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第十四章 驚天動地

第二十二話 捕虜との対話-2

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「殺してしまっても良いと思うがノぅ……」

 ベルフィアは八大地獄のメンバーを、シャボン玉のような魔障壁で包み込み、完全に動きを阻害した。これはベルフィア自身が第六魔王”灰燼”に仕掛けられたことのある魔法で、その時はどんなに足掻いても結局出ることが出来なかったトラウマ魔法でもある。
 柔らかい魔障壁は、殴ったり突いたりする程度では破ることは不可能。攻撃を仕掛けても全てを包み込んでしまうため威力が殺され、本来発揮されるべき攻撃能力を阻害してしまう。その上、武器を取り上げているので抵抗すら出来ない。さらに、魔障壁内に魔力の刃を出現させることも可能。一方的に攻撃を仕掛けられる捕縛魔法となっているのだ。
 八大地獄はその名前に反して、生殺与奪を握られた家畜と同じ立場に追い込まれていた。

「武器を抜いた五人は別にしても、武装解除した三人の意思を尊重しないのはダメだろ?……っつーのは建前で、パルスとは仲良く出来そうだったんでな。あの子を殺すのは惜しいってのと、出来ることなら人を殺したくはねぇのさ。ま、これは余裕があること前提な?自分の命の危機なら流石の俺も他人を心配してる暇なんてねぇからよ」

 それを聞いてエレノアが唇を尖らせる。

「ちょっとぉ、人族だけぇ?私たちはどうなのぉ?」

「魔族は元々敵だったんだぜ?真っ先に心が寄るのは同種族だろ?だから魔族の方は魔族を知るお前らに任せるぜ」

 ラルフの言い分に「それもそっかぁ」と納得した。ただイミーナは納得していないようだった。

「ふっ、何が「殺したくはない」ですか。偽善を振りかざして良い気分ですか?……詭弁ですね。こんな小児性愛者の意見など放っておいて、沙汰を下しましょう」

「おい、ふざけんな。俺は成人女性に欲情する一般的な男だ。人のことを決めつけで変態呼ばわりするのは悪いことだって親から習わなかったか?」

 その瞬間、イミーナから刺すような視線が向けられたが、イミーナはすぐに真顔になってラルフから顔を背けた。
 イミーナは親から家庭内暴力を受けている。口では言えないような酷いこともされていた。ミーシャの記憶を共有し、そのことを知っていたというのに咄嗟に口から出てしまった。「あ!」っと思った時にはもう手遅れ。ラルフはバツが悪そうに口を歪めた。ミーシャも隣で呆れている。

「えっと……すまない。口が滑った……。と、とにかく、神の連中の使いでもある八大地獄を捕まえたんだ。捕虜としての価値があるかはさておいて、これで神の反応も見れるってもんだぜ」

 ラルフは顎を撫でながら考えを述べる。その言葉にブレイドが納得の表情で口を開く。

「ああ、それで生かして捕まえたんですか?かなり危険な連中なのに何故なのかと思っていましたが、得心がいきました。では、神から接触があるまではこのままということでしょうか?」

「ある程度はこのままかな。男女入り混じってるし、頃合いを見て部屋を分ける必要も出てくるだろ。……ってか先にやっとくべきことだったな。そろそろ気絶から覚めそうだし、今の内に部屋を分けよう。今空いてる部屋は……たくさんあるな」

 八大地獄の部屋を振り分けるのにもラルフのワープホールは役に立った。気絶している者は次元の穴からポトっと落として別の部屋に移動、起きているものはそれぞれの部屋への移動を次元の穴からその足で行う。振り分けられた部屋にはアスロンの魔障壁が組まれ、逃げ出すことは叶わない。

「……器用なものだな。これほど便利な能力を持つ者を我は知らん」

 最後に残ったロングマンは心の底から褒める。

「そりゃどうも。もっと褒めても良いぜ?」

 ラルフは得意げにふふんっと鼻を鳴らす。

「うむ、これならば我らの望みをも叶えられると確信に変わった」

「……神殺しか?何でそんなに憎んでんだよ。相手は神だぜ?力を授けられたとか、導かれたとか、恩恵を受けてきたんじゃないのか?」

「恩恵?我らはこの世界に勝手に連れてこられた被害者だ。魔力や特異能力が何だというのか?こんなものは呪いでしかない」

「ん?……ってことは復讐が望みなのか?あれ?でも俺との話し合いじゃ自由がどうとかって……」

「?……いや、復讐など望んではいない。我らが望んでいるのは我らの思う世界の構築。誰にも邪魔されない自由な世界だ。その世界に神などというふざけた存在は必要ないと言っているだけだ」

 ロングマンの言葉にミーシャは頭を抱える。

「ややこしい男だ。ぐちぐちと鬱陶しい。面倒だし、こいつだけでも殺してしまおうか?」

「ミーシャ様ノ望みとあらばすぐに処します!」

 ベルフィアは頭を下げてロングマンを攻撃しようと手を掲げる。

「おいやめろ。この男は一応あの八人のリーダーだ。神との話し合いにリーダー不在は不味いんじゃないか?とりあえず反応を見てからでも遅くはない。ここはアスロンさんに任せて俺たちは出よう。な、ミーシャ。ほらおいで」

 ミーシャは不満顔を作るも、部屋から出て行く。ベルフィアは追加指示が無かったために攻撃を諦め、これまた渋々部屋を出て行った。

「……お前も大変だな」

 ロングマンは目を細めて他人事のように呟いた。

「ああ、そうだな。あんたらのやった森の火もハーフリングへの対応も、全部尻拭いしてやったんだぜ?あ、俺じゃなくてアンノウンや歩たちな。みんなに感謝しとけよ」

「良いだろう。感謝ついでに、この件の発端を教えておこう。藤堂 源之助。奴が我らをそそのかし、ケルベロス討伐に導いた」

「えっ……トウドウさんが……?」

「ふ、まるで味方のような口ぶりだな……。精々、寝首をかかれんように気を付けることだ」

 以降ロングマンは口を閉ざす。椅子に座って瞑想を始めた。ラルフは額をコリコリ掻いてため息をつく。

「……ご忠告どうも」

 そのまま部屋を出た。いろいろ思うことはあったが、分からないことを悩むのは不毛である。何とか一仕事終えたのでゆっくり休もうかと思い始めた頃、割とすぐに動きがあった。

『みんな。すぐに大広間にある待ってくれ』

 アスロンからの呼び出し。集合したラルフたちに待っていたのは、予想通りの展開だった。
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