで祈っているが良い。また助けられることを期待して……」
「待ちなっ!」
ラルフは気持ちよく喋っていたゼアルの言葉を遮る。ゼアルはムッとした顔で睨めつけた。
「俺は確かに助けられてばっかだ。考えられねぇほどの危険地帯で何とか生き延びて来た。それもこれもみんなのお陰だ。けどそんな俺でも一つだけ誇れることがある」
ラルフはゼアルから視線を外してミーシャを見た。
「ミーシャの命を救ったことだ」
「……ラルフ」
「俺たちは助けるし、助けられる関係だ。いつものミーシャは俺を守ってくれる。でも、いつもの力が発揮出来ずに苦しんでいるなら、俺が助ける。俺はいつも以外の専門だからな」
「ほう?それで?この状況を打開出来る術があるのか?」
ゼアルの質問にすぐには答えず、ラルフは五歩後ろに下がる。
「さぁな……やってみなきゃ分からねぇ!」
勢いのままに走り出した。そのままバッと壁に飛び込んでいくのは、無謀を通り越してバカの極みだ。弾かれ、無様に転がるだろうと思われたラルフの体は、意外にもスルッと中に入り込んだ。
「……え、あ?」
訳が分からなかった。本来遮断されるべきラルフが、いとも簡単に侵入して来た。混乱していたゼアルだったが、何のことはない、ラルフは穴を開けて入って来たのだ。”小さな異次元”。歩たちに教わったワープ理論。空間を超越した。
ラルフもシュタッとスタイリッシュに降り立つ。体が軽い。この空間の同一化の能力により、ラルフもゼアルの能力を体験出来た。
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