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第十四章 驚天動地

第二十九話 出会い頭

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 光に慣れた目に映ったのは、ゼアルのトラウマの元凶。ラルフとミーシャだった。
 バッと剣の柄に手を置く。準備も休養もへったくれもない。何の仕来たりも示し合わせもなく、神が仕組んだ決闘がいきなり始まろうとしていた。

「ん?やる気かヒューマン」

 ミーシャはズイッと前に出る。ゼアルは口では答えないが、静かなる闘志を瞳に宿して睨み付ける。ミーシャは異様な雰囲気を放つゼアルに殺気をぶつける。吹き付けるは絶対零度の恐怖。これに曝された対象者は即座に心臓を止めてしまいたくなる。
 しかしゼアルの心はまるで凪のように冷静そのもの。ミーシャを前にしてこの落ち着きようは、生き物ではあり得ない。

「……ほぅ?」

 初めて見る動物に興味を抱く研究者のように好奇心を目に宿し、まじまじと観察を始める。

「……お前変わったな。精神面だけでなく、肉体的にも強くなっている」

 それほど親しい間柄ではない。出会ってから数えても、片手で数えられる程度しか接近していない。だが、確実に違うと思えるのは、隠しきれないオーラだ。
 ミーシャの殺気を受け止められるだけの器量を手に入れた。焦ることのない余裕を手に入れた。何より顕著なのは……。

「自信に満ち溢れてる。お前、この私に勝てると思ってるな?」

 ゼアルの口の端がほんの少しだけ釣り上がる。その様子にミーシャもニヤリと笑った。

「おいおい、マジかよ?そんなことってあるか?ミーシャに勝てるわけないだろ。常識だぜ?」

 実際ゼアルは何度も何度もミーシャに敗れている。身体能力面は当たり前、魔力でも特質的な能力でも追い付けやしない。ヒューマンでは……いや、魔王ですらどうにもならない壁が存在するのだ。

「……ふっ、戦うのは明日だと思っていたのだがな……この状況で待つことなど出来まい?」

 ゼアルは剣の柄を握り、引き抜く。鋼の輝きが反射し、目に痛い。

「え?ってことは、待ち構えてたのはゼアルだったのか?驚きもへったくれもないな」

「好きにホザけ。今の内にな……」

 ラルフの発言にゼアルの顔から笑顔が消える。どれほど恨まれればこんなにも露骨な態度が取られるのか。とはいえ、まだ会話してくれるだけマシだろう。
 ミーシャはラルフを隠すようにさらに前に出た。次元の裂け目から一歩外に出て、空中に浮いている。

「お前の相手は私だ。ここまで期待させておいて一発で沈んだりしないでよ?」

 ミーシャの期待とは裏腹に、ラルフは静かに焦る。

(ヤベェな……ちょっと覗くだけのつもりだったのに……どうする?今みんな部屋に戻っちまってるぞ?)

 ぼんやりモニターを眺めていて、そろそろ寝ようかと思った時のちょっとした好奇心だったのだが、完全にしくじった。
 このまま戦いが始まればラルフ以外の支援はない。ゼアルだけならミーシャ一人で事足りるだろうが、万が一の用意は常にしておくものだ。といっても、もう止められはしない。

 ゼアルはスゥッと息を大きく吸う。

「黒曜騎士団団長ゼアル。推して参る」

「ん?名乗り上げか?ふふっじゃあ仕来たりにならおうか……。我が名はミーシャ!最強にして唯一絶対の王!縮めて唯一王ミーシャである!!」

 ゴバァッ

 名乗り上げと同時に衝撃波が辺りに吹き荒ぶ。ラルフは衝撃波に耐えられず「おわっ!!」という情けない声と共に後方に吹き飛んだが、ゼアルはピクリとも動かない。
 吹き飛ばされたラルフはすぐさま立ち上がって元の位置に戻ろうと走った。睨み合う二人を視界に入れた、次の瞬間。ゼアルとミーシャが消える。

「?!」

 驚いて見せたが、一応想定内だ。ミーシャがその力を奮えば、影も形も残さず動き回るなど日常茶飯事。
 問題はゼアルだ。速すぎる。ミーシャと一緒のタイミングで消えたように見えたということは、少なくともミーシャの動きについて行っているということ。
 もちろんこれは単なる推測に過ぎず、ラルフが弱すぎるためにミーシャの速すぎる動きと、ゼアルのそこそこの速度を混同しているかもしれない。サトリに強化してもらっても所詮はラルフ。その辺のいちヒューマンに過ぎない。

 既に置いて行かれたラルフは放って置いて、ミーシャとゼアルは周りの時が止まって見えるほどの速度で戦っていた。
 拳、蹴り、斬撃、射撃。回り込み、剣を振り、ミーシャに弾かれる。魔力砲を放つが、それを剣で弾かれる。
 光の速度を超過した凄まじい攻防。強弱の差如きで見える筈がない。次元が違う。

(これは……どういうことだ?)

 ゼアルの感じた違和感。それは最も信頼する”イビルスレイヤー”の効果にあった。
 イビルスレイヤーは魔族に対し、かなり有利な効果を発揮する。魔族の発する魔力を遮断、切った魔族の魔力を少量吸収する”魔族特攻”。これにより得られた恩恵は凄まじい。白の騎士団にて”魔断”と呼ばれる所以でもある。
 だからこその驚愕。

(切れないだと?!)

 ミーシャの皮膚に触れる直前、魔障壁に弾かれる。あり得ない。魔族特攻が通じない初めての魔族。いや、こうなるとミーシャは魔族ではないのかもしれない。魔族として生まれた何か。得体の知れない存在……。
 イビルスレイヤーをあてにしていたゼアルにとっては予想外の自体。きっとゼアルに力を与えた神も分かっていない。彼女が魔族などという枠に当て嵌まらないなどと、分かろう筈もない。

 互角。どちらも決して譲らぬ拮抗状態。
 この騒がしさは、この地の生き物を根こそぎ叩き起こす。そしてようやく、彼女が気付いた。

『……え?早くないかにゃ?』
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